たとえ攻撃されても攻撃されたと受けとめない
攻撃的な人には、いくつか特徴があります。まず弱さを隠そうとして攻撃的になる人。自分が不安だからこそ、先に相手を攻めて、攻められないようにする。それに関連して、自分も上から攻撃されている、予算が厳しいなど、切羽詰まった状態でやむを得ず攻撃する場合もありますね。中身はそれほど攻撃的ではないけれど、言い方が強くて攻撃的に聞こえる人もいます。言われたほうも、過去に叱られたことがあれば、過度に攻撃されたと受けとめてしまう。また攻撃を呼び込む人もいます。グズグズしているとか、言い訳がましいとか、相手をイライラさせてしまう人。つい相手を攻撃型にさせてしまう人もいます。
攻撃的な人に対する基本的なスタンスは、まずこちらが攻撃されたと受けとめすぎないこと。攻撃に攻撃で返して得することは、ほぼありません。攻撃のトゲは抜いて返すのが得策です。また対応策として知ってほしいのが、アサーティブ・コミュニケーションです。アサーティブとは“発展的、協調的自己主張”。基本的人権の考え方がベースです。年齢性別関係なく、誰もが言いたいことは言っていいし、いやなことはいやと言ってもいい。仕事におけるコミュニケーションは、このアサーティブの姿勢が基本となりますが、上司、部下、クライアントと相手の立場やその人の性質で対応が変わってきます。具体的に見ていきましょう。
攻撃的な上司編
投げやり上司の物言いにはトゲを抜いて返す
「もうやってらんないよ。こんなミーティング自体、時間のムダだよ」なんて言われると、こちら側もあわてて「そうはおっしゃいますけど、そもそも○○さんが……」と返したくなりますが、冒頭でお伝えしたとおり、トゲにトゲを返しても得することはありません。
特に攻撃的な人は打たれ強いので、1返せば10返ってきます。ですから「ミーティングの進め方を工夫しろというご指摘ですよね。何とか、それにお応えしたいと思います。次回までにちょっと工夫してきます。でも今日は、あと10分どうしても付き合っていただきたいです。まだ決めないといけないこともありますので」などと、ふっとトゲを抜きましょう。ボールはすぐに返さず、いったん受けとめて、ドリブルしてから返すわけです。
あまりにヒートアップしてしまったら「今すぐ○○さんを満足させられる答えは見つからないので、少し時間をもらっていいですか」と、ひと呼吸おきます。そうすると、相手もいくらか落ち着くことがあります。
また攻撃的な人は、くすぐられ弱いので「ありがとうございます」「とても助かります」などと言うと、戦意喪失し、うれしくなります。しょっちゅうは使えませんが、たまに感謝の言葉を伝えたり、サンキューノートを渡したりすると「えっ? この人わかってるじゃん」と効果てきめん。攻撃的な人は根底に認められたい気持ちがありますので、そうやって受けとめて理解を示すと、攻撃が和らぐでしょうね。
締め切りが前倒し! むちゃぶり上司にもううんざり
来週末までと言われたはずなのに「やっぱり今週末までにやってほしいんだよね」。こんなむちゃぶりをしてくる上司の場合、「だって○○さん、言いましたよね、来週の金曜日って。メールにも書いてありますよ、ほら……」なんて言質をとって追い込むのは絶対にNGです。そうではなく「どうしたんですか」「突然、何かありましたか」と、まず相手の事情を聞く。攻撃的な人こそ、認めてあげることが重要です。尻込みせずに、まず相手に寄り添って、相手側の背景に興味・関心を示すことが大切なのです。そうすると、相手はクライアントのアポが1週間早まったとか、社長のチェックが必要になったといった状況を説明してくるでしょう。
そのうえで「来週末までの締め切りは守ろうと思って、準備を進めているところでした」と伝えれば、来週末までの約束だったことは確認できるのです。「でも緊急事態なんですよね」と寄り添い、こちらができる選択肢を渡します。そうすると相手は十分理解されてからの選択肢と受けとめるので、こちらの提案を聞いてみようかなという気になるのです。重要なのは、こちらが事情に関心を示して聞いたというプロセス。聞きもしないで、いきなり代替案を出すと、むしろ相手を怒らせます。
たとえ攻撃的な相手でも、プロジェクトのゴールに関わっている当事者同士という意識をもって、いったん受けとめて興味・関心を示し、自分の現状を伝えながら提案していく。これがむちゃぶり上司に対するベストな対応策でしょうね。
攻撃的な部下編
逆ハラスメント部下にはアサーティブに
