D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)が進んだビジネス環境では、従来とは違う新しいマネジメントスキルが求められる。多様性の時代のリーダーシップとは何か——。まずは自分自身を知ることからはじめよう。
リーダーシップ
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イノベーションを起こす組織の合言葉は「なるほどね」

ダイバーシティの目的は、イノベーションを起こすことにあると私は理解しています。日本経済が低迷している原因の1つが、高すぎる同質性。大企業や中堅企業の管理職は男性ばかりですから、同じようなメンバーで議論を重ねても、アイデアはほぼ出尽くしているといえるでしょう。ここに女性や外国人など、異なる知識や経験をもったメンバーが入れば、新しい商品やサービスにつながるイノベーションが生まれる確率が上がります。

ダイバーシティは、社会課題の解決以前に、多様な人材を集めることで企業が長期的に利益を出し、生き残るための戦略だと考えられます。発言力がある女性が社内に増えることは、女性に有利だというだけではなく、企業にとってもプラスだという認識がもっと広がるといいと思います。

ダイバーシティが進み、環境が変わると、組織のリーダーに求められることも変化するでしょう。社員が多様化するということは、意見も多様になるということ。そこに価値があるのですが、間違いなく会議はもめます。

そこで必要になるのが新しいタイプのリーダーシップです。もはや全会一致の会議はなく侃侃諤諤かんかんがくがくで意見が衝突したあげく、意見が異なるまま、最後は多数決で「えいや」で決めることも出てきます。こうした摩擦が大きい集団のリーダーに求められるのはトップダウンの管理ではなく、ファシリテーション。会議室にいる人たちの意見をフラットなスタンスで引き出す役割です。ファシリテーター自身は発言せず、部下の意見に「なるほどね」と耳を傾け、「みんな、○○さんの意見をどう思う?」とメンバーに問いかけ、議論を促します。自分とは異なる主張の人の話もがまんして聞く。批判をしないで、発言者を励まし、意欲をそいではいけません。

こうして組織の中で誰のどんな意見も受容する“心理的安全性”が高まれば、のびのびと意見が言えるようになります。多様な人々の多様な意見にこそ価値がある以上、部下を裏方で支え、それぞれの力を引き出してあげる。上から目線の指示・命令で部下を管理する従来型ではなく、部下を支え育む育成系の素養があるリーダーこそ、イノベーションに寄与するといえるでしょう。

D&I時代の組織

新時代のリーダーは女性のほうが向いている!?

女性管理職が増えない要因は、社内体制が整っていない、リーダーのロールモデルが少ないなどにあるでしょう。しかし女性のみなさんにはチャンスが来たら積極的に昇進を受け入れてほしいと思います。子育てや介護など個人の事情もあると思いますが、時短やリモートでも成果が出せるようにデジタルツールの整備を会社に交渉してみるなど、やり方はあるはず。必ずしも男性と同じ方法でなくてもいいのです。後進のためにも女性リーダーは、自分が働きやすいように体制を改革していけばいいのではないでしょうか。

先述のファシリテーター型にもいえますが、近年の経営学の視点を統合すると、これからのリーダーには女性のほうが向いている可能性さえあるのです。ダイバーシティが進んだ組織の管理では、高い共感やコミュニケーションの能力が求められますが、女性のほうが男性よりもそうした能力が高いことが心理学的な研究データで証明されているからです。

例えばファシリテーター型上司が意識するといい新しいリーダーシップのひとつ、サーバントリーダーシップでは、部下を尊重して寄り添い、自己利益よりも部下の成長を優先するスタンスを取ります。傾聴や観察を心がけ、部下個人の成長を支援し、働きやすいコミュニティーづくりが期待されます。また精神性を重視し、求心力があるトランスフォーメーショナルリーダーシップでは、リーダーが組織の魅力を伝え、知的刺激を与えて啓蒙し、個別コーチングなどで部下個人を重視しつつビジョンを掲げてチーム全体のレベルを押し上げていく。

ほかにも部下を観察し、意思を重んじたうえで、心理的な取引や交換のように部下と向き合い、アメとムチを使いこなすトランザクショナルリーダーシップなどがあります。こうした新しいリーダーシップは、部下を尊重し、コミュニケーションを重視する点で共通しています。日本の企業でも多様性の高まりとともに、新しいリーダーシップへのニーズが高まりつつあります。やがて日本でも北欧のようにリーダーの過半が女性になる時代が来るといいですね。

代表的なリーダーシップ
早稲田大学大学院経営管理研究科教授 入山章栄さん
入山章栄(いりやま・あきえ)
早稲田大学大学院経営管理研究科教授
慶應義塾大学大学院修士課程修了後、三菱総合研究所へ入所。2008年米国ピッツバーグ大学経営大学院でPh.D.取得後、ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクール助教授に。13年より現職。専門は経営戦略論および国際経営論。『世界標準の経営理論』(ダイヤモンド社)ほか、著書多数。
自分の強み&弱みを知ろう
個性に良いも悪いもない。自分のタイプを客観的に把握し、セルフプロデュースの視点を持ってみよう。“強み”と“弱み”を意識して行動することで、周囲の反応も目に見えて変化するはず。

