※本稿は、本田秀夫『学校の中の発達障害 「多数派」「標準」「友達」に合わせられない子どもたち』(SBクリエイティブ)の一部を再編集したものです。
注意しても教室を飛び出してしまう子には対処が必要
学校関連でよく相談されることの一つが「子どもが授業中に立ち歩く」「教室を飛び出してしまう」という悩みです。まず、この悩みについて「先生ができること」「親ができること」を考えていきましょう。
よくあるのは、小学生のお子さんが授業中、席に座って先生の話を聞いていることができない、という悩みです。お子さんが授業の途中で立ち歩き、教室の外に出ていってしまうのです。そのたびに先生が声をかけたり、連れ戻しにいったりしなければなりません。
そのようなことが続くと先生も対応に苦慮しますし、親も家庭でどう言い聞かせればよいのかわからず、悩んでしまいます。その場合にどうすればよいのか、と相談されることがしばしばあるのです。
教室を出てしまうことがあっても、注意されれば席に戻れるのなら、それほど心配はいりません。小学校低学年くらいであれば、そういうことはよくあります。しかし、教室を飛び出すことが何度もあり、注意を受けてもあまり変わらないということであれば、何か別の対策を考えたほうがよいかもしれません。
みなさんは、そのような場合にどんな対応を考えますか?
授業中の出来事なので、まずは学校で先生ができることを考えたいところですが、親御さんも、家庭でできることを考えてみてください。例えば次のような対応の中で、学校と家庭では、それぞれどんなことができそうでしょうか。
●子どもが教室を飛び出す「理由」を考える
●教室にいられるような「工夫」を考える
●教室を飛び出したときの「対策」を考える
先生ができること:教室を飛び出す「理由」を考える
学校では、子どもが教室を飛び出してしまったら、担任の先生が声をかけて対処するとともに、その子に「どうして飛び出したのか」を聞き、問題解決をはかることが多いと思います。「教室を飛び出す理由」がわかれば、対応法も見えてきます。まずはそのように対応するのがよいと思います。
教室を飛び出す理由としてよくあるのは、人間関係がちょっとこじれて、子どもに強いストレスがかかっているというパターンです。子どもがストレスでパニックのような状態になり、がまんできずに教室を飛び出していってしまうのです。
例えば「友達にからかわれてイライラした」「先生の発言を聞いて、ちょっと嫌になってしまった」といった理由で、子どもが強いストレスを感じることがあります。その場合、両者で話をして問題を解決できれば、飛び出すことは減っていくでしょう。
そのように「明らかな理由」があれば、対応法も考えやすくなります。しかし、飛び出したときの様子を確認してみても、特に思い当たることがないという場合もあるでしょう。
そのときには、別の理由を考えていく必要があります。
理由が特に思い当たらない場合に聞くべき質問3パターン
私が「教室を飛び出す」という相談を受けるときにも、理由がはっきりしないことがしばしばあります。そのときには、私は次の3つの理由が当てはまるかどうか、聞くようにしています。
1つ目は「授業の内容がわからない」。その子には内容が難しすぎて、授業に参加できていない。発言や質問もできなくて、やることがなくなってしまっている。
2つ目は「授業の内容に興味が持てない」。好きな授業には集中できるけれど、それ以外の時間は上の空になりやすい。授業と関係のない作業をしてしまうことがある。
3つ目は「衝動に負けてしまう」。先生の話を聞こうとしていても、ふとした瞬間に何かに気をとられて、衝動的に立ち歩いてしまうことがある。
このような理由があるときにも、子どもは立ち歩いたり、フラッと廊下に出ていったりします。上に挙げたような例が思い当たる場合には、人間関係のトラブルとはまた別の対応が必要になります。
3パターンに当てはまる子は発達障害や知的障害かもしれない
実は先ほどの3つのパターンは、発達障害や知的障害と関連しています。発達障害や知的障害を理解しておくと、先ほどのような例にも対応しやすくなります。
1 授業の内容がわからない
発達障害にはいくつかの種類がありますが、1つ目の例は「学習障害(LD)」の子に見られるパターンです。「知的障害」の子にも見られます。
学習障害や知的障害の子は、ものごとを学ぶときに平均的なやり方・平均的なペースでは学びにくい場合があります。授業の内容や方法、ペースなどが子どもに合っていない場合、その子は「難しすぎて参加できない」という状態になることがあるのです。
この場合、授業の内容をわかりやすく調整したり、読み方・書き方を変えたりすると、子どもが参加しやすくなることもあります。学習障害や知的障害を理解することによって、対応のヒントが見えてくるかもしれません。
2 授業の内容に興味が持てない
2つ目は「自閉スペクトラム症(ASD)」の子に見られるパターンです。自閉スペクトラム症には「こだわりが強い」という特性があります。その特性が強い子は、特定のものごとに強い興味を持つ一方で、それ以外のことにはほとんど興味を持たないことがあります。そのため、興味を持てない授業には集中できていないことがあるのです。
この場合、その子の好きな分野や得意なやり方を授業に少しとり入れると、集中できるようになることがあります。
3 衝動に負けてしまう
3つ目は「注意欠如・多動症(ADHD)」の子に見られるパターンです。ADHDの特性の一つに「多動性・衝動性」があります。
その特性が強い子は、「授業中に立ち歩いてはいけない」とわかっていても、何かに気をとられて、つい衝動に負けてしまうことがあります。注意がそれやすいところがあるのです。
この場合、掲示物を減らしたり、カーテンを閉めたりすることで、子どもが余計なものに気をとられなくなり、授業に集中しやすくなることがあります。
なお、複数の理由がからまり合っている場合もあります。発達障害の特性は重複することがあり、「こだわりの強さ」と「多動性・衝動性」がどちらも見られる子もいるのです。その場合、興味のない授業では衝動性が出やすくなったりします。反対に、興味のある授業には集中できたりもします。複数の特性が見られる場合はどちらも理解し、対応していく必要があります。
子どもに合った環境を整えるには家庭と学校が協力し合うことが大切
いま挙げた3つの例は、いずれも「授業や学習環境」と「子どもの特性」が合っていないというパターンです。子どもが教室を飛び出すことには、じつはそのような「相性の悪さ」が影響していることもあります。子どもが教室を飛び出すことが悪いわけではなく、先生や親のやり方が悪いわけでもなく、相性が悪いのです。
私は発達障害や知的障害の診療を通じて、そのような例をたくさんみてきました。私は専門家なので、先ほどの3つの理由を意識しながら子どもをみることができますが、学校の先生がそこまで細かく観察することは難しいかもしれません。
障害のある子の支援を長く経験している先生は、3つの理由を意識することで対応しやすくなると思いますが、支援にまだ慣れていない先生は、対応に悩むこともあるでしょう。
その場合には先生と親がよく連絡をとり合い、支援にくわしい専門家の意見も聞きながら対応していくことをおすすめします。子どもに主治医がいる場合には、主治医に相談するのもよいと思います。私も学校関係者からの相談を受けることがあります。
「相性の悪さ」がある場合には、誰か一人だけが工夫をするのではなく、全員でその状況を理解し、協力することが大切です。この本では、そのように家庭と学校が「協力すること」の大切さを伝えていきたいと思っています。家庭と学校が協力し、子どもに合った環境を整えていけば、「相性の悪さ」は軽減していきます。