ミスを指摘するとすねる、やりたくない仕事は拒否……。産業医の井上智介さんは「最近こうした、今までいなかったタイプの“めんどくさい部下”に悩む上司が増えている。めんどうではあっても、上司はキレてはいけない。こうした行動の背景には育ってきた環境があり、それを理解しながら丁寧に対応するしかない」という――。
ストレスを抱えた若いアジアのビジネスマンは、階段に座って頭に手を合わせていた。失業とレイオフの概念。
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「めんどくさい部下」が急増している

最近「めんどくさい部下」に困っているという上司の相談が増えています。

こうした、昔はいなかったタイプのめんどくさい部下があらわれているのは、少子化の影響が考えられます。子どもが少ない中で育っているので、自分を気にかけてくれる大人が周りにたくさんいる中で大きくなっています。いつも目をかけてもらえる、かまってもらえるのが当たり前なので、上司の世代から見るとかなりめんどくさく感じると思います。

また、学校の先生や学校の先輩から理不尽な目に遭うという経験を、ほとんどしないままで社会人になっているので、会社に入ってから出会う理不尽なことや、一見理不尽なように思えることに対して、耐性がないのです。

ミスを指摘するとすねる、イヤな仕事は拒否する

「めんどくさい部下」には、大きく2つのタイプがあります。

一つはすねたり、拒否したりするタイプです。例えば、上司からちょっとしたミスを指摘されたときに、自分が間違えたことをわかっていたとしても、すねたような態度をとる。あるいは、自分のやりたくない仕事を指示された時に、すぐに「わかりません」「できません」と拒否してしまうのです。

こういったタイプの部下は、今まで何でも自分の思い通りにしてきており、自己愛が強くてプライドが高い傾向があります。自己愛が強い人は、「自分は正しい」「自分は間違っていない」と思い込んでいることが多いので、人から指図されたり、ミスを指摘されたりすると、プライドが傷つき我慢ができません。このため、すねたり、ふてくされたり、受け入れられずに頭から拒否してしまったりするのです。

プレッシャーを与えられていることにも理解を

部下にこんな態度を取られ続けると、上司の方もキレたくなってしまいます。でも、少しでも声を荒げたりすれば、パワハラを主張される可能性がありますし、相手は一層かたくなになり、状況が良くなることはありません。対応は簡単ではなく、一筋縄ではいきません。

今は、「やりたいことをやろう」「好きなことで生きていこう」という風潮もあって、それがこのタイプの部下たちの「イヤなことはやりたくない」という態度につながっています。ただその一方で、彼ら・彼女らには「やりたいことや好きなことを探さなくては」というプレッシャーもあります。こうした価値観を押し付けられストレスを抱えている面があることを、まずは理解してほしいと思います。

まずは本人の考えを聞く

その上で、まずやるべきことは、普段からその部下の話をしっかり聞くことです。こうした部下たちは、見方を変えれば「上から言われたからといって、それに盲目的に従うことをよしとしない」「自分のやりたいことや自分の考えを持っている」とも言えます。まずはそうした、「本人がやりたいこと」「本人の考え」をしっかり聞いて理解します。

話を聞くときは、くれぐれも相手が話す内容を否定したり、評価したりしないことがポイントです。途中でさえぎったり、「昔はこうだった」「我々が若いときはこうだった」など、自分語りをしないこと。聞き役に徹し、まずは相手に、思いのすべてを心置きなく吐き出してもらいます。

役割を自覚してもらう

上司から部下に何かを伝えるのは、話をしっかりと聞いた後です。

会社という組織の中では、一人ひとりに求められる役割があります。その部下が、どんな役割を求められているか、その役割に基づいてどんな行動をとることが期待されているのか、上司が言葉にして教えることが必要です。頭ごなしに「こうしろ」と行動を指示するのではなく、期待されている役割を自覚させるところから始めるわけです。

具体的には、わかりやすい数字的な目標を与えて、その達成までをサポートしましょう。

ポイントは、それを部下がやることで、どういった効果があるのかを見せることです。例えば、「1日に10件アポ取りの連絡をしろ」と言うだけでは、「なぜ自分がそんなことをしなくてはならないのか」と反発するばかりかもしれませんが、そこで、なぜアポを取ることが営業活動の中で大切なことなのか、その行動が次にどんな成果につながるのかを丁寧に説明し、納得感を持ってもらったうえでアクションを促すのです。

