分かりやすく話すためにはどうしたらいいのか。音声プラットフォーム「Voicy(ボイシー)」を運営する緒方憲太郎さんは「『分かりやすく話す』スキルの中でも、全体の3割くらいは国語力の範疇になり、それは訓練する必要がある。しかし残る7割は、それよりも格段に簡単で、すぐに実践できる」という――。(第2回/全3回)

※本稿は、緒方憲太郎『新時代の話す力 君の声を自分らしく生きる武器にする』(ダイヤモンド社)の一部を再編集したものです。

セミナー中の壇上のスピーカー
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冒頭で会話の方向性を伝える

「分かりやすく話す」中でも一番簡単なのが、「伝えたい内容を明確にする」ことです。

あなたが話をするのは、聞き手に伝えたい用件があるからなのか、それとも自分の感情を共有したいからなのか。あなたがこれから展開する会話の方向性を、会話の冒頭で聞き手に伝えるのです。

例えば、こんなふうにひと言添えてみましょう。

「少し情報共有しておきたいことがあります」
「ちょっと、気持ちを分かってほしくて」

冒頭にこう伝えるだけで、どういう目的の会話なのかが明確になり、聞き手も心の準備ができます。

「気持ちを分かってもらいたいだけなんだけど」と言われれば、聞き手は「そうか、気持ちを聞けばいいのか」と安心して、話の続きに集中できるでしょう。

「アドバイスがほしいのだけど」と持ちかけられれば、聞き手はどんな助言をすべきか頭の中で考えながら話を聞くことができます。

想像してみてください。どんな内容なのかも分からず、ずっと話し手の言葉に集中しなければならない状況を。聞き手にとっては、緊張を緩める瞬間がありません。

これは相手にある種の苦痛を強いているようなものです。それを解消するだけでも、聞き手の負担はぐっと軽くなります。

話題は1つに絞る

分かりやすく話すための、もう1つのポイントは、1つの会話で1つの話題に絞るということです。

例えば午後、仕事中に後輩がこう話しかけてきたらどうでしょうか。

今朝、会社に行く途中で電車に乗ったら、すごい混んでいたんです。それで、朝からぐったりしながら午前中の営業会議に出て……
終わってから経費精算をしていたら、ようやくランチの時間になって。今日はお気に入りのカレーショップが休業日だったから、カレーを食べたかったのに、ソバにしたんです。いまいちやる気にならなくて……
ところで夕方の本部長会議で出す資料の相談に乗ってもらってもいいですか?

通勤や営業会議、経費精算、ランチの話は、会話の本題とは何も関係ありません。それでも聞き手は、「これは何かの伏線かもしれないから、覚えておかないと」と緊張しながら耳を傾けなくてはなりません。

聞き手の頭のメモリーは本題とは関係のない話題でいっぱいになってしまうでしょう。これも、聞き手に大きな負荷を与えています。

あなたが伝えたいことは何なのか。1つの会話で1つの話題に絞れば、聞き手はあなたの話を深く理解しながら聞いてくれるはずです。

聞き手の期待を裏切らない

早速ですが、雑談の中でこんなふうに話が展開していったら、あなたはどう感じるでしょうか。

「タバコって口は臭くなるし、煙も出ますよね。それに価格も高くなっていますよね……」

こう聞くと、あなたはつい、「分かるよ。タバコって本当にイヤですよね」と相槌を打ちたくなるでしょう。

しかし、そう口にした瞬間に、話し手がこう続けたらどうでしょう。

「でも、やめられないです」

「タバコはイヤなものだ」と賛同した自分の相槌が、途端に気まずくなります。

多くの人は、相手の話に共感したい、相手を理解したいと思いながら話を聞いています。話し手の内容に感情を寄り添わせながら耳を傾けているのです。

それなのに、会話の最後で、これまでの文脈とは異なる結末になると、聞き手はまるで期待を裏切られたように感じるはずです。

裏切られたとまではいかなくても、きっと頭の中は混乱しているでしょう。話し手の意図を理解できなくなり、うまく返事ができないかもしれません。

こんな会話は気まずいですよね。だからこそ、聞き手を裏切ることのない「会話の流れ」を意識してもらいたいのです。

会話の最初から聞き手が素直にうなずけるような形でキャッチボールを重ねて、聞き手の期待を裏切らない流れで終わっていく。これだけで、「誤解」は大幅に減るはずです。

NG
タバコって口は臭くなるし、煙も出ますよね。
それに価格も高くなっていますよね……。
でも、やめられないんです
OK
タバコがやめられないんです。
口は臭くなるし、煙も出るし、価格も高くなっているのに……

会話の最中、お互いに共通認識に立っていることが確認できるだけでも、会話は意外と楽しくなるものです。であれば、期待を裏切ることなく、共通認識を増やして互いの理解を深めていきましょう。

「寒いですね」
「そうですね」
「春が楽しみですね」
「分かります」
「暖かくなったらランニングを再開したいと思っているんです」
「運動は気分転換にもなりますよね」

