調べればすぐわかることをわざわざ聞いてくる、頻繁に電話をかけてくる……。そんな上司のストレスから自由になる方法はないでしょうか。多くの企業で業務改革のコンサルティングを行う岡田充弘さんは「上司の質問には即答する、上司からの電話にすぐに出るという習慣を一度やめてみることをおすすめします」という――。
コンピュータ画面を見ながら会議を開くビジネスパーソン
写真=iStock.com/kazuma seki
※写真はイメージです

「マウント上司」とどう付き合うか

世の中が荒れに荒れています。有事の最中で移住や転職など人もずいぶんと動きました。

たとえば、「国土交通白書2021」によると、コロナ禍前と比べて二地域居住・地方移住に対する関心は9.2%から12.9%に増えているといった調査結果があります。また、「マイナビ転職動向調査2021」によると、転職に積極的になった割合は36.9%で、消極的になった割合19.0%の約2倍というアンケート結果が得られたとのことです。

これらの背景に私は、抜本的な生き方の見直しに加えて、人と人との信頼関係に大きな地殻変動があったと推察しています。

中でもビジネスシーンにおける信頼関係の代表格は、上司と部下との関係でしょうか。

私自身も会社員時代には上司と色々ありました。生意気な若造だったため、ハレーションも人並み以上に多かったかもしれません。

今となっては、組織の目標達成のために上司があれこれ言わないといけなかったのは理解できます。会社として給料を払う責任があるため、悠長にしていられなかったという事情もあるでしょう。しかし、もう少しうまいやり方、もう少し良い言い方があるのではないか、と社会人になったばかりの頃の私はいっちょ前にもそう思ってまし。

最近は「ハラスメント」や「マウンティング」といった言葉を頻繁に耳にします。あまり流行りの言葉を使いたくないのですが、そうしたポジションの力を利用して部下に圧をかけてくる上司像をよりイメージしやすくするため、あえて本記事では「マウント上司」という言葉を使おうと思います。もちろんそんな人ばかりではないとは思いますが、リクナビが転職理由の本音を調査したところ、処遇や評価よりも上司との人間関係がダントツ一位だったということもあります。マウント上司にも色々なタイプがいるはずですが、本記事では彼らの性格や言動の背景を理解することで、不満や陰口で終わることなく、逆に自分の仕事の効率化につなげていけるような、前向きな対応方法について紹介していきたいと思います。

1.調べればすぐ分かることを聞いてくる「マウント上司」

職場や客席で「あの予定いつ?」「あの資料どこ?」など、自分で調べればすぐ分かる事を、辞書代わりに何でも聞いてくる上司に遭遇したことはありませんか?

私がデジタル活用のコンサルタントとして見てきた企業の中では、上司・部下、先輩・後輩など、縦軸の圧が強い体育会気質の日系企業に多かった印象です。

なぜそういった言動をするのかと言うと、もちろん上司が調べるのが面倒だからといったこともあるかもしれませんが、おそらく無意識のうちに、自分が上の立場であることを確認するため、あるいは部下に認識させるといったマウント的な意味もあるのかもしれません。

理由はともかくとして、これらは間違いなくムダなやりとりです。こういう事が続いているうちは、まちがいなく全社的な業務効率は上がりません。

上司の質問に、口頭で即答しない

そんな場合には、緊急の場合を除いて口頭で即答することなく、相手が求める情報の保存先やURLのリンクをメールでそっと送ってあげることです。初めのうちは上司に「横着してるな」とムッとされることもあるかもしれませんが、繰り返し同じ対応をすることで次第に慣れていってくれるはずです。くわえて「必要な情報は自分で取りにいく」という、上司の情報リテラシーを上げることにもつながることでしょう。

私の例でいえば、初めて勤めた日系大企業ではそのような対応をすると生意気だと怒られていたかもしれませんが、次に勤めた外資系企業ではそういった合理的対応が当たり前の文化として根付いていました。両方経験した身から言うと、後者の方が変な対人ストレスが無く働きやすかったように思います。

