実家の片づけをスムーズに進めるいい方法はないか。お片づけ習慣化コンサルタントの西崎彩智さんは「実家の片づけと聞くと、親が亡くなったあとに行うもの、というイメージがありますが、親が元気なうちにやっておいてほしい。亡くなって『遺品』になってからだと、ものの重みが増し、ますます捨てられなくなるのです」という――。
段ボールに荷物を詰めるカップル
写真=iStock.com/AJ_Watt
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実家の片づけを親の生前にしたほうがいい理由

私はみなさんに、親が元気なうちに実家の片づけをするように勧めています。

なぜ親が元気なうちにやっておいたほうがよいのか。それは親が亡くなると、親の物を処分しにくくなるからです。

親が生きているうちに本人が捨てていいよ、と言えば簡単に捨てられたのに、亡くなったら大したものでなくても捨てにくくなる。「遺品」になった瞬間に、捨てることに罪悪感が生まれるのです。

私自身、3年前に父を見送りましたが、父が最後に入院するときに着ていたポロシャツが捨てられなくて困りました。亡くなったあとに、病室から持って帰ったら、このポロシャツを買ったのは父の日だったな、このポロシャツを着て入院した日に医師から止められている卵サンドをこっそり2人で食べたな……と、ポロシャツにまつわる思い出が次々と出てきてしまって。

思い出に浸るのは悪いことではありませんが、それがあまりにたくさんあると悩みが増えて、ストレスになってしまいます。

年末年始は絶好のチャンス

相談者の方にも親の遺品が捨てられず、自宅に持ち帰った結果、自宅に物があふれてしまったという方は多いですね。

だからこそ親が生きているうちに、一緒に片づけに取り掛かってほしいのです。

その絶好のチャンスが、みんなが集まる年末年始です。時に大がかりな模様替えも必要になりますが、人手があれば2日間ですみます。子どももぜひ戦力にしましょう。

実家の片づけは何から始めたらいいのか

実家の片づけは、次の5ステップで進めましょう(図表1)。

【図表】実家の片づけ5つのステップ
(1)ライフラインを確保する

ライフラインというのは、親がいかに安全に動けるかということ。地震などの災害が起きたときに、物が多すぎると、出口をふさいでしまうだけでなく、家が崩壊する危険性もあります。

ですから外に出られるように物を減らしておくこと。またちょっとした段差をなくす、けつまずかないように床に物を置かないことも大切です。

また高いところに物を置くと、それが落下する危険性もありますし、取ろうと脚立に乗って、そこから落下してケガをすることも実際によくあることです。

(2)生活導線を見直す

家族の人数が減り、洗濯物はもっと手前に干せる場所ができるかもしれないし、洋服をしまう場所も、もっと近くに移せるかもしれない。高齢の親にとっては、ミニマムに動けることがいちばん楽なのです。

棚や引き出しにはゆとりを

(3)ジャンルごとに物を分ける

「薬」「お茶」「洗剤」など、使う物ごとに分けていきます。「薬」といっても飲む薬は飲む薬で集め、外用薬は別に保管します。「お茶」は湯のみと急須、茶葉を、かごやお盆にセットしておく。洗剤系は、納戸の中や洗濯機の横など、いろいろなところから出てくるので、それもひとまとめにすると数が把握できて、ムダ買いが防げます。

(4)空間にゆとりをもたせる

棚やチェストには、物をぎっしりと詰めず空間をあけることも大事です。空間があれば奥まで見渡せますし、物が増えても置くことができます。空間は、いろいろなことを助けてくれるのです。

(5)頻繁に使うものは出しておく

いつも使うものは、なるべく出しておいたほうが親世代にとって暮らしやすいでしょう。そのためにも、空間をつくっておくことが大切なのです。

白を基調としたすっきりとしたチェスト周り
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小さい場所から着手しよう

では、どこから手をつけていけばよいのか。おすすめは、洗面所や玄関など「小さい場所」です。なぜなら、洗面所と玄関はお父さんが気づくから。通常の片づけはキッチンから着手することをすすめていますが、実家に関しては、キッチンは片づけてもなかなかお父さんには気づいてもらえない。洗面所と玄関なら、お父さんも使うから、きれいになっているとわかるわけです。

