就職支援サービス「マイナビ」が「大東亜以下」と題したメールを誤送信した問題が物議をかもした。マイナビは学歴フィルターの存在を否定したが、実際はどうなのか。人事ジャーナリストの溝上憲文さんが中小企業から大手まで、人事担当者に聞いた――。
東京大学
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20年以上前から続いている入学偏差値での区分け

マイナビが「大東亜以下」と題したメールを就活生に誤送信した問題で「学歴フィルター」ではないかとネット上で騒ぎになった。マイナビ側は「所属大学によって有利・不利になることはない」として学歴フィルターを否定している。

しかしこの区分、20年以上も前から存在する入学偏差値ごとに序列化した大学の区分であることは間違いない。

当時は東一早慶、MARCH(明大、青学大、立大、中大、法大)、日東駒専、そして大東亜帝国といった形で企業が採用活動の指標に使っていた。大学フィルターではないにしても学生と企業を仲介するプラットフォーマーである就活サイトが今も就職・採用活動の区分として使っていることになる。

特定の大学群を採用活動で優先的に扱う学歴フィルターが最初に注目されたのは会社説明会だった。事実上の第一次選考も兼ねる企業説明会の参加者募集のサイトを特定の大学群ごとに優先的にオープンし、時間差を使って参加者を絞り込む手法だ。またネット経由で簡単にエントリーできるようになって以降、エントリーシートにもフィルターをかけるようになったとされる。さらに2015~16年以降本格化したインターンシップ参加者の選考でも学歴フィルターが使用されていると言われている。

中小企業は学歴フィルターを使う余裕がない

実際にインターンシップの選考でフィルターは使われているのか。ある中堅飲食チェーンの人事担当者はこう語る。

「我々の業界はコロナ以前から人手不足の状態が続いているし、フィルターを使うほどの余裕もない。優秀な大学出身者に来てほしいとは思うが、インターンシップではむしろ当社の現場の仕事になじむ人かどうかを重視している。うちも含めて就活情報サイトを利用している中小企業の人事担当者に聞いても学歴フィルターを使っているところはどこもないと聞いている。やはり大量の学生が応募する大企業が使っているのではないか」

インターンシップ選考で学歴フィルターを使っている

人手不足業種や中小企業は学歴フィルターを使って絞り込むほどの余裕はなさそうだ。やはり大企業が使っているのか。大手医療機器メーカーの人事部長は毎年8月から実施されるインターンシップ選考で学歴フィルターを使っていると率直に認める。その上でこう語る。

履歴書
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「インターンシップ参加者の選考では偏差値上位校を優先的に選んでいるのは間違いない。ただし、インターンシップで上位校の学生を囲いこんで採用までフォローするには労力がかかる。それができるのは資力・体力のある業界でもトップクラスの優良企業だ。偏差値上位校の学生はライバルの大手企業に流れるし、学生のフォローには苦労している」

同社は業種の特殊性もあって東工大など技術系の大学や国立大の薬学部などの学生を優先的に選考しているという。

ある大手金融ではインターンの9割がGMARCH以上

では文系学生も多い金融機関はどうなのか。金融業の人事担当者は「エントリーした学生と面談し、参加の可否を決めているが、事前に対象大学を旧帝大クラスと早慶、GMARCH(学習院、明治、青山学院、立教、中央、法政)クラスで約7割、その他の大学を3割に絞り込んだうえで面談を実施している。その結果、最終的な参加者はGMARCHクラス以上が9割ぐらいを占めている」と語る。

学歴フィルターを使っている理由については「採用選考の前段階なので本当はたくさんの学生にインターンシップに参加してほしいのだが、担当スタッフの選任など各職場との調整で労力や手間もかかるのでどうしても受け入れ人数に限りがある。そうなると当社の採用実績校や優秀な学生が多い旧帝大などの国立大学や早慶の学生などに参加してもらいたいという気持ちになる。そして就業体験を通じてさらにじっくり観察することもできる」と語る。

同社はインターンシップに参加した学生を観察し、その中から内々定者を出すという事実上の採用選考を行っている。一方、エントリーシート提出による一般選考枠でもフィルターを使っている。具体的には「エントリーシートのデータから旧帝大と早慶、MARCH、関関同立、日東駒専レベルに分類し、体育会系所属の有無、性格テストなどを使った属性を入力して、当社に合う学生を選び出すというデータマッチングを行っている」と言う。

