※本稿は、荒木陽介『「お金を生む時間」のつくり方』(朝日新聞出版)の一部を再編集したものです。
3つの原則を守れば会社員でも投資で成功する
雑誌やネットなどで見つけた副業ネタに食いついて、なけなしの貯金を先行投資して、「さあ、稼ぐぞ」とオフィスでこっそり作業していたら、後ろから上司にのぞかれていたといった失敗パターン。いかにもありそうです。
副業や投資など、何かをして収入を増やそうとする場合、最悪なのは仕事がおろそかになることです。本業以外の作業をしていたら、「あいつ、仕事に身が入ってないな」と後ろ指をさされてしまいます。本業のパフォーマンスが下がったせいで職場の信用を失ったら、当然、会社員を続けづらくなるでしょう。
副業で十分な収入があれば別ですが、たいして収入が増えていないのであれば、これは非常に損な状態です。もちろん、資産形成もできるはずがありません。
たとえば、私がやっている不動産投資ですと、誰かの代行で何時までにブログを書くといった副業と違い、会社の仕事の途中でやらなければいけないことはありません。
不動産投資に関する書類は、すべて郵便で届きます。新しい賃貸契約書が届いたら、ハンコを押して返送をするだけでいい。なので、平日でも自宅で作業できるし、土日にまとめて処理することもできます。つまり、会社の本業をじゃましないかたちで全部できるわけです。だから、会社の本業の信用を失う心配がありません。
サラリーマン投資家として成功するためには、3つの原則を守ることが重要です。
上司や同僚のタイプに合わせて付き合い方を変える
原則1は本業をおろそかにしないことです。
やはり大事なことは、本業である会社員としての生産性を上げる効率的な働き方です。
「サラリーマン投資家」が行うべき時間管理は、あくまでもそのためのもの。つまり、仕事の時短をしつつも、ちゃんと上司や同僚とかかわり合いを持ち、信用を築きながら、会社の目標達成に貢献していく。まず、そこに一生懸命になることがすごく大事なのです。
たとえば、相手のタイプに合わせて付き合い方を変えることで、上司や同僚との関係を大事にしながらも、コミュニケーションの時間を短縮することができます。あるいは、一般的にリカバリーに3倍の労力と時間がかかるとされるトラブル対応にしても、ちゃんと問題を整理してウィン・ウィン(Win-Win)のものを提案すれば、リカバリーにかかる時間を短縮できます。
こうした時短を積み重ねれば、投資に使える時間、スケジュールの余白は自然と増えていきます。
ただし、会社員が自分の仕事に関して生産性を上げる「いい時短」をするには、仕事をひととおり覚えてからでないと無理なので、少なくとも3年はかかるでしょう。
「時間」ではなく「仕事量」で人の3倍働く
よく会社員は3年働いて一人前、10年働いてその道のプロと言われます。私の場合、新入社員のときに上司から「人の3倍働け」と言われました。人の3倍働けば1年で一人前になれる、そのペースで3年働けば、その道のプロになれる、同期よりも頭ひとつ抜け出せる、というわけです。
時間的には3倍働くのは無理でしたが、仕事の物量で言えば、上司のアドバイスどおりそれくらい働いたつもりです。おかげで同期トップで部長になれたとも言えます。
私がサラリーマンに不動産投資をおすすめするのは、会社員の仕事のイロハが不動産投資にとても役立つからでもあります。
もし不動産投資を始めるのであれば、早くても3年働いてからと考えたほうがいい。職場で信用を築いている人のほうが、金融機関や不動産会社からも信用されやすいからです。
新卒の会社員であれば、最速で25歳くらい。ただ、私のように38歳から始めても決して遅くないので、焦る必要はまったくありません。
いまの若手社員を見ていると、すごくまじめで、勉強熱心です。どうやったら自己実現できるかを真剣に考えています。新人の頃の私は「仕事が終わったら、どこに飲みに行こう?」と毎日考えていたくちなので、それと比べたらはるかにしっかりしています。
若手時代は仕事に専念することで資産形成の「武器」が手に入る
ただ一方で、ある種の危うさも感じます。ネットで検索すればすぐ答えが見つかる世界で生きてきているせいでしょうか、物事に対して、すぐに一番確からしい答えに直行できると信じ込んでいる印象があります。
つまり、「急がば回れ」が通じにくい。だから収入を増やしたいと思って、安易に副業に手を出したり、FXをやったり、安価な区分マンションに投資したりする人が後を絶たないのかもしれません。
