わが子を通わせるなら男女別学がいいのか共学がいいのか。拓殖大学准教授の佐藤一磨さんは「別学の方が成績が上がるだけでなく、問題行動も減少するということがわかっています」という――。
教室で挙手する生徒たち
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別学と共学を客観的に分析した研究

筆者は大学生の時、個別指導塾でアルバイトをしていたのですが、その際、教え子の男の子に「男子校と共学のどちらがいいのか」という相談を受けたことがあります。

その時は「共学の方がいいのではないか」と答えたのですが、冷静に考えると、この質問はなかなかの難問です。

男子校、女子校といった男女別学と男女共学ではそれぞれメリット・デメリットがあるため、優劣はつけ難いですし、どうしても自分の過去の経験に引っ張られ、客観的な視点でコメントすることが難しくなります。

そこで、経済学の視点からこの問いに答えた分析を探すと、いくつかの研究が見つかり、興味深い結果を示しています。

なお、ここでの主な対象は中学校・高校です。

結論を先取りすれば、「別学の方が成績が上がるだけでなく、問題行動も減少する」ということがわかっています。

以下で詳しく説明してきたいと思います。

男子校・女子校、男女共学のメリット・デメリット

男女別学と共学にはそれぞれメリット・デメリットがあります。例えば、別学には次の2つのメリットがあると指摘されています(※1)

1つ目は学生に対するもので、異性がいないぶん、自分のやりたいことに集中できる環境があるという点です。

思春期に教室という狭い空間の中で異性がいると、どうしても気になってしまい、服装や髪形等の外見的な部分に意識が向いてしまいます。これは仕方のない部分もあるのですが、別学の場合だとこの点に関する懸念が少なく、自分の興味・関心のあることに打ち込むことができます。

2つ目は教師に対するもので、単一の性別の学生に授業をする場合、配慮するべき点が減り、より授業の質を高めることに注力できるという点です。単一の性別の方がクラス運営を行いやすく、授業準備に多くの時間がかけられます。

また、別学の場合、学生の性別に合わせた授業方法を行うことができ、効率的な学習につながりやすいとも指摘されています。

これらのメリットに対して、デメリットとしては、異性がいない環境下にあるため、異性とのコミュニケーションが十分に身に付かないという点が挙げられます。このような社交性の低下は、働き始めた後にも影響を及ぼす恐れがあります。

以上を踏まえると、学業面では別学のメリットが大きいと言えそうです。反対に、その他の面では共学のメリットが大きい可能性があります。

これらの実態を大規模データで検証した研究のうち、ここでは2つの分析例について紹介したいと思います。

舞台は、韓国とトリニダード・トバゴ共和国です。

(※1) Eliot, L. (2016). “FORGET WHAT YOU THINK YOU KNOW ABOUT THE BENEFITS OF SINGLE-SEX SCHOOLING” Newsweek, December, 31, 2016.

韓国では高校を学力ではなく抽選制で決定

まず韓国の高校での研究例について紹介したいと思います。

韓国では高校選択の際、基本的に学力による入試選抜を行わず、抽選によって各校にランダムに振り分ける形式をとっています。これは過度な競争を抑制するために1970年代から実施されてきた政策であり、平準化制度と呼ばれています。

この制度の結果、学生個人の意思とは関係なく、男女共学の高校や男子高、または女子高に振り分けられます。

さらに、韓国ではジェンダーギャプの解消を目的に男子校、または女子校を共学の高校へと転換する政策が取られてきました。

このように韓国では、①抽選によって高校が決まるため、男女共学の高校に通うかどうかは自分で選択できない、②男子校、女子校から共学へ転換した高校がある、という特徴があります。

韓国は男女共学の効果を検証するのに理想的

①や②のような事例は、男女共学または男女別学の影響を計測する際の理想的な環境です。なぜならば、高校を自分の意思で自由に選択できる場合、入学してきた子どものさまざまな面に一定の傾向(偏り)が生じると考えられるためです。

