※本稿は、佐藤ブゾン貴子『あなたの顔には99%理由がある』(河出書房新社)の一部を再編集したものです。
フランス発祥の「顔の心理学」
相貌心理学(Morphopsychologie/モルフォプシコロジー)とは、簡単にいうと「顔」を客観的データとして分析する心理学です。
発祥の地フランスでの歴史は長く、パリのサン・ルイ病院の精神科長を務めたルイ・コルマン博士によって1937年に提唱されました。
現在まで世界各地で一億人以上の顔分析データを集約して理論を体系化し続け、相貌心理学のプロフェッサーによる顔分析の精度は、99%もの正答率を誇り、まさに「生きた学問」と言えます。
フランスでは大変ポピュラーな心理学として認知され、教育分野やビジネス分野などでもさまざまに活用されています。
それではさっそく、この「顔の心理学」の分析の仕方を、紹介していきましょう。
見るべきポイントは、輪郭、ゾーン、パーツ
相貌心理学ではさまざまなポイントがありますが、大まかには以下の三つになります。
2 拡張ゾーン → その人の原動力やモチベーションを示す
3 目、鼻、口などのパーツ → それぞれに性格の傾向が表れる
相貌心理学で一番のベースとなるのは輪郭、頭部全体の形状です。それが示すエネルギー量(体力)は、その人の特性を考える上でもっとも重要な要素になるからです。
次に、顔の中で一番拡張しているゾーンがどこかという要素を加味します。この輪郭とゾーンの組み合わせによって、その人の基本となる特性がわかるのです。
最後に、各パーツ(器官・部位)の要素を加えていきます。それぞれのパーツには性格やクセなどが表れているため、輪郭やゾーンと組み合わせて分析すると、その人のパーソナリティをより深く知ることができます。
輪郭は正方形と長方形、二種類に分類される
まずベースとなる顔の輪郭ですが、相貌心理学では形状によって二つのタイプに分けています。
どっしりとした輪郭の人は、エネルギー量が豊富で、体力が十分にあることを示しています。このタイプを「ディラテ」といいます。正方形、もしくは丸形の輪郭がディラテです。
一方、細い輪郭の人は、エネルギー量があまり多くありません。このタイプのことを「レトラクテ」といいます。長方形、もしくは楕円形の輪郭が、レトラクテです。
それぞれの特徴は、フランス語の原義から考えるとわかりやすいかもしれません。
ディラテ(dilaté)は、「膨張」「拡張させる」「外向きの力」という意味があり、コルマン博士は「生命の拡張」と表現しました。
レトラクテ(rétracté)は「縮小」「引っ込める」「内向きの力」などの意味があり、コルマン博士は「生命の保守」と表しています。
コミュニケーション力の差はエネルギー量で決まる
ここでいう体力とは、まずは生命を維持するため、内臓機能を動かすのに使われるものを指します。また、細菌や病原菌などに対する抵抗力、さらにコミュニケーションに使えるエネルギーのことも指します。そもそもコミュニケーションにはエネルギーを使いますから、その人のエネルギーがどのくらいあるかが重要になるのです。
ディラテの人は体力を溜めるタンクが大きいため、内臓機能や抵抗力に使っても、まだ余っている状態です。その分、コミュニケーション欲求も豊富になり、外向きの欲求が強くなります。
一方、レトラクテの人はもともと体力を溜めるタンクが少ないため、余分な体力がない状態。おのずと自分の生命を守る防衛力が高くなり、内向きの欲求が強くなります。
輪郭タイプの見極め方
輪郭のタイプを見極めるとき、基本的に横のラインの印象が強い場合はディラテ、縦のラインの印象が強い場合はレトラクテです。
わかりづらいときは、下唇から下のあご先を隠してみましょう。
残りの上部の横の方が長いか、横と縦が1対1の正方形、あるいは丸形の場合はディラテ。縦の方が長く、長方形か楕円形の場合はレトラクテです。
ちなみに、アメリカのドナルド・トランプ元大統領は全体的にがっしりして見えるためディラテのイメージがあるかもしれませんが、ひさしのような前髪を上げた顔を見ると、縦のラインが長いため、レトラクテになります。
自分の顔を確認する際も、しっかり前髪を上げてチェックしてみましょう。
ディラテは「皆で一緒」を好み、レトラクテは「一人」を好む