やはり若手時代は、そんな二兎を追うよりも会社の仕事という一兎に専念したほうがいいでしょう。なぜなら、資産形成のための「武器」が得られるからです。会社で身につけた仕事のやり方、職場での信用、その間の貯蓄など、それらすべてが不動産投資の武器になります。
まずは最初の3年間できちんと会社員としての足場をつくって、次の3年間で不動産投資を着実にスタートさせることをおすすめします。
私が投資を始めたのは38歳ですから、その意味では10年ほど遅れたわけです。でも結果的には、会社員として十分に脂が乗っていたことでプラスの面もありました。もちろん忙しかったけれども、自分の仕事時間をある程度コントロールできる立場だったので、不動産投資の勉強などの時間を確保しやすかったのです。
スケジュール管理のコツはプライベートの予定を先に入れる
私は不動産投資を始める前、10年間、ボランティアで出身高校のボート部のコーチをしていました。先に述べたとおり、新入社員から3年間、土日も関係なく、深夜まで猛烈に働きましたが、4年目からボート部のコーチを始めたわけです。その活動時間を確保するために、色分けのスケジュール管理をして「余白」をつくっていました。
私の時短に対する考え方は、とてもシンプルです。要は、最小化・廃止できることを明確にすることで、土日、深夜も使ってやっていたことをぎゅーっと平日の勤務時間内に凝縮しただけなのです。
時間管理の重要なポイントは「いかに平日のうちに仕事をやり切るか」ということです。つまり、スケジュールを決める最大のコツは、先にプライベートの予定を入れてしまうこと。そうすると、予定どおりにプライベートを過ごすために、仕事を勤務時間内にきちっとやり切る意識ができてきます。
会社の仕事はもちろん、ボート部の活動でも、チームをつくって何か事をなすということは変わりません。私の場合、その経験を不動産投資に、わりとそのまま置き換えたという感じです。
たとえば、会社の同僚の中にもボート部のOBがいるのですが、余白の時間で一緒に練習メニューを考えたり選手の相手をしたりしていました。その時間を不動産投資の時間に置き換えただけで、不動産投資のために何か特別に余白をつくったわけではないし、若い頃からやっていたことなのです。
なので、余白の時間をボランティアではなく、入社4年目から不動産投資に充てれば、本業をおろそかにすることなく、私よりも早く資産を形成できると思います。
1日が終わったら自分の“スイッチ”を切って眠りにつく
原則2は未完了をなくすことです。睡眠不足はうつ病の原因とも言われます。せっかくの睡眠時間なのに「ああ、これをやらなきゃ」という気持ちが残っていると、ぜんぜん熟睡できません。なので、1日の最後は必ず「今日も1日終わった」と、スイッチを切って眠りにつくことが大事です。
時間が十分に取れなくても、ちゃんと睡眠モードに入っていれば、その質が高まり、寝不足を感じなくなります。私は、寝室になるべくモノを置かないようにしています。特にスマホは、枕元にあるとつい触ってしまうので、寝室に持ち込まないように心がけています。
若いうちは体力面では大丈夫でしょうが、寝不足が続くと、気持ちのほうは弱ってきます。そうなると、余白の時間を十分に使い切れなくなるでしょう。だから、たとえば自分で仕事を手いっぱい抱えて寝不足になるよりも、仲間の助けに頼ってでも睡眠をしっかり取るべきなのです。
私のように40歳を過ぎたらなおさら睡眠の質を確保することは大切です。会社の同期ともよく話すのですが、40歳を過ぎるとガクンと体力が落ちます。労働と休息のメリハリがないと、心身ともに疲労が蓄積します。それでも頑張り続けていると、必ずどこかでその無理がたたります。
“スイッチ”を切った瞬間、いいアイデアが浮かびやすい
誰にとってもよい睡眠は明日へのよい準備なのです。そのために大切なのがスイッチのオン・オフです。ただ、会社員として働いている以上、どうしても明日までに解決しなければいけない、夜通し考えなければいけない難題に直面することもあります。
たとえば、ミスをして取引先に大きな迷惑をかけて、明日の朝イチまでに経過説明の文書を提出しなければならないとき。寝る間を惜しんで仕上げなければ、もっと悲惨な現実が待っているので、それはしょうがないと思います。
