世界のジェンダーギャップ指数で例年トップクラスにいるフィンランド。女性や母親が暮らしやすい国としても広く知られている。では男性たちはどうなのか。ライターの堀内都喜子さんは「フィンランドでは『女性が稼いで頑張ってくれる方が、僕の負担が少なくなって楽』『お互い仕事もフルでしているから、家のことも2人で同じぐらいに分け合いたい』と語る男性が目立つ」という――。

※本稿は、堀内都喜子『フィンランド 幸せのメソッド』(集英社新書)の一部を再編集したものです。

結婚指輪
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自由に姓を選択できる

フィンランドでは1985年から婚姻していても夫婦別姓が認められている。法改正時には家族の形が崩れるといった反対もあった。今は別姓の他に、それぞれの姓をそのまま使用できるのに加え、自分と相手の姓をつなげた新たな「複合姓」にするという方法もある。例えば、ヴィルタネンさんがキンヌネンさんと結婚すると、ヴィルタネン=キンヌネンという姓にできるのだ。

日本人から見るとやたら長く不便なようにも思えるのだが、自分の使い慣れた姓を捨てたくないし、結婚した相手の姓も名乗りたいという気持ちに応える折衷案だ。他にも夫婦が共に新たな姓を名乗ることも可能だ。それでも多くは夫の姓を取るが、最近は別姓も徐々に増えつつあり、その割合は結婚する夫婦の3割に上っている。

子どもも姓の選択ができる

子どもはどちらかの姓を名乗ることになっていて、同じ家族のメンバーなのに別々の姓を持つことも普通だ。事実婚も増えていて、生まれてくる子どもの4割は事実婚のカップルのもとに生まれている。フィンランド社会は共働きが前提で、夫婦分離課税となっている。

さらに子どもの権利に親の婚姻関係は影響せず、たとえ両親が結婚していなくても父親が認知をすれば父親の姓を名乗ることもできるので、婚姻関係は結ばずに家族として普通に暮らしていても違和感はない。フィンランド人カップルに会っても、2人が結婚しているのか事実婚なのかわからないし、子どもとの親子関係も姓をもとに推測することは難しい。長年の友人であってもどちらなのか知らないこともあるし、逆に言えばどちらでもいいということになる。

女性同士のカップルの4割は子育てをしている

近年では離婚やひとり親家族、再婚家族も多く、家族の形が実に多様化している。2017年には同性婚が可能となり、レインボーファミリーも増えている。女性同士のカップルの4割が子育てをしていて、2019年時点で、レインボーファミリーで育つ子どもは1366人。ここ10年ぐらいの間にLGBTQはよりオープンになり、周りもより理解が進んでいると感じる。

花嫁と花嫁
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社会も多様な家族の形に寛容になってきている。ハロネン元大統領が1978年に未婚で子どもを産み、シングルマザーとして子育てとキャリアを両立させていた時のことをインタビューで聞かれた際には、「周りの目に、かわいそうなどといった偏見の色が見られなかったので、自尊心を失わずに前に進むことができた」と答えていた。友人を見ていても、兄弟や家族のメンバーの離婚や再婚を温かく見守り、受け入れているように映る。そんな様子を見て「本当はどう思うの?」と聞いてみると、「最近は珍しくないし、まあ本人が良ければいいんじゃないかな」とあっさりとした答えが返ってくる。

「家族」に正しい形はない

保育所や義務教育の現場でも家族の多様化は子どもたちによく語られている。片親だけの家族、父親が2人いる家族、海外からの養子を迎えて、見た目が全く違う家族もいる。中学の現代社会の教科書では、「家族」の項目に、家族写真として男性同士のカップルとアフリカ系の子どもが写っているものが使われていたり、「家族とは同じ冷蔵庫の食べ物を食べている人たち」と定義され、家族に正しい形はなく、子どもの有無や性別は関係ないと説明されていたりする。人それぞれ、家族もそれぞれ。多様化する家族の形に対して寛容でいる社会をつくることも、男女にかかわらず一人ひとりの生きやすさにつながっている。

貪欲なフィンランドの女性たち

フィンランドでは出産や子育てで一時的にキャリアを中断することはあっても、女性が定年まで働くことは当たり前になっている。子どもが生まれるからといって、仕事をやめるとか、ずっと主婦でいようという人はほとんどいない。自営業や農家であっても、女性の仕事はれっきとした報酬を伴う労働とみなされる。

