まずは内科や婦人科へ
夜眠れない、やる気が出ない、落ち込みがひどい……。メンタルの不調を感じたら、まずはカウンセリングよりも、病院を受診してほしいと思います。
とはいえ、最初から精神科などに行くのもハードルが高いでしょう。メンタル不調は、頭痛や動悸がする、吐き気がする、眠れないなど、身体の不調であらわれることも多いので、まずは内科を受診しましょう。
実際、こうした不調は、内科的な疾患が原因となっていることもあります。例えば「甲状腺機能低下症」は、甲状腺の働きが低下して血中の甲状腺ホルモンが不足し、無気力や疲労感、記憶力や食欲の低下などを引き起こします。
夜眠れない、途中で起きてしまう、昼間も眠気が取れないという場合は、実は「睡眠時無呼吸症候群」ということも考えられます。また、頭痛やだるさ、食欲不振などは、「脳腫瘍」が原因という可能性があります。
そう考えると、最初に内科に行くのは正解です。女性で更年期障害が疑われる場合は婦人科もいいでしょう。まず内科や婦人科を受診して、こうした疾患ではないことを確認してから初めて精神疾患を疑ってもかまいません。
病院選びの条件は「アクセスのよさ」
では、病院はどう選べばよいのでしょうか。
受診した内科で紹介してもらえる可能性もありますが、自分で探さなければいけないこともあります。その場合は、何よりも通いやすい場所が一番です。家や勤務先から近いかどうか、アクセスの良さが最も重要です。そのほかの条件は、あまり気にしなくてもよいでしょう。
なぜならメンタル不調の場合、解決までに時間がかかりますし、しんどいときも気力をふりしぼって受診しなければいけなくなります。そんなときに家や会社から遠い、駅から歩かなければいけない、車で1時間も2時間もかかる、という病院だと足が遠のいてしまいます。しかし、本来はつらいときほど病院に行く必要があります。ですから「通いやすい病院」というのが重要なのです。
ただ、3、4カ月通ってみて、「先生と相性が合わない」「なにか違うな」と思うようであれば、別のところを探してみるといいと思います。
「精神科」と「心療内科」の違い
では精神科と心療内科、どちらに行けばいいのでしょうか。
実は精神科と心療内科は、厳密にいえば学問的な違いがあるものの、病院を選ぶときには違いを気にする必要はまったくありません。精神科医は、夜眠れない、不安、落ち込みがひどい、といった精神的なものを診ますが、心療内科医は精神的なものからくる頭痛や吐き気、耳鳴り、動悸などの体の症状を診るということになっています。そういった違いはありますが、当然ながら精神科医も不安からくる動悸など、精神的な原因による体の症状も診るので、患者からみると大きな違いはありません。
「○○精神科」「○○心療内科」「○○心のクリニック」など、医者が看板を掲げることを「標榜」といいますが、医者の世界では患者を勘違いさせたり誤解させたりすることがなければ、どのように標榜してもいいことになっています。つまり「精神科医は精神科」「心療内科医は心療内科」と標榜しないといけないという決まりはないのです。ですから「○○心のクリニック」といった名前の病院もよく目にします。「○○心療内科」という名前でも、担当の医師が精神科医であるのは、よくあることです。ですから、病院を選ぶときには、そうした表現の違いは、あまり気にする必要はないでしょう。
ちなみに、精神科医と診療内科医の数を比べてみると、圧倒的に多いのは精神科医です。精神科の専門医の数は、2022年1月現在で1万2293人(日本精神神経学会)。それに対して心療内科の専門医は、2021年10月現在で113人です(日本心療内科学会)。精神科専門医であって心療内科専門医ではない人はたくさんいますが、心療内科専門医であって精神科専門医でない人はほとんどいません。精神科か、心療内科か、と悩む必要はほとんどないのです。
カウンセラーは相性のよさを重視
精神科の受診時間は、どれだけ長くても10分程度と短時間です。ただ、もっと話を聞いてもらいたい人や、「自分を責めがち」「ストレスへの対処方法がわからない」など、ものごとのとらえ方や考え方のくせを変えることで不調を改善したい場合などは、精神科の治療と並行してカウンセリングを受けると効果が出ることがあります。自分で判断するのは難しいですが、精神科で勧められることがあります。精神科に併設されていることも多いです。
多くの場合、カウンセリングは、公認心理士や臨床心理士といった一定の資格を持った人たちが担当します。患者さんにとっては、精神科医以上に接する時間が長いため、相性が大事です。もし、担当のカウンセラーと相性が合わないと思ったら、別のカウンセラーを試してみるとよいでしょう。
資格の有無はこだわらなくていい
医者は資格がないとできませんが、カウンセラーは資格がなくてもなることができます。確かに玉石混交ではありますが、必ずしも資格がないから良くないというわけではありません。カウンセリングは相性が重要なので、資格がないカウンセラーであっても自分と相性がよければよいと思います。
ただ、そのときに注意してほしいのが値段です。カウンセリングは自由診療なので、保険がきかず、精神科の診療に比べて高くなる傾向があり、法外な値段をとるところもあるので、気を付けた方がいいでしょう。病院のカウンセリングを受けると、だいたいの値段の相場や、スタンダードなカウンセリング方法がわかるので、順番としては最初にそちらを利用してみてください。
どんな医者が「いい医者」なのか
「いい医者とはどんな医者でしょうか」とよく聞かれます。しかし、この質問に答えるのはすごく難しいです。もちろん、病気を治してくれる医者がいい医者ではありますが、いくらいい薬を出してくれても、相性が悪くてダメだという人もいますし、反対に、治療の力がそれほど高くないのに人気の医者もいます。
特に精神科医は、病気だけではなくその人の人生を診るといった面があるので、患者と並走してくれる医者が「いい医者」ということになるのかもしれません。そこが内科や外科とは違うところです。
2021年末、大阪の放火事件で亡くなった精神科医の先生は、産業医でもあり、働く人の支援に力を入れていらっしゃいました。休職中の人や、休職から復帰した人たちを励まし、並走していた先生だったからこそ、亡くなって多くの人から惜しまれているのだと思います。