個性を尊重し合えれば、自分も相手もやる気アップ

自分はどういうタイプのリーダーになりうるか、考えてみたことはありますか。コミュニケーションの方法には人それぞれに個性があって、それはリーダーとしての個性にも表れてきます。個性には“強み”と“弱み”がありますが、人は自分の“強み”を知ると、心理的な活力が高まるといわれています。一方“弱み”に無自覚だと、同じミスを繰り返して評価が下がり、対人関係がうまくいかないことがあるかもしれません。まずは下のテストを活用して、自分のタイプを割り出してみましょう。

テストとなると高得点を狙いたいと思うかもしれません。しかし評価ではなく傾向を知るための設問ですから、点数は関係ありません。深く考えずに直感で答えてこそ、正確な結果を導き出せるもの。個性に良いも悪いもないのです。

人の長所と短所は表裏一体です。例えば“頑固さ”は短所のようですが、見方を変えれば「ポリシーがあり、突破力がある」とも捉えられます。一方で“柔軟性”は「流されやすくリーダーシップを取りづらい」と捉えることで短所にも見えてきます。肝心なのは、客観的な診断をもとに自分を知り、自己承認すること。謙虚に自分を認めたうえで、置かれているポジションや職務に応じて自分の“強み”や“弱み”を意識し、キャリアに生かす方法を考えることで、その人らしい仕事ができるようになるはずです。

チェックしてみよう!

テストで診断される8つの個性には、それぞれ向き不向きがあります。その人の個性が、置かれているポジションやチームのメンバー、仕事の方法などの環境とマッチしていると能力を発揮しやすいのは言うまでもありませんが、組織ではすべての人が必ずしも適材適所だとは限りません。配属されたポジションが個性に合わず、“強み”を発揮しづらいケースも少なくないもの。

例えば慎重で内向的な人が、花形といわれる営業に異動になった場合、売り上げノルマの重圧でつぶれかねません。しかし自分の強みを見失わなければ、じっくり話を聞き、顧客に寄り添う営業姿勢で信頼を勝ち取り、結果を出すこともできるわけです。またあえて外向的なタイプのメンバーとコンビを組んで、チームで仕事を回していけば、自分の弱点を逆手にとった戦略になります。個人では難しくても、チームプレーで目標をクリアできるなら、十分評価に値するでしょう。

また、リーダーが部下のベストな配置や組み合わせを考える場合にも、日頃の観察や面談だけでなく、このようなテストツールを活用することで客観性が上がり、職場全体の働きやすさ向上につながればリーダーとして信頼を深めていくことができます。

リーダーシップ タイプ8

自分の個性を見つめ、受け入れることからスタート。そのうえで自分の“強み”“弱み”について検証し、セルフプロデュースの観点をプラスして考えてみよう。

リーダーシップ タイプ1-4
リーダーシップ タイプ5-8

個性をキャリアアップに役立てる具体的な方法とは?

個性が正反対なタイプ同士はお互いに「変な人、理解できない」と反発しがちなものですが、職場の人間関係では遠ざけてばかりはいられません。個性が違うほど補完関係が成立するベストな組み合わせだという見方もあるからです。

もし、職場で日頃から「相性最悪」と思っている人と組まなくてはならなくなった場合、自分と相手の強みや弱みをヒントに役割分担をし、上手に仕事を回すことができるかもしれません。「好きじゃないけど信頼できる」関係が仕事で良い結果を生むこともあるものです。

例えば8タイプの中の“ムードメーカー型”は温かく魅力的な人物ですが慎重さに欠けます。情に流されやすいムードメーカー型の軽率な判断に、真面目で理性的な相棒の常識型や慎重型が「待った」をかけ、事なきを得る、という補完関係が成立するということです。

あなたのチームを覚醒させるタイプ別組み合わせ

“強み”や“弱み”を知ることは、キャリアの棚卸しにも役立ちます

また、“強み”や“弱み”を知ることは、キャリアの棚卸しにも役立ちます。ワークシートで、C‌Q Finder miniで判明した自分のタイプと現実の自分とを照らし合わせてみてください。実際に強みや弱みを書き出して確認したら、それぞれを生かす方法や改善プランを具体的なアクションに落とし込みます。「英語で日記を書く」「名刺はその日に整理する」「人の話を遮らない」「即断せず1度考える癖をつける」など意識して習慣化することで、実現したいキャリアに近づけるはずです。

今の自分を分析し、対策を考えてみよう!

●より詳細な分析は、プレジデント総合研究所の研修で実施しています。

https://president.jp/pts/presidentresearchinstitute/

一般社団法人組織力診断士協会代表理事 江田幸央さん
江田幸央(えだ・ゆきお)
一般社団法人組織力診断士協会代表理事
エムジェイナビを設立。コンピュータソフト開発、ホームページ制作と同時にCQ個性診断を開発。一般社団法人コミュニケーションクオーシェント協会設立、代表理事。組織力診断「OQ-Navi」を開発。一般社団法人組織力診断士協会設立、代表理事に就任。組織力診断士の養成と認定を始める。