辞書代わりに聞いてくるマウント上司には、リンクで回答する
図表=筆者作成

このような「質問に対してリンクを送って回答に変えるという方法」を、比較的お堅い職場でスムーズに浸透させるには、日頃から上司に頼まれる前に「先程のお話の件ですが、念のためリンクを送っておきますね」とおせっかいをすることを習慣にしておけば、いざ質問された時にリンクやパス情報を送るだけで、回答とみなしてもらえるような心構えが上司の中に自然と出来上がっているのではないでしょうか。

2.何かと頻繁に電話をかけてくる「マウント上司」

それほど重要な内容でないのにすぐ電話をかけてくる人がいます。電話が必ずしも悪いわけではありませんが、当然ながら電話でのやりとりは口頭なので記録に残りません。さらに相手の話し方によっては正確に聞き取れない場合もあります。

もしその電話をかけてくる人が上司だとしたら、部下の方は日々プレッシャーを感じながら仕事をしているのではないでしょうか。あるいは何となく支配(マウント)されている気分になっているかもしれません。

上司から電話で指示を受けた場合は、部下は口語の指示を頭の中で文語に変換してから議事録やメモに書き留めることになります。書き留めたものがアナログ(紙)であれば更にデジタルに変換する手間も発生します。さらに電話に出られない時などには、かけ直しの時間を含めて双方に時間ロスが発生することになります。

上司の電話に出るのをやめてみる

これらの状況を回避するのにお勧めしたいのが、頻繁にかけてくる上司の電話に出るのをやめてみることです。たとえば電話がかかってきてもすぐには出ないで、いったん間を置いてから、メールやチャットで折り返すのです。

その際、「すみません、どうされました?」「○○の件でしたら、△△しておきました」といった感じで、応答の意思は示します。ちなみにメールやチャットの応答は必ずマメに返しましょう。そこを怠ると、やっぱり電話の方が手っ取り早いと判断されてしまうからです。

少しリスクはありますが、上司が徐々にメールやチャットでのコミュニケーションに慣れていってくれたらしめたものです。指示内容での言った言わないを防ぐことにもなりますし、部下がタスク管理を行う際にも、上司からのテキスト情報を流用できるので、業務効率も上がるはずです。

昭和上司の頻繁な電話にはすぐ出ず、あえてメールで返信する
図表=筆者作成

3. フワっと仕事を丸投げしてくる「マウント上司」

フワッと曖昧なタスクを丸投げにしてくる上司に遭遇したことはありませんか?

私は日系大企業に勤務していた頃は、ほぼそんな毎日でした(苦笑)。

そもそも上司との信頼関係が深ければ「もしかすると私への教育?」と解釈することもできますが、そこまでの関係が無い状態でフワッとした依頼だけが降りてくると、部下の方も困惑するでしょうし、配慮の無さから気持ちが離れていってしまっても無理はありません。ただ現実には、後者のタイプの上司の方が割合的に多いような気がします。

フワッとした依頼を投げられた側は、当然そこから依頼内容を深掘りしていく作業が発生します。その作業も、実現性や段取り、体制、注意点の洗い出しなど、多岐にわたります。上司の気まぐれから始まった、役に立つかどうか分からない仕事に、多くの時間が奪われてしまうのは耐え難いものです。

公開質問で上司を牽制する

そんな時、一人で抱え込まずに依頼の負荷を軽減するための良い方法があります。

それは、職場やメールでも手段はどちらでもいいのですが、他の誰かが目にする公の場で、深掘りに必要な前提情報について、依頼主である上司に十分な質問をすることです。

例えば、依頼のそもそもの目的やゴール、実現のための段取りや体制、期限、注意点など、その場で可能な限り問うてみます。

本当に浅はかな思いつきであれば、答えに窮することで上司が自分でそれに気づいてくれる可能性が生まれますし、仮にまともな答えが返ってくればそれはそれで部下の後の作業が楽になるはずです。そういった質問を繰り返していくうちに、それが牽制となって、少なくとも曖昧な依頼は減っていくでしょう。

フワッとした依頼をしてくる曖昧上司には、公開質問で牽制する
図表=筆者作成

もちろん中には、部下の成長を思ってあえて多くを語らず依頼してくる上司もいるので、その場合はその意図を汲み取って、失敗上等の気持ちで自分の成長へとつなげていきましょう。

また今回のビジネスマウンティングの話は、職場の上司をテーマにしましたが、社外の取引先などにも応用できるところもあるので、良かったら試してみてください。