求人企業の紹介や転職活動のサポートをしてくれる「転職エージェント」サービスはたくさんあるが、どのように選び、どのように使うといいのだろうか。転職エージェント歴30年の森本千賀子さんは「最近は転職エージェントの数も増え、種類も多様化している。うまく活用すると転職に大きなプラスになるが、質が低い転職エージェントにあたると、転職活動がうまく運ばないケースもある」という――。
赤で選ばれたピクトグラム
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2月は新年度に向けて採用が活発化する

2月は1年の中でも中途採用活動が活発化する時期です。近年は、1年中採用門戸を開いておく「通年採用」が多くなっていますが、規模が大きな会社では新年度がスタートする「4月」に照準を合わせ、人員を揃えようとするためです。また、年度末は退職者・派遣契約満了者も多く出るため、欠員補充のための採用も増えます。

選択肢が比較的多いこの時期は、転職活動に適しているといえます。

そこで今回は、転職活動のパートナー/サポーターである「転職エージェント」の活用法についてお話しします。

複数のエージェントに登録して並行活用

近年、転職エージェントの数が増え、種類が多様化しています。

幅広い業界・職種の求人を扱う「総合エージェント」、特定分野に特化した「ブティック型エージェント」など。大手企業に所属するエージェントもいれば、個人で活動するエージェントもいます。

転職エージェントは、同時に複数企業に登録して並行活用してもかまいません。そのほうが幅広い情報や選択肢を得られますし、自分と相性のいいエージェントを見つけやすくもなります。

しかし、転職エージェントは「質にバラつきがある」のも現実。担当として付いたアドバイザーやコンサルタントによっては、うまく活用できず転職に失敗するケースもあります。

よく聞く声としては……

「たくさんの求人を紹介されたが、結局、行きたい企業に出合えなかった」
「エージェントから強く勧められた企業に入社したが、自分に合わなかった」
「紹介された企業から選んで入社したが、後になって考えると他にも選択肢があったと思う」

このような事態を避けるためには、どのような点に注意してエージェントと付き合えばいいのでしょうか。

要注意エージェントを初回面談で見極める

まず、初回面談の際、エージェントの対応に次のような傾向が見られたら注意したほうがいいでしょう。

●経験やスキル、条件ばかり聞いて、希望やビジョンを聞かない
「CAN」……できること。つまり業界・職種の経験やスキル
「MUST」……転職に際しての希望条件。職種・勤務地・給与など
「WILL」……「これをやりたい」「こうありたい」「こうなりたい」という希望や将来ビジョン

このうち「CAN」「MUST」だけをヒアリングし、その条件に合う求人だけをデータベースからピックアップして紹介するエージェントもいます。すると「たくさん求人情報が送られてくるが、魅力を感じる企業がない」ということになりがちです。「WILL」を大切にし、しっかり耳を傾けてくれるエージェントかどうかを見極めましょう。

●特定の企業を強く推してくる

上記とは逆に、最初から特定の企業に絞り込んで紹介するエージェントもいます。

求職者がよほど希少なスキルを持つ人であれば「マッチングできるのは1~2社しかない」というケースもあるのですが、多くの場合は、そのエージェントと付き合いが深い企業を勧めていると考えられます。

「この人に合う企業とマッチングしよう」ではなく、「この企業に入社させたい」という、エージェント側の都合が強く働いている可能性があります。

●「決めつけ」「思い込み」が強い

これは経験豊富なベテランに見られるのですが、「この業界(企業)で経験を積んだ人なら、次のキャリア展開はこうだろう」「こんな希望を持っているだろう」と、決めつけてかかることがあります。長年の転職サポート経験から、転職成立の事例やパターンを多く見てきているためです。

自身と似たキャリアを持つ人の転職事例は、確かに参考になります。しかし、特定のパターンに絞られてしまうと、他の選択肢に気付けず、可能性を広げられないでしょう。

「あなたの経歴だったらこう」と、どこか「決めつけ」「思い込み」で話をされていると感じたら注意が必要です。

2つのパズルピースを合わせる人
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非公開求人や内部情報を得られることも

ここまで読んで、転職エージェントの活用に不安感や警戒心を抱いた方もいるかもしれません。しかし、転職エージェントには活用メリットが多く、うまく使えば自分1人で転職活動をするよりもスムーズに運びます。例えば次のようなメリットがあります。

