自分の子どもに「性」をいつ、どう伝えればいいのでしょうか。大妻女子大学の田中俊之さんは「性について教えるタイミングは、子どもが質問してきたときが最大のチャンス。算数や国語を教えるのと同じ感覚で教えるのがいい」といいます――。
絵本の読み聞かせ
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性教育を受けていない親世代

近年、子どもへの性教育について関心が高まっています。今の親世代には、家庭や学校でしっかり性教育を受けてきた人はあまり多くありません。そのため、わが子への性教育の必要性は感じていても、「自分も受けていないしどう伝えたら……」と悩むことが多いようです。

子育てに関わる事柄では、世間には「何歳までに〜しなければならない」といったハウツーものがあふれています。でも、一口に子どもと言っても、性格や発達度は一人ひとり違うもの。何をいつ教えるかはその子の個性を抜きにしては語れません。ですから、性教育も「何歳までに教えなければならない」と一概に言えるものではないと思います。

僕は、子どもが興味を持ったときに、その子の発達に合わせて教えていくのが望ましいと考えています。そのためには、まず親が正しい知識を持っておくことが大事です。特に、家庭や学校で性教育を受けた記憶がない人は、信頼できる専門家の本を読むなどして、正しい知識や伝え方を予習しておくことをおすすめします。

わが家の上の息子は、3歳のとき自分に睾丸があることに気づき、「これ何?」と聞いてきました。僕は「赤ちゃんのもとが入っているんだよ」と教えました。せっかく興味を持ったのだから、ごまかさずに事実を、子どもの発達段階に合った表現で伝えたいと思ったからです。

プライベートゾーンについては早目に教える

性について教えるタイミングは、子どもが質問してきたときが最大のチャンスと言えます。ただ、水着で隠れる部分「プライベートゾーン」については、子どもが聞いてこなくても、小学校に入る前に教えておいてあげたほうがいいでしょう。

「ここは誰にとっても大切な部分で、他人に見せたり触らせたりしてはいけないし、自分も勝手に見たり触ったりしてはいけないよ」というように、わかりやすく説明してあげてください。

プライベートゾーンを大切にするようにと教えることは、自分で自分を大切にするようにと教えることでもあります。わが子には、自分の存在を大事に思える人間になってほしいものです。そのためには、「自分の体には大切な部分、他人の勝手にさせてはいけない部分がある」とわかってもらう必要があります。

そうすればおのずと、他の子にも同じように大切な部分があること、勝手に見たり触ったりしてはいけないこともわかってくるでしょう。プライベートゾーンについて教えるときは、自分の体だけでなく他者の体への理解を促すことも重要です。なぜなら、将来的には性的同意の話にもつながっていくからです。

子どもの自己肯定感が上がる教え方

プライベートゾーンについて話すことは、子どもの中に2つの要素を育むうえでとても役立ちます。ひとつは自分を大事に思える心、すなわち自己肯定感です。そしてもうひとつは、他人を無意識に傷つけない心です。

自己肯定感は人が自分に自信を持つための基礎となるもので、これが低い人は人生においてさまざまなつらさを抱えてしまう傾向があります。自分で自分を肯定できないと、肩書や名誉といった周囲の評価を求めがちになりますが、人生にはそれがかなえられない場面も多々あります。そんなとき、本人が非常につらい思いをするだろうことは想像に難くありません。

自分の体を大事に思えるようになることは、自己肯定感を高めることにもつながります。ですから、子どもにはぜひ「あなたの体やあなたの存在はとても大事なものなんだよ」と伝えてあげてください。特に体は、抽象概念ではなく実体があって触れるものなので、子どもにも理解しやすいと思います。

手をつないで歩く親子
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性に関しては、子どもに突然聞かれてドギマギすることもあるでしょう。親自身も答えがわからない、という場合もあるかもしれません。そんなときも、あやふやなまま終わらせるのではなく、「パパもママもわからないから一緒に調べてみようか」と、子どもの興味に寄り添ってあげたいものです。今は、人体に関する図鑑でも子ども向けのものがたくさんありますから、そうした教材を使って一緒に調べてみてはどうでしょうか。

算数や国語を教えるのと同じ感覚で

日本では性教育だけが特別視されがちですが、本来なら国語や算数を教えるのと何ら変わりはありません。国語や算数の問題で子どもに「教えて」と言われたら、多くの親は自分の知識でわかる範囲なら答え、わからなければ一緒に考えたり調べたりするはずです。答えをごまかしたり、わざと事実と違うことを教えたりする親はいないでしょう。

性についての質問も、ほかの教科の質問に答えるのと同じ感覚で、事実を教えるか、わからなければ調べて答えればいいだけなのです。決して「赤ちゃんはコウノトリが運んでくるんだよ」などと言ってごまかしてはいけません。

性教育は特別視しないことが大事です。親が構えすぎると、子どもは「聞いちゃいけないのかな」と思ってしまい、その後は疑問を持っても聞いてこなくなる可能性があります。

学校や先生によって性教育の熱心さはまちまち

親がせっかくのチャンスを逃し続けると、その子は家庭で性教育を受けられないまま成長していってしまいます。「学校で教えてくれるんだからわざわざ親が教えなくても」と思うかもしれませんが、残念ながら、日本では性教育の実施度合いは学校や先生によってまちまちです。

もちろん熱意を持って性教育に取り組んでいる先生もいますが、恥ずかしい、照れくさいといった思いからあまり教えようとしない先生もいます。ですから、現状では学校はあまり当てにならないと言わざるを得ません。今の大学生に聞いてみても、小学校〜高校で性教育を受けた人もいればまったく受けていない人もいて、同じ世代でも大きな差があるのだなと実感しています。

もし子どもが私立を受験するのなら、性教育に熱心な学校かどうかを事前に調べておくのもひとつの手です。性教育を行うということは、生徒を大事に考えていることの証しでもありますから、親としては安心して通わせられるのではないでしょうか。

親だからこそできること

そのうえで、性教育は子どもが聞いてきたときが最大のチャンスと捉えて、家庭でも教えるようにしてほしいと思います。ただし、子どもの発達段階を踏まえた「適切な教え方」が大事。算数の指導で小学1年生にいきなり関数を教えたりはしないように、性教育もその子の成長に合わせて行っていくようにしてください。

幸い、最近は性やジェンダーの本にも子ども向けのものが増えています。また、親が性教育を考えるための本もたくさんあります。こうしたものを活用して、わが子に合ったタイミングで、そのときの発達段階に合った性教育を行っていきましょう。

タイミングや発達段階の見極めは、その子をいちばん近くで見守っている親だからこそできることです。わが子の中に自己肯定感を育むために、性教育を特別視せず、「知っておいてほしいこと」として伝えてあげていただけたらと思います。