子どももうつ病になる
私が診察する患者さんを見ていると、子どものメンタル不調が増えています。
長期化するコロナ禍の影響も大きいように感じます。遠足や運動会、学習発表会など、楽しみにしていたイベントが中止になったり規模が縮小されたりしていますし、給食も黙食になるなど、行動が制限されています。また、学級閉鎖や学校閉鎖で、なかなか友達にも会えなかった子どもも多いでしょう。また、感染対策の厳しさは各家庭で異なりますから、放課後も自由に友達の家に遊びに行ったりしにくくなっています。遊ぶところがなくてずっと家にいると、子どもは親に監視されているような、窮屈な思いを感じたりもするでしょう。
こうした状況がストレスになり、そこからメンタル不調につながることが多かったようです。
「子どもはうつ病にならない」と誤解されることも多いのですが、これは大間違い。小学校低学年や、もっと小さい子どもでも、うつ病になることはあります。国立成育医療センターが昨年12月に、全国の小学5年生から中学3年生を対象に行った調査でも、小学生の9%、中学生の13%に、中等度以上のうつ症状がみられました。
「おなかが痛い」はぐずりではない
気分が落ち込む、元気が出ない、夜眠れない、すぐに目が覚めてしまう、ごはんが食べられない……。症状は大人と同じです。ただ大人の場合は、こういった症状を言葉で表せますが、子どもはうまく言えません。ですから「おなかが痛い」「頭が痛い」「体が動かない」など身体的な症状を訴えることが多いですね。そして親などまわりの大人が、こうしたサインを読み取る必要があります。
親からすると、朝、学校に行く前に子どもがこうした症状を訴えると、単に「学校に行くのがイヤでぐずっているな」としか思わず、見逃してしまいます。メンタル不調が原因だとは思いもよらないのです。しかし、そのままにしていると、どんどん悪化し、本格的に学校に行けなくなってしまいます。
そして、頭痛や腹痛などの体の変化が、今度は行動の変化への変わってきます。例えば、赤ちゃん返りです。小学校高学年くらいであっても、急におねしょをしたりすることもあります。このほか、朝起きてこなくなったり、急に口数が少なくなったり、イライラして攻撃的になるなど、不安定になったりします。攻撃の矛先は、親だけでなく友だちや先生などにも向くので、周りからどんどん孤立して不登校になることもあります。
一般的に、女の子の方が成熟が早いため、それにともなってうつ病も重くなりがちです。拒食や過食といった摂食障害のほか、自傷行為に走りやすい傾向もあります。
家族だけで悩まない
「子どもも、うつ病などの精神疾患にかかることがある」ということは、ぜひ知っておいていただきたいです。そして、「もしかしたらそうかも」と疑わしいところがあったら、家族だけで悩まないでほしいです。家族だけで抱え込んで、よくなることはまずありません。病院や学校、行政の子育て支援機関に相談してください。
精神科には行きにくいと感じる人も多いでしょうから、まずは学校に相談するのがよいでしょう。スクールカウンセラーは、臨床心理士などの資格を持つ人も多いので、学校での様子も踏まえてアドバイスをしてくれるはずです。
大人もそうですが、子どものうつ病の場合も、大切なのは休養です。心身のエネルギーが枯渇しているような状態なので、休んで体の中にエネルギーをためていかなくてはなりません。家族も協力して、子どもをしっかりと休ませることが大事です。
「子どもだからすぐに治るだろう」と思ってしまいがちですが、そうではありません。治療には時間がかかることもあり、短くても数カ月、長いと数年かかることもあります。
1年ぐらい休んだほうがよいケースもありますが、子どもが1年学校を休むというのは大変なことに感じられるため、本人だけでなく、親があせりを感じてしまいます。しかし、しっかり休まないと、やはりなかなかよくなりません。家で多少元気そうに見えても、「ちょっと頑張ってみたら?」「ダラダラしたらよくないよ」といった声がけは避けてください。
早めにSOSをキャッチするために
特に子どもの場合は、自分の精神状態や症状について、言葉でなかなか表すことができません。できるだけ早い段階で、親をはじめとする周りの大人がSOSをキャッチすることが大切になります。前述の国立成育医療研究センターの調査では、小学5年生の23%、中学1年生の36%が、もし自分がつらい気持ちやだるさ、不眠や食欲の低下などの、典型的なうつ症状になったとしても、「誰にも相談しないで自分で様子を見る」と答えています。
普段、どんな声掛けをしていれば、子どもの方からささいなことでも相談できる関係が作れるか、気を付けてほしいと思います。特に新学期は、新入学や進級などで環境が変わり、子どももプレッシャーやストレスを感じやすい時期です。親が、励ましのつもりで言ってしまう何気ない声掛けが、余計にストレスを与えてしまう場合もあります。
「ちゃんとしなさい」はNG
例えば、「もう小学生だから、ちゃんとしなさい」「○年生だから、ちゃんとしなさい」などと言ってしまっていないでしょうか?
「ちゃんとしなさい」と言われると、子どもなりに、何かに気を付けなくてはならないんだろうな、ということはわかりますが、具体的にどう振る舞っていいかわかりません。これが繰り返されると、子どもの中には、「自分はちゃんとできていないんだな。何かが足りないんだな」と自己否定の考えがしみついてしまいます。また、具体的にどうしたらいいかわからないので、親の顔色をうかがうようになってしまいます。
ですから、こうしたアドバイスをする際は、子どもにどういう振る舞いをしてほしいのか、わかるように伝えることが大事なのです。
たとえば、いすに腰かけるときも「座ってちゃんとしなさい」と言うのではなく、「いすから落ちてケガをしてはいけないから、深く腰かけなさい」など、理由や行動を具体的に説明しながら伝えるようにしてください。
周りに迷惑をかけるのは当たり前
「周りに迷惑をかけないようにね」も、つい言ってしまいますが、これもよくありません。子どもは、迷惑をかけながら成長していくのが当たり前の存在。それを禁止されるのは、子どもとしてもつらいことですし、何度も言われていると、子どもは萎縮してしまい、困ったときにSOSを出せなくなります。たとえば、学校でいじめに遭ってつらい思いをしていたり、何かのストレスがたまり精神的に疲れてしまったりしても、「周りに迷惑をかけたり、ほかの人に負担をかけたりしてはいけない」と誰にも言わず我慢してしまうようになってしまいます。
そもそも親が子どもにこうした言葉をかけるときは、子どもの行動について漠然とした心配や不安があるときです。具体的な注意が思い浮かばないときに使える、親にとっては楽な言い方ではありますが、子どもに伝えるときは、もう少し具体的に伝える必要がありますし、具体的に伝えるべきことが思い浮かばないのであれば、そもそも伝える必要はないのではないでしょうか。
子どもが心身ともに健やかに育つには、親から受け入れてもらっているという感覚を持てることが、何よりも大切です。食事の時間中、立ち歩いたりすることなくよい姿勢で座っていられた、言われる前に自分からおもちゃを片付けた、など、親から見たら大したことのないことでも、「えらいね」「よくできたね」という言葉をたくさん使って子どもを褒めてあげるといいですね。