知らず知らずのうちに相手を不快にさせる「余計なひと言」。「愛される台詞」に変えると信頼関係が深まり、コミュニケーションもスムーズに。
居間での若い日本のビジネスウーマンミーティング
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まず相手の意見を受け止め自分の思いを明確に伝える

「会話はお互いを受け止め合う『キャッチボール』。打ち返す『ラリー』ではありません」と話すのは、言葉のかけ方の指導を行う大野萌子さん。

しかし、部下の意見を受け止めず、ただ自分の考えを押しつける上司や、相手を軽んじたり、威圧したりする言葉を発してしまう人が多いのも事実。

「ビジネスの場で信頼関係を築く基本は、お互いを承認し合うこと。まずは相手の言葉を受け止め、思いを理解することが大切です」

また、日本には「察する文化」があり、真意と裏腹の言葉やあいまいな表現を使いがちだ。

「相手を受け入れつつ、自分の思いは明確に伝えて。それが周囲を不快にさせる『余計なひと言』を『愛される台詞せりふ』に変えるポイントです」

「あなた」ではなく「自分」のため。意見はストレートに伝えて

×【余計】あなたのためを思って言うけど
○【愛され】私は○○だと思います

部下に注意をする際、前置きとして「あなたのためを思って」と言ってしまう人は多い。しかし、これはむしろ自分の意向や都合が色濃く出てしまう言葉だ。

「『あなたのため』と言いながら、実際は自己満足のために相手をコントロールしようとしている状態。『部下が思いどおりに動いてくれず、困っている』という自分の問題を、相手の問題にすり替えています。部下に対して言いたいことがあるなら、『私は◯◯だと思います』とストレートに伝えることが重要です」

同じような例として、「◯◯しないと、あなたが困るのよ」という言葉もよく聞かれる。

「これも困るのは相手ではなく自分。部下に要望があるときは、『◯◯してほしい』と明確に伝えるよう心がけましょう」

言いたくないなら言わなきゃいい。気になることは、はっきり伝える

×【余計】こんなこと言いたくないんだけど
○【愛され】気になっているから伝えるね

「こんなこと言いたくないんだけど……」という前置きは、相手への不満を伝える際に使われるもの。言い訳のように、つい口にしてしまう言葉だが、相手によっては「どうしても言っておきたいから聞いて」と言われているように感じ、威圧感を覚えることもあるという。

「一般的に『こんなこと言いたくないんだけど』の後には否定的な内容が続きます。そのため、相手は『言いたくないなら、言わなければいいのに……』と感じ、苦痛が増すことも。相手に対して言いたいことや、やってほしいことがあるなら、『気になっているから伝えるね』『どうしても言っておきたいから伝えるね』などと明るく言うほうが、話の導入としてスマートです」

夫や子どもなど家族に対して使ってしまう人も多いので注意したい。

乱用しがちな口グセ
他人を味方につけるズルい言い方。自分の考えとして簡潔に話す

×【余計】常識的に考えると○○だよね
○【愛され】私は○○だと考えています

「常識的に考えると」という言葉は、「たくさんの人がこう考えている」という意味合いを強調することで、相手を従わせようとする意思が透けて見える言葉。

「他人を引き合いに出して、相手を動かそうとするのはフェアではありません。また、相手も『それが常識なの?』と感じて、話の内容に納得しづらいもの。相手に言いたいことがある場合は、自分の意見として、『私はこう考えています』と簡潔に伝えることで相手も納得し、理解を得られやすくなります」

そのほか「一般的には」「普通は」「世間は」「みんな言ってるよ」「◯◯さんも言っていたけど」なども同じ意味合いを持つ言葉。

「いずれも自分の意見を押し通そうと、不特定多数を加勢につけているようで、ひきょうな印象を与えかねません。相手がしっかりと納得できるよう、自分の意見として、わかりやすく内容を伝えることで、仕事においても、人間関係においてもトラブルを避けることができるはずです」

ただの自慢話になって逆効果。役立つ情報だけ共有を

×【余計】私のときは○○だったわよ
○【愛され】私が使った△△は便利だったわ

部下が仕事で困難にぶつかったときなど、「私のときは、もっと大変だったわよ」など自分と比較するような言い方は、やる気を損ねるもの。

「本人は励ましているつもりかもしれませんが、これではただの自慢話。相手も『私の気持ちを全く理解してくれない』と思ってしまいます。本当に相手をサポートしたいなら、まずは『大変だ』と感じている相手の気持ちを受け止めたうえで、『私が使った△△は便利だったわ』『この資料が参考になるわよ』など役立つ情報を伝えましょう」

また、子どもの体調不良で欠勤する部下に対して、「私は、そのくらいのことで休んだりしなかった」などと言うのは、マタニティーハラスメント(マタハラ)にあたることも。

「マタハラは、女性が女性に対して行うケースが多いもの。自分が体験しているからこそ、つい言いたくなる気持ちもわかりますが、『私はこんなに大変だったけれど、あなたは大したことはない』といったニュアンスを持つ言葉はNGです」

かまってほしい人が使いがち。紛らわしい言い方はしない

×【余計】私のことはいいから……
○【愛され】○○以外でしたら、みなさんにお任せします

「複数の人で何かを決定する場面で意見を求められた際に、お任せしたいという意味で『私のことはいいから……』と言うと、相手にかえって気を使わせてしまうことがあります。なぜなら、あえて『私』を強調することで自分の存在をアピールすることにつながるから。周囲の人に『そうは言っても◯◯さんの意見がほしいんですよ』『◯◯さんがいないと困るじゃないですか』と言ってほしい人が使いがちだからです。こういう人は実際に自分抜きで物事が決まると、『それはないと思うな』などと決定を覆すことがあります」

自分をアピールするために、気持ちと裏腹の言葉を使うのは周囲を混乱させるのでNG。自分が賛同できないことや、譲れないことがあるなら、「◯◯以外でしたらOKです」などと伝えたうえで判断を委ねて。

相手を焦らせて、さらに混乱……。まずは話の優先順位を明確に

×【余計】要するに何が言いたいの?
○【愛され】今の話の中で、重要なところはどこですか?

