参議院選挙が6月22日に告示され、今週末7月10日には投開票が行われる。ジャーナリストの大門小百合さんは、「若い女性たちは、選挙が年配の男性たちだけで行われていることに違和感を持っている。そうした大学生たちがこの選挙で、男性が圧倒的多数を占める日本の国会に女性議員を増やそうという『女性に投票チャレンジ』に参加している」という――。
選挙活動
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豪州の与党を敗退に追い込んだ女性候補者たち

2022年5月21日に行われたオーストラリアの国政選挙では、与党だった自由党が議席を減らし、労働党が9年ぶりに政権に返り咲いた。実はその陰には、無所属の女性候補者たちの力があった。既存政党にノーを突きつけ、多くの女性たちが独立系・無所属として出馬し、続々と与党のベテラン男性議員を倒したのだ。その結果、オーストラリアの議会では女性議員の数が過去最高になったのである。

日本でも、7月10日に参議院選挙の投開票が予定されている。選挙は「与党か野党か」という軸で語られることが多いが、オーストラリアのように、ジェンダー平等の政策を掲げた候補たちの躍進は期待できないのだろうか。

オーストラリア放送協会によると、オーストラリアでは今回の選挙で、上院での女性の議席は42%から57%に、下院では26%から38%になったという。一方日本では、昨年2021年の選挙で衆議院の女性議員の割合は前回を下回り、9.7%となっている

日本の衆議院の女性比率は、世界190カ国中168位だ(IPU:列国議会同盟調べ)。こうした状況もあって、世界経済フォーラムが発表するジェンダーギャップ指数では、他の先進国に比べ極端に低い順位が定位置になっている。2021年の発表では、日本は156カ国中120位だったが、昨年の衆議院選挙で女性議員が減ったため、今月にも公表される2022年版では、さらに順位が下がりそうだ。参議院の女性比率は現時点で23%と、衆議院よりは高いが、日本の国会は多様性からほど遠い状況なのである。

だからこそ参議院選挙に向け、日本でも政党横断的に女性議員を増やそうとする動きが出てきている。オーストラリアの例を見ながら、少数派となってしまっている女性や若者の声を政治にもっと反映させるために、何が必要なのかを考えてみたい。

無所属の女性たちの力

今回のオーストラリアの選挙で特徴的だったのは、「ティール・インディペンデント(teal independents)」と呼ばれる、無所属で出馬した女性たちの存在だった。彼女たちの多くは保守系中道右派で、医者、ジャーナリスト、コンサルタントなどホワイトカラーのワーキングウーマンたちだ。既存の政党では気候変動は止められない、女性の声も政策に反映されないと、特定の政党に属さず、共通の政策を有権者に訴えた選挙戦を展開したことで、シドニー、メルボルン、パースといった大都市で自由党の現職議員に勝利したのである。

11億円もの寄付金で候補者を支援

このティール・インディペンデントの選挙キャンペーンを資金面で後押ししたのは、メルボルンのフィランソロピスト、サイモン・ホームズ・ア・コート率いるClimate 200という団体だ。3年前に発足したこの団体のホームページには、「私たちのビジョンは、気候変動対策や男女平等を推進する議員が過半数を占める連邦議会を実現することです」とある。とはいえ、この団体は政党ではないため、選挙運動をしたり、候補者を選んだり、政策に口を出したりはせず、「単にコミュニティーのキャンペーンに資金と支援を与えるだけ」と書かれている。

Climate 200は今回の選挙で、1万1000人から集めた1200万オーストラリアドル(約11億円)の寄付を23人の候補者に渡して支援した。そのうち10人の候補者が下院に当選し、1人が上院議員となったのである。

ちなみに、この女性たちがティール(青緑)と呼ばれているのは、彼女たちが主に、青を党のカラーとする自由党の支持者にアピールしていたということと、環境問題などのいわゆるグリーン政策を前面に掲げているからだという。

政党ではなく政策で選ぶ

ティール・インディペンデントのように女性候補者に資金援助をするわけではないが、日本でも、SNSなどを通じてジェンダー平等に積極的な女性議員を増やそうと呼びかけるキャンペーンが行われている。この「女性に投票チャレンジ」を中心となって動かしているのが、市民団体「みらい子育て全国ネットワーク」代表の天野妙さんだ。