そんなフィンランドの女性を見ていて思うのは、とにかく「貪欲」だということだ。「仕事か家庭か」という二者択一ではなく、「仕事も家庭も趣味も勉強も」と自分の興味や欲求を貪欲に追い求める。それは何も女性に限ったことではなく、フィンランド人全体に言えることではあるのだが、このいい意味での貪欲さは特に女性に顕著だと感じる。

以前、ある日本の視察団がフィンランドの女性グループに女性活躍へのアドバイスを聞いたところ「与えられたチャンスは自信がなくとも、とりあえずやってみること」との答えが返ってきたそうだ。どうしても日本の女性は、完璧にできる自信がないと一歩前に踏み出すことをためらう傾向があるように見えるが、「私はいいです」と遠慮してしまうのではなく、「やってみたい!」と上昇志向を持って失敗を恐れずやってみることが大切で、努力は無駄にはならないし、ダメなら戻ればいい――とその人は説明したという。他にも、仕事をしながら自分の能力を高め、仕事の幅を広げるために学びに積極的に取り組み、もし家庭のパートナーが協力的でなければ、別れて新しい相手を見つけなさい、とのアドバイスもあったそうだ。

男性はどう思っているのか

こういう話をしていると、「男性はどう思っているのか、本当にそれで男性は満足なのか」と日本の方から聞かれることがある。私の見る限り、フィンランドでは「女性が稼いで頑張ってくれる方が、僕の負担が少なくなって楽」「お互い仕事もフルでしているから、家のことも2人で同じぐらいに分け合いたい」と語る男性が目立つ。

また、フィンランド人は高校を卒業すると、どんなに大学が家から近くとも、自立してひとり暮らしやパートナーとの同棲を経験する。当然、家事の経験もするので、多少の好き嫌いはあっても、家事が全くできない、という男性はほとんどいない。それに今の20~30代は共働きの親を見て育ってきているので、協力し合って生活することに違和感を持っていないように見える。むしろ何もしない男性はダメな男性のレッテルを貼られてしまうし、女性も男性に養ってもらうことを期待する様子はない。

相手に「経済力」は求めない

フィンランドの人口調査機関は毎年フィンランドの「家族」に関して様々なテーマで調査報告しているが、2013年発表の夫婦関係や別れをテーマにした調査によると、女性が男性に求めるものは信頼、価値観の共有、尊敬、家族へのコミットメント、家事の同等の分担、強い愛情、問題解決能力、感情表現などで、経済力は入ってこない。

堀内都喜子『フィンランド 幸せのメソッド』(集英社新書)
堀内都喜子『フィンランド 幸せのメソッド』(集英社新書)

さらに、カップル関係においては女性の6割が価値観の共有が大切だと答え、2人の時間を過ごすことを重視している。ちなみに同調査によると、離婚を切り出すのは女性が3分の2。そのうち3分の1は男性にとって突然だったという。自立した女性が多いフィンランドでは、愛情がなくなったらあっさりと結婚生活を終わらせてしまう傾向が強い。

フィンランドの女性活躍には、男女平等はあくまでも「人間的な権利、価値の平等」であって、ことさらに「女性活躍」といった言葉で表現することは少ない。価値も基本的権利も性別にかかわらず同等であることが大前提だ。そして男性も女性も性別にとらわれることなく、同じように社会でも家でも健康で幸せに過ごせて、自分の能力が発揮できることを目標としている。

フィンランドの問題点とこれから

これだけ男女平等を実現しているフィンランドでも、いまだ問題点は山積みだ。一例が男性と女性の平均賃金の差で、女性の方が約16%低い。フィンランドは同一労働、同一賃金なので男女差はないはずだが、これだけ差があるのは、高額の報酬を得る役職に女性が少ないことと、業種によって性別の偏りがあること、そして子育てがまだ女性により多くの負担を強いていることが原因だと言われている。

例えば、給料が高いエンジニアの職種には、エンジニアリングを勉強した男性が多く、女性はどちらかというとサービス業などに多い。こういった偏りを改善するためにも、もっと理系分野や経営学を学ぶ女性を増やすよう努力すべきだとフィンランド商工会のレポートは述べている。

逆に、現在医学部や獣医、歯学部の学生は圧倒的に女性が多く、看護や薬剤師などの医療系も女性優位だ。小学校の教師養成も圧倒的に女性が多く、職業による偏りは顕著だ。教育においても、博士号を取得するのは現在では女性の方が多いが、まだまだ教授や研究者は男性の数が多い。

最近は、LGBTQや障がい者の権利の平等について語られることも多くなった。男性、女性といった性別ではなく、全ての人が平等に扱われるべき、というように広い視野で捉えて検証や対策がとられつつある。