「部下と話していると、話題があちこちに飛ぶなど要点が見えないことがあります。そんなとき『要するに何が言いたいの?』と言われると、相手は話をまとめようとさらに焦るほか、『自分は拒否されている』と感じることも。話の要点が見えない原因は、相手の話の順序がわかりにくいだけでなく、共有している情報が少ない場合も。まずは『今の話の中で、重要なところはどこですか?』『あなたが気になっている部分はどこですか?』など、内容の優先順位を明確にする声がけが必要です」

しかし、せっかちな人はこのステップを飛ばし、「要するに、こういうことだよね?」と話をまとめてしまいがち。それでは一方的な“決めつけ”になってしまい、部下は次から何も言えなくなる。まずはしっかり相手の話を聞く姿勢を持とう。

言いがちなNGワード
相手を軽んじている印象に。悩んでいる気持ちを受け止めて

×【余計】そんなことで悩んでいるの?
○【愛され】悩んでいるんだね。どこが問題なの?

部下や後輩に悩みを相談されたら、まずは気持ちをしっかりと受け止めることが重要だ。

「先輩や上司にとっては大したことでない問題でも、『そんなこと=さまつなこと』と相手を軽んじる言い方は失礼です。基本的に、人は自分を受け入れてほしいもの。まずは『悩んでいるんだね』と相手の気持ちを受け止めたうえで、『どこが問題なの?』と相談に乗りましょう」

せっかちな人ほど、「どこが問題なの?」「じゃあ、どうするの?」と結論を急ぎがち。また、相手を元気づけようと「大丈夫。あなたならできる」と声をかける人もいるが、根拠のない「大丈夫」は、「軽くあしらわれた」と思われるもの。

「その仕事に対して経験値が高く、あと少しで達成できそうな人なら、『大丈夫、あなたならできるよ』と背中を押してあげてもいいでしょう。しかし、経験値が低く、自信の持てない人に言うと、かえってプレッシャーに。相手によって言葉を選ぶことがポイントです」

マウンティングされているような「良しあし」を表す言葉は避ける

×【余計】それはよかったです
○【愛され】それは何よりでした

「自分の行動が相手に喜ばれたときなど、『それはよかったです』と返しがちです。しかし、『よい/悪い』は評価を表す言葉で、相手をジャッジする意味合いがあります。後輩に対して、『よかったね』と声をかけるのはOKですが、上司や目上の人、クライアントのほか、年上の部下に対しては使わないほうがいいでしょう」

また、同僚など立場が同等の人であっても、自分を評価するニュアンスを含む言葉をかけられると、「マウンティングされた」と感じ、カチンとくる場合がある。「それはよかったです」は、悪気なく無意識に使ってしまいがちだが、相手を不快にさせてしまう恐れがあるので、できるだけ避けたほうが無難だ。

「自分の行動が喜ばれたときは、相手が誰であっても、『それは何よりでした』『お役に立ててうれしいです』と返すほうが好印象です。『それはよかったです』と言うより丁寧な表現になるので、覚えておくといいでしょう」

「さすが!」「なるほど~」は連発しない
オンラインミーティングで相手を詮索するような言葉はNG

×【余計】誰かいらっしゃるんですか?
○【愛され】何かあれば遠慮なく言ってくださいね

ここ数年、コロナ禍によってオンラインミーティングが増加。ミーティング中、子どもの声などが聞こえると、「誰かいらっしゃるんですか?」と声をかける人もいれば、インターホンが鳴ったら「出なくて大丈夫ですか?」と言ってしまう人もいる。

「自分としては気を使ったつもりでも、相手は『詮索されている』と感じる場合があります。ミーティングを始める前に『何かあれば、遠慮なく言ってくださいね』と伝え、相手のほうから言い出すまでは、何も聞かないようにしましょう。どうしてもミーティングを続けることが難しそうな様子が見られたら、休憩を取るのもおすすめです」

また、リップサービスのつもりで、「すてきなお宅ですね」などと言うのも、相手を不快にさせる恐れがあるNGワードだ。

「大丈夫」は捉え方が人それぞれ。質問には具体的に答えよう

×【余計】大丈夫です
○【愛され】△△まで終わっていて、○日までに残りを仕上げます

「『大丈夫』という言葉には、いろいろな意味があります。例えば、『OKです』という意味で使う場合もあれば、『結構です』という意味で使う場合も。さらに、仕事の進捗しんちょく状況を聞かれて、予定より少し遅れていても、上司に心配をかけまいと『大丈夫です』と答える人もいるでしょう。しかし、ふたを開けてみたら上司が思っていた通りに進んでおらず、『大丈夫じゃないじゃないか!』といったトラブルを招きます」

仕事の進捗を聞かれたときは、あいまいな言葉で答えるのではなく、「△△まで終わっていて、◯日までに残りを仕上げる予定です」など、相手が知りたいと思っている内容を具体的に伝えることが大切。また、困っていることがあるなら、早めに相談することがトラブルを回避するコツだ。

公認心理師 大野萌子さん
大野萌子(おおの・もえこ)
公認心理師
日本メンタルアップ支援機構代表理事。人間関係を改善するコミュニケーション等をテーマに年間150件以上の講演・研修を行う。著書に『よけいなひと言を好かれるセリフに変える働く人のための言いかえ図鑑』(サンマーク出版)ほか。