そんなキャッチボールが成立するだけでも、互いの理解は深まっていきます。そうすると、「ああ、話して良かった。気持ち良いな」と思えるようになるのです。

今の会話がどこに向かっているのか。話題を明確にして、キャッチボールを重ねること。話し手と聞き手の間に、会話の足場をしっかりと築いてあげること。

それが話の「内容を磨く」ことだとすれば、そんなに難しくはないと思いませんか。

話している男性の意図を読み取ろうと苦心している女性
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要点を強調する

Voicyで人気のあるパーソナリティの多くが意識しているのが、「要点を強調する」ということです。

プレゼンテーションのスライドやブログ記事を作るときには、何が要点なのかをまとめるはずです。特に強調したい部分は、フォントを大きくしたり、色を変えたりするでしょう。

プレゼンのスライドやブログ記事では当たり前のようにしていることなのに、なぜか会話の中で、それを実践している人はあまりいません。

多くの人が、会話ではあまり抑揚をつけず、まとめやポイントを明確にしないまま、言葉を続けてしまっています。

僕は以前、アメリカに住んでいましたが、アメリカ人は身振り手振りや表情で、どこが会話の大事なポイントなのかをしっかりと伝えてくれます。一方で、日本人は極端に会話の中の強弱が少ない傾向にあります。

「結局、言いたいことは」とか、「今日、みなさんにお願いしたいことは2つです」「本当はここが伝えたいんですが」など、話の中で「ここだけは理解してもらいたい」という部分を話し手が強調すると、聞き手にとって助かります。

Voicyの人気パーソナリティであり、『1分で話せ』というベストセラーの著者でもある伊藤羊一さんは、特に要点を強調することを大事にしています。

伊藤さんのVoicy番組「明日からの元気の源になる話」でも、要点を強調する話し方が多数、実践されています。

聞き手が常に話し手に集中するのは大変です。たとえ話に自信がなくとも、せめて要点を強調して届けるように工夫してみてください。

自分の目線だけで伝えると分かりにくい

自分の話をうまく理解してもらえず、聞き手がしっくりきていない顔をしていて困ったことはありませんか。

話のうまい人と下手な人では、伝えたいメッセージを聞き手に理解してもらえる度合いに大きな差が生まれています。大きな原因は、話し手が自分の目線でメッセージを伝えていることにあります。

人はそれぞれ、考え方や知識、経験が違います。それにもかかわらず、話すのが下手な人は、自分の目線からしか話ができません。

例えるなら、電話で道案内しているのに、「そこを右!」などと伝えているようなものです。「そこ」がどこなのか、どちらに向いて右に進むのか、言葉だけでは分かりません。

また「すごく大きな話が来て……」と言われても、何がすごいのか、大きいとは人数のことか金額のことか、話とは仕事の受注なのか、それとも単なるうわさなのか、聞き手にはさっぱり分かりません。

具体と抽象、いろいろな角度から話す

自分が従事する専門職やはまっている趣味について、普通の人には理解できない専門用語ばかり並べて延々と語る人もいますが、これも聞き手には届きません。

緒方憲太郎『新時代の話す力 君の声を自分らしく生きる武器にする』(ダイヤモンド社)
緒方憲太郎『新時代の話す力 君の声を自分らしく生きる武器にする』(ダイヤモンド社)

自分以外の視点から話ができるようになると、聞き手の理解は大きく変わります。

伝えることがうまい人は、「具体と抽象」「実例と概念」「例え話」などをうまく取り入れています。

具体的なエピソードを入れながら、そこから抽象度を高めて普遍化して話してみたり、実例を伝えた上で、それを概念化してみたり。例え話を多く使い、聞き手が話の内容をイメージしやすくする配慮も忘れません。

いろいろな角度からメッセージを投げていると、そのうちのどれかが聞き手の分かりやすいポイントに刺さります。どんなポイントが聞き手にとっては受け入れやすいのかを知るためにも、話し手はなるべく多く、いろいろな角度からメッセージを送ってみるべきです。

話をする中で、抽象的な話が多いなと思ったときは具体的な話を、実例ばかり並べているときは、まとめるとどういう概念なのかを意識しながら、盛り込んでいきましょう。例え話を入れるなら、どんなエピソードだと響くのかを考えるのも大切です。

具体と抽象の比率を意識してみる

もちろん、最初から完璧に「具体と抽象」「実例と概念」「例え話」が入れられる人は少ないと思います。

しかし、自分が話している中で、具体と抽象のどちらの比率が多いのか、また例え話ゼロで伝えようとしていないかを意識するだけでも、話す内容は変わってきます。

あなたの話は幅が広がり、聞き手の理解が早くなり、もっと早く、深く、あなたの話を理解してもらえるようになるはずです。

Voicyのパーソナリティの中でも、特にこのスキルに秀でるのが、ジャーナリストの佐々木俊尚さんです。佐々木さんは、ご自身のTwitter(アカウントは@sasakitoshinao)で毎朝、日々のニュースをピックアップし、解説をしています。

それと連動して毎日のニュースを深掘りするVoicy番組「毎朝の思考」では、うまく「具体と抽象」をちりばめることで、少し難解なニュースも分かりやすくリスナーに伝えています。「具体と抽象」「実例と概念」「例え話」の観点から聞いてもとても勉強になるので、試しに聞いてみてください。