ハラスメントの多くは、立場が上の人が加害者になるため、被害を受けた方はその場で言い返しにくい。コラムニストのアルテイシアさんは「被害者に『ちゃんと言い返さなきゃダメ』とアドバイスするのはやめてほしい。ただ、加害者を勘違いさせず、ハラスメントをやめさせる対応方法はいくつかある」という――。(第3回/全3回)

※本稿は、アルテイシア『自分も傷つきたくないけど、他人も傷つけたくないあなたへ』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

素敵な若い女性の顔のクローズアップ眉をひそめ、心配しているように見えます。
写真=iStock.com/RapidEye
※写真はイメージです

反射的に笑顔を出す癖をやめる

ハラスメントは基本、立場が上の者が下の者におこなうため「それセクハラですよ」とか「殺されたいのか?」とかビシッと返せない場面が多い。なのでハラスメントの被害者に「ちゃんと言い返さなきゃダメ」とクソバイスするのはやめよう。それができるならとっくにやっているのだから。

拙著『モヤる言葉、ヤバイ人 自尊心を削る人から心を守る「言葉の護身術」』(大和書房)では、様々なシチュエーション別の「言葉の護身術」をみっしりと書いた。ここではその中から代表的なものを紹介したい。

女性は幼い頃から「女はいつも笑顔で愛想よく」と言われて育つが、いつも笑顔で愛想よくしている方がハラスメントの標的にされやすい。

たとえば、セクハラ発言をされた時に「何言ってるんですか~」と笑顔で返すと「相手も喜んでいる」と加害者は勘違いする。「相手も自分に好意があると思った」と本気で勘違いするバカも多い。

なので一番大切なのは、反射的に笑顔を出す癖をやめること。「えっ?」と真顔で返すだけでも相手はひるむ。

「ゴルゴ返し」をキメる

もしくは「そんなんじゃ嫁にいけないぞ(ドッ)」とか言われたら、「…………」とゴルゴ返しをキメよう。眉間のしわと法令線を深くして、スナイパーみを出してほしい。ゴルゴ顔が難しければ、ハシビロコウのような真顔でまじまじ相手を見つめよう。

それで「なんでですか?」「それどういう意味ですか?」と質問を返すのがおすすめだ。

「彼氏は? 結婚は?」と質問された時も「なんでそんなこと聞くんですか?」と真顔で返そう。相手が吉良吉影きらよしかげなら爆殺される恐れがあるが、吉良吉影は他人に興味がないのでからんでこない。

「明菜返し」と「bot返し」もおすすめ

強めの返しができない場面では、明菜あきな返しがおすすめだ。

中森明菜のモノマネをする友近のモノマネをして、伏し目&小声で「いろいろあって……」「結婚って……何なんでしょうね……」と返せば、「この人に恋愛や結婚の話題は地雷だ」と印象づけられる。

「たまには実家に帰ってあげなさいよ、親も寂しがってるでしょ」とか言ってくる人にも「いろいろ事情があって……帰れないんですよね……」と返すなど、明菜返しはあらゆる場面で使えて便利。

それでも「結婚しないと老後が寂しいぞ」「親が生きてるうちに親孝行しなきゃ」とか言われたら「○○さんはそういう考えなんですね」「○○さんはそういう考えなんですか」とbot返しをキメよう。

ひたすらbot返しをすれば相手は話す気を失うし、貴様の意見を押しつけるな、と暗にアピールもできる。

相手を勘違いさせる「自虐」は封印

反射的な笑顔と同時に、自虐も封印しよう。私も若い頃は「いや~結婚したいけどモテなくて」などと自虐で返していたが、自虐すればするほどナメられて、扱いがひどくなった。また自虐することで「イジられて喜んでいる」と勘違いするバカもいる。

令和になっても、イジリやセクハラをコミュニケーションと勘違いしているバカは多い。

「また太った?」「最近、老けたな」とか言われたら「うわ……いまだに職場でこんなこと言う人いるんだ」と心底ドン引きした顔をしよう。「それ仕事と関係あります?」と真顔で質問を返してもいい。

