※本稿は、勝浦雅彦『つながるための言葉 「伝わらない」は当たり前』(光文社)の一部を再編集したものです。
「内定が出る志望動機・自己PR文」OBOG訪問の段階でそれはわかる
企業研究・OB訪問について
さて、次に企業研究・OB訪問についてです。
学生が本気で企業を研究してもなかなか業界の真実などわかり得ないのが実情だと思います。企業もまだ部外者のあなたに、「財務諸表に出てこない経営の実態」とか「あの部長とあの部下はただならぬ関係だ」などの実態は隠すでしょうし、そもそも給料をもらって働いたことがないのだから、実感できないのは当たり前です。いちばん良くないのは、聞きかじった知識をひけらかすことです。そこで、企業についてより詳しく知るめに、OB訪問が重要になります。
私は学生の時に30人くらいOB訪問をしました。時間に余裕があったので、3年生の夏くらいから訪問を始めて、行きたい業界はもちろん、興味のある業界のOBに片っ端から会いに行きました。
ある人には遅刻を怒られ(すいませんでした)、ある人には高級ステーキを奢られ(ご馳走様でした)、ある人とはお昼から始まったOB訪問が夜のBARまでもつれ込んだこともありました(今やったら完全にNGですね)。その中で、必死に自己PRと志望動機を書いては直し、見てもらい続けました。
そしてある日、出版社のOGが私の書いた自己PRにしげしげと目を通し、「うん、あなたはマスコミならどこかは受かるから大丈夫」と言ってくれました。それ以降、どこに訪問しても同じようなことを言われるようになります。きっと、そこには暗黙のボーダーラインが存在し、「この子は越えているな」と判断されたのでしょう。そして、のちに面接官経験のある同僚や後輩と話しても「それは存在する」とみな口を揃えました。合格する子は、わかる、と。
OB訪問では、
②社会人に短時間で自分を伝える練習
③仕事の実際
④その後の人脈
を学び、得ることができます。
「行きたい会社にOBがいない」人でもOG訪問を実現する方法
①は、本業を持つ忙しい社会人へのアポ取りや、訪問スケジュールの調整など、実社会に出た時に役に立ちます。
主たる目的である②は、短時間でいかに自分を理解させ印象に残すか、を実践する場だと捉えてください。
たまに③の「OBの仕事の実際」を聞くだけの姿勢の学生がいますが、それははっきり言って時間のムダです。そのOBの名前と仕事内容くらいはざっくり調べていくのは当たり前だとして、「茅ヶ崎に住んで毎朝、サーフィンで海に入ってから会社に来るんだよ。愛車はアメ車の……」といったプライベートや趣味の話を聞いても役には立ちません。時間のロスです。
そこは、あなた自身の考えをぶつける場です。受け身で行かないでください。おそらくOB訪問でもらえる時間は1時間程度でしょう。
あなたがすべきは「初対面の相手に短時間で自分の人となりを伝え、興味を持ってもらう練習」なのです。
自己PR・志望動機を紙に落とし、あなたという人間を初対面で伝える、そのOBの経験に基づいたフィードバックをもらうことに多くの時間を割いてもらってください。
そして④。そのOBとのつながりは、仮にその会社に縁がなかったとしても続いていきます。同じ業界はもちろん、異業種であっても、潮が満ちれば再びその会社への道が開けることもあります。そうやって温め続けたつながりによって転職を成し遂げた仲間は枚挙にいとまがありません。くれぐれも「落ちたから音信不通」はやめましょう。
ところで、「行きたい会社にあまりOBがいないのですが、どうしたらいいですか?」という質問をたまに受けますが、答えは「手繰り寄せろ」です。
日常の延長線上の友人や教授などのつながりに加えて、今はソーシャルメディアもあります。わらしべ長者のようにつながりを伝っていきながらあくまで迷惑をかけないかたちで、どんどん人脈をつくっていくことは可能です。
ちなみに、同僚にO森さんという優秀なコミュニケーションデザイナーがいるのですが、彼は会社にほとんどOBのいない大学の出身でした。O森さんはどうしても入社したい、OB訪問をしたい、という一心で何をしたと思いますか?
