※本稿は、しかまのりこ『狭い部屋でも快適に暮らすための家具配置のルール』(彩図社)の一部を再編集したものです。
自宅に在宅勤務をする場所が無い
新型コロナウイルスを発端とした「新しい生活様式」の影響で、今まで会社で行なっていた仕事を、家庭の中でテレワークとして行なうことが増えました。しかし、この想定外の事態に戸惑う方も少なくありません。なぜなら、「書斎」など在宅勤務を行なうことができる間取りがあるご家庭は、まだまだ少数派であり、在宅勤務を行なう場所が家庭内にないご家庭が大多数を占めているからです。
また、家庭内を仕事の場にすることは、打ち合わせ内容や業務上の機密情報などが、同じ空間にいる家族に漏洩してしまう怖れがあります。オンライン会議などの場合、カメラの位置に気を付けないと、家族や家庭のプライバシーが、オンラインで流出してしまう怖れもあります。そのため、テレワークスペースは、家の中でも、静かで隔離され、集中できるスペースに設置する必要があり、在宅勤務へのハードルが上がる原因の1つとなっています。
テレワークスペースは「家庭内ノマド」で確保する
このように、テレワークスペースは、情報管理やプライバシーの保護などといった観点から設置場所を考える必要があります。そのため、書斎のようにあらかじめ用意された空間がない場合は、テレワークスペースを「家庭内ノマド」的発想で確保することがとても便利です。
「家庭内ノマド」とは、リビングや寝室など複数の部屋に、ちょっとしたテレワークスペースを用意しておき、時間帯や家族の在宅有無、会議の実施などのTPOに合わせて、自由にテレワークスペースを移動していくことです。例えば、機密情報の多い会議は寝室などの個室で行ない、また単純なパソコン作業などはリビングで子供の様子を見ながら作業を行なうなど、TPOに合わせた働き方が、家庭内で可能になります。
では、「家庭内ノマド」を実践するために、それぞれの部屋に、どのようにテレワークスペースを設置すれば良いのでしょうか?実際の間取りで見ていきましょう。
単純なパソコン作業スペースはダイニングに
①リビング・ダイニングに造る方法
図表1は、広さ10畳の、リビング・ダイニングの様子です。リビング・ダイニングには、ソファやダイニングテーブルなどの大きめの家具がすでにありますので、これらに追加でテレワーク用の家具を置くと、部屋はとても狭くなります。そのため、10畳ほどのリビング・ダイニングの場合には、テレワーク用の家具は置かず、今あるダイニングテーブルをテレワーク用のテーブルとして使います。
はじめに、このダイニングテーブルを、図表2のように、キッチンカウンターに横向きにレイアウトします。ダイニングテーブルは4人掛けのものであれば、2~3人で座ることができるため、テレワークをしながら、隣で子供のリビング学習の様子を見守ることが可能です。そしてダイニングテーブル用の椅子を高さの調整ができるものに変えて、長時間のパソコン作業にも適応できるようにしました。
リビングを食事スペースにする
最後に、リビングでお食事ができるように、ソファに合わせた高めのテーブルと、1人用のソファも追加しました。ソファとダイニングの機能を兼ね備えたダイニングソファとして使うことができます。(図表3参照)
テレワークスペースをダイニングに設置することで、食事をするテーブルで仕事をすることもなくなり、食事のたびにお仕事用品を片付ける面倒がなくなりました。また、テレワークスペースという明確な空間ができたことにより、仕事用具などがリビング・ダイニングに散らかることも、少なくなりました。
デッドスペースも使える
②デッドスペースに造る方法
部屋の柱の近くや階段の下には、何にも使われていない「デッドスペース」というものがあります。実はこのデッドスペースですが、壁などが多く小スペースであるため、テレワークには、うってつけの場所になります。
図表4は、「デッドスペース」であるリビング階段の下に、テーブルや椅子を置いて、テレワークスペースを設置してみた様子です。階段の周りには、筋交いなどがはいった、構造体になる強い壁が多く存在します。そのため、例えば、机の脚を取って、壁で支えるカウンターテーブルを設置することもできます。構造体の壁に複数の金物でカウンターテーブルを留め付けることにより、耐荷重も高く、しっかりしたテーブルになります。また、脚がないことで掃除も楽になり、スッキリした印象のテレワークスペースにすることができます。
オンライン会議用に寝室は理想的だが……
③寝室に造る方法
寝室などの広くない個室にテレワークスペースを造る場合、気を付けなければいけないことが2つあります。それはベッドの位置とエアコンの位置です。図表5はクイーンサイズのベッドを置いてある、広さ6畳ほどの寝室の様子です。代表的なレイアウトは、このように、ベッドの反対側に、壁に向けてテレワークスペースを造る方法です。このレイアウトは、広さや動きやすさからいうと、理想的です。
しかし、オンライン会議などのときには、仮想背景で部屋の様子を隠していても、カメラの角度や不具合などで、夫婦のプライバシーが映ってしまうという欠点があります。また、エアコンの位置も問題となります。エアコンの風は、冷気は水平に吹きだし、暖気は垂直下に吹きだした方が、1番効率的に部屋を冷暖房できます。しかし、図表6のように、エアコンがデスクの真上にくるため、暖房時のエアコンから垂直下に吹きおろす暖気が、デスクを直撃してしまいます。また冷房時には、水平に吹きだす冷気がベッドを直撃し、部屋を冷やすためには寒さを我慢しなければなりません。
ベッドのヘッドボードを利用する
そこで、考えられるレイアウトは、図表7のように、ベッドの向きを変えて、ベッドのヘッドボードを利用する方法です。ベッドのヘッドボードと、背中合わせにテレワークスペースを造ることで、カメラは壁の方を向き、プライバシーが映り込むことを防ぎます。また、エアコンから吹きだす風を避けることで、冷暖房時にエアコンから受ける影響を、少なくすることができます。
そのほか、図表8のように、ベッドのヘッドボードに、直角にテレワークスペースをレイアウトすることも可能です。カメラは部屋の扉を向きますが、ベッドなどが映り込むことは避けられます。こちらもエアコンから吹きだす風を避けることができるので、効率の良い冷暖房を行ないながら快適なテレワークが行なえます。
書斎などのテレワークをするスペースがない場合は、それぞれの部屋にテレワークスペースを設置することで、TPOに合わせた、「家庭内ノマド」的な自由なテレワークが可能になります。