「冗談だろ」「そんなに怒るなよ」と言われたら「大丈夫ですか? 今そういうこと言うとセクハラで訴えられますよ」と心配するフリをして、後から人事やコンプライアンス室にチクるのがおすすめだ。

難易度低めの「ため息返し」

褒めているつもりで、ゴミみたいなセクハラをしてくるバカもいる。

私も「目のやり場に困る笑」と巨乳イジリをされるたび「だったら見るな!」と相手の目を潰したかった。でも実際に潰すとポリス沙汰になるので「人がゴミのようだ」とムスカ顔で相手を見つめよう。

または「そういうこと言う男性、多いですよね……」とうんざりした顔でため息をつこう。ため息返しは難易度低めなので試してほしい。

おじさんの「キモLINE」にはビジネスモードで

世界はキモLINEを送ってくるおじさんであふれている。

仕事関係のおじさんから「○○ちゃんと温泉に行きたいな~ナンチャッテ(^_^;)」とLINEが来ても「何言ってるんですか~笑」と返さなくていい。「もう寝ちゃったカナ?」と追いLINEが届いても無視して、一晩放置してから「月末で仕事が立て込んでおりまして、返信が遅れて申し訳ございません」とビジネスモードで返そう。

それでも「忙しいんだね! マッサージしてあげたいな~ナンチャッテ(^_^;)」と折れない心で返ってきたら、また一晩放置してから「身内の不幸も重なりバタバタしてまして」と返そう。

するとさすがに「ご愁傷様です、そんな時にすみません」と謝ってくるので、身内をどんどん殺すのがおすすめだ。もしくは「100歳の祖父が予断を許さない状況で」と身内が死にかけアピールも効果的。

キモいおじさんに対しては「家ではスマホ断ちしていてLINE見ないんですよ」と事前に予防線を張っておくのもいいだろう。

タッチスクリーンスマートフォンの手をクローズアップ
写真=iStock.com/demaerre
※写真はイメージです

塩対応が難しい場合は「ノーリアクション侍」で

一方、おばさんは「結婚はまだ? いい人いるから紹介しようか?」「子ども産むなら早い方がいいわよ」といったお節介系が多い。この手の善意ハラスメントをしてくる人は根はいい人だったりするので、塩対応しづらい。

そういう場合は「はあ……」と反応の薄いノーリアクション侍になろう。もしくは「それより推しに夢中なんで! 推しの写真見ます?」「ていうかうちの猫がマジ可愛くて、写真見ます?」と話をそらそう。この人は結婚や出産にまったく興味がないんだな、と印象付けるのがおすすめだ。

「人の話を聞かないキャラ」になる

「孫の顔を見せてやるのが親孝行だぞ」と化石みたいな説教をしてくる老GUYもいる。そんな場面では「そういうのよくわかんないすねー」とスマホでTikTokを見るなどして、世代が違うから話が通じないアピールもアリだ。

上から説教してくる人間は、こちらをナメているのだ。なので「親の気持ちも考えてやれ」とか言われたら「『思考しえぬことを我々は思考することはできない、それゆえ思考しえぬことを我々は語ることもできない』。私が愛読している哲学書の言葉ですが、どう思いますか?」と哲学返しをキメよう。賢さの足りない相手には小難しい話をしてビビらせるのが賢明だ。

面倒な人を引き寄せてしまうのは、話をちゃんと聞いてあげる人である。なのでつねに上の空でよそ見をするなどして「人の話を聞かないキャラ」を演じよう。

「ちょっと聞いてる?」とか言われたら、相手の背後をじっと見つめて「える……」とつぶやくオカルト返しがいいだろう。

「無理に好かれる必要はない」と心で線引きをする

職場の人間関係で大切なのは、心の線引きである。毎日顔を合わせる同僚は「すごく近い人」と思いがちだが、実際はその職場を辞めたら二度と会わない人がほとんどだ。

自分の人生にとって重要ではない、つまりどうでもいい人なのだから、無理に好かれる必要はない。仕事上のビジネスモードで接するので十分なのだ。

こちらは線引きしたくても、立場を利用して強引に近づいてくる人もいる。私も取引先のおじさんに「飲みながら仕事の話をしよう」と言われて断れなかったし、さんざん酒の相手をさせられたうえ、帰りにホテルに誘われたりした。