資料作りの指示も、それがほかの人にどう役立つのか、クライアントにどんなメリットがあるのかなども含めて説明します。部下の行動が、どのように周りの人の幸せにつながっているか伝わると、部下の側もモチベーションが上がりやすくなります。

経験が少ない若手は、目の前のことしか見えないことが多いですし、自分がやっていることが、会社全体の中でどんな役割を果たしているのか、全体像が見えていないことが多いものです。昔であれば、それが見えていなくても「とにかく文句を言わずにやれ」で済んだかもしれませんが、今の若手はそういうわけにはいきません。本人の話を聞いたうえで、仕事の位置づけや役割を言葉で説明する必要があります。こうして本人が納得感を持てば、意欲を持って仕事に取り組めるようになるはずです。

オフィスで働くアジアのビジネスウーマン
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さらにめんどくさい「打たれ弱いタイプ」

もう一つは、最初のタイプとは真逆で、すぐにめげてしまう、打たれ弱いタイプです。「数字が間違っているから直しておいて」といった、本当に簡単な注意だけでめげてしまい、泣いてしまう。うまくできなかったことにショックを受け、すぐに涙ぐんでしまうのです。

そういう人に対しては、上司は何も言えなくなってしまいます。正直いうと、めんどうくさい。それ以上何も言えなくなりますし、「何も指示できない」と思ってしまうかもしれません。

最初に挙げた、すねたり拒否したりする部下は、口が立ちますし、上司に対して反抗的に見えるので、めんどうではありますが働きかけもしやすいところがあります。一方、すぐにめげてしまう打たれ弱いタイプは、言葉をかけるなどの働きかけが非常にしにくく、上司も困り果ててしまいます。意外とこのタイプは多く、頭を抱えている上司は多いようです。

こういうタイプは、自分に自信がなく、いつも「ミスをしてしまうのではないか」と不安に思いながら仕事をしています。そして、そこでミスを指摘されると自分を責め、落ち込んで手が止まってしまうのです。

「泣くな」はNG

上司としては、つい「泣くな」と言いたくなるところですが、これは言ってはいけません。本人も、我慢できるものなら我慢しているはずです。

こういったタイプの人は、これまでミスをしたり失敗したりしないように、自分の能力に合った世界だけを選んできて、そのまま社会人になってしまったケースが多いようです。少し背伸びをして、これまでやったことがないことにチャレンジし、失敗したりミスをしたりしながら成長するといった経験に乏しいのです。

しかし社会人になると、周りの求める能力や期待に応えるために、失敗を乗り越えながら頑張ることが必要になります。失敗しても、めげて泣いたりして手を止めてしまうことなく、ミスを挽回して前向きに頑張れるようになってもらうためには、まずは安心して失敗できるように、本人の存在を認めてあげることが必要です。

2段階のステップで働きかける

存在を認めるために、まずは「○○さん、おはよう」と名前を入れて挨拶をするところから始めましょう。挨拶以外にも、「○○さん、新しい引っ越し先はどう?」「○○さん、お昼ご飯は何を食べたの?」など、仕事には関係ない話題も含めてこまめに声をかけるようにします。一回の対話をじっくり深めるよりも、ちょっとしたコミュニケーションをとる回数や機会を増やし、自分という存在が承認されている、ここにいてもいいんだという安心感をもってもらうようにすることが大切です。

それから、仕事の進め方について働きかけをするステップに進みます。1、2週間おきなど、定期的にポジティブなフィードバックをする時間を作るのです。とはいえ、いつもポジティブな成果を出せているわけではないでしょう。その場合は、結果はうまくいかなかったとしても、努力したプロセスや頑張っていたところにスポットを当てて褒めましょう。失敗して涙を流したとしても、泣くことはかまわないし、それで仕事に慣れて成長できればいいのだということを教えていきます。

調子が悪いときは距離をとって自衛を

上司からすると、こうしためんどくさい部下は、子どもっぽく見えてしまいますし、対応するのは本当に大変です。しかし、めんどうでも丁寧に付き合っていかないと、仕事がまったく回らなくなってしまいます。

ただ、相当なストレスが溜まってくると思います。だからといって、こちらがキレてしまっては絶対にいけません。ですから、ストレスが溜まっている時、体調が悪い時など、こちらのコンディションが悪いときは、あえて近付き過ぎないようにして、距離を取るようにした方がいいでしょう。注意するときも、自分のコンディションが悪いときに言うと、ついトゲのある言い方になってしまいます。自分を守るためにも、めんどうな部下とは、うまく距離をとりながら対応してほしいと思います。