どうすればリビング・ダイニングを広く見せることができるか。一級建築士のしかまのりこさんは「狭いと嘆く人はリビングの真ん中にソファを置いていたりします。人が移動するための『動線』を考慮せずに家具を買ったり、置いたりすると同じ広さでも狭く感じるのです」という――。

※本稿は、しかまのりこ『狭い部屋でも快適に暮らすための家具配置のルール』(彩図社)の一部を再編集したものです。

リビングルーム
写真=iStock.com/miya227
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部屋の中には、目に見えない「動線」がある

「部屋が狭く、動きにくい」という悩みを訴えて、私の元へ相談に来られる方の多くが、リビング・ダイニングが10畳程度の間取りにお住まいです。確かに、決して広くはありませんが、狭すぎるというほどでもない広さの部屋で暮らしています。ではなぜ、狭いと感じてしまうのか。それは家具のサイズが合っていないのかもしれません。

部屋の広さを考えて購入したはずの家具なのに、なぜか部屋が狭く感じられてしまう、ということはありませんか? 引っ越しや住宅購入などで、入居する部屋の広さを考えるときは、間取り図を見ることが多いと思います。その間取り図には、「LD○○畳」などの情報が記載されており、その部屋の広さを知った上で、もしくは実際に部屋を見てその空間的広さを目で確認されてから新居に移られる方がほとんどでしょう。

しかし、確認して準備したはずの家具をレイアウトしたら、想定よりもだいぶ狭くなってしまった、ということはよく起こります。この現象はなぜ起きてしまうのでしょうか?それは、「動線」部分を考慮していないからです。

「動線」とは、人が部屋の中で動くラインのことで、目には見えない空間です。多くの方は、この動線を意識した家具レイアウトを行なっていません。そのため、部屋の広さを考えて家具を購入したのに、家具が大きすぎて部屋が狭くなったり、または動きにくいという問題が生じてしまうのです。

ドアからドアを最短距離で結んだ線が「動線」

ところで、「動線」はどこにあると考えれば良いのでしょうか?

基本的には部屋と部屋の移動のライン、つまりドアとドアを最短距離で結んだ線が効率的な「動線」になります。また室内から、お庭やバルコニーなど、外部への出入りになる掃き出し窓を結んだラインも「動線」です。多くの作業をするキッチンの場合、料理や食材・食器の出し入れなどの作業をする家具をつなぐラインも「動線」の1つです。

ただし、必ずしもすべてのドアとドア、掃き出し窓をつなぐ必要はありません。例えばリビングから庭に出る掃き出し窓が2か所ある場合、理想的にはそれぞれの窓に向かう動線を確保するべきです。しかし、どちらも庭に出るという同じ機能の動線ですので、どちらかの動線だけにしてしまっても良いのです。

動線の幅は、その人の体格にもよりますが、人が1人で動く場合は60~70センチ以上、2人ですれ違う場合は約110~120センチ程度必要です。また、リビングセットやダイニングセットなど、家具の周囲にも最低でも60センチ程度の動線が必要です。

ですので、とくに狭い部屋では、同じ機能を持つ複数の動線は1本にまとめてしまうなど、必要最小限にすることが、部屋を広く使うためには大切です。

この動線ですが、人の動くラインですので、そのライン上には障害物となる家具などを置くことはできません。つまり、「部屋○○畳」と間取り図に記載されていても、実際には動線部分を除いた空間にしか、家具などを置くことはできないのです。

それでは、どのようにして、家具などを置くことができる広さを確認するのでしょうか?