毎日スーツで会社の前まで行き、掃き掃除をしました。そしてゲートから出てくる社員に声をかけOB訪問をお願いし続けたのです。最初は訝しがる社員もいましたが、そのガッツを意気に感じて多くの社員が応じてくれ、「どうしてもうちの会社に入りたくてゲートの前でアタックしてくる学生がいる」ということが社内で評判を呼ぶようになりました。そして面接の時に「君が噂の……」という状態で、みごとに内定したのだそうです。
この話のポイントは、O森さんが「自分の頭で考えて、オリジナルの手法で道を切り拓いたこと」にあります。意のあるところに道は通ず、というやつですね。
もしあなたが同じことをしても、「前にも似たような学生がいたな」、あるいは「勝浦の本を読んだの?」と見透かされてしまうのがオチです。そもそも、もうこのご時世においては、会社の前で守衛さんにつまみ出されてしまうかもしれません。時代と条件によってとれる戦略は変わっていくのですから、常にオリジナルなものを編み出さなければなりません。
電通コピーライターによる添削「面接官の目にとまる志望動機文」
志望動機
最後に志望動機は、その会社に入って「何をやりたいのか」を表現するものです。よく「自分がやってきたことにつなげて志望動機を書けばいい」という説を目にします。
例えばこういう文章。
確かに、悪くはありません。自分の経験と企業の特性をつなげて表現がなされています。しかし、せいぜい20点というところでしょう。この文章にはある視点が決定的に欠けています。それは「なぜ、あなたのやりたいことがお金になるのか」です。
言うまでもなく企業は営利団体なので、利益を出して給料を払います。自分の給料がどうやって出ているのか? に無頓着な社員は一部の天才を除いて企業の頭痛の種だったりします。
とある会社の役員は「世の中に良いことをしたい」と言って志望してくる学生は採用しないと明言していました。ほとんどの場合、そういう学生にはビジネスで稼ぐ視点が欠落しているから、だそうです。あなたはこれから企業人になるのですから、日本人にありがちな「お金の話を避ける」のではなく「稼ぐこと」を意識しなければなりません。
ですので、志望動機には必ず「ビジネス視点」を盛り込んでください。
例えば、前述の志望動機を改良するならこうなります。
もし叶うなら私はラグビーを起点にした老若男女が参加できる新しいスポーツイベントの創設に関わり、それに地域経済をかけ合わせ活性化させるようなPRに取り組み、好循環を生み出したいです。そうやって通した「パス」がいずれ日本のレガシーとなり、御社のレガシーになると思い志望いたしました。
どうでしょうか。まず「その会社を自分としてどういう存在だと捉えたか」という視点があり、さらに自分と会社との接点において「ビジネスとしてやりたいこと」が具体的に入ると、面接する側も入社後のイメージがグッと湧きますよね。そしてここから「じゃあ具体的にどういうイベント? PR?」「もしやりたいことができなかったらどうするの?」といった質問が展開されるでしょう。
そういった想定問答をクリアにしてつぶしていくためにもOB訪問を行ってください。繰り返しますが、OB訪問はあなたから問いかけて、OBに反応をもらう場です。きちんと準備して臨みましょう。いい反応は、いい問いかけによって得られるのです。
大企業内定者は旧帝大や早慶だけではない、人生大逆転のチャンスだ
答えのないステージで戦うために
ここまで就職活動に対する考え方と、自分自身を言い表し伝えるための「3本柱&ギャップ理論」についてお伝えしてきました。
はっきり言って、自分自身のことを突き詰めて考え、表現していくという行為はとってもとってもしんどいと思います。ほとんどの人は、自己分析の段階で脱落していきます。なぜならあなたは今まで受験や大学のテストといった正解が用意されたステージで戦ってきたからです。でもこれからは、正解のない世界で、自分の答えを見つけなければなりません。誰も「こうやったから正解だ、成功する」なんて教えてくれないのです。
しかし、これはチャンスです。人によっては大逆転も可能だからです。なぜなら偏差値順で採用していたら、上位企業は旧帝大や早慶の学生しか受からないはずです。しかし現実はそうではないですよね。そこに、この戦いのいちばん痛快なところがあるのです。
なので、これからはあなたにしか言えない言葉や、あなたにしか見つけられない素敵なことを探すように心がけてください。難しいとしても、少なくとも、問いかけ続けてください。そして就活に向かう時、「自分という人間はこの世に一人しかいない」ことに誇りを持って欲しいと思います。そしてあなたが考え抜いた言葉で、あなた自身が相手に伝わって、その企業の人々とつながることができた時、内定は目の前にあるのだと信じています。
日本企業の特性上、新卒採用は結構大きなターニングポイント。ですが、就活なんかであなたの人生が決まったりはしません。就活の先には、広大な海のような社会と世界が待っています。
ここで提唱したフレームや考え方が、みなさんの一助になれば幸いです。