相手を変えるのは無理。自分の関わり方を変える
どこの職場にも“困った人”はいます。どんな相手も対応は大変ですが、まず知っておいてほしいのは、相手を変えることは無理だということ。自分が相手との関わり方を変えていくしかありません。そこで最初にすべきことは「物理的に距離をとること」です。急に距離をとるのは難しいとしても、本人と直接関わらずにすむ方法を見つけましょう。そのうえで自分の受けとり方をどう変えるかということです。
さらに、わざわざ仲良くなろうとする必要もありません。会社というのはひとつのコミュニティーなので、合う人も合わない人もいるのが当たり前。それをなくそうとすると逆にしんどくなるので、いかに自分がストレスを感じずに振る舞えるかが、長く働くうえで大事なことになります。
困った人への関わり方のPoint
1 物理的な距離をとる
究極は異動願いを出すことですが、それまでに少しずつ離れるステップを踏んでいきましょう。たとえば指示系統を変えて、誰かに間に入ってもらい、直接関わらないようにする、在宅ワークを入れて会う機会を減らす、面と向かって話すのではなくメールでやりとりするといったことです。
2 受けとり方を変える
高圧的な人には心の中で腹いせする、コミュニケーションがとれない人には期待しないようにする……。相手は変わらないので、こちら側の受けとり方を変えます。ただ期待は自分の価値観からくるものなので、果たしてそれが正しいかどうか、自分を見直すきっかけにもなります。
3 無理に仲良くしようとしない
最初に苦手意識を持つと、それを塗り替えることはできません。警戒心というのは、人間の生存本能のようなもので、それを解くことはなかなか難しいのです。ですから警戒心を持った中で仲良くしようとするのは、大きなストレスがかかることなので、無理に仲良くする必要はありません。
【困った人 A】いつも上から目線で、やたら高圧的
お悩み
周囲の意見に耳を貸さず、非効率的な自分のやり方を上から押しつけるワンマン上司。命令や指示は絶対です。下で働く人間の心身の消耗は激しく、チームの生産性は下がる一方です。
原因
威圧的な態度はコンプレックスの裏返し
人に対して高圧的だったり、威圧的だったりする人というのは、心の底に不安感や劣等感が潜んでいる人。自分が傷つけられることを必要以上に恐れています。
ですから学歴なのか仕事の能力なのか、何かしらコンプレックスを抱えていて、それを刺激されないように相手を見下して、傲慢な態度をとる。偉そうにして、自分はすごいんだと見せておかないと、いつそれを刺激されるかわからず不安なわけです。相手を否定しなければ自分の価値を見いだすことのできない、ある種、残念なタイプの人です。
自分のすごさを見せつけるためには、何か突出した能力があればいいけれど、それもないから威圧的な態度をとるしかない。強い表現を使ったり、上から目線で見たりすると「俺ってすごいだろ」と思わせる効果があります。こうした目立つ特徴に引きずられて評価がゆがむ現象を“ハロー効果”といいます。本人は無意識でやっているケースもありますが、ハロー効果で自分が優位に立てると気づき、意識的にやっている人もいるでしょうね。
対処法
まずは距離をとること。在宅ワークをとり入れて
かなり精神的なダメージを与えられるので、まず距離をとることが大切。そのためには上司の上司に相談する。また心身の症状が出ていたら精神科を受診しましょう。距離をとる方法のひとつとして、週に何日かだけでも在宅ワークにするのがおすすめです。たとえば水曜を在宅ワークにすれば、月火頑張って、水曜が休息ポイント、また木金頑張れば土日がくると、ポイントがわかっているだけでもラクになれます。まずは1日でもいいから在宅ワークをとり入れて、距離をとるとよいでしょう。
クライアントから攻撃されてダメージを受けるケースがありますが、これは会社の利益にも関わることなので、個人で抱えず組織で対応を。メールのやりとりに、自分の上司や相手の上司をccに入れて、1対1のやりとりを避けましょう。みんなで共有すれば、攻撃が和らぐ可能性もあります。
【困った人 B】他人とコミュニケーションがとれない
お悩み
話しかけても目を合わさない、反応も薄い、本当に伝わっているかどうかわからない人が社内にいます。仕事がスムーズに進まないこともあるので、もう少し心を開いてほしいのですが……。
原因
過去に裏切られた経験から警戒心が強くなった?
