※本稿は、本田秀夫『学校の中の発達障害 「多数派」「標準」「友達」に合わせられない子どもたち』(SBクリエイティブ)の一部を再編集したものです。
「学校に行きたくない」「お腹が痛い」子どもの登校しぶり
親御さんと学校の先生が協力しながら、子どものために環境を整えていけば、基本的には学校は居心地のよい場所になっていきます。しかし、その変化は少しずつ起こっていくものです。いろいろな対応をしている最中に、お子さんがストレスを抱えて、学校に行きづらくなってしまうこともあると思います。
例えば、親も先生もいろいろと工夫しているにもかかわらず、朝、子どもが「学校に行きたくない」と言い出すことがあります。
大人としては、子どもの勉強や忘れ物などの課題をサポートしているつもりでも、子どもが登校をしぶることはあるのです。「行きたくない」とはっきり言う子もいれば、「お腹が痛い」と言ってぐずぐずして支度がはかどらず、登校時刻に間に合わなくなる子もいます。そのような状態になったら、みなさんはどう対応しますか?
ひとまず登校できれば大丈夫なのか…
親御さんなら「どうしたの?」と心配しつつ、「先生もよく見てくれているから大丈夫だよ、行ってみよう」と言って、お子さんを励ますでしょうか。学校の先生と連絡を取り合っている状況であれば、「今朝は登校をしぶりましたが、なんとか行かせました、よろしくお願いします」と伝えることもできます。励ますのがよいか、もしくは思い切って休ませるか。どちらがよいでしょう。
先生はどうでしょうか。親御さんから「子どもが登校をしぶるようになった」という連絡をもらったら、どう対応しますか?
「ひとまず登校できていれば大丈夫」と考えるでしょうか。登校をしぶる子への対応は、いつ始めるのがよいのでしょう。登校しぶりの段階か、実際に休んでからか。欠席が何日も続いたら検討するか。みなさんはどう思いますか?
「登校しぶり」は最終段階のSOS
日頃、さまざまな相談を受けていると、子どもが登校をしぶることを「その子が悩み始めた段階」だと思っている人が多いのですが、その理解は間違っています。登校しぶりというのは、子どもが悩み抜いて疲れ果て、自分でできることはすべてやり尽くしたという、最終段階のSOSです。親御さんも学校の先生も、すぐに対応しなければいけません。
私はそういうお子さんに「どうしたの?」と聞きます。学校に行くか行かないかということを考える前に、まず子どもの話を聞くのです。聞いてみると、答えはさまざまです。勉強がしんどいという場合もあれば、友達や先生とのやりとりで何かつらい体験をしたという場合もあります。低学年くらいのお子さんだと、まだ考えをうまく言えなくて、駄々をこねるだけということもありますが、その場合もお子さんの様子をよく観察します。
そして、お子さんが「つらい」と感じている部分にどう対処できるかを考えます。そこに対処できなければ、学校に行かせても、お子さんにつらい思いをさせるだけだからです。
お子さんの様子を見て、いまは学校を休まざるを得ないと考えることもあります。お子さんのメンタルヘルスを守るのが私の仕事なので、お子さんや親御さんに「いまは休んでもいいんじゃないですか」とお話しすることもあります。
親ができること:ひとまず休ませて「どうしたの?」と聞く
家庭でも、同じように対応してよいと思います。朝、お子さんが登校をしぶっているのなら、その日はひとまず休ませることにして、ゆっくり時間をとって「どうしたの?」と聞いてみることをおすすめします。私は基本的に、登校をしぶる子には休息が必要だと考えています。親御さんにも毎日の予定があり、すぐに時間をとって対応するのが難しいこともあるでしょう。ただ、その場合にも例えば翌日にはお子さんの話を聞くような形で、何かしら対応してほしいと思います。
学校をしんどいと感じているお子さんは、親に励まされれば少し元気が出て、登校できることもあります。しかし、そうやって「一見、大丈夫」という感じで通っている子は、ある日パタッと登校できなくなってしまうことがあります。大丈夫なように見えて、ただ無理を重ねているだけということもあるのです。そうなる前に休息をとらせて、お子さんの話を聞くようにしてください。
先生ができること:トラブルの有無でなく「楽しく通えているか」を観察する
学校側も、早く対応したほうがよいというのは同じです。先生の立場から見ると、子どもが毎日学校に通ってきていれば「大丈夫」だと感じるのではないでしょうか。先生は多くの子どもを見なければいけないので、それぞれの子が「トラブルなく通えているかどうか」という視点で子どもたちを観察していると思います。
しかし、そのような視点では、先ほど述べたように「一見、大丈夫そうだけど、無理を重ねている子」のつらさはなかなか見えてきません。「トラブルがあるかどうか」だけではなく、子どもが「楽しく学校に通っているかどうか」を見ることも大切です。
例えば、授業中のふとした場面で、その子が自分から発言しようとしているかどうか。発言しないで教科書や黒板を見るときにどんな表情をしているか。休み時間に何かを楽しみにして、友達と誘い合っているようなことがあるか。そういう場面に、子どものモチベーションが表れます。子どもの様子を見て、無理をしているように感じることがあったなら、親御さんと相談することも必要かもしれません。
協力してできること:「何がしんどいのか」を情報共有する
学校の先生も、休み時間などに子どもを見ていて「何かあったの?」と聞きたくなることがあると思いますが、登校しぶりをしている段階では、子どもは先生からの質問には答えにくい場合が多いと思います。
子どもの話は、親が聞いたほうがよいでしょう。基本的に親のほうが子どもとの関係が近く、話しやすい雰囲気をつくれることが多いです。それに対して先生は、子どもの学校での様子を観察する役割が適しています。親は、子どもの学校生活を逐一見学することはできません。授業中や休み時間などの様子については、先生が見ておくのがよいでしょう。
親と先生がそれぞれに子どもへの理解を深め、「こういう活動がつらいと言っています」「授業中にこんな様子が見られます」といった情報を共有していけば、子どもの抱えている悩みごとに対処しやすくなるはずです。そのようなコミュニケーションを通じて、学校側の環境をどのように調整できるのかを、親と先生で考えていければ理想的です。
ただ、現実的には、親と先生で情報共有をしながら学習環境を調整しても、子どものモチベーションがなかなか上がらないということもあります。特に通常学級に通っていて、しんどさを感じているというお子さんの場合、授業中の活動などを少しアレンジしても、状況があまり変わらないこともあります。その場合には特別な場での教育を利用して、子どもに合った個別のアレンジができるようにしたほうがよいかもしれません。