※本稿は、渡部清二『会社四季報の達人が全力で選んだ 10倍・100倍になる! 超優良株ベスト30』(SBクリエイティブ)の一部を再編集したものです。
これから注目のテーマ「非財務・人的資本」
『四季報2022年夏号』を読んで、私は「非財務・人的資本」がこれからの大きなテーマになっていくのではないかと感じました。
売上や営業利益、経常利益など数字化できるものとは異なり、人的資本、すなわち社員の技術や能力は現状では数字に換算されてはおらず、したがってPL(損益計算書)にもBS(貸借対照表)にも出てくることはありません。
その、現在視覚化されていない人的資本を見える化していこうというのが今回のテーマです。
私がこのテーマに気づいたのは、「四季報曼荼羅」を作ったときのことです。「四季報曼荼羅」とは、四季報を読みながら、久しぶりに見るワードや違和感を覚えたワードなど、気になるワードを、ノートにどんどん書き出したものです。
私は株式投資の世界を森羅万象としてとらえているので、気になるワードを抜き出したノートや紙が、私にとっての曼荼羅になるというわけです。
そのときに、少数ワードとして「人的資本」という言葉が4件、「人財」が2件、「非財務」が2件、というふうにポロポロと出てきました。全部、これまでに見たことのない新しい言葉です。
特に気になったのはこの銘柄でした。
■リンクアンドモチベーション(2170)
<会社プロフィール>
【特色】組織・人事・IRなど経営コンサルが主柱
【倍増】柱の組織診断・変革サービスが大幅増。企業内個人向けDX支援も高成長
【開示コンサル】23年から開示義務化見通し、人的資本情報の開示コンサルティングを開始
※『会社四季報』2022年4集秋号より
四季報コメントにこれまでにない新しいものを発見
この会社は組織・人事・IRなど経営コンサルを主柱とした会社です。コメント後半の文言に私はそれまでにない新しいものを強く感じました。1つ前の四季報のコメントを抜粋してご紹介しましょう。
【人的資本】日本で初めて人的資本に関する情報開示のガイドラインの認証を取得
人的資本マネジメントを加速。人材開発領域の新サービスを6~7月に提供開始。
※『会社四季報』2022年3集夏号より
岸田内閣が国策として人的資本分野に注力
そこで調べていったところ、非常に大きなテーマであることがわかったのです。
まず、岸田内閣が国策で人的資本についていろいろと指示していることがわかりました。岸田内閣は主要政策として次の4つを挙げています。
①新型コロナ対策
②新しい資本主義
③外交・安全保障
④災害対応
キーワードは「人的資本可視化」
このうち、②の「新しい資本主義」を見て見ましょう。
岸田首相は新しい資本主義の実現を目指すとし、その実現のためには企業の成長と、その成長の果実としての分配をしっかりと行うことで、次の成長が実現すると述べています。
つまり、成長戦略と分配戦略の両方を実現することで、「成長と分配の好循環」を作り出そう、というのです。
このうち分配戦略には、
①所得の向上につながる「賃上げ」
②「人への投資」の抜本強化
③未来を担う次世代の「中間層の維持」
の3つの柱がありますが、ここで私が着目したのが②の「人への投資」の抜本強化です。
さらに調べていくうちに、新しい資本主義実行計画工程表(22年6月7日):「人への投資と分配」という資料に行き当たりました。
その中に「⑥人的資本等の非財務情報の株式市場への開示強化と指針」というものがあったのです。工程表(図表2)を参照してください。「人的資本可視化」とか、「人的資本に関する企業の取り組みの見える化」といった言葉が繰り返し出てきます。
なるほど、このような国策としての「人的資本の株式市場への開示」がベースにあるがゆえに、リンクアンドモチベーション(2170)の「人的資本に関する情報開示ガイドライン」や「人的資本マネジメント」が世の中に求められるのだな、と得心した次第です。
「新しい資本主義」では可視化しにくい資本を企業評価に加える
IIRC(国際統合報告評議会)によれば企業は6つの資本からなっています。
・財務資本
・製造資本
・知的資本
・人的資本
・社会関係資本
・自然資本
このうち財務資本と製造資本が可視化できるため、今までこれをもって企業評価がなされてきました。
ここに、人的資本を始め、可視化しにくいその他の資本も加えて総合的に評価しよう、それこそが企業が持っている資本である、という視点を加えたのが、このたびの「新しい資本主義」の考え方です。
