SNSの利用は人々を幸せにしてきたのか。拓殖大学准教授の佐藤一磨さんは「心理学を中心に研究が進み、SNSの利用が幸福度に及ぼす影響について明らかになってきています。幸福度が高まる使い方と低下する使い方があることもわかりました」という――。
SNSのアプリケーション
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SNSは、われわれを幸せにしたのか

今では、多くの人がSNSを利用しています。

代表的なSNSとしてFacebook、Twitter、Instagramがあげられます。これらのSNSは世界中で利用されており、社会に大きな影響力を持っています。

では、SNSを利用することでわれわれは幸せになったのでしょうか。

近年、心理学を中心に研究が進み、SNSの利用が幸福度に及ぼす影響が明らかにされてきています。本稿では、その研究成果を紹介していきたいと思います(*1)

(*1)今回紹介する研究では幸福度の指標としてaffective well-being、life satisfaction、loneliness等があり、さまざまな指標が存在しています。今回の記事では煩雑さをさけるためにも、やや正確性には欠けますが、これらを総称して幸福度と呼んでいきます。

孤独感や疎外感を緩和できる

Facebookに代表されるSNSの利用には、さまざまなメリットがあります。

この中でも特に大きなメリットは、時間や場所に制限されずに友人や家族との交流ができる点です。

SNSの利用によって自分の都合の良い時間に友人の状況や自分の仕事・生活上の変化をシェアすることが可能となります。これが交友関係の維持・拡大につながり、人々の孤独感や疎外感を緩和することになるわけです(*2)

孤独感や疎外感の緩和は、幸福度の向上につながることがわかっているため、SNSの利用が幸福度を改善させる可能性があると言えるでしょう。

これ以外にも、SNSによって自分の好きな有名人の動向を身近に知ることができるというメリットもあります。

(*2)Wirtz, D., Tucker, A., Briggs, C. et al.(2021) How and Why Social Media Affect Subjective Well-Being: Multi-Site Use and Social Comparison as Predictors of Change Across Time. J Happiness Stud 22, 1673–1691 .

「画面の中で輝く人」との比較が招くストレス

SNSの利用による大きなデメリットとしてあげられるのは、「画面の中で輝く人」と自分を比較した際に生まれるストレスです。

Facebook等のソーシャルメディアを利用することで、さまざまな利用者の投稿内容を閲覧でき、多くの人の生活を垣間見ることができます。

ここで注意したいのは、その投稿内容が実態とやや乖離かいりがあるという点です。

いくつかの研究から、SNSの場合、投稿者が内容を「盛る」ことが指摘されています(*3)

対面でのコミュニケーションとは異なり、SNSではスマホやPCの画面越しでのコミュニケーションとなります。この際、SNSに掲載する文章や写真によって投稿者の印象が形成されます。

良い印象を持たれたいと思うのは、多くの人に共通するため、投稿者はポジティブな文章や写真を意図的に選択する傾向が強くなります。またネガティブな投稿よりも、ポジティブな投稿のほうが受けが良いという点も、この傾向に拍車をかけると考えられます。

このようにSNSは投稿者がImpression Management(印象管理)を行いやすい媒体であり、どうしても実態よりもきらびやかな投稿が多くなるわけです。

スマートフォンを使用する若い女性
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画面越しのきらびやかな生活を送っている人と自分を比較してしまい、劣等感や嫉妬を感じてしまう。この傾向は年齢、性別、国籍に関係なく、多くの人に共通するものだと考えられます。

このような負の感情は大きなストレスにつながり、幸福度を押し下げる可能性があります。

これはSNSの負の側面だと言えるでしょう。

(*3)Walther, J. B. (2007). Selective self-presentation in computer-mediated communication: Hyperpersonal dimensions of technology, language, and cognition. Computers in Human Behavior, 23, 2538–2557.
Wang, J. L., Wang, H. Z., Gaskin, J., & Hawk, S. (2017). The mediating roles of upward social comparison and self-esteem and the moderating role of social comparison orientation in the association between social networking site usage and subjective well-being. Frontiers in Psychology.