実は、特定の政策を取り上げて投票行動を促す運動は、昨年10月の衆議院選挙でも見られた。サイボウズの青野慶久社長らが展開した、選択的夫婦別姓や同性婚の実現に後ろ向きな政治家を選挙でヤシノミのように落とそうという「ヤシノミ作戦 」だ。

この時は、小選挙区で約半数の「ヤシノミ候補」が敗北したが、うち4割が比例代表で復活当選した。選択的夫婦別姓と同性婚に賛成していない自民党の候補に限ると、落選したのは1割程度にとどまり、青野氏も「あまり落とせなかった」とメディアの取材に語っていた。青野氏らは、今回の参議院選挙でも「ヤシノミ作戦」を実施している。

「女性に投票チャレンジ」で天野さんたちが行っているのは、参議院選挙の仕組みを、もっと多くの有権者の選択が反映できるように活用することで、ジェンダー平等の政策を進めようとするものだ。

8割が「2枚目」に政党を書いている

参議院選挙では2枚の投票用紙を使って投票する。1枚目では選挙区の候補者に投票。2枚目は比例代表用で、政党か個人の名前のどちらかを書くことになっている。衆議院と違い、参議院の比例の議席は、それぞれの党の得票に応じて議席数が配分され、各党が決めた特定枠候補以外は、全国統一名簿の中から個人名での得票が多い候補者順に当選が決まる。

つまり、全国比例の名簿に名前が載ったとしても、よほど有名人だったり全国的な組織の支援を受けている人だったりしなければ、当選する確率は低い。個人名で名前を書いてもらわない限り、当選は難しいのだ。一方、業界団体に推されている候補者は、個人名を書いてもらえることが多いので当選の確率が高い。

しかし実際は、比例代表用の2枚目の投票用紙には、7割から8割の投票者が政党名を書いている。残り2~3割の投票用紙に書かれる個人名は、いわゆる組織票が多いため、自民党では、全国郵便局長会や日本医師会、建設業界、特定の宗教団体などが推す候補者、立憲民主党などの野党では、労働組合が推す候補者などが上位で当選している。

天野さんは、2枚目の投票用紙に個人名を書けることは知っていたが、7~8割が政党名を書いていることは知らなかったという。「これまで政党名を書いていた人たちが実情を知ったら、選挙結果を変えられると思ったんです」

「『2枚目』には政党名ではなく女性候補の名前を」

女性議員を増やしたいならば、2枚目の投票用紙に女性候補者の名前を書けばいい。天野さんはこの「2枚目」に着目し、ツイッター、インスタグラム、ティックトックなどのSNSを通じ、「#女性に投票チャレンジ」「#2枚目は女性」の2つのハッシュタグで投票を呼びかけ始めた。

もちろん、女性なら誰でもよいわけではない。そこで、比例の女性候補全員に3つの政策に関するアンケートを送った。1つ目は、選択的夫婦別姓の実現、2つ目は緊急避妊薬の薬局販売、3つ目は性交同意年齢の引き上げについてだ。そして、すべての政策に「賛成」と回答した候補者を、党派に関わらずSNSで紹介することにしたという。

「ターゲットは、20代から30代の若い世代です。『誰に投票したらいいかよくわからないから、とりあえず“自民党”と書く』みたいな人たちに対し、『いい候補者はたくさんいる』ということを紹介できたらと思っています」と天野さんは言う。

投票用紙に候補者名を記入する手元
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選挙を手伝って気付いた「結構ヤバい…」

天野さんのそんな思いに共感した大学生たちも、このキャンペーンに参加している。

お茶の水女子大学2年の山島凜佳さん(19)は、今年の春休みに、地元の金沢市で行われた市長選で女性候補者を応援したことがきっかけで、このプロジェクトに参加した。「政治家はよく『国民』という言葉を使うが、果たして今の国会に、女性であり若者である自分たちの声が反映されているのかと疑問に思った」という。

