採用面接の結果が知らされるときは、採用か不採用かだけが伝えられ、不採用になった場合の理由は知らされないことがほとんどだ。キャリアアドバイザーの江﨑麻里奈さんは「面接に落ちた人は、その理由を誤解している人が多い。実は、『経験不足』『スキル不足』ではないことも多い」という――。
ノートパソコンの前で頭を抱える女性
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企業は不採用の理由を教えてくれない

2022年も半分を過ぎた今、新型コロナウイルスの感染拡大による経済不安から縮小傾向にあった企業の採用活動が非常に活発になってきました。新卒・中途ともに求人数は増加傾向で、35歳以上のミドル世代にも追い風が吹いています。今年転職活動を「始めた」もしくは「始めたい」という人も多いのではないでしょうか。

中途採用で多くの転職希望者を悩ませるのが「面接」ですが、採用基準は各社それぞれに委ねられているため、どのように判断されているのか、わからないことがほとんどです。また、面接の後で伝えられる「不採用の理由」は曖昧であることが多く、結局、理由を推測しながら対策することになります。

企業は「不採用の理由を本音でストレートに伝えることは、会社への心象が悪くなる可能性があり、リスクになる」と考えていますので、オブラートに包んだ言葉で表現することがほとんど。「総合的な判断で採用を見送らせていただくことにしました」と書かれていると、具体的に何が良くなかったのかがわかりませんので、転職希望者は「面接であれを言ったのはまずかったかな」「もっとあのアピールをすべきだったのか」と想像するしかありません。しかし、その想像は外れていることもあり、面接に落ちた人の多くが、落ちた理由を勘違いしています。

条件はマッチしていたのに不採用

典型的な事例を1つご紹介しましょう。

新卒からずっと金融機関で働いていた30代の女性が、急成長中のベンチャー企業に応募したケースです。

最初は小規模でエンジニアと営業しかいなかったスタートアップが、成長に伴って「ファイナンスに詳しい人が欲しい」「広報の経験者が欲しい」といったニーズが生まれて中途採用の募集をすることがあります。この企業もそうでした。将来のIPOも視野に入れ、「数字に強い人が欲しい。できれば金融業界の経験者を」という募集でした。

この女性は「もっと仕事の幅を広げたい」と、このベンチャーに応募しました。求められる経験などの条件には合っていたように見えたのですが、面接を何回か経て、結局「残念ながら採用を見送らせていただきます」と、不採用になってしまったのです。

届いた「お見送り」メールには、不採用の理由はまったく書かれていません。この方は「ベンチャー企業でファイナンスにかかわる幅広い仕事をするには、スキルや経験が足りなかったのではないか」と、スクールに通って資格を取得しようと考えました。

「スキルや経験不足」ではなく「カルチャーが合わない」

このように、面接で落とされるとすぐに「スキルが不足しているせいだ」「経験がないせいだ」と考える方はたくさんいらっしゃいます。しかし、実は意外に多い理由が「カルチャーアンマッチ」、つまり「社風や仕事の仕方が合わない」というものです。

特に公務員や金融、メーカー等の日系老舗大手と言われる企業出身の人が、Web系スタートアップやベンチャーのように、若手がスピード感を持って仕事をしている企業に転職をしようとすると、こうした判断をされることがあります。

例えばさきほどの女性のケースで言うと、金融業界の人にとって「ミスをしないこと」は最重要。「たとえ時間がかかっても、丁寧に確認作業をしながら仕事をすることが正義」という考え方です。何か行動を起こすときは、必ず上長の許可をもらうことが重要で、社内派閥を含めた立ち回りや根回しを大切にしてきた人もいるでしょう。

しかし、スタートアップやベンチャーのように、新しい概念やサービスを提供している会社では、仕組みや前例のない業務ばかり。スピードを重視し、常に「トライアル・アンド・エラー」の精神で失敗を恐れず、「まずはやってみる」という姿勢が大切です。

180度違う社風に適応できるか

失敗を恐れて確認作業に時間をとられ過ぎたり、上長や周囲にお伺いを立てながら仕事をしてきた人は、スピードや柔軟性を重視する社風に合わないとジャッジされることになります。仮に入社できたとしても、日々のルーティンや役割、体制がしっかり決まっていないことにストレスを感じてしまい、早期の退職に至るケースが後を絶ちません。

どんなに前職では優秀で活躍していた人でも、180度カルチャーの異なる会社に行けば、これまでのやり方は通用しません。これまでNGとされていたことが転職先で評価されたり、逆にこれまで求められてきた能力が足かせとなることもあります。

今いる会社も、自分の性格や考えとマッチしているからこそ選んだはず。180度異なるカルチャーに適応できる柔軟性が自分にあるか、しっかりと考えてみましょう。それが難しければ、適性を見極めて別の選択肢を幅広く検討するなど、気持ちを切り替えたほうがよい場合もあります。

こうした、社風の違いや、働き方の違いが理由で不採用になることについては、対策が難しいように感じるかもしれません。しかし、よくある不採用理由の一つだと知っておくと、不採用になったときの受け止め方は大きく変わると思います。人と同じで会社も「相性」があります。面接の時には、自分とこの会社のカルチャーが合うかどうか、気を付けて見極めるようにしたほうがいいでしょう。

モダンなオフィスを行き交う人々
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「なぜ落とされるのかさっぱりわからない」他責の人

私はこれまで多くの方の転職を支援してきましたが、不採用の理由として一番多いのがこの「他責」です。問題を責任転嫁してしまう他責傾向の強い人は、中途採用では特に敬遠されます。

しかし、他責傾向がある人ほど、自分のそういった傾向に気づかないので、不採用になった理由がそこにあるとは気づかず「なぜ不採用になるのかさっぱりわからない」と考え、先方の企業や人材エージェントのせいにしたりします。