体力が豊富なディラテは、意識が外向きになりやすいので社会性が高く、体力の少ないレトラクテは、意識が内向きになりやすいのでその分想像力に優れ、孤独に強い傾向があります。
こうした意識の違いは、行動やコミュニケーションにも大きな影響を及ぼします。
たとえば、ディラテの人は、何をするにも皆で一緒に行動することを好む傾向があります。そのため、皆で食事をするのも大好きです。
一方、コミュニケーションに回せる体力の少ないレトラクテは体力の無駄遣いができないため、自己防衛能力も強くなり、体力を使う相手や状況をしっかり選ぶ傾向があります。不特定多数とのコミュニケーションは好まず、自分が選んだ相手とだけ行動しようとするのです。
飲食店でのわかりやすい行動パターン
たとえば飲食店に一人で訪れて静かに食べている方は、私が見る限りほぼレトラクテ。もちろんコロナ禍では大勢での会食は難しいですが、それでもディラテの方が一人で食事をすることは、稀。一人でお店を訪れる際は、お店の方や常連さんと交流したいという場合がほとんどです。
決して付き合いは悪くないものの、集団行動をするときに「いつも皆で一緒!」のノリにはちょっとついていけないな……と感じる方は、きっとレトラクテのはずです。
タイプに合わせたストレス発散法
ストレス発散法も、二つのタイプでは違います。
体力が豊富なディラテは、体力を使わなければ、むしろ持て余すことになります。エネルギーは水槽の中の水と同じで、循環していないと澱んでいくのです。澱むとフラストレーションも溜まっていってしまいます。
ですから、普段からなるべく体力を使って発散したほうがいいのです。
特にストレスが溜まったときは、ディラテの人はジムなどで運動するとリフレッシュできます。
しかし、レトラクテの人はジムで運動してリフレッシュしようとしても、体力が少ないため、余計に疲れてしまうことがあります。
基礎体力をつけるために定期的に運動するのは構いませんが、やはり無理は禁物です。それよりも少ない体力を効率的に使えるよう調節の仕方を習得することが大切です。そして疲れたときは、まずしっかり休息をとることをお勧めします。
レトラクテの人にもっとも重要なのは、一人で過ごす時間です。自分の好きなことや趣味に没頭することで、ストレス発散につながるのです。
そういえば、大勢で過ごしたいディラテは、コロナ禍における自宅での自粛生活をつらく感じやすい傾向があるようです。一方、孤独に強いレトラクテは自粛生活もそうつらく感じない傾向があるようです。
その人に合った働き方がある
輪郭のタイプからは、その人に向いたコミュニケーションの仕方や働き方を理解することもできます。
たとえば、ディラテには豊富な体力があるため、新しい環境にもすぐに馴染みます。持ち前の寛容性と順応性で、たとえよく知らない環境で多少嫌な思いをしたとしても、それに耐えられる余力があります。何があっても鷹揚に受け入れられるのです。
しかしレトラクテの場合は、新しい環境に馴染むのはそう簡単ではありません。
ですから、仕事を選ぶ際には、もともと持っているキャリアやスキルをもとに考えることはもちろんのこと、自分にあった環境なのかを考慮することをお勧めします。
輪郭だけでなく、あらゆる要素の組み合わせから分析
ただし、レトラクテでも、頰周りなどの肉付きが豊富な場合は、コミュニケーション力がある場合もあります。
顔の肉付きが示しているのは、寛容性と順応性。レトラクテで体力が少ない人でも、ある程度の肉付きがあれば、寛容性と順応性で新しい環境にも馴染みやすくなるのです。
一方、ディラテであっても肉付きが少ない人は、やはり新しい環境に馴染むのは難しくなります。肉付きが平らな人は、感受性が敏感です。ですから、輪郭がディラテで体力がある人でも、些細なことでも敏感に感じ取ってしまい、自分を守る力が働きます。
そのため、レトラクテでも肉付きがいい人と、ディラテでも肉付きが少ない人では同じような特性になることが多いのです。
このように、相貌心理学では単体で特性を決めるのではなく、いろいろな要素を組み合わせて、その人の「適性」を総合的に分析していきます。
ただし、その人の適性がわかっても、それが間違った環境や状況に置かれると、才能は開花しません。適性も、環境を間違えると「適正」にはならないのです。
