病気になるリスクや薬の有効性を示すとき、何かと比較し「○%上昇」などと相対リスクを利用することが少なくない。しかし、そこには誤解を生む危険がある。サイエンスライターで作家のトム・チヴァース氏は「相対リスクでは、実際にどのくらいのリスクがあるかを示す絶対リスクがわからない」という――。

※本稿は、トム&デイヴィッド・チヴァース『ニュースの数字をどう読むか 統計にだまされないための22章』(ちくま新書)の一部を再編集したものです。

ブレックファスト朝食
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父親が45歳以上で生まれた子どもは健康リスクが高い?

2018年の「デイリー・テレグラフ」に、男性が45歳以上で子どもを持つと「健康に問題がある赤ちゃんが生まれる可能性が高い」という、年を取ってから父親になる男性にとって恐ろしいニュースが載りました(※1)

高齢男性の子どもは「父親が25~34歳の子どもに比べて」、いろいろある中で特に「てんかんを持つ可能性が18パーセント高かった」のです。公平を期すために言えば、高齢の母親についてよく言われる、不妊や種々の先天異常のリスクが高いといった(通常はひどくおおげさな)脅し文句に比べれば、まだましだったかもしれませんが。

この記事は、「BMJ」に掲載された、父親の年齢が子どもの健康状態に与える影響についての研究に基づいていました(※2)。この研究では実際に、言及されたリスクが高まることを発見しています。

ベーコンを食べるほど大腸がんリスクは高まるが

でも、「テレグラフ」の記事には書かれていなかったことがあります――何に比べて18パーセント高いのか? という点です。

何かが75パーセント増えた、32パーセント減った、などと言う場合、それは相対的な変化です。週に5回以上ローストした白鳥を食べると[イギリスでは中世から19世紀ごろまでクリスマスに白鳥のローストを食べる習慣があった]、一生のうちに痛風になるリスクが44パーセント増える、などとリスクに関して話しているとき、私たちは相対リスクについて話しています。

リスクがこのような形で示されることはしょっちゅうあります。たとえばCNNは2019年に、ベーコンは大腸がんのリスクを増やす、つまり、ベーコンを食べれば食べるほどリスクが高まり、「1日当たり加工肉25グラム(ほぼベーコン1枚に相当)食べるごとに20%上昇」と報じました(※3)

重視すべきは「相対リスク」ではなく「絶対リスク」

あるいは、父親の年齢と子どもの先天異常のリスクの話に戻れば、2015年に、10代で父親になると、“自閉症、統合失調症、二分脊椎”の子どもが生まれる可能性が高い――「デイリー・メール」によれば30パーセント増――と報じられました(※4)

30パーセント増とは恐ろしく聞こえます。20パーセント、いや18パーセントでも同じです。これらは皆、意味ありげな数字です。まるで、ベーコンを食べると大腸がんになるリスクが20パーセントだとか、父親が20歳未満だと二分脊椎の子どもを持つリスクが30パーセントだというように聞こえるかもしれません。

もちろん、そういう意味ではありません。リスクが30パーセント増えるとは、リスクがXというレベルから、Xの1.3倍に高まるという意味です。だから、Xがどのくらいかを知らなければ、この数字は大して役に立ちません。だからこそ、これを絶対リスク(リスクの絶対値)で、すなわち、単にどのくらい変化したかではなく、何かが起こるのは実際にどのくらいなのかで示すことが重要なのです。

1日1枚のベーコンは大腸がんリスクを7%から8.4%に増やす

ベーコンを食べる人の大腸がんリスクの例で考えてみます。まず、イギリス人が一生のうちに大腸がんになるもともとのリスクは、イギリスがん研究基金によれば、男性は約7パーセント、女性は約6パーセントです(※5)

大腸癌の3dイラスト
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明らかに、これは無視できない数字です――性別にもよりますが、ほぼ15人に1人は大腸がんになるというのですから。でも今は、20パーセント増が何を意味するかを見ていきましょう。

もっとも大きい推定値を取ることにしましょう。あなたはイギリス人男性で、大腸がんになるもともとのリスクは約7パーセントです。1日に薄切りベーコンをもう1枚(約25g)多く食べると、リスクを20パーセント押し上げます。

しかし、思い出してください――7パーセントの20パーセントは1.4パーセントです。つまり、リスクは7パーセントから8.4パーセントに増えます。パーセントの扱いが不注意だったり、慣れていなかったりすれば、20パーセンテージポイント増える、すなわち27パーセントになると考えてしまうかもしれませんが、そうではありません。

正しいリスクがわからなければ正しい選択は難しい

つまり、大腸がんになるリスクは約15人に1人から、約12人に1人に高まります。何もないわけではありませんが、“リスクが20%増”よりはずっと怖くなくなるでしょう。じつは、怖さはもっと減らせます。

イギリス人男性100人中約7人は、一生のうちいずれかの時点でがんになり、もし全員がベーコンを1日当たり1枚多く食べるとすれば、7人ではなく8.4人が大腸がんになります。

つまり、1日につき1枚の余分なベーコンは、食べなければならなかったはずの大腸がんになる可能性を、およそ70人に1人分[100÷(8.4-7)≒71.4]増やすということです。もしあなたが女性なら、その可能性はさらに低くなります。

70人に1人ががんになる可能性を、無視してよいと言いたいのではありません。自分の食事を変更すべきかどうかを判断する助けになる重要な情報です。そして、この情報は、あなたのリスクについて何も言っていないに等しい“20%増”とはまったく違います。

