初対面の人との直接の会話を嫌がる傾向
Z世代と呼ばれる最近の新入社員は、最初に手にした携帯がスマホであり、情報収集やコミュニケーションの手段としてインターネットやSNSを駆使する。その一方で、SNSを通じて小・中・高・大学の横のつながりは広いが、上下の人間関係のコミュニケーションに不得手な人も多いと言われる。
しかし同じZ世代でも2022年4月入社の新入社員は極度に対人コミュニケーションに不安を感じているようだ。
「営業活動もオンラインでの商談が増えている。受注先にシステムに関する要望を聞くようにと新人に依頼した。ところが上がってきたリポートを見ると、内容は細かく書いているが、会社名と部署は記載しているのに担当者名が『スズキ』とあるだけで下の名前が書かれていない。『これじゃ誰だかわからないじゃないか』と言うと『聞きそびれました』と言う。オンラインなので名刺交換をしていないのはわかるが、電話でもいいから改めて聞けばよいと思うのだが、それもしていない」
こう語るのはシステム開発会社の課長だ。ほかの新人でも同じようなミスがあるそうだが、課長は「ビジネスマナーを知らないというより、初対面の人と直接話をするのを嫌がる傾向がある」とも語る。
取引先に電話することに抵抗がある新入社員が7割近く
人と話すのが嫌いでは仕事は務まらないが、日本能率協会の「2022年度新入社員意識調査」(2022年9月12日)によると、そんな新人は珍しくないようだ。今年入社した新人に「仕事をしていく上での抵抗感」についての質問では、「知らない人・取引先に電話をかける」が「抵抗がある」と答えた人が27.5%、「どちらかといえば抵抗がある」が41.8%。計69.3%が抵抗感を持っている。関連の「初対面の人と雑談をする」では計44.8%が抵抗感を持っている。
取引先や初対面の人とだけではない。社内でも同じだ。「会議や打ち合わせで自分の考えを発信する」についても56.5%が抵抗感を抱いている。
職場の人間関係に不安を感じている
正直言って社会人として大丈夫かと首を傾げたくなるが、しかたがない面もあると語るのは、22年卒をよく知る都内の大学でキャリア教育を教えている講師だ。
「コロナ禍で大学構内に入れなくなり、講義もオンラインに切り替わり、事実上2年間放置されていた。対面のコミュニケーションの接点が極端に少なくなり、しかもコロナがどうなるのかもわからない。ウクライナ戦争も始まり、社会情勢をよく理解はできなくても何となく生きにくい世の中になるという不安感を抱きながら生活してきた。就活も対面ではなくオンラインで行われ、内定を得ても将来の先行きが見えないなかで、本当に入りたい会社なのか、自分で決めきれないままに入社した社員も多いと思う」
もともと上下の人間関係の構築力が不得手なうえに、コロナ禍でさらに孤立化し、仕事を含めて自分に自信を持てない新人の姿が浮かび上がる。そうした不安は職場の人間関係や仕事でも表れている。前出の調査で「これから仕事をしていく上でどのようなことに不安があるか」の質問の回答のトップは「上司・同僚など職場の人とうまくやっていけるか」で64.6%だった。2019年調査では43.0%だったが、今年が最も高い割合になっている。
叱らず丁寧な指導をしてくれる上司が理想
同様に「仕事に対する現在の自分の能力・スキル」に不安を持つ人は19年の29.9%から今年は53.4%と大きく上昇している。この調査からも入社した会社の仕事をこなせるのか、自分が向いているのかという不安も垣間見える。
また、職場の人間関係に対する不安の裏返しだろう。「あなたが理想的だと思うのはどのような上司や先輩ですか」という質問に対し、断トツに多かったのは「仕事について丁寧な指導をする上司・先輩」で、71.7%だった。毎年の調査でもトップだが、新型コロナ発生当初の2020年入社の59.3%を大きく上回っている。それだけコロナ禍で社会から隔絶され、不安な日々を送っていた空白の2年間を物語っているのかもしれない。
