※本稿は、武藤久美子『リモートマネジメントの教科書』(クロスメディア・パブリッシング)の一部を再編集したものです。
お悩み①盛り上がらないオンラインミーティング
マネジャー「うちの部署でもすべてのグループミーティングはオンラインに切り替えました。しかし、メンバーからの発言はないし、結局一方的に私が話しているだけなのです。メンバーの反応もないので、私自身、みんな聞いているのかが不安になります。実際にミーティングに参加しながら他の作業をしていそうなメンバーもいます」
グループミーティングの場が、マネジャーの独演会になってしまう。これは、対面のときはうまくミーティングを運営できていたマネジャーにも起こりがちです。参加者であるメンバーの反応が見えないので、自分が話すことで沈黙を埋めようとしてしまうのです。
このケースでの対応策は、まず、マネジャーもメンバーもオンラインミーティングの作法に慣れることです。以下でご紹介するのは、週次や隔週の頻度で行われるグループミーティングを想定した作法の例です。なお、意思決定場面などは対面やリモートかに関わらず、ミーティングの前・中・後の設計が必要です。
慣れるべき「オンラインミーティングの作法」
■期初
・マネジャーとメンバーで、オンラインでのグループミーティングの目的や位置づけをすり合わせる
■ミーティング前
・グル―プミーティングの場で相談したい、シェアしたいことがある人は、会議ツールに所要時間と内容、関連資料などの情報を添付
・参加者は、最近の仕事やプライベートの近況などを、会議ツールに書き込む(ただし、プライベートのことを書きこむことを強制しない)
■ミーティング中
・入室したらチャットでお知らせ
・チャットを活用したミーティングに慣れていない場合は、全員に答えやすい質問を投げかけ、1人ひとつはチャットを入れてもらう(本日の朝食は? 最近はまっていることは? など)
・開始時間になったら事前に入力してある議題と所要時間で進める
・発表者以外は、チャットに、【感想】【質問】【参考情報】などのタイトルをつけて都度入力していく
・発表者は、すでに書き込まれているチャットを確認したり、質問を受ける
・参加者は、ゆっくりと大きな動きで、話を聴いていることや反応を身体で表現する(カメラオフの場合は、適宜声で相槌を打つ)
・ミーティングのどこかで、近況など各メンバーがシェアしたいことが話せる時間を設ける
・議事が必要な場合は、その場で画面共有しながらメモしていく(ミーティング後に余計な作業を残さない)
■ミーティング後
予定時間より短くても、アジェンダが終わったら終わる(予定時間より短く終わったときに、個別でマネジャーに相談がある人に残ってもらうのもあり)
なお、オンラインミーティングは手軽に開催できるからといって、参加者が黙っているだけの報告型のミーティングはその存在意義が問われます。それはメンバー全員の時間を同時に使ってシェアすべき情報かどうかを改めて考え、読めばわかるようなものは、期限を決めて自由な時間にメンバーが見られるようにするのも一考です。
お悩み②リモートワークが権利化しているメンバー
マネジャーXさん「今後の組織についてみんなで話し合うワークショップを実施したいと考えています。期初に異動してきたメンバーも迎えるので、お互いの人となりを知る目的もあり、対面で実施したいのですが、メンバーのIさんが、出社はしたくないと言っていて困っています」
別のマネジャーYさん「メンバーのJさんは、仕事自体は一応問題なく遂行しています。しかし、協働者からは、メールへの返信が遅いといった話や、オンラインミーティングでは理由もなく常にカメラオフで、本当にきちんと働いているのかわからない、といった声も入ってくるようになりました」
このように、リモートワークが権利化している、というケースは良く耳にします。
ここで強調したいのは、リモートワークによって、メンバーは自律的に仕事をしやすくなったり、生活や人生を大切にできたり、安心の場を確保して挑戦できるといった自由を享受できる可能性が高まります。これはリモートワークの良い側面です。しかし、その前提として、メンバーは相応の責任を果たす必要があるということです(もちろん、責任のすべてをメンバーだけが負うという意味ではありません)。
・周囲を安心させる責任
・仕事環境を整える責任
・心身の健やかさを維持する責任