他責傾向が強い人は、例えば面接で、なぜ今の会社を選んだのかを問われると「親に安定した会社に入ってほしいと言われたから」「転職エージェントに入社させられた」と、人生の大切な決断を他人任せにしたことを話したりします。また、これまでの仕事の実績を問われると「今の会社では大きな仕事を任せてもらえなかった」「上司から特に目標を与えられなかったので、実績が積めなかった」など、仕事のパフォーマンスを他人のせいにしてしまいます。

企業側からしてみると、こうした他責傾向がある人は、転職したとしても結局同じことを繰り返すのではないか、問題が起こると全て「会社のせい」「上司のせい」「世の中のせい」と他責にしてしまうのではないか、自分の足りないところを見つめて改善しようという努力をしないのではないかと受け取られて、敬遠されます。

「この会社は見る目がない」「エージェントが悪い」

他責傾向のままで年齢を重ねると、そうした傾向を指摘してくれる人もいなくなるので、さらに転職で苦戦することになります。

特に、35歳以上のミドル世代で、学歴も高い大手企業の男性に多いのですが「会社に正当に評価されていないので、もっと自分を高く評価してくれる会社に行きたい」と転職活動をする方もいらっしゃいます。そして「これだけの大仕事を成し遂げた」と活躍ぶりを大きくアピールされるのですが、大手企業の看板に守られて仕事をしてきたという認識が薄く、自分を高く見積もり過ぎる傾向があります。

面接では、転職の理由について「部下や同僚のレベルが低い。もっと仕事ができる、優秀な人と仕事がしたい」と組織やチームメンバーへの不満を語ったりします。しかしこれでは、ミドル世代に求められる、部下を育成する力やチームマネジメント能力に欠けていると、自分で言っているようなもの。そして不採用になると「なぜ自分が落ちるのかわからない」「もう一度掛け合ってほしい」と食い下がり、最終的には「この会社は見る目がない」「エージェントの推薦の仕方が悪い」とほかの人のせいにして、なかなか転職活動が前に進みません。

ミドル世代こそ素直さや謙虚さを

若手に素直さや謙虚さを求めているミドル世代は多いものですが、実は中途採用の面接では、35歳を超えたミドル世代こそ初心にかえって養ってほしいマインドでもあります。

日頃から、なんでも自分に原因を求めてばかりいると疲弊しますから、時には自分の心を守るために他責にすることも大切かもしれません。しかし、転職活動という、自分を採用してもらうためのプレゼンテーションの場では「どれだけ自身の置かれた状況を客観的に捉えて内省し、自分の成長につなげられるか」が問われます。「自分は違う」と思っている人も、念のため「他責になっていないか」自問自答してみることをお勧めします。

「ウチでは力を生かしきれない」オーバースペック

「オーバースペック」という理由で不採用になる人もたくさんいます。端的に言うと「優秀すぎて、こんな簡単な仕事を与えたらつまらないのではないか」「ウチではせっかくの能力を生かしきれない」と判断されるケースです。

例えば、有名私立大卒の、ある大手メーカーで働く38歳の女性。現在は法人営業を担当していますが、マーケティングや事業企画、マネジメントの経験もあり、実績も申し分ありません。ただ、今の仕事は残業や出張が多く、通勤にも時間がかかるため、体調やワークライフバランスを考えて、居住地に近い中小企業に応募しました。

しかし、相手先の企業は「これだけのハイスペックな人材がなぜウチに?」「誰がこの人をマネジメントするの?」と困惑。一般的には、優秀な社員を採用することは会社にとってメリットですが、実際は、自分たちよりも優秀な社員を採用することで、社内の問題点を指摘されることを面倒に感じたり、自身の立場が揺らぐのではないかと考えたりと、何かしら別の理由を挙げて採用を見送ることがあります。

残念ながら、こうした愚かなジャッジをする採用担当者がいるのは事実。このような会社に入社しても、自分の能力を発揮して正当な評価を受けることはできないので、不採用になったことを悲観する必要はまったくありません。

「不採用でよかった」ということも

転職活動をしていて不採用の知らせをもらうと、たとえそれが「あまり入りたくないな」と思うような会社であってもショックは受けるものです。もちろん、「何がいけなかったのだろうか」と省みて改善しようとすることは大切ですが、実際は、先方の企業にとっても自分にとっても「不採用になってよかった」というケースはたくさんあります。

一つひとつ正確な理由を確認することは難しいかもしれませんが、ここに挙げたような理由も多いのだということを念頭に置いておくだけでも、転職活動を進めるヒントになると思います。

エージェントをうまく活用する

また、こんな時こそ、間に入ってくれた転職エージェントをうまく活用してほしいと思います。本当の不採用の理由は何だと思われるか、率直な意見を聞いてみるとよいでしょう。企業の人事担当者と密にコミュニケーションをとっているエージェントであれば、理由を教えてくれる可能性がありますし、多くの事例を見た中から推測される本当の理由を伝えてくれるかもしれません。

ただ、中には不採用になった理由を教えてくれないこともあります。それは必ずしも、エージェント自身に落ちた理由がわからないからというわけではありません。求職者の中には、厳しい不採用理由を受け止めきれず、落ち込んで転職活動をやめてしまったり、プライドを傷つけられて怒る人もいます。そうした状況が予想される場合は、あえて理由をはっきり言わずに濁したり、まったく伝えないこともあるのです。

エージェントは本来、求職者に伴走する存在。厳しい不採用理由でも素直に受け止める姿勢を見せ、今後の作戦を一緒に考えてもらえるよう相談してみるとよいでしょう。