世界最高齢の総務部員、玉置泰子さんは、現在もエクセルやパワポを使いこなし、働き続けている。複数の業務を同時に抱える玉置さんが、速さと正確さを両立するための仕事術とは――。

※本稿は、玉置泰子『92歳総務課長の教え』(ダイヤモンド社)の一部を再編集したものです。

その仕事は誰かの役に立っているか

どんな仕事にも、締め切りがあります。

ビジネスをとり巻く環境がめまぐるしく変わっている現代では、昔と比べると締め切りも早まり、スピード感を持って仕事にとり組まないと、満足にこなせないような状況になっています。

部員と話す、サンコーインダストリー 玉置泰子さん。
部員と話す、サンコーインダストリー 玉置泰子さん。(写真提供=サンコーインダストリー)

単発のように思える仕事であっても、陸上競技の駅伝やリレーのように、一連の流れのなかにあります。担当する仕事には、「前工程」や「後工程」があるのです。

締め切りに間に合わないと、後工程の仕事に響き、迷惑をかけることになります。それがドミノ倒しのように悪い影響を与えて、最終的にお客様の迷惑にもなりかねません。

私の会社では「その仕事、誰かの役に立っているか?」という創業者の信念が受け継がれていますが、これには「前工程」の努力を無駄にせず、「後工程」によい形でバトンを渡すという意味も込められていると、私は解釈しています。

若手社員には、私が仕事を頼むと「はい、わかりました」と返事をして、締め切りの確認をしない人もいます。仕事を依頼されたら、必ず締め切りを確かめる癖をつけましょう。

締め切りを確かめたら、そこから逆算してスケジュール管理をするのです。優先しなくてはならないのは、プライベートも含めた自分の都合ではなく、組織の全員が共有している締め切りです。

業務日誌をつける理由

玉置泰子『92歳総務課長の教え』(ダイヤモンド社)
玉置泰子『92歳総務課長の教え』(ダイヤモンド社)

私たちの仕事の多くはルーティンワーク、つまり定型的な仕事が大半を占めているのが実態です。

ルーティンワークに関しては、過去の経験から「この仕事には、このくらいの時間がかかる」ということが、だいたいわかります。

すると、「今回はおおよそ2倍の仕事量だから、おそらく2倍程度の時間がかかるだろう」などという予測が立てられます。

スケジュール管理をスムーズに進めるためにも、私は業務日誌をつけるようにしています。業務日誌をつけていなかったら、どの仕事にどれほどの時間を要するかがわからないので、スケジュール管理が難しくなるからです。

ミスを起こさないために徹底していること

締め切りと所要時間から、必要に応じて月単位・週単位・日単位のスケジュールに落とし込み、それをカレンダーや進行帳に書き留めます。

パソコンやスマホのスケジュールアプリを使えば、チーム全体でスケジュールを共有できますから、便利で間違いがありません。

留意したいのは、つねに前倒しを心がけ、納期ギリギリにこなそうとしないこと。自分を過信して、納期ギリギリに仕事をしようとすると、ミスにつながりますし、納期までに間に合わないケースも出てきます。

ミスが起こると、それをとり返すために不要な時間を費やしますから、なおさら納期に遅れてしまいます。

そうした事態を避けるために、スケジュールには十分な余裕を持ち、前倒しで仕事を進めるようにしているのです。

また、自分の許容量以上の仕事を抱えてパンクしそうなときは、締め切りの間際になって「やっぱりできませんでした」と泣きつくことのないようにすることが大事です。

これも前倒しで、なるべく早めに上司に現状を話して相談します。そうすれば上司はサポート役をつけたり、抱えている仕事の一部をほかの人に割り振ったりして対応してくれるでしょう。

カレンダーと書類
写真=iStock.com/kiddy0265
※写真はイメージです

「重要度」と「切迫度」で優先順位をつける

私は常時、複数の仕事を抱えています。私に限らず、みなさんも同時に複数の仕事を抱えていることでしょう。そうした仕事には、とても重要なものと、優先順位の低いものが、入り交じっているはずです。

仕事をいくつも抱えていると、何から手をつけていいのかがわからなくなり、油断すると締め切りに間に合わない仕事が出てきてしまいます。

そんなことを避けるために欠かせないのが、仕事に優先順位をつけておくこと。優先順位の基準となるのは、「仕事の重要度」「期限の切迫度」という2つです。

まず重視したいのは、仕事の重要度です。会社にとって大きな意義を持つ仕事を、ほかよりも優先して片づけるべきです。自分で重要度が判断できないなら、上司に確認しておきましょう。