こちらは嫌でも嫌と言えない立場なのに、2人きりで会おうと押してくる男性は疑った方がいい。仕事の話をしたいなら会議室を使ったりランチミーティングにしたり、いくらでもやりようがある。2人きりで異性を飲みに誘う時点で配慮のない相手なのだから、愛想よく返す必要はない。

ビジネスモードで「大変恐縮ですが、弊社の会議室を使用するか、ランチミーティング等でご対応いただけますか?」と返そう。下心を疑われるような行動をしているのは相手なのだから、遠慮する必要はない。

どうしても2人きりで会わないといけない場合は「両親がうちに泊まりにきてるんですよ、うちの父は心配性だから12時までに帰らないと殺される」とけん制しておくといい。または「すみません、実は生理で下痢で体調最悪なんですよ」と前置きして、仕事の話がすんだらさっさと帰ろう。

自衛するのをためらってしまう女性たち

普段から「身内に弁護士がいてセクハラ案件を主に扱っている」とホラを吹き、バリアを張っておくのも効果的。自分を守るためのホラは積極的に吹いていこう。

アルテイシア『自分も傷つきたくないけど、他人も傷つけたくないあなたへ 』(KADOKAWA)
アルテイシア『自分も傷つきたくないけど、他人も傷つけたくないあなたへ』(KADOKAWA)

ヘルジャパンでは女性が警戒すると「自意識過剰」と責められて、いざ被害に遭うと「なぜ自衛しなかった」と責められる。「警戒するな、でも自衛はしろ」なんて無茶な話だ。そんなトンチ、一休さんでも解けないだろう。

性暴力の被害者はただでさえ自分を責めて苦しむのに、「抵抗すれば防げただろう」「あなたにも問題があったのでは」「そんな大げさに騒がなくても」と責められて、二次加害に傷つく被害者も多い。

性暴力の加害者の約8割は顔見知りで、被害者は嫌でも嫌と言えない場合が多いという。

女友達は出張先のホテルで男性上司に「部屋で仕事の打ち合わせをしよう」と言われて「警戒したら失礼かも、自意識過剰と思われるかも」と部屋に行って、性被害に遭った。多くの女性はこのように考えて、自衛するのをためらう。

念のため言っておくが、「部屋で飲もう」と言われて「いいですね、飲みましょう!」と部屋に行ったとしても、同意したのは「部屋で飲むこと」だけである。

そもそもまともな上司なら「相手は断りづらいだろう」と配慮して、部屋に誘ったりしない。誘ってくる時点で相手に問題があるのだから「疑ったら悪いな」なんて思う必要はない。その場では体調不良などを理由に断って、後から人事やコンプライアンス室に相談しよう。

証拠を残し、弁護士に相談を

ハラスメントに遭った際、人事やコンプライアンス室が頼りにならない場合は、労働組合や外部の相談窓口、弁護士に相談してみよう。

友人はセクハラ被害を労働弁護団の無料相談窓口に相談したところ、担当の弁護士さんが親身に話を聞いてアドバイスをくれたそうだ。その後「弁護士に相談したらこう言われた」と人事に話したら態度が一変して、きちんと対処するようになったという。最初から本気でやれや、という話だが「弁護士に相談した」という一言は効果大なので試してほしい。

拙著『モヤる言葉、ヤバイ人』では、弁護士の太田啓子さんに「法律の護身術」を教えてもらった。

太田さんいわく、ハラスメントに遭った際は証拠として記録を残すことが重要だという。加害者からのメールやLINEは全部保存しておき、可能であれば音声録音データなども残そう(音声録音は相手の同意がなくても証拠にできる)。自分の日記やメモ、同僚や友人への相談LINEなども証拠として使えることがあるそうだ。

レイプや強制わいせつなどの性被害に遭ってしまった場合は、ワンストップ支援センター(医師による心身の治療やカウンセリング、捜査関連の支援や法的支援などの総合的な支援を1か所で提供するために設置されている)に連絡しよう。

避難訓練が大切なように、事前に知識を得ておくことで自分を守れる。こちらの「性暴力・性犯罪に関するリンク集」にはさまざまな相談窓口が載っているのでチェックしてほしい。