感情を表に出さない、口数が少ないなど、パーソナルスペースが広いタイプですね。このタイプの人たちは、生まれつき繊細で、まわりにすごく気を使う。気を使いすぎるしんどさから、まわりと関わらないほうが自分のペースでやっていける、楽しく過ごせるというふうにわかっているがゆえに、人と距離をとっていると考えられます。それで最低限の協調性が保たれればよいですが、協調性がなくて、ほぼコミュニケーションがとれないと扱いが大変で問題になってきます。
そういう人は、過去に人から裏切られた経験があり、今もまだ強い警戒心を抱いている可能性があります。過去の経験というのは、人それぞれですが、たとえばいい点数をとらないと親から褒めてもらえない、条件付きでしか愛されなかった、学生時代にいじめを受けて誰も助けてくれなかったなど。そういった経験があると、なかなか人を信じることができないので、警戒心を持ちやすく、人とあまりコミュニケーションがとれず、自分の殻に閉じこもりがちになります。
対処法
時間をかけて信頼関係をつくることをめざす
こういうタイプの人は、なかなか人を信用するのが難しいので、時間をかけて他人との関わりに安心感を持ってもらうことを意識しましょう。そのためには、こちらから相手の名前を呼んで挨拶する、ちょっとしたお願いをして、やってもらったら感謝を述べるなど、こちらが「あなたのことを受け入れていますよ」という姿勢をちゃんと見せることです。
また、このタイプの人は大勢のミーティングより、1対1で話し合うほうがラク。たとえば「毎週水曜日の午後3時から3時15分までは話す時間」として場を設けると、本人も内心困っているけれど、今まで言えなかったことを言えることもあって、心の距離が少しは縮まるだろうと思います。結局、こちらに対する信頼度が上がるように、やっていくしかない。それで相手が殻を破るまでいかなくても、コミュニケーション不足でミスが起こるのを防ぐことはできるでしょう。
コミュニケーションがとれないならとれないなりに、こちらから変えていかないと、何も変わらないということです。
【困った人 C】意図が伝わりにくい、勝手に判断する
お悩み
高学歴で自信にあふれた部下。ポジティブでよいのですが、仕事を頼むと、ひとつひとつ説明したにもかかわらず、自分なりの解釈で進めてしまい手直しが多くて困っています。
原因
プライドの高さゆえに相談が大の苦手
何でも勝手に判断して1人で進めてしまう人は、どこの職場にもいます。こういう人は、まず“報連相(ほうれんそう)”がとても苦手。なかでも“相談”ができません。だからこそ相談せずに「○○課長が言うことは、こういうことか」と自分の判断で進めてしまうわけです。
そもそも相談が苦手な人は、相談をすることで自分が傷つきたくないという気持ちの強い人。また、周囲の視線を気にしすぎて、自分はダメなやつだと思われることを恐れています。そういったプライドの高さがあると、やはり人に相談することができないし、おごりも出てしまいます。
よく聞くのが、このお悩みのように高学歴の新人。入社したばかりなのに、なぜか自分は何でもできると思っている。もちろんこの思い込みはプラスに働くときもありますが、過剰になって、おごり高ぶるなどマイナスに働くこともあるのです。こういった人は意外に能力が高いので、昇進することがあり、ゆくゆくはAのタイプのような、ワンマンな上司になる恐れもなきにしもあらずです。
対処法
チェックポイントを増やし報告の時間を設ける
まず会社として、みんなで足並みをそろえることの大切さを教え、そのうえで、なぜそれをお願いするのか、「前に手直しが大変だったから」「○○さんのチェックが必要だから」など、その理由も必ず伝えます。併せて「自分も過去に大変な思いをしたことがあって」「上司に怒られたことがあるんだけど」と“自分もうまくいかなかった”という枕ことばをつけて寄り添うのもコツ。
具体的な対処法としては「チェックポイントを増やす」のがおすすめ。上司が1から100まで伝えても、それがしっかりと伝わっていないことが多いので、10までいったらチェック、20までいったらチェック、とチェックポイントを増やしていくのがよいでしょう。
こうした具体的なタスクの区切りが難しければ、時間的な区切りをつけましょう。たとえば「毎週水曜日の12時から12時15分までは1対1でミーティングをしましょう」と報告会の時間を設ける。このタイプの人は報告がすごく苦手なので、こちらから報告の場をつくってあげるといいでしょう。