これは、ベーコンを余計に食べることにより得られる利益――ベーコンを食べるとおいしい! ベーコンは人生をより楽しくする! ――とリスクとのトレードオフなのです。このトレードオフに価値があるかどうかを検討するには、きちんとした情報が必要です。

相対リスクは薬の効果を高く見せたいときにも使われる

相対リスクは、薬が実際より効果があるように見せたいときにも使われます――たとえば、アメリカのあるがんの薬は「化学療法に比べて死亡のリスクを41%減らす」と広告していました。良いことのように聞こえます。

しかし実態は、生存期間を平均3.2カ月延ばしたということでした(※6)。アメリカFDAの調査では、医師が薬の効果を絶対値ではなく“相対的な値”で知らされることは、「薬の有効性についての認識の高まりや、処方したいという意欲と関連する」ことが分かっています(※7)。――つまり医師ですら相対リスクにだまされているのです。数字を絶対値で示すことは、患者や医師も含めて私たち皆が、こうした危険についてよりよく理解することにつながります。

さらに言えば、何か――政党や、もしかしたら宗教も――が「急成長している」と書かれているときは注意してください。もしある政党が週ごとに倍増しているなら、相対的に見れば確かに急成長しているのかもしれません。でも、党員が先週は1人で、今週はその1人が自分の夫を誘って入党させたのだと知ったら、確かに2人に倍増はしたものの、大したこととは思わないでしょう。

相対リスク18%増と絶対リスク0.028%をどう考えるか

高齢の父親とてんかんの子どもについてのあの記事に戻りましょう。あなたは相対リスクが上昇(18パーセント)することは知っています。しかしここまで読んできた今では、それだけではよく分からないということも知っています。私たちが知る必要があるのはむしろ絶対リスクです。人生の後半で父親になった場合に子どもが実際にてんかんになる可能性は、より若くして父親になった場合の可能性と比べてどうなのか、という点です。

必要な数字は、0.024パーセントと0.028パーセントでした。25~34歳で父親になった場合に子どもがてんかんになるリスクは10万人当たり24人で、45~54歳で父親になった場合は10万人当たり28人です。その差は、平均して新生児10万人当たり4人です。

この差が重要でないと言っているのではありません。たとえ10万人に4人の確率でも、現実の確率です。しかしこれはさまざまなトレードオフと天秤にかける必要があります。人生の後半になってから子どもがほしいという人もいるでしょうし、そのような人は、たとえリスクがわずかに増えようとも、子どもを持つことには価値があると考えるでしょう。

メディアはリスクを相対値だけでなく絶対値で示すべき

とはいうものの、こうした問題をすべてメディアのせいにすることはできません。ほとんどの学術誌は執筆ガイドラインで絶対リスクを示さなければならないとしているにもかかわらず、多くの科学論文では絶対リスクが書かれていません。

トム&デイヴィッド・チヴァース『ニュースの数字をどう読むか 統計にだまされないための22章』(ちくま新書)
トム&デイヴィッド・チヴァース『ニュースの数字をどう読むか 統計にだまされないための22章』(ちくま新書)

たとえば高齢の父親に関する「BMJ」の論文は、同誌の執筆ガイドラインに反して、すべての結果を相対リスクで報告していました。さらに、研究では絶対リスクが述べられているのに、プレスリリースでは述べられていないこともあります。

時間に追われ、あまり統計に強くないジャーナリストは、論文の中に絶対リスクの情報を見つけるのに苦労するのでしょうし(実際にある場合の話で、ない場合も多い)、そもそも論文にアクセスしたとしても、その情報が必要だということをおそらく認識していないでしょう。

しかしこれはコミュニケーションの重要な側面です。科学ジャーナリズムの役割は、少なくともライフスタイルのリスク(もし1晩につきワインをグラス1杯飲んだら、がんや心臓病になりますか?)に関しては、読者に有用な情報を提供することであるのは確かです。

そのような情報は絶対値で示す必要があり、そうでなければ意味がありません。学術誌、大学の広報部門、そしてメディアは皆、リスクは相対値だけでなく絶対値で示すべきだということを、動かせないルールとして確立する必要があります。

[脚注]
※1. Sarah Knapton, ‘Health risk to babies of men over 45, major study warns’,the Daily Telegraph, 2018
※2. Khandwala, Y. S., Baker, V. L., Shaw, G. M., Stevenson, D. K., Faber, H. K.,Lu, Y. and Eisenberg, M. L., ‘Association of paternal age with perinataloutcomes between 2007 and 2016 in the United States : Population based cohort study’, British Medical Journal, 363( 2018), k4372
※3. Sarah Boseley, ‘Even moderate intake of red meat raises cancer risk,study finds’, the Guardian, 2019
※4. Ben Spencer, ‘Teenage boys’ babies are “30% more likely to developautism, schizophrenia and spina bifida”’, the Daily Mail, 2015
※5. Bowel cancer risk, Cancer Research UK
※6. Klara, K., Kim, J. and Ross, J. S., ‘Direct-to-consumer broadcastadvertisements for pharmaceuticals : Off -label promotion and adherence toFDA guidelines’, Journal of General Internal Medicine, 33( 2018), pp. 651︲8. Table6.
※7. Kahwati, L., Carmody, D., Berkman, N., Sullivan, H. W., Aikin, K. J. and DeFrank, J., ‘Prescribers’ knowledge and skills for interpreting researchresults : A systematic review’, Journal of Continuing Education in the Health Professions, 3(7 2)( Spring 2017), pp. 129-36 doi : 10.1097/CEH.0000000000000150