適性を「適正」にするには、自分をしっかり理解して、自分に合った状況や環境を選ぶことが大切です。
ディラテ上司とレトラクテ部下の間にあるコミュニケーションの壁
たとえば、ディラテの上司のもとで、レトラクテの部下が仕事で結果を出せないようなときは注意が必要です。コミュニケーション欲求の強いディラテの上司が、部下の仕事やプライベートにどんどん立ち入る質問や行動をしてきたら、レトラクテの部下にとっては煩わしく感じてしまうかもしれません。
また、体力豊富な上司が自分と同じような仕事量を部下に押し付けたり、「これくらいの仕事をして当然だ」などと発言したりすると、本人にそのつもりはなくてもレトラクテの部下はプレッシャーを感じてしまいます。それが高じると、パワハラにもなりかねません。どんな才能も体力に支えられなければ発揮することができないのです。
もちろんディラテの人がパワハラをするということではなく、それぞれの人が固有の傾向を持っていることを理解して接したほうがいいということです。
自分の才能を自分で潰している人が多い
さらに、大勢と話すのが好きな人もいれば、事務仕事をするのが向いている人もいます。物事を素早く考えるのが得意な人もいれば、じっくり考察するのが得意な人もいる。
あなたの職場はじっくり考えたほうがいい職場なのか、それともスピーディに判断して答えを出さなければいけない職場なのか。そうした状況を踏まえて、しっかり職業選択をしなければ、適性は「適正」になりません。
世の中には、自分のことをきちんと理解している人は意外と多くありません。「自分は話すのが苦手だから、コミュニケーション能力が低い」とか、「自分にはクリエイティブな能力はない」などといった先入観や主観的な感情で、残念ながら自分の才能を潰してしまっている人が本当に多いのです。
自分に合ったエネルギーの使い方やコミュニケーションの傾向をしっかり把握して、「適正」な環境を手に入れてほしいと思います。
輪郭の違うカップルは喧嘩が多くなることも
このように、輪郭の違う人は体力量が違うため、多くの点で違いが出てきます。人が持つ能力に「体力」という視点を入れてみることで、新たに見えてくるものもあるのです。輪郭は、人と人の相性にも影響を及ぼします。
たとえばカップルの場合、ディラテならディラテ同士、レトラクテならレトラクテ同士のほうがコミュニケーション欲求が似ているため、一般的には意見も合いやすいようです。
以前、ある夫婦にこんなことがありました。
この夫婦は、夫が体力の少ないレトラクテで、妻が体力の豊富なディラテであったため、夫は休日にはしっかり休みたいと考えていました。しかし、妻はいろいろなところに出かけたいと考えます。
そこで夫は「俺は家にいるから、一人で行ってきたら?」と言うのですが、これが一人で行動するのが嫌なディラテの妻にとっては寂しく、また怪しくも感じてしまうのです。そのうち「私のことを嫌いになったの? もしかして浮気?」と、夫のことを怪しむようになってしまいました。
適性に合った“適切なストレス発散法を”
体力が少ない夫にしてみたら、土日ぐらい家でゆっくりしたいところですが、活動的で外交的な妻にしてみれば、「夫は家にいると嘘をついて、誰かと連絡しているのでは……」と思ってしまったのですね。互いの行動を理解できないことが、すれ違いの原因でした。
そこで、二人にそれぞれの輪郭と体力について説明したところ、納得されたようです。
やはり、それぞれの適性に合った過ごし方ができなければ一緒に過ごすことは難しくなります。この夫婦の場合、休日には夫は家でゆっくり過ごして体力回復に努め、妻は友だちと出かけるなどして体力を発散する必要がありました。
反対に、夫がディラテで妻がレトラクテの共働き夫婦の場合は、週末はさらに夫に家事をしてもらうとか、子どもと一緒に遊んでもらって体力を発散することをお勧めしています。
コミュニケーションを築くのに役立つ「輪郭の違い」
このように輪郭の違い=体力量の違いは、潤滑なコミュニケーションを築くためには、非常に重要なポイントとなります。
あなたやあなたの身近な人の顔の輪郭が、体力の豊富なディラテか、体力の少ないレトラクテかを見極めることによって、互いにとって負担のない心地良いコミュニケーションのあり方を考えることができるのです。