例えば、社員に外部機関に頼んでトレーニングを受けさせると、現状では財務諸表上ではコストとして消えてしまいます。
しかし、そのトレーニングは人の資本を押し上げていることになるので、資本が人的資本に移っただけだという考え方をしようと、このガイドラインは言っているわけです。
社員のやる気や経験、意欲も人的資本になる
「非財務情報可視化研究会の検討状況(令和4年3月内閣官房)」の資料ではIIRCが考える人的資本について、このようにも書かれています。
「人々の能力、経験およびイノベーションへの意欲。例えば組織ガバナンス戦略を理解し、開発し実践する能力。プロセス、商品およびサービスを改善するために必要なロイヤリティーおよび意欲。先導して管理し、協調するための能力を含む」
つまり、会社へのロイヤリティーややる気、経験、意欲なども「能力」なのだと言っているのです。私が入社したころの野村證券がまさにこれでした。ロイヤリティーが極めて高かったのですが、それには全寮制になっていたことも影響していたと思います。嫌でも一体感が高まり、会社の考え方が浸透していきました。
あれこそが人的資本だったのではないかと思うのです。株価が最高値をつけたのも、私が野村證券に入社するちょっと前の1987年でした。
職人技に隠された知見とは
私が「人的資本」と聞いて真っ先に思い出すのは、あるカメラメーカーのエピソードです。そのメーカーでは、東日本大震災のときに関東地方にある工場が被災して、生産がストップしてしまいました。
私はてっきり製造ラインが壊れたのだろうと思っていたのですが、そうではなかったのです。そのメーカーには非常に優秀なレンズを磨くのを専門にした職人さんがいました。
ここのレンズは世界的な評価を得ており、アマチュアからプロまでカメラを手にする人の多くの垂涎の的となっています。
この世界的評価の高いレンズの最終工程をその職人さんが担当していたのですが、自家用車で通勤していたその人が、震災の影響によるガソリン不足で出社できなくなってしまいました。だから出荷を止めるしかなかった、というのです。
すごいことだと思いませんか? この方が持っているのは、他の人にない「知見」であり、まさに「人的資本」そのものです。
「それほど会社の利益に寄与しているということは、その方のお給料は高額なのですか?」と、同社IRの方に尋ねたところ「普通じゃないかな」とのことでした。
「人的資本の可視化」というこのたびの施策によって、こうした方々にもっとスポットが当たり、正当な評価を得られるようになることを切に願わずにいられません。
個人が有するノウハウにこそ価値がある
私は野村證券時代、定年退職を迎えたことで先輩方が持っていたすごいノウハウや知見が埋もれていくことを、とてももったいないことだと感じていました。
野村證券には、何兆円もの資産を持っている大企業のオーナーに対して金融アドバイスができるほどのノウハウを持っている人がたくさんいたからです。
私などは100億円くらいまでならアドバイスができるのですが、兆を超えるとわからなくなってしまいます。ところがそれができる先輩方がいて、しかもちょっと失礼な言い方になってしまいますが、そうした方々の多くは際立った出世をされていないので、退職したとたんにそのノウハウが全く生かされなくなってしまうのです。
そんな「埋もれた知見」を活用しようという企業があります。
■ビザスク(4490)
<会社プロフィール>
【特色】ビジネス知見持つアドバイザーと顧客をつなぐ「スポットコンサル」展開
【連結事業】知見プラットフォーム
【黒字化】日米人材データベースの相互活用で国内外の需要開拓
【新分野】質問を送ると5人以上の有識者が24時間以内に回答する「ビザスクnow」育成
※『会社四季報』2022年4集秋号より
日本初にして最大の「知見のプラットフォーム」の会社です。同社が提供するサービスの通称は「スポット」+「コンサルティング」を組み合わせた「スポットコンサル」。さまざまなビジネス領域に精通したアドバイザーに、1時間から対面・電話で相談できる仕組みになっています。
私が興味を持ったのは代表取締役CEOである端羽英子氏の経歴です。東京大学を卒業後、ゴールドマン・サックスに入社され、若くして結婚。お子さんを出産後、MBAを取得されたそうです。株式総会でもとても好感が持てました。