しかしこの「丁寧な指導」には裏がある。理想の上司として「場合によっては叱ってくれる上司・先輩」という選択肢もあるが、2012年の調査では33.7%と比較的高い割合だったが、その後漸減し、20年に19.9%、今年は17.6%と低率にとどまっている。“叱るのは愛のムチ”とか、「叱る場合は別室で。本人を諭すような叱り方が大事」と、マネジメント教育を受けてきた管理職にとっては、とにかく叱るのはダメと釘を刺されたら途方に暮れるしかないだろう。
結果に対する情熱を持った上司は敬遠される
もう1つ、低下している理想の上司は「仕事の結果に対する情熱を持っている上司・先輩」だ。2012年の34.1%から20年に7.5%に急落し、今年も9.5%だ。この傾向は2016年入社以降のZ世代に共通した特徴かもしれない。こうした“成果を追求する熱い上司”ほど上の覚えもめでたく、出世する人に共通するタイプだが、逆にZ世代には疎んじられているようだ。
大変なのは「叱らないで育てる上司」だ。中堅物流会社の人事部長はある意味で“繊細な心”を持つ新人の育成に頭を悩ませている1人だ。
「実はコロナ禍やリモートワークが増え、飲み会などがなくなり、ただでさえコミュニケーションの機会が減っている。部下が何をやっているのかわからないのはマネジャーだけではなく、身近な先輩でも新人がどんな悩みを抱えているのかわからないと言う人もいるぐらいだ。OJT(職場内訓練)すら満足にできていない中で、新人の指導に時間を割けない上司もいる。相談相手が少ないなかで、新人が仕事のカベにぶつかっても、乗り越えられるカベだったらいいが、そうでなければたぶん離職につながる」と危惧する。
口を挟まず、ただ観察する
では新人の指導では上司はどう対応すべきなのか。人事部長は「現在改めてマネジャー研修を実施している。特別な研修ではなく、部下をどういうポイントで見るのか、設定した目標の達成度の評価とフィードバックをどうするかという基礎的の研修だ。今まで適当にやっていたマネジャーも少なくない。当たり前のことを当たり前にできるようになることが大事だ。少しでも部下を見る視点やポイントがずれると、今の新人は反発しかねない」と言う。
その上で「マネジャー自ら新人を見にいき、そして本人の話を聞く。部下と仲良く話のやりとりをするのではなく、一方的に部下を観察するコミュニケーションが大事だと言っている。というのは上司が何か口を挟もうとすると、口を閉ざすという新人が増えてきている。相談されたら答える必要があるが、それでも新人は本音を言わないと思う。殻に閉じこもっている感じがあり、上司のマネジメントは本当に難しいと感じている」と胸の内をさらけ出す。
「お金のために働く」と言い切る学生が増えている
職場もまるで“取扱い注意”“火気厳禁”状態で、新人は慎重に指導しなくてはならない存在になっている。
もちろん新人も仕事に対する意欲はある。その一方で公私の区別をはっきりつける傾向があり、以前から職場の飲み会に参加したくない新人が増えている。10年以上前から仕事優先よりプライベート重視派が増えている。前出の調査でも「仕事を優先したい」人はわずかに17.2%、「プライベートを優先したい」人が82.7%と圧倒的多数を占めている。
ただ仕事優先よりプライベート優先といっても、22年卒を含めた最近の学生は「働くことに冷めている」と前出の講師は言う。
「働くのは何のため、と聞くと『お金のため』と答える学生が増えている。『働く意味はお金だけではなく、働きがいなどもあるのでは』と言っても『やっぱり生きていくにはお金が大事です』とはっきり言い切る。何のために働くのかわからなくなっている世代でもある。働くことに冷めている印象があり、大学のキャリア教育や企業でも改めて働くことの意味を自分で考えさせるようにしないと危険だなと感じている」
中高年になると「家族や生活のために働く」という人が少なくない。しかし新卒の新人に「お金のために働く」と言われると、今後の長い職業人生を生きていけるのかと心配になる。新人を育てる組織や上司の役割は非常に重い。