通常、男女共学と男女別学の選択には、子どもや親のさまざまな考えが反映されます。例えば、男女共学の環境下で社交性を育成してほしいといったものや、男子(女子)校でスポーツや勉強に打ち込んでほしいというものです。このため、高校を自由に選択できる場合、入学してきた子どもの学習行動や生活態度に一定の傾向(偏り)が存在すると予想されます。

韓国の場合、抽選制ということもあり、子どものさまざまな面における一定の傾向(偏り)の影響を排除でき、純粋な形で男女共学(or男女別学)の影響を計測できます。

青空にはためく太極旗
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実際の分析例として、ロンドン大学のクリスチャン・ダストマン教授らの研究があります(※2)

彼らの分析では高校の種別が韓国の大学入試にあたる大学修学能力試験の結果にどのような影響を及ぼしたのかを検証しました。

(※2) Dustmann, C., Ku, H., & Kwak, D. W. (2018). Why Are Single-Sex Schools Successful? Labour Economics, 54, 79-99.

男女共学になると成績が2割近く低下することも

ダストマン教授らの研究では、男子校または女子校から共学へと転換した場合、男女ともに大学修学能力試験の結果が悪化したことがわかりました。科目によって異なりますが、低下幅は男子で8~11%、女子で10~18%でした。成績が約1割~2割近く低下する場合もあり、無視できない規模です。

男女の違いについて見ていくと、興味深い結果が示されています。

韓国では共学化を進めた際、制度変更が実施された時の新入生から共学化がスタートとしたため、その時の高2、3年生は男子または女子のみのクラスで授業を行っていました。つまり、「学校には異性の新入生がいるものの、自分たちのクラスには異性がいない」という状況が移行期に存在したのです。

この移行期からすでに影響を受けていたのが男子高校生でした。

男子高校生たちは、「自分のクラスに女の子がいないけれど、学校には女の子がいる」という状況から影響を受け、試験結果が低下したのです。

これに対して女子高生の場合、移行期には成績に変化が見られなかったのですが、完全に共学化した後に成績が低下する傾向が確認されました。

これらの結果から、男子高校生の方が周囲の異性の有無から大きく影響を受け、勉強が疎かになりやすいと言えるでしょう。

減少傾向にある図表を眺める男性の後ろ姿
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男女別学にすると成績は向上し、問題行動が低下

2つ目の事例はカリブ海に位置するトリニダード・トバゴ共和国を対象にしたノースウェスタン大学のクラボ・ジャクソン教授の研究です(※3)

トリニダード・トバゴ共和国では小学校を卒業した12~17歳が通う中等学校のうち、成績の低い20の男女共学校を男女別学へと転換しました。

この結果、男女ともに成績の向上が確認されています。驚くべき点はその効果の大きさです。通常、1クラスの学生数が少なくなればきめ細やかな授業ができるため、教育効果が高まりますが、男女別学化によって1クラスの学生数を約30%低下させた場合と同等の効果が得られました。さらに、男子の場合、18歳までの逮捕割合が約60%低下し、女子では18歳までの妊娠割合が約40%低下しました。

これらの結果から、男女別学化の影響は学習面のみならず、生活面にも及ぶと言えるでしょう。

(※3) Jackson, C, K. (2021). Can Introducing Single-Sex Education into Low-Performing Schools Improve Academics, Arrests, and Teen Motherhood? Journal of Human Resources, 56, 1-39.

別学のほうが学業・生活両面でメリットが多い

これまでの結果を参考にすると、わが子の進学を考える際、どのような示唆が得られるのでしょうか。

まず、中学校・高校では何かに真剣に打ち込んでもらいたいと考えるのであれば、男女別学への進学が良いと言えるでしょう。ただし、習い事等で異性との交流機会を確保し、将来のコミュニケーションスキルに課題を残さないようにする必要があります。

また、中学校・高校で共学を選ぶ場合、コミュニケーションスキルの向上には期待できますが、学業の面ではやや不安が残ります。このため、共学ではより学習支援に力を入れる必要があるでしょう。

大切なわが子の進学を検討する際、男女共学と別学のメリット・デメリットを認識することで、より良い選択ができるようになるのではないでしょうか。