●転職サイトや企業の採用ページでは公募されていない「非公開求人」の情報が手に入る
●ホームページやメディアの記事などでは見えない、企業の内部情報を入手できる
●「自己分析」「キャリアの棚卸し」などの作業をサポートしてもらえる
●プロの客観的な視点で「経験・スキルの強み」「市場価値」を診断してもらえる
●職務経歴書作成、面接対策などのアドバイスを受けられる
●「面接日程調整」など、面倒な企業とのやりとりを代行してくれる
●企業に面と向かって聞きにくいことを代わりに質問してくれる
●年収や待遇など、個人ではさじ加減が難しい企業との交渉を代行してくれる

フル活用できるかは求職側にかかっている

しかし、こうしたエージェントの機能をフルに活用できるかどうかは、使う求職側のアクションやコミュニケーションの取り方によるところもあります。

転職エージェントの対応に不満を抱く方からはこんな声もよく聞こえてきます。

「登録当初は求人を紹介されたが、徐々に連絡が途絶え、放置されてしまった」

このような事態は、実は自身が招いてしまっていることもあります。ここからは転職エージェントとのコミュニケーションのコツをご紹介しましょう。

転職エージェントに“動いてもらう”ためのポイント

●「求めること」「期待すること」を最初に伝える

例えば「転職を決意していて、早めに実現したい。条件に合う求人をすぐに紹介してほしい」「まだ転職するかどうか迷っている。まず今後のキャリアプランを相談したい」など、自身がどんな目的で、何を期待してエージェントに登録したのかを初回面談で伝えましょう。そうすれば、エージェント側は要望に沿う対応がしやすくなります。

●連絡・質問にスピーディーに対応する

エージェントは求職者に対し、日々いろいろな連絡をします。求人案件の紹介をはじめ、面接希望日程、応募先企業からの質問・確認事項など。このとき、できるかぎりスピーディーな返信を心がけることをお勧めします。

近年、エージェントとのやりとりはチャットツールが主流となり、スピードが上がっています。返信がスピーディーだと「意欲が高い」「ビジネススキルが高い」といったプラスの印象につながり、逆に反応が遅いと逆の印象を抱き、企業に紹介するのを不安に感じることもあるものです(ビジネスマナーがなっていない人を紹介すると、エージェントが企業からクレームを受けることもありますから)。

スピーディーな返信以外にも、本業の職場と同様、「報・連・相」を密にすると、転職活動がスムーズに運びます。転職エージェントは数多くの求職者とやりとりをしていますので、こちらからまめに連絡をとることで、「存在を忘れられる」ことを防げます。

●紹介を受けた求人に対してフィードバックをする

求人を紹介されたとき、「この求人には応募しない」という意思表示の返事だけで終わらせず、「なぜ応募しないのか」の理由まで伝えましょう。「ここが希望に合っていない」といったポイントをフィードバックするのです。

そうすれば、エージェントはあなたの希望や志向への理解を深め、次のマッチングの精度が上がるはずです。

「キャリアの伴走者」「応援してくれるサポーター」に

●自分の「ファン」になってもらう

転職エージェントも「人間」であり、感情を持っているということを意識してください。

情報やサービスを提供したときに、「ありがとうございます」という一言があれば、転職エージェントもやはりうれしいものです。「お忙しそうですが、お身体に気をつけてください」などの言葉をかけられれば、「気遣いができる人」と好印象を持ちます。自身のキャリアを発展させようとする強い意志、あるいは「こんな仕事をして人や社会の役に立ちたい」といった意欲に触れれば、「ぜひ実現させてあげたい」と、サポートへのモチベーションが高まります。

つまりは、転職エージェントを「業者」と捉え「サービスを提供して当たり前」といった態度をとる人よりも、人と人としてのコミュニケーションをとってくれる人に対して、「ぜひお手伝いをしたい」と思うものです。

そうした人間関係、信頼関係を築くことを意識しながら接することで、転職エージェントといいお付き合いができ、転職成功にもつながるでしょう。

人生100年時代と言われる今後、生涯のうち何度も転職を重ねる人が増えていくと見込まれます。1回かぎりの転職活動のサポートにとどまらず、生涯にわたって「キャリアの伴走者」「応援してくれるサポーター」となってくれる関係を築いてはいかがでしょうか。

なお、最近では、「みんなのエージェント」のように、求職者と転職エージェント個人をマッチングする「口コミ評価型」のプラットフォームも登場しています。「大手エージェントに登録したが、担当者を信頼できない」といった不満を持つ方は、自らエージェントを選び、指名できるサービスを利用してみるのもいいでしょう。