※本稿は、ジム・ロジャーズ『捨てられる日本 世界3大投資家が見通す戦慄の未来』(SB新書)の一部を再編集したものです。
勤め先はいつまでも安泰ではない
国外で働く日本人はまだ少数であり、大半が国内で働き続ける道を選んでいる。「転勤」ですら大変な引っ越しだ。なじみのない海外に出ていくことはかなりハードルが高いだろう。
もしあなたが今後もこの国で働くことを考えているなら、「自分にとって一番向いている職業」が何であるかを真剣に考え、その仕事をすることだ。
終身雇用・長期雇用が一般的だった時代には企業が個人を守ってくれたが、日本が衰退を続ける以上、あなたの勤め先もいつまでも安泰ではない。
「転職」はたいていの場合、キャリアアップに有効だ。いい転職をするためには、まず、自分の好きなことを見つけることが大切だ。
そうしないとどうなるだろうか? 経済が悪化した時、あなた以上に仕事が好きで、なおかつ能力のある同僚に仕事を奪われ、あなたは会社をクビになってしまうかもしれない。
しかし、好きな仕事をすれば仕事に対する満足感と雇用の安定が手に入る。
皆さんのなかにも「オン」と「オフ」をはっきり分ける人がいるかもしれないが、双方の境目を意識しなくてもできる仕事こそ、あなたの適職だ。
10歳なら日本から出たほうがいい
これからの時代、日本という国に頼らず、充実した人生を歩んでいくために、10歳、40歳、65歳の人々へすすめるアクションプランは次のようなものだ。
もしあなたが10歳なら日本から出て、違う言語を学ぶことをすすめたい。あなたが40歳になるころには日本の人口は1億人を割り、日本という国にしがみついて生きていくことは困難になるだろう。
日本では、公務員を志望する若者が少なくないと聞くが、「若者は政府のために働いてはいけない」というのが私の持論だ。
未来のある若者は、勢いのある民間企業、あるいは世界に活躍の場を求めてほしい。そのためにも日本語以外の言語を積極的に学び、活躍の場を広げる努力をしたほうがいい。
若い日本人にお勧めの4つの言語
すべての若い日本人は第二言語を習うべきだ。私のおすすめは、英語、中国語、スペイン語、韓国語だ。
今後はテクノロジーの発達により、外国語を学ばなくても海外の人々とコミュニケーションがとれるようになると主張する人もいるが、AIは繊細な言葉を使いわけることができないため、密度の高いコミュニケーションをとるためには、あなた自身が外国語を使いこなせるようになったほうがいい。
英語は今後も国際語として地位を保ち続けるだろうし、中国語は世界で約15億人が使っている言語だ。地球全体の総人口は約80億人だが、実にその2割が中国語を話すのだ。使用人口は英語に続く第2位。習得できれば大きなチャンスをつかむことができるだろう。
私がシンガポールに移住した理由の1つは、娘に中国語を学ばせることだった。
近い将来、中国の時代が到来することを考えると、中国語を話せることは武器になる。
また、もしスペイン語ができれば、同じラテン語から派生したイタリア語やポルトガル語も理解できるようになる。そうすれば、スペインやイタリア、ポルトガルはもちろんのこと、同一言語の中南米諸国でもビジネスチャンスを手にできる可能性は高まる。
一方で日本語は、今後の人口減少にともなって使う人がますます減っていくことになる。「日本語しか話せない」では、活躍する機会を失うことになりかねない。
日本語しか話せない俳優と、日中両国の言葉を話す俳優では、訪れるチャンスの数が全く違う。日本語しか喋れない10歳の子どもは、英語を喋ることができる同じ歳の子どもよりも将来の見通しが暗いのと同じことだ。
40歳なら自己防衛を
今もしあなたが40歳なら、自己防衛に努めるべきだ。
将来世代が過去のツケを払うころ――10年、20年先の日本では、今よりも多くの犯罪が発生するようになるだろう。
社会保障費は削られ、次第に税金は高くなっていく。日本人の給与が、今よりさらに人口の減った社会で増えていることは想像しにくい。このような状況下で、国民は不満を覚え、社会への不安が募ることになる。30年、40年先の未来においては、反乱や暴動、あるいは革命が起きている可能性さえある。
あなたがもし65歳なら、残りの人生を終えるまでの間は日本政府がしっかり面倒を見てくれるだろう。しかし、決して政府のいいなりにはならず、あなたが好きなことをするべきだ。
どの国に資産を置けばいいか
あなたの資産をどこに置いておくか、しっかりと考えることも大切だ。現時点で私がおすすめするのは、スイス、ルクセンブルク、シンガポールだ。
スイスは金融国として古い歴史を持ち、現代においても保険の分野で重要な立ち位置にある。
金融の柔軟性という点では、ルクセンブルクも小国ではあるが、欧州内でロンドンやフランクフルトと並ぶ金融都市といわれている。
そしてシンガポールは、香港と双璧をなす金融独立国として歩んできた。香港は今後の情勢次第では資産を置きづらくなる可能性があるが、シンガポールはおすすめできる。
大変な状況を経験しないかぎり、リスク管理をそれほど真剣に考えないのは当然の心理だが、皆さんには是非とも歴史から教訓を得て、しっかりと備えてほしい。
たとえば1990年代、スイスが中央ヨーロッパ諸国に3%という低金利で住宅ローンを貸し付けた。チェコなど中央ヨーロッパの人々は喜び、スイスフランで住宅ローンを組んだが、その後スイスフランの急騰により自国の通貨が暴落。多くの人々が倒産の憂き目にあい、住宅を差し押さえられてしまった。彼らは金利や為替が急変することを理解していなかったのだ。
米国株投資は最善の手とは限らない
国に頼れない時代、自分の資産をどう運用し、どう増やしていくか。正しい知識を身につけることも非常に大切だ。
あらゆる資産にはブル相場が存在し、急激に値上がりすることもある。しかし、永久に値上がりし続けるものは存在しない。あなたが20代で、投資を今からスタートさせたとしても、定年を迎えるまで価値が上昇し続ける商品はない。だからこそ、投資をするにはその都度、「今、投資すべきか否か」を慎重に判断しなければいけない。
投資には柔軟な発想力が必要だ。
私たちは今、激変の時代を生きている。かつて正しいと思われていたことでも、評価が一変することがあるだろう。
最近日本には「米国株投資」ブームが訪れ、将来に備えて米国株式投資を始める人が増えていると聞く。過去30年間の株価の推移を見て「ベア相場が時々あるが、基本的には上がり続けている」と思うかもしれない。
しかし、この考えは「金利」という重要な点を見落としている。金利は、1980年以降下がり続けているため追い風になっているように見えるが、このような状況は永久に続くことはない。
私自身も数十年前から米国株を保有しているが、皆さんには「これまで長期間で上がり続けてきたのだから、今後も上がり続けるに違いない」などと、短絡的な発想に陥らないようにくれぐれも注意してほしい。