「政治の場には男性しかいないし、選挙に出る人も応援する人も本当に限られた層の人。昼間に時間がある人とか、お金があって余裕がある人しかいないと思ったので、選挙を手伝ってみて『結構ヤバいな』ということに気づいた。参議院選があるので、何かしたいと思った」という。

「女性が増えないのは能力の問題」

山島さんたちは、選挙のしくみや、女性がなぜ政治の世界に入りづらいかなどをわかりやすく解説する動画を作り、SNSで発信している。

「女性の政治家が増えないのは、女性の能力の問題だ」といった批判的なコメントや、「生理がくるような女に政治を任せられない」といった、びっくりするような差別的なコメントも多いという。それでも、「『確かに女性ってこんな理不尽な状況にある』とか、『みんな知らないかもしれないけど、実は女性はこんなに不利』といったコメントを書いてくれる人もいて、いいなと思います」という。

「セクハラだったり、票ハラだったり、お金の問題や家族の理解など、女性が議員になりにくい理由って本当にたくさんあると思います。(政治の世界の)ハラスメントへの認識の甘さや、身内への甘さをすごく感じています」と語るのは、津田塾大学4年の大島碧生さん(21)だ。大島さんも山島さんと同様、金沢市長選の選挙を手伝ったことがきっかけで、今回のプロジェクトを知った。

「選挙って、おじさんの運動会みたいなもの」

2人とも選挙活動に参加してみて、選挙が年配の男性たちだけで行われていることに、違和感を持ったという。

「選挙って、おじさんの運動会みたいなものじゃないですか。その中に若い子がいるだけで目立つ。例えば、旗を持つよう頼まれたり、前に立って話してと言われたりと、いろいろ任せてもらえるのは嬉しいんですが、その一方で『自分の“女性性”と“今の若さ”を消費されているな』とも感じました。特にウグイス嬢をやった時には、『声がかわいいから、すごく食いつきがいいよ』と言われて、モヤっとしながらやっていたんです」と大島さんは言う。

もっと女性の政治家がいれば、そんな選挙運動のやり方も変わるだろうし、今の女性たちが抱えている「生きづらさ」も減るのではないかという思いもある。

日本では、性教育や生理について語ることがタブー視されているのも、大島さんはおかしいと感じている。付き合っている彼に生理の話をしたら、「はしたない」と言われたこともあるそうだ。また、政治の話をすると「意識高い系」と言われることにも抵抗があり、「自分の名字について考えることが、なぜ『意識高い』ことになるのかと思う」と、夫婦別姓の議論について語る。

対立構造にしないためには「どっちもいるべき」

上智大学1年の大野緑さん(19)は、「政治に携わる人には当事者であってほしいし、当事者性のある政策を実現してほしい」と、このプロジェクトに参加した。

「ふるさと納税は数年で圧倒的に普及しましたよね。それと同じように、女性問題もジェンダーの不平等も、政府が本気の姿勢を見せてくれれば、数年でガラッと変わるはずなんです。だから私たちが、絶えずそれを要求していく姿勢を見せていくことが、大事だと思っています」という。

女性の問題は、男性の生きづらさにもつながっていて、若者の問題は高齢者の問題につながっていると大島さんは言う。

「対立構造にしないようにしていきたい。“若者対高齢者”、“女性対男性”みたいな構図ではなく、どっちも一緒に考えられる場所を作りたいと思っています。それにはやはり、どっちもその場所にいる必要がある」

彼女らは、被選挙権についても現在の衆議院25歳、参議院30歳から、18歳にするべきだと主張する。

「投票する権利があるなら、立候補する権利があってもいいのではないかと思います。政治を判断する、選ぶ能力があるというのなら、被選挙権と参政権が同じ年齢でもいいはず。そこがずれてるのはなぜだろうと思います」と大島さんは言う。オーストラリアやドイツなどは、選挙権も被選挙権も18歳だ。

今回の参議院選挙では、全候補者545人に占める女性の割合は33.2%となり、初めて3割を超えた。しかし、女性議員が増えるとは限らない。ジェンダー平等について知り、投票行動に反映させようという彼女たちの運動は、オーストラリアの女性たちのように選挙で実を結ぶのだろうか。