洗面所については、明らかに使っていない洗剤やヘアケア用品、化粧品などを整理して、いらないものは処分する。特に化粧品は2年たつと劣化しますから、そういったことを伝えてあげましょう。

玄関は履く靴と履かない靴を、親と一緒に確認して、履かない靴は手放します。そして、よく履く靴は、いちばん手に取りやすい位置に置いてあげる。

玄関のシューズラック
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靴のチェックをすると、親の健康状態がわかるのもメリットです。親が今、どれぐらい体が動くのか、どういう靴なら歩きやすいかなどを確認できて一石二鳥なのです。

ただし親の物忘れが激しくなっている場合は、場所を大きく変更しないこと。なるべくオープンな収納で、わかりやすくしてあげたほうがいいでしょう。

必ずありかを確認しておきたい3つのもの

実家の片づけがある程度、進んだら、ぜひ置き場所を確認しておいてほしいものがあります。それは私自身も知っておいてよかった次の3つです。

(1) 家の契約書、権利書
(2) 通帳、保険証書、年金手帳
(3) 入院用品

まず親が亡くなったときに、(1)と(2)がないと、手続きできません。それぞれどこにあるか聞いて、まとめておくとよいでしょう。(3)入院用品はパジャマや下着、タオル、スリッパ、歯ブラシ、マグカップ、はしセットなど。

親がいざ入院というときに、あらかじめ入院用品がまとめてあると、あちこち探さずにすみます。ただ親御さんが準備をいやがるケースもあるので、とりあえず、ありかだけはチェックしておきましょう。ボストンバッグやスーツケースも、どこにあるか確認しておくと、あとあと便利です。

用意周到だった父

私自身の経験をお話しすると、父は会社経営者だったこともあり、準備は周到。上記の(1)は風呂敷にまとめて包んでありました。(2)は父と母のものを別々に分けて一覧にしてあり、これも助かりました。

また、いざ入院のときも、父の引き出しを開けると「長そで下着」「半そで下着」「ズボン下」と書いてあるA4の紙が置いてある。その下に、それらのアイテムがしまってあって、びっくりしました。だから父の入院準備は、あっという間にできました。

病院のベッドに横たわる男性
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一方、少し認知症の進んでいた母の準備が大変で。母は父の病院とは別の施設に入ることになりましたが、準備をしようとすると、靴下が家のあちこちから出てきたり、同じような紺色のズボンが何本も出てきたり、どこに何があるかわからなくて、荷物をまとめるのにひと苦労でした。

親が高齢になると入院も身近になり、その準備も子どもがするわけですから、子ども自身がどこに何があるか把握しておくことが、つくづく大切だと身を持って感じました。

より親が暮らしやすい3つの工夫

もしも年末年始に、あまり時間が取れないなら、親のためにこれだけはしておいてあげたらよい、ということを最後に3つほどご紹介しましょう。

(1)重い物にキャスターをつける

備蓄のペットボトルや灯油のタンクなど、重い物は台に置いて、キャスターをつけてあげましょう。移動が格段に楽になります。

(2)大切な物の定位置をつくる

一つのカゴに薬や眼鏡を入れて、これがあれば1日過ごせるというものをひとまとめにしておくと、親は安心します。

(3)必要な物をそれが必要な場所に置く

たとえばモップやほうき、ちりとりなど掃除道具は、まとめて取りやすい場所に置いておく。吊り下げおくと便利です。

親の家の場合、しまいこむと取り出すのが面倒になるので“映え”は狙わない。映えよりも使いやすさを優先させましょう。

これらは年末年始の大掃除のついでに、やってしまうとよいでしょう。

片づけは最高のコミュニケーション

片づけは「コミュニケーションツール」です。焦らず、親と話しながら進めていきましょう。

親にやる気を出してもらうためには、うまくいった話をするとよいでしょう。まずは自分が実家に残してきた荷物を片づけ、周りの人もこんなふうに片づけて、すごく楽に暮らしているよ、という話をするといいですね。

また親の思い出話を聞くのもおすすめです。思い出を話し切ったら、けっこうあっさり手放せることが多いのです。特に親自身が持っている遺品などがそうですね。思いのバトンが手渡せるという感じです。

とはいえ実家で暮らすのは親ですから、親の気持ちを優先させることが何よりも大切です。親がやる気にならないときに無理強いするのは禁物と知っておきましょう。