【困った人 D】何度言っても理解できない、ミスを繰り返す
お悩み
勤務姿勢はまじめでいい人ですが、業務に関しては何度、説明をしても理解できないようで、ミスも物忘れも多いという部下がいます。頼んでも結局やり直すことになって余計に手がかかり困っています。
原因
生まれ持った特性が原因で理解度が低い可能性が
そもそも本人が上司の指示を聞いていない、仕事そのものに興味がない、仕事に追い込まれて余裕がないなど、いろいろなパターンが考えられますね。こういった何度言っても伝わらず、ミスを繰り返す人たちの多くは、生まれつき短期間の記憶を処理するワーキングメモリーの働きが弱い特性があります。たとえば電話番号をすぐに覚えてメモできない、3つ指示されても1つは忘れてしまうといったこと。もちろん鍛えられますが、今日明日でできるような簡単なことではありません。
発達障害とひと言で言っても、パターンはさまざまで個人差も大きいので、本人に何が得意で何が苦手なのか直接聞いてみましょう。そのうえで本人ができることを見つけていく。そのとおりにできるかどうかはさておき、こちらから歩み寄りながら落としどころを見つけていくことが重要です。
対処法
相手が理解しやすい伝え方の工夫を
このタイプの人は、ひととおり指示を出して「わかりましたか?」と聞くと、必ず「わかりました」と答えます。そうしたら「じゃあ何から始めますか?」と聞いてください。わかっていたら、答えがパッと出るはずですが、答えられなくて結局わかっていないことが判明するのは、よくあるパターンです。ですから、まずちゃんとわかっているか、何からやるのかを確認してほしいですね。
ただ、生まれつきワーキングメモリーが弱いという特性から1度に指示を出さないことも大切です。あれもこれもとなると、彼らにとっては非常にしんどいので、できるだけシングルタスクにしておく。そして、口頭ではなくメールにする、図や表を使って説明するなど、なるべく彼らが理解できる工夫をしましょう。
さらにクライアント相手の仕事だと、あとから言った言わないのトラブルに発展する恐れがあるので、口頭ではなくメールで証拠を残す、メールにはccに第三者を含んだやりとりをする、といったことをしておけば、たとえミスがあってもフォローしやすくなります。
【困った人 E】発言に周囲はヒヤヒヤ。KYな人
お悩み
クライアントとの打ち合わせで必ず余計なひと言を言ってしまう部下がいます。「そういうことを言わないで」と叱れない状況で、周囲はどうフォローしたらよいでしょうか。
原因
KYな人は目立ちたがり屋のただの問題児
たとえばクライアントと午後3時までの予定の打ち合わせで、話がまだ盛り上がっているのに、3時5分になったら「もう時間が過ぎてますよね」と平気で言う人。
「新年の目標を立てましょう」という社内の会議で、みんながあれはどうだこれはどうだと言っているときに「それはちょっと現実的じゃないでしょう」と、冷や水を浴びせるような発言をする人。新年の目標ぐらい現実的でなくてもいいのに、わざわざ現実的な話をするなんて、あいつは空気が読めないな……と。こういうKYな人は、どこの会社にも、いますよね。
このタイプの人は、目立ちたがり屋で、ただの問題児。本人にはまったく悪気がなく、ふと思ったことをそのまま言っているだけなので、みんなを困らせてやろうとか、その場の空気を悪くしてやろうとか思ってやっているわけではありません。ただし、そういう発言はクライアントにはネガティブな印象を残しますし、社内であればチームの士気が下がります。やはりこういう人が会社にいると困りますよね。
対処法
発言の意図を聞いて想像力をサポートする
1対1になったときに、KYな発言について「相手はどう思ったと思う?」などと聞いてみましょう。たいてい「そんなことを言われたら、いい気がしない」というところまで本人もいきつくので、そこから発言が不適切であり、なぜそれがいけないのか、理由を伝えながら指導に入ります。そうやって想像力をサポートしていきます。1回や2回でおさまらなくても、そのつど注意すれば想像力は育ちますので、こちらも根負けしないことです。根気よくやってください。
【Message】うまくストレスを処理して
やはり他人をコントロールすることはできません。いくらか対処して、そのストレスが軽減されることがあっても、完全になくなることはありません。どうしてもストレスはたまっていってしまうので、定期的に解消して、自分自身の心身のケアをしていくことが大切です。