これらの責任の上に自由が成り立つということは、メンバーにも改めて確認した方がいいでしょう。この責任を果たせないメンバーが増えてくると、周囲からリモートワーク自体への疑念が生じて、組織としてのリモートワークの継続が危うくなってしまうかもしれません。
リモートワークには、自由を享受するための責任が伴います。よって、メンバーに自由を享受できるための最低限の責任を果たすことは求めて構いません。その際、マネジャーが気をつけるのは次のようなことです。
「後出しじゃんけん」は極力避ける
・リモートワーク活用に関する職場のルールをあらかじめ決める(ルールは職場のみんなで決められればベスト)。“後出しじゃんけん”は極力避ける
・職場のルールはメンバーが理不尽を感じない範囲で設定する(納得できる設定ができればベスト)
・職場のルールが守れないメンバーには、状況を確認したうえで、一定期間のリモートワークの権利を停止するなどの対策を取る(マネジャーとして、ルールを守らない状態を良しとしない)
協働者から不満のあがっているJさんのケースでは、オンラインミーティングのカメラのオン/オフのルールなど、メンバー本人や周囲がもやもやしがちな点を決めておくのが大事です。通信容量の件など特段の問題がなければ、全員がカメラオンの方がお互いの状況がよりわかって良いのではないかと思いますが、ルールは会社ごと、職場ごとに決めてください(「リモハラ」(リモートハラスメント)という言葉も、しばしば見聞きするようになりましたので、マネジャーが全員にカメラオンを一方的に強制するのは避けた方がいいでしょう)。
カメラのオン・オフに関するルールであれば、
・カメラオンが基本だが、ミーティングの冒頭で一言断ればオフでも問題ない
・社外関係者がいるときはカメラオン
・自分が発言するときはカメラオン、それ以外はカメラオフ
・毎日のオンライン朝礼はカメラオフで良いが、それ以外はカメラオン
などが例としてあります。
お悩み③「原則出社・出社制限で、部下が感じる不公平感
経理財務マネジャー「社員の経費の領収書清算や月次決算など業務上の都合で、うちのメンバーは原則出社としています。しかし、メンバーからは他の部署ではリモートワークの人が多いのでずるいと言われています」
営業マネジャー「当社は全事業所でオフィスへの出社を50%以下にするというル―ルがあります。しかし営業アシスタント職からすると、営業職とやり取りしたり、契約関連の書類を調べたりするのに出社している方が仕事は進めやすいそうです。出社したいと言っているメンバーに出社するなというのは、個人的にも違和感があります」
2つのケースはともに、出社とリモートワークを巡る議論です。基本的な考え方は次の通りです。
・出社とリモートワークの適切な割合は、会社が認めた範囲の中で、組織で考える
・週5日出社するにしても、リモートワークするにしても、人から強制されるよりもメンバー自身が選んだ結果であることが望ましい
・出社する人が増えることにより、リモートワークのメンバーが出社への圧力を感じなければOK
まず、経理財務のケースで言えば、マネジャーは、最初から「この部署、この職種ではリモートワークは無理」と決めつけずに、リモートワークを試してみることから始めてみましょう。職場単位であれば、困りごとがあったら、そのときにマネジャーの判断で中断したり見直したりすればいいだけです。
「私たちだけ…」発言に隠された本音
しかし、こうしたケースで注意が必要なのは、事象としては、「私たちだけリモートワークができなくてずるい」という発言になっていますが、メンバーたちが本当に言いたいことは、「だから、私たちもリモートワークがしたい」ということではないかもしれない、ということです。「リモートワークは経理財務部では難しい」という回答で一蹴すると平行線に終わってしまいます。メンバーが言わんとすることを確認するのが良いでしょう。
・経理財務職は、いつもオフィスにいるから別の部署の雑用を押しつけられている
・仕事の特性上、リモートワークができないのは仕方がないが、繁忙期ではないときは、メリハリをつけて部署全体で早く帰りたい
・紙の領収書は、紛失などのリスクもあるから、ペーパーレスや電子申請などの業務効率を図りたい。何度もマネジャーに言ったり、会社が毎年実施しているアンケート調査に書いたりしているのに、なんで動きがないのだろう
リモートワークを巡る環境変化を機に、こうした件に1つでも2つでも応えていけたら、メンバーにとっても組織にとっても良いと考えます。