最近は部下からの逆ハラスメントも多く「なんでこんな非効率的なことをやっているんですか」「○○さん、ITリテラシーが低すぎますよ」「よくそれで管理職になれましたね」などと、上司が責められることもよくあります。上司も自信がないから、痛いところを突かれると、腹が立ったり、バカにされたと感じたりしますが、それで「じゃあ、あんたが管理職をやってみなさいよ」なんて言ったら大変なことに。いきなりパワハラ相談室にかけ込まれます。
ここで冒頭でご説明したアサーティブ・コミュニケーションの話に立ち返ってみましょう。アサーティブは、男性も女性も若い人も年を取っている人も、誰でも声を出すことがまず重要と考えますから、部下が上司に提案、進言することは、まったくOKです。今どきは、いろいろな専門性に長けている人が多いので、自分より専門性の高い部下から教わることは少しも恥ずかしいことではありませんし、上司がすべてに長けている必要もないわけです。だから上司であってもできないことがあれば、肩ひじ張って聞かないよりも「教えて」と素直に聞けばいい。
それぞれの光っているところを伸ばすのが上司の仕事ですから、教えてもらったら「よかった、○○さんがいてくれて」と感謝して評価すればよいのです。もちろん自分の強みを磨く努力も怠らず、こちらからもちゃんと渡せるものは渡して、部下とは“Give&Given”の関係をつくればいいと思います。
攻撃的なクライアント編
クライアントに威張られてもおどおどしない
真の相互尊重、win-winの観点でいくと、クライアントに対しても「ノー」と言わないと、結果的にデメリットが生じます。たとえば忙しいクライアントに、わざわざ時間をとってもらい頼みごとをするとき、必要以上にへりくだってしまいがち。でも、こちら側があまりにへりくだり、あたふたしていると、攻撃的なタイプのクライアントは、こいつは責めがいがあるやつと、ほかの人には言わないような、むちゃな要求をしてくることがあります。
そういうクライアントに出会ったら、事実と意見を分けて伝えること。事実として「それはどうがんばってもできません」と伝え、「○○さんと深い関係を築けるチャンスなのに残念です」と自分の意見を述べる。ポイントはYOUメッセージではなく、Iメッセージにすることです。“あなた”を主語にしたYOUメッセージは「あなたは言い方がきつすぎる」とけんかを売っている印象を与えますが、“私”を主語にしたIメッセージは「残念です」と感情を率直にあらわせて、好印象を与えます。
攻撃的な人に出会って、おどおどしてしまう人は、見た目や態度に出てしまうので、まず形から直すようにしましょう。
おどおどすると、つい目線を下げてしまうので、アイコンタクトをとってみる。ほかにも、ひと呼吸おく、最初の一言は相手の言葉を借りる、ゆっくりでも文章を完結させてみるといったことを意識すれば改善されるでしょう。あくまでも大人のコミュニケーションを意識してやってみることが第一歩です。
難交渉の相手にはゼロ回答にせず選択肢を与える
購買担当の人は、コストカットが自分の評価につながるわけですから、取引先に対して、とにかく値段を下げるよう攻めてきます。そんなクライアントに悩まされている人も多いでしょう。
そういった難交渉の場で、心がけてほしいのはゼロ回答にしないこと。ただ「できない」で終えてしまえば、その先につなげようがありません。相手の要求に対して「全部は無理ですが、これは大事です。それも難しければこれだけでも。かなりオリジナルですが、これもあります」と、何かしら選択肢を返すと、相手もどれどれと考えて、その中でベストなものを選んでもらえる可能性があるのです。その選択肢を渡すときも、どうでもいい選択肢だと、むしろ評価を下げてしまうので、相手が何を必要としているのか、相手の背景に興味・関心を示してヒアリングしましょう。
たとえば「Aはないかしら」とお客様から言われて「Aは売り切れました」の一点張りで「Aと似ているDはどうですか」というのではまったく意味がありません。そうではなく「おかげさまでAは完売しました。どのような使いみちでお考えでしたか」と聞く。そして「やっぱりお聞きしてよかったです。でしたらXとYを組み合わせれば、それ以上のことができます」と言うと、相手の満足と倍の売り上げにつながります。重要なのは相手の“WHY”に着目すること。相手が必要とする、その理由がわかれば、難交渉の相手にも満足度の高い選択肢を提案できるようになるでしょう。