1Dayインターン後、OB・OGが優秀な学生に個別に接触

また、1Dayインターシップでもフィルターを使って集めている企業もある。IT企業の人事担当者は「インターンシップといっても企業説明会の延長のようなもの。自社の紹介や業界での強みを紹介した後、動員した社員との交流会やグループワークなどを行った。エントリーシートの大学名を参考に東大、東工大など国立大学や早慶、MARCHクラスの私立の理系や文系の学生を選んで実施した」と語る。

しかも動員した社員は参加した大学生のOB・OGをあえて選び、OB・OGから学生の発言や行動など人物の特徴を聞いて順位付けし、後日、OB・OGが学生に個別に接触し、非オープンのインターンシップへの参加を呼びかけているという。

偏差値上位校は「学ぶ能力が高い」人がいる確率が高い

そもそもなぜインターンシップに学歴フィルターを使って選別しているのか。インターンシップ=就業体験であれば幅広い学生を参加させ、それこそ仕事ぶりや性格を観察するなど、自社に合致した学生をじっくりと見極めることができるのではないか。そう聞くと、フィルターを使うのは2つの理由があるという。

1つは事実上の選考という理由だ。金融業の人事担当者はこう語る。

「インターンシップを選考プロセスの一環として実施している。旧帝大や早慶など偏差値の高い大学にいるということは少なくとも偏差値をクリアするための勉強をしているという経験値がある。社会に入って新しいことをやるには当然学びが必要になり、学び方を知っている人ほど成長しやすい。そういう意味で偏差値上位校に通っている人は学ぶ能力が高い人がいる確率が高いという確率論で使っている。もちろん学び方を知っているのは能力の一つにすぎない。要するに転職の面接で『どちらの企業に勤めていましたか』と聞くのと同じ経験値の一つで、入口の目安でしかない。実際の採用では学び方以外の要素も含めて判断している」

インターンシップの参加希望者は年々増えている。しかも採用選考の一環となると、どうしても学歴優位になりやすいということだ。

ついていけない学生がいると運営に支障が出る

もう1つの理由はインターンシッププログラムの事情がある。IT企業の人事担当者は「5日~1週間程度のプログラムの開発や社内講師の選定などそれなりにパワーをかけてつくっている。企業研修のように優秀な人材に高度の研修を受けてもらいたいと思うのと一緒だ。たとえば研修についてこれないような人を参加させると運営自体に支障を来すことになりかねない。上位校に絞ったほうが適応できる人が多いというのは自然の流れではないか」と語る。

学歴フィルターはあくまで採用活動の入口の目安でしかないが、当然入口にもたどりつけない学生が多数存在する。とはいっても大企業以外の中堅・中小企業が多数存在するのも確かだ。

就活サイトが大学フィルターの利用を仕掛けている

また、学歴フィルターを宣伝文句に使い、煽っているのはインターンシップや就活サイトを運営するプラットフォーマーだという。前出の飲食チェーンの人事担当者は「プラットフォーマーが大学フィルターの利用を間違いなく仕掛けている。就活エージェントからも『早慶の学生でいい人材がいますが、どうですか』とアプローチしてくるし、煽っているのは確実だ。もちろん企業側のニーズもあるから売り込んでくるのだが、しかし、それだけで企業が満足しているわけではない」と語る。

では就活サイトにフィルター以外の何を望むのか。

「企業は自分の会社に合った人材はどういう人なのかをわかっているが、ほしい人材を探し出すには就活マーケットのプロではないので就活サイトに頼るしかない。できれば企業のニーズに合った学生層を提案するとか、目配りのきいたサービスのレベルを上げてほしい。就活サイトからすればそれは企業人事の仕事だろうと言うかもしれないが、採用で手が回らない部分をサポートするのが就活サイトの本質的な役割だと思う。今回の『大東亜以下』の問題で明らかになったのは、単純に履歴書レベルでザクッと切っているだけの話。就活サイトのサービスレベルの実態が出てしまったことが問題だ」

学歴フィルターは企業のニーズがあるから就活サイトもそうしたサービスを提供する。しかし、就活サイトの競合が激しくなる中で、そうしたサービスだけでは徐々に魅力を感じなくなる企業も増えるだろう。学歴は個人の能力の一つでしかない。それ以外の能力や魅力を可視化し、企業のニーズに合う人材のマッチング力を高めていく努力が、就活サイト側にも求められているのではないだろうか。