※本稿は、あきやあさみ『一年3セットの服で生きる 「制服化」という最高の方法』(幻冬舎)の一部を再編集したものです
人気スタイリストが提案する「制服化」とは
制服化とは、ファッションをパターン化して「少ない服」で制服のように着回していくことです。制服化というと「必要最小限のものだけで暮らすミニマリスト」だと思われがちなのですが、私自身はどちらかというと「気に入った服しか着ない究極のエゴイスト」だと思っています。服を選ぶという過程を通して「私はこんな考えを持っていたんだ」「私らしさってこんな感じかな」と自分自身を深く知ることができます。
私が提唱する「制服化」は、ただ単に「ものを減らす」ことを主軸にしている訳ではありません(結果として、服がとても少なくなったということはありますが)。あくまでも「心地よく暮らすための服の選び方のひとつ」として捉えてほしいと思っています。
「価値観」が分かる一つの質問
ファッション講座に来てくださったお客さまに「もしも一年1セットの服だけで生きるとしたらどんな服を選びますか?」という質問をします。そうすると100人なら100通りの全く違った答えが返ってきます。「もしも」という仮定のお話なので実現は難しいかもしれませんが、その方ならではの価値観が一番分かりやすい質問なのです。
例えば「自分に似合っていて、大好きな色で、明るいイメージで……」と「見た目」のお話をする方もいれば、「動きやすくて、お手入れが楽で、体温調節が簡単にできて……」と「機能面」を重視される方もいます。答えそのものに、服に対する価値観という「その人らしさ」が出ています。もちろん、「好き」や「機能」の条件も人それぞれです。例えば実際にいらしたお客さまの中には「絶対に毎日柄物の服を着たい!」という好きなものに強いこだわりを持った方もいれば、「肌が弱いので柔らかい綿素材の服しか着られない」という機能面での制限をお持ちの方もいらっしゃいました。
たくさんの服を所有できると思うと「あれもこれも」と欲張ってしまいますが、まずは「1セット」と絞り込んで考えると着たいものがより明確になるのです。答えを絞っていくと自分の好きな服、着たい服、必要な服が必ず見えてきます。
部屋が「着ない服」で溢れる原因
私自身も制服化をする前は多いときで1年に200着以上の服を買って所有していたことがありました(今思うとなぜそんなにたくさん服を持っていたのか不思議な気持ちです……)。福袋、セール、フリマアプリなどで「欲しい」と思った瞬間に服を購入してしまうこともあり、部屋はどんどん「着ない服」で溢れていきました。
しかし、どんなに「服の数」が増えても自分のファッションに心から満足できたことは一度もありませんでした。ひとつひとつは「好きな色の服」や「着ていて楽な服」や「流行の服」だったのですが、今考えると「毎日着たいほど真剣に選び抜いた服」でなかったというのが大きな原因でした。
セールでたくさんの服を買っていたときは「本当は別の色が欲しかったけど安くなっているからこの色でいいや」「少しサイズが大きいけれど着られるからいいや」と、無意識にどこかで妥協をした服を選んでいました。そして心から憧れているブランドでは「高いから買えない」と思い込んでしまい、安価なブランドで似たような服を探してしまうことがよくありました(たくさん買っていた服の価格を合計すると心から欲しかった服の価格を超えていることもありました)。満足できないからとたくさんの服を買ってしまい、健康的でない状態だったと思います。
服を減らすことで“自信”がつくワケ
制服化を実践した方はみなさん「今まであんなにたくさんの服を持っていたのに、私はおしゃれじゃないと感じていた。制服化することで自信がついた!」とおっしゃいます。これは「1セットのスタイリングに時間と愛とお金を集中できたから」なのです。たくさんの服の中から徹底的に取捨選択をして「自分で考え抜いた答え」だからこそ、少ない服でも自信を持って堂々と過ごせるのです。
私は「一年3セット」の服だけで生活しています。「一年3セット」といっても全く同じ服を複数枚持っている訳ではありません。「心から気に入っている違うスタイリング」を「3セットだけ」選んでいるのです。
こんなにたくさんの選択肢がある中からどうやって3セットに抑えているのか疑問に思う方は、こう考えてみてください。「まずは365日、毎日着たくなるような1セットの服を選び抜くこと」。そしてその考え方で「プラス1セットずつ増やしていくこと」。そんな風に考えると、途端に選びやすくなりませんか?
1着のワンピースだけで100日過ごした
実は、私も制服化をする前は「そんなに少ない服で過ごしていけるはずがない!」と思い込んでいました。しかし、実際に1着の服で過ごしてみるとその考えは杞憂でした。
私が制服化したきっかけは「1着のワンピースだけで100日過ごしたこと」から始まっています。真剣に考え抜いて見つけたワンピースを着たときに「もうこの服しか着たくない」と感じたのです。その1着を見つけたことで心が満たされて、「今までなんとなく着ていた服」を全て手放すことができました。「このワンピースよりも好きだと思える服しか買わない」という基準が明確になったので、自然とたくさんの服を所有したいと思わなくなりました。
そこから同じように気に入ったものを1セットずつ増やしていって、「一年3セットあれば、不便なく心が満たされた生活ができる」という状態になりました。3セットは絶対ではないのですが「自分の中でのミニマムな服の数」で生活がしたいと考えたら、私の中での最小の数がたまたま3セットになったのです。どの服も心から気に入っていて毎日不便なく過ごしています。
3セットの内訳は?
例えば、①パンツスタイル ②スカートスタイル ③ワンピーススタイルにしてもいいですし、①黒のワンピース ②赤のワンピース ③花柄のワンピースとワンピースだけで3セット選んでもいいのです。インナーやアウターの合わせ方で温度調節すると、一年中快適に過ごせます。ぐっと「3セット」のイメージが膨らんだと思いませんか?
もちろんその方の状況によって「一年3セット」は少なすぎて難しい……という方もいらっしゃいます。そんな方は「週3セットのスタイリング」で考えたらどうでしょうか? 週に2~3日同じ服を着ても困ることはほとんどないと思います。
私のお客さまには「女優、医師、会社員、学生から主婦まで」さまざまな生活環境の方がいらっしゃいますが、「制服化してみたら週3セットのスタイリングで十分でした」と口を揃えておっしゃいます。
慣れてきたら月3セット、4カ月で3セットという少ない数の服で過ごせるようになります。ただこの3セットというのはあくまで目安です。例えば、「どうしても週に1回しか洗濯できない!」「子供が小さくて毎日カットソーを3回着替えている!」という状況の方には心地よく暮らせる最低限の着数をおすすめしています。自分に最適な数量を理解しているというのも大切なことなのです。
実際にはたくさんの数の服を持っていたとしても「自分の定番スタイリング」を3セット決めることで服選びがとても楽になります。