実際の間取り図で見てみましょう。

動線部分を除いた広さが、家具を置ける空間

図表1は「LD12畳」2階建て戸建ての間取り図です。

この間取りの中で、動線を確認します。まず、動線①のように、廊下からリビング・ダイニングに入りキッチンや収納・洗面室に向かう動線(矢印)が1本あります。

そして動線②のように、廊下からリビング・ダイニングに入り、庭に出入りする掃き出し窓に向かう動線(矢印)も1本あります。

この2本の動線を含む、斜線を引いた「3畳」部分には家具などが置けません。そのため「LD12畳」から動線「3畳」を除いた「9畳」部分(黄色の部分)が、この部屋の家具などが置ける広さになります。これが間取り図からは読むことのできない、実際の部屋の広さなのです。このように、動線の位置や、家具を置くことができる実際の広さを知ることが、インテリアを考えるうえでは、とても大切になってきます。

では実際に、部屋の動線を確認し、実際の部屋の広さから、適切な家具を選び設置する方法を、解決例で、詳しく見ていきましょう。

部屋の真ん中に、大きめな家具を置く人が多い

部屋が狭く、動きにくいという悩みを訴える方の部屋を拝見してみると、ソファなどの大きめの家具を、部屋の真ん中に置いてしまっている場合が多くありますが、この配置は部屋を広く見せたいなら避けるべきです。

しかまのりこ『狭い部屋でも快適に暮らすための家具配置のルール』(彩図社)
しかまのりこ『狭い部屋でも快適に暮らすための家具配置のルール』(彩図社)

先程「動線」についてお話ししましたが、部屋を移動する際に、動線同士がぶつかったり、または家具などの障害物にぶつかると、当然ですがとても不便です。とくに、広くない部屋の真ん中にソファなどの大きな家具を置くと、部屋の中を移動する動線がソファにぶつかります。

スムーズに部屋を動くためには、毎回、このソファを避けて移動しなくてはなりません。そのため、大変ストレスフルで動きづらい部屋に感じてしまうのです。しかし、部屋が狭く感じられてしまう原因は、動線だけではありません。実はもう1つ、大きな原因があるのです。

部屋に入り、まず目に入る場所は部屋の中心部分です。この中心部分に大きめのソファが置いてあると、視線が自然とそこに集まってしまうため、視覚的に圧迫感を抱いてしまいます。

さらに、部屋のインテリアや窓から広がる風景の印象も薄らいでしまい、ソファの存在感が増し、より圧迫感を抱いてしまうため、実際より部屋が狭く感じてしまうのです。

このことから、部屋を広く見せるには、部屋の中心部分に、視線の抜け感をもたせることが大切なのです。

大きめの家具は、壁に寄せるのが基本

このように部屋を動きやすく広く見せるためには、スムーズな動線の確保と、視線の抜け感が大切になってきます。そのためには、ソファなどの大きめの家具は、動線がぶつかりやすく、また視界が遮られやすい部屋の真ん中には置かずに、壁ぎわなど、部屋の端に寄せることが基本となります。部屋を動きやすく広く見せるための方法を、解決例で、詳しく見ていきましょう。

(解決例)思い出のソファを置いていますが、部屋が窮屈に感じます

図表2は都心マンションのLDKです。「捨てられない思い出のソファを置いていますが、部屋が窮屈に感じます」、というお悩みでした。

リビング・ダイニングの広さ10畳に対し、お持ちのソファが幅190センチ、奥行90センチと、すこし大きめのサイズです。そのソファを図表2のようにリビング・ダイニングの真ん中に設置していらっしゃいました。そのため、キッチンやダイニングからリビングに移動する動線が、ソファとぶつかってしまいます。

部屋の中心にソファがあるため、部屋のどこにいても、まずソファが視界に入ってしまいます。ソファの存在感・圧迫感が強調されるため、せっかくのインテリアや窓からの景色がぼやけてしまい、部屋が実際より狭く感じられてしまいます。

そこで部屋を広くみせるためにソファの間違ったレイアウトを変更します。まずソファを部屋の中心から、視線に入りにくく、また動線を遮らない壁面に移動します。ソファに合わせて、テレビはソファに対して平行に設置しなおします。ソファにより分断されていたリビングとダイニングが、ソファを壁に寄せたことでスムーズにつながり、動きやすくなりました。

また図表3のように、部屋の中心部に視界の抜け感ができたことで、部屋が広く見えるようになりました。大きめの家具を部屋の中心部に置かないだけで、部屋が動きやすく、スッキリ広く見えるという効果が期待できます。