転職の面接で提示された年収が予想よりかなり低かった。そんなとき、入社後の昇給の可能性を探る方法はあるでしょうか。35歳以上の転職に詳しい転職コンサルタントの黒田真行さんは「『今後はいくらまで上がるのでしょうか』といった聞き方はNG。印象を落とすことなく待遇について確認する方法があります」といいます――。
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◆今回のお悩み
新卒以来、大手メーカーの商品開発部門で働いてきました。最近、会社の業績が思わしくなく、私が思い入れを持っていた商品分野も規模が縮小されることになり、思い切って転職活動を始めました。
今度、とある中規模企業の面接があるのですが、年収の交渉はどう進めたらいいのでしょうか。これまでが大手だったので年収が下がるのは覚悟していますが、あまりに大幅に下がるのは避けたいです。でも、自分の相場も、どれくらいの金額を提示したらいいのかもよくわかりません。相場を知る方法や、年収を交渉するときの注意点などありましたら教えてください。(37歳・大手メーカー勤務)

相場を知っても意味はない

年収は業種や職種、その人の年齢や経験値、地域などさまざまな因子によって変わってきます。業種ごとの相場は国税庁が行っている「民間給与実態統計調査」でわかりますが、これはあくまで平均値で、全員に当てはまるものではありません。

業種全体の平均年収が500万円だったとしても、実際には300万円の人もいれば1000万円の人もいるでしょう。転職にあたってその業界の年収相場や平均を知りたがる人は多いのですが、私はそこだけを知ってもあまり意味はないと思っています。

平均年収は、例えるなら平均寿命と同じようなもの。女性の平均寿命は87.74歳とされていますが、その歳になったからといって全員が死ぬわけではなく、当然ながら人によってばらつきがあります。ですから、年収に関しても、あまり相場を気にしたり当てにしたりしないほうがいいでしょう。

そう考えると、面接の場で、相場を引き合いに出して年収交渉をするのは得策とは言えません。そもそも交渉は、相手の提案に不満がある場合や、互いの考え方が違うという前提がある場合に行うもの。

多くの企業から声がかかるようなスペシャリストは面接で年収交渉をすることもありますが、そうでない場合は、自ら年収の話題を持ち出して相場をもとに交渉しようとすると、面接官に「会社にどう貢献するかよりも年収を気にする人」という印象を与えてしまいます。

自分から持ち出すのは避ける

そうしたリスクを避けるためにも、やはり面接では自分から年収の話を持ち出すのはやめたほうがいいでしょう。向こうから希望年収を聞かれたら、そこで初めて話し合いに入ればいいと思います。

希望年収を聞かれたとき、現職の年収やそのちょっと上の額を言う人も少なくありません。でも、自分がその金額相応のメリットを転職先にもたらすことができるのかどうか、少し考えてみてください。

年収の話の前に、相手企業にどう貢献できるかをしっかり伝えていないと、「自分が生み出す成果のことは棚上げして、収入はいくらもらえるかばかりを気にしている人=Give(与えるもの)とTake(得るもの)が釣り合わないリスクがある人」と受け取られてしまいます。現職の年収を伝えるなら、なぜその額をもらえているのか、自分なりの根拠をもって伝えるべきでしょう。

その際に根拠となるのは、業界の相場や同年齢の人の相場ではありません。例としては、「会社にこんな貢献をしたから」「これぐらいの売り上げを出したから」などが挙げられます。そして、転職で年収が下がることを覚悟しているのなら、その点も正直に伝えていいと思います。

初年度の額より評価制度に注目を

では、相手が提示してきた年収が不満だった場合はどうすればいいのでしょうか。前職より下がるだろうと覚悟はしていたけれど、予想より低かった――。そんなときは、金額を上げようと交渉するより、まずは評価制度を聞くことが大事です。

評価制度がどんな仕組みになっているのか、どう頑張れば昇給するのか、賞与は何を基準に決めているのか。そうしたことをきちんと聞いてほしいと思います。

面接で提示される年収は初年度のものであって、この先もずっと同じというわけではありません。ここはひとつ長期軸で考えて、「入社時がいくらか」ではなく「この先どう上がっていくのか」のほうが重要性は高いはずです。

その際、「今後はいくらまで上がるのでしょうか」といった聞き方はNGです。こう聞かれても、面接官としては、その人が入社後に期待通りの活躍をしてくれるかどうかわからないので、答えようがありません。給与はその人が会社にもたらす価値への対価なので、活躍度が不確かな段階で金額だけ答えてもらおうとするのは無理があります。

「10億円売り上げたら年収はいくらになりますか」なら答えようもあるでしょうが、こちらは相手によっては悪印象を持たれる可能性も。やはり、ここは「評価制度はどんな仕組みになっていますか」という聞き方がベストなのではと思います。

面接候補者
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向こう10年間の累計額で考える

相場がわからなくても、初年度の年収が低くても、評価制度が自分にとって納得のいくものであれば、あまり思い悩まなくてもいいのではないでしょうか。転職者は、入社時点の年収だけを気にする人も多いのですが、それより向こう10年の累積年収を考えるようにしてみてください。

入社時点の年収が400万円で評価制度がしっかりしている会社と、500万円で評価制度が不透明な会社とでは、同じ実績を上げても今後10年間の累計額が大きく変わってくる可能性があります。スタート時の年収が低めでも累計額が高ければ、そちらのほうが「転職に成功した」と言えるでしょう。

人を大事にしている会社かどうか

もうひとつ、年収より気にすべきこととしては「労働分配率」も挙げられます。これは、その企業が生み出した付加価値のうち、どれだけを社員に還元しているかを示すもの。具体的な数値を知るのは難しいですが、業績がいいのに給与が低い、つまり労働分配率が低いようでは、人を大事にしている会社とは言えません。

最近は、社員持株制度やストックオプションなどで利益を社員に還元している会社もあります。利益をどう分けようとしているか、社員への報酬をどう考えているかといった部分は、会社の風土や今後の昇給の可能性を見極めるうえで非常に大事です。評価制度に加えてこの点もぜひ重視してください。

35歳以上の転職者は、若い世代に比べて採用が決まりづらく、活動時期も長引く傾向があります。そんな中で年収に関してあれこれ考えていると、せっかくのチャンスを逃す可能性も高くなってしまいます。初年度の年収にはあまりこだわらず、それよりも評価制度や報酬への考え方を知ろうという姿勢で面接に臨んでほしいと思います。