もう一つの期限の切迫度については、それほど重要な仕事でなくても、締め切りが目前に迫っている仕事を優先するということです。自分では重要ではないと思っていても、締め切りを少しでもすぎると、後工程に迷惑をかけることがあります。

仕事の優先順位をガラス張りにして“見える化”してくれるのが、タスク(作業)を管理するための「ToDoリスト」です。

「ToDo」とは、「やるべきこと」といった意味。それをリスト化したToDoリストは、子どもたちの学習にも使われているようです。

子どもたちも、学校の勉強以外に、学習塾の宿題、習い事といったタスクがたくさんありますから、いくら脳が若々しくて記憶力がよくても、リスト化しないとこなせないのでしょう。

会社員にもToDoリストは必須です。

私は記憶力にはまだまだ自信がありますが、やはり自分を過信せずにToDoリストを活用しています。

ミスをしない“巧速”仕事術

ひと口に「仕事」といっても、その進め方は十人十色でしょう。仕事の早さより出来栄えを優先する「巧遅こうち」がいいのか、それとも仕事の完璧さより早さを優先する「拙速せっそく」がいいのか。

「巧遅は拙速にかず」(いくら上手でも遅いよりは、下手でも速いほうがいい)といわれますが、私は巧遅も拙速も、どちらもよくないと思います。巧遅でも拙速でもなく、両者のいいとこどりで“巧速”を目指しているのです。

私はどちらかというと、時間がかかっても仕事を丹念にやろうとするタイプなのですが、締め切りを前倒しでクリアする“巧速”を心がけています。

多忙で、なおかつ締め切りが迫ってきているような状況では、「拙速」がよいように思えるかもしれません。拙速なら、多少のミスがあっても、あとからフォローする時間的な余裕があるから、問題ないと考える人がいるかもしれませんが、私はそうは思いません。

拙速でミスを連発すると、やり直しを求められる部分が多く出てきます。なかには、一からのやり直しを強いられることもあるでしょう。

すると修正に時間をとられるあまり、締め切りをオーバーして後工程に悪影響が及ぶ恐れがあるのです。

ミスを起こさないことが最速の仕事術

仕事をするうえで、私が長年信念としているのは、「ミスを起こさないのが最速の仕事術」ということ。

スケジュール内で最大限丁寧に仕事をやっていれば、当然ミスを起こす確率は低くなります。ミスが少ないほど、やり直しの無駄な作業に時間と労力をとられることがなくなります。だからこそ、丁寧な仕事で早く仕上げる「巧速」につながるのではないでしょうか。

抱えている複数の仕事に追われて忙しいなか、急ぎの仕事が飛び込んできたりする場面こそ、私の真価が問われるときだと思っています。

そんな緊急事態でも、焦らず落ち着いて、一つひとつの仕事を丁寧かつ確実にこなす“巧速”で臨むのです。

目の前の仕事に集中するシンプルな方法

では、仕事でミスをしないためには、どうすればいいのでしょうか。

私が推奨している方法は、デスク上には、ToDoリストの最上位で、いまやるべき仕事関連に絞って書類を置いておくことです。

一度に複数の仕事をこなそうとすると、思わぬミスを招いてしまい、結局は足を引っ張られかねません。

複数のソフトを同時に動かそうとすると、パソコンの処理速度は低下しやすくなります。同じように、複数の仕事を同時に処理して仕事の効率を上げようとしても、脳も手足もできることには限りがありますから、処理速度が低下してしまいます。

すると同じ仕事をこなすにも要する時間が長くなり、さらにミスも増えるという悪循環を招きやすいのです。

だから、デスクの上には、現在とり組んでいる仕事関連の資料だけを置いて、その仕事に集中する環境を整えます。

デスクに複数の案件の資料を置いていると、混乱しやすくなります。資料を見失い、それを探すのに貴重な時間を奪われることもありますし、資料が紛れて行方不明になるということだって考えられます。

パソコン上でも、複数の案件のファイルを同時に開かない

同じ日に複数の案件をこなさなければならない場合、優先度がより高い仕事をキリのいいところで終えて、ひと区切りつけたら、それをいったんデスクの端なり、引き出しの決まった一時保管場所なりに収めます。

それから次の案件をとり出し、デスク上に広げるようにします。こうすれば、デスク上に広げる仕事は一つだけという原則が守れます。

パソコン仕事でも、複数の案件のファイルを開いたままにしないで、最優先の案件のファイルだけを開くようにします。次の仕事にとりかかるときは、ひと区切りつけた仕事のファイルを閉じてから、新しいファイルを開くようにします。

一つの仕事に集中してミスを減らし、“巧速”を実現するためにも、やはり掃除が不可欠です。

掃除を心がけて、デスクもパソコンもすっきり整理整頓されているからこそ、仕事に集中しやすいのです。