私は若い頃、そこまでしなくてもいい仕事でも睡眠時間を削ってこなしていたのですが、4年目からはそんな働き方を改めました。
活用したのは、携帯電話から送る自分あてのメールです。家に帰ったら、気になっているタスクを自分の会社メールに送ってしまい、なるべく考えないようにしました。またトラブルへの対応でも、「対応しますので、ここを教えていただけませんか?」などと、自分一人で考え込まず、ボールを相手に返すようにしたのです。
いったんボールを手元から離すというのは、一時的とはいえ、未完了のストレスから自分を簡単に解放できる効果的なテクニックだと思います。ただし、それだけではいつまで経っても仕事は進みませんから、タスクが山積みの際に使う、緊急避難的なテクニックです。
ちなみに私の場合、そんなふうにスイッチを切った瞬間、いいアイデアが浮かぶことがよくあります。そうしたら、すかさずメモに起こして自分あてにメールします。メモを取らずに翌朝忘れて後悔したり、せっかく寝付きかけたのに仕事を始めてしまい、眠れなくなったりといった失敗があったからです。
いずれにしても、気がかりなくよい睡眠を取って頭をすっきりさせて、翌朝、会社で整理するというのが、やはり一番効率的だと思います。
「人ともめないこと」こそ時短の基本
原則3はトラブル解決で信頼を得ることです。
ほとんどの仕事は「人とのやりとり」と言い換えることができると思います。社内・社外にかかわらず、仕事相手とのコミュニケーションに足踏みをしていたら、いつまで経っても仕事は進みません。仕事をきちんと進めるためには、常に周りの人と良好な関係を築いておくことが不可欠です。
いわゆるトラブルシュート、トラブルからのリカバリーには、普段の3倍の労力と時間を要すると言われています。なので、仕事の時短のためには「いかに人ともめないか」がとても大事になります。
もめるパターンで多いのは、相手が誤解しているか、お互いが誤解した認識のもと、誤った初期対応をして、火種が大きくなっているという状態だと思います。
誤った初期対応で言えば、その場しのぎの対応をして、あとでウソやごまかしがばれて、信用を損なうというケースが少なくないと思います。
トラブルとして、担当者レベルで解決できるならまだマシですが、やはり会社の信用を損ねるのが最悪です。相手が取引先であれば、取引停止になったり裁判沙汰になったりすることもあります。
ただしトラブルシュートには、一生懸命にきちんと対応すると、雨降って地固まるのたとえどおり、信頼関係が高まるというプラスの効果もあるのです。
トラブルがあって相手が怒っているときには、まず相手の立場に立って、「お怒り、ごもっともです」などと理解を示し、「何があったか、詳しく教えてくだい」などと状況をよく把握することが大事です。
もめている原因を究明できたら、速やかに適切な対策を取ります。金銭的な保障が必要であればちゃんと用意する。そして、再発防止の善後策を講じ、相手に報告します。
「アクシデント」と「インシデント」の違いを意識する
ごく当たり前の流れなのですが、案外できていないケースが多いのです。トラブルの原因がはっきりしないとか、原因はわかったけれども対策が不十分とか、再発防止策が的外れとか。たとえば、不良品が出たというトラブルなら、この際、隠れたエラーがないかまで検証すべきでしょう。
ところがそうはならず、不十分なトラブルシュートになるのは、それにかかわる時間と労力をなるべく減らしたいからです。そうすると逆に、ずるずるともめ続け、3倍をはるかに超える時間と労力がかかってしまいます。
そうではなく、3倍の労力を惜しまず、迅速にしっかり対応すれば、3倍もの時間がかかるようなことにはならず、結果的に時短になります。特に初期動作を素早く正しく行うと、3倍もかからない場合がほとんどです。
たとえば、初めに「お怒り、ごもっともで」ではなく、「怒るようなことですか?」などと無理解な態度を取ったら、相手は怒りを倍増させて冷静に話せなくなり、原因究明に至るまで余計に時間がかかってしまうわけです。
「アクシデント」と「インシデント」の違いを意識することをおすすめします。アクシデントはトラブルになっている状態、インシデントはトラブル一歩手前の状態です。つまり、インシデントの状態のうちに、いかに労力を惜しまず、素早く対応するかが、結果的には時短につながるし、雨降って地固まる(信用の形成)にもつながるわけです。