SNSを多く利用する人ほど、幸福度が低下する傾向

SNSの利用にはメリットとデメリットがあるわけですが、果たしてどちらの影響の方が大きいのでしょうか。

この点に関して、オランダのマーストリヒト大学のフィリップ・ヴァーダイン准教授らが28個の既存研究を調査し、その動向を明らかにしました(*4)

その結果を端的に言えば、こうです。

「Facebookに代表されるSNSの過度な利用によって、幸福度が低下することを示す研究が優勢である」

この結果は、SNSの利用ではデメリットの方が大きいことを意味しています。

ちなみに、Facebook、Twitter、Instagramの利用と幸福度の関係を検証した最新の研究によれば、10日間の検証期間内において、毎日これらのSNSを多く利用する人ほど、幸福度が低下する傾向が確認されています(*2)

また、Facebookの利用を1週間やめた場合、幸福度が逆に向上したと指摘する研究も存在しています(*5)

これらの研究を見ると、SNSの使い過ぎは禁物であると言えるでしょう。

(*4)Verduyn, P., Ybarra, O., Résibois, M., Jonides, J., & Kross, E. (2017). Do social network sites enhance or undermine subjective well-being? A critical review. Social Issues and Policy Review, 11, 274–302.
(*5)Tromholt, M., Marie, L., Andsbjerg, K., &Wiking, M. (2015). The Facebook experiment: Does social media affect the quality of our lives?

「ただ眺めているだけ」では幸福度が低下する

ヴァーダイン准教授らはSNSの利用方法によって幸福度に及ぼす影響が変化することも明らかにしています。

特にSNSを「消極的に」活用する際、幸福度の低下が顕著であると指摘しています(*6)

ここでのSNSの「消極的な」活用とは、他の利用者との直接メッセージのやり取りを行わず、他の利用者の投稿等を閲覧するのみに使用する場合を指しています。

おそらく、「画面の中で輝く人」と自分の現状を比較してしまい、劣等感や嫉妬にさいなまれ、幸福度が低下してしまうためだと考えられます。

(*6)Krasnova, H., Widjaja, T., Buxmann, P., Wenninger, H., & Benbasat, I. (2015). Research note—Why following friends can hurt you: An Exploratory Investigation of the Effects of Envy on Social networking sites among college-age users. Information Systems Research, 26(3), 585–605.

幸福度を高めるSNSの利用方法

ヴァーダイン准教授らは、SNSの使い方によって幸福度が向上する場合もあると指摘しています。

それは、他の利用者との直接的なメッセージのやり取りや自らの情報更新、さまざまなリンクの共有といった形で「積極的に」SNSを活用する場合です(*7)

他の投稿者の更新情報を見る消極的な利用では幸福度にマイナスの影響をもたらしますが、SNSを積極的に活用し、他の利用者との交流を深める使い方であれば幸福度の向上に寄与するというわけです。

SNSを積極的に活用し、他者との交流をはかることは、疎外感や孤独感を低下させます。これが幸福度の向上に一役買っているというわけです。

(*7)Frison, E., & Eggermont, S. (2015). Toward an integrated and differential approach to the relationships between loneliness, different types of Facebook use , and adolescents’ depressed mood. Communication Research, 1–28.
Wenninger, H., Krasnova, H., & Buxmann, P. (2014). Activity matters: Investigating the influence of Facebook on life satisfaction of teenage users. In M. Avital, J. M. Leimeister, & U. Schultze (Eds.), Twenty Second European Conference on Information Systems (pp. 1–18). Tel Aviv, Israel: ECIS.

SNSは使い方次第で毒にも薬にもなる

これまで紹介した研究が示すように、SNSの過度な利用は幸福度を低下させてしまいます。しかし、自らの交友関係を維持・拡大するためにSNSを積極的に活用する場合だと、幸福度を高めてくれます。

このようにSNSは使い方次第で「毒にも薬にもなる存在」です。

SNSは利用者間の情報を簡単に共有・利用できる非常に便利な道具です。しかし、さまざまなものが「見えすぎてしまい」、それがストレスを生む原因にもなっていると考えられます。

この点を考えると、SNSを楽しく、自分の生活を充実させる道具として使っていくには、画面の中で輝く人と自分を比較するのではなく、知人・友人・家族との交流を深めることに特化させた方がいいのかもしれません。

SNSという便利な道具をうまく使っていきたいものです。