秋篠宮家長女の眞子さんの結婚をめぐっては、ネット上の中傷が問題になった。ネットの世界には、ちょっとした意見の相違でからんできたり、非をあげつらって攻撃してくる人がたくさんいるが、それはなぜなのか。自身もネット上で「よくからまれる」という精神科医、井上智介さんが、加害者の心理を解説する――。
ネットでの誹謗中傷に頭を抱える男性
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「悪者が制裁されているのを見たい」という欲求

私はYahoo!ニュースの公式コメンテーターなのですが、コメントするとよくからまれています。ニュースの内容についてコメントすればいいのに、なぜか私のコメントにコメントしてくる。「井上は頭がおかしいから入院したら?」とか、わざわざ書いてくる人もいます。

ネット上で誰かを中傷したくなる気持ちはだれの中にもあります。というのは、そもそも人間には、「社会的ルールを破った人や、何かずるいことをしている人が、制裁を受けている姿を見たい」という欲求があるから。だからこそ、警察の密着番組やワイドショーの番組などが長く続いているんですね。悪者がつかまっているところを見たい、悪人が成敗されているのを見たい、そういった興味や関心があるのです。

もちろんそれ自体は誰にでもあるものですし、悪いものではありません。ただ問題は、それが行き過ぎて、他者を攻撃してしまうことです。

最初は誰かに対し「なんだかちょっと気に入らないな」と思う程度であっても、ネット上だと、どうやらその人について、自分と同じように気に入らないと思っていた人がたくさんいることがわかってきます。「みんなもそう思っているんだ」と思うと、自分の「気に入らない」という気持ちがどんどん強くなり、「許せない」となってしまう。まさにSNSの効果です。そこから自分も投稿という形で、制裁に加わり攻撃してしまうのです。

「正義感型」と「炎上参加型」

攻撃的な投稿をする人には、「正義感の強い人」と「炎上参加型の人」の2つのタイプの人がいます。くわしく説明しましょう。

まず正義感の強いタイプから。たとえば芸能人の不倫というニュースは多くありますが、もともと自分の生活には全く影響はなく、関係のないことのはず。それなのに正義感の強い人は、その正義感ゆえに「何か制裁を加えたい」という欲求が生まれてしまいます。こういう人の根底には“公正世界仮説”を信じる気持ちが強くあります。

公正世界仮説とは、何かいいことをすれば、いいことが返ってきて、悪いことをすれば罰せられるという考え方。だから正義感の強い人は、悪いことをしている人を見ると罰されて当たりまえと思うようになる。

では、なぜこの考え方が強くなるのか。その背景には、「自分はこれまで頑張ってきてうまくいった」という成功体験の積み重ねがあるのです。それが「頑張ればいいことが起こり、悪いことをしたら罰せられる」という考えに輪をかけていくのです。

こういう正義感をもって攻撃するタイプの人は、一定の高い役職に就いていたり、収入が高かったりと、いわゆる社会的に成功している人が多いという調査データがあります。世間的には、ネット中傷に加担しなさそうに見える人が多いのです。

そういう人が他人を攻撃せずにいられないのは、やはり悪を批判しないと自分を肯定できないからでしょう。社会的に成功しているように見えて、実は周りに自分を認めてくれる人がおらず、孤独感や孤立感を感じているのです。だからこそ、自分の正しさを認めてほしいという欲求が強い。そういう人の「あなたは正しいと認めてほしい」という欲求が強くなると、ネット上で誹謗ひぼう中傷に近いことを書いてしまうのです。

攻撃しないと認めてもらえない

一方、炎上参加型の人は、正義感も世直し欲も特にありません。ただ「何か不快なことやいやなことを生み出す人間は、とりあえず攻撃していい」と認識して攻撃してしまうのです。

このタイプの人は、現実社会では、いわゆる社会的弱者が多い。不満があるのにちゃんと言えない、言いたいことがあっても常に我慢しなければいけないと思わされる立場にある。でもネット上なら匿名だから、我慢せずに言いたいことも言えるし、悪いことをしている人に「悪い奴だ!」と攻撃しても、自分が否定されることもない。そこで相手を倒せば、ふだん得られない快感や興奮を得ることができる。ある意味、憂さ晴らしを目的に炎上に参加するわけです。

結局、どちらのタイプも攻撃的な内容を投稿して、“いいね”が押されたり、リツイートされたりすると、「やはり自分は正しいんだ」と承認された気になります。それこそが自分の存在の証明になるので、攻撃しないと誰からも承認されないし、自分の存在もなくなってしまう。だからどんどん投稿がエスカレートしていくわけです。まさに中毒です。

ネット上で匿名だと、意地悪したり、攻撃的になったり、「率直」になったりするのはとても簡単だ
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無反応がいちばんの“仕返し”

では、もし自分がネット上で攻撃を受けたら、どう対処したらよいのでしょうか。

絶対にしてはいけないのが、「言い返す」ことです。

相手の攻撃に反応して言い返すと、相手はもっと攻撃したくなってしまう。相手の存在を認めて、相手の承認欲求を満たすことになってしまうからです。言い返すことは、相手の「攻撃したい欲求」を刺激する信号になるので、どんどんエスカレートします。でも相手にしなければ、相手は寂しくなるばかりです。それこそが一番の防御であり攻撃です。

もしネット上でからまれた場合は、先ほどご説明した、正義感タイプ、炎上参加型といった「ネットで攻撃してくる人の人物像」を想像してみてください。そして、「承認欲求が強いんだろうな」と考えながら相手の書き込みを読み直してください。心を落ち着けて、どうすべきか考えやすくなると思います。

こうなると、どちらが正しい、正しくないという問題ではないのです。とにかく何も言わないことです。「君子危うきに近寄らず」です。ブロックやミュートなどSNSの機能を使って、無反応に徹するのがいちばんの対策となります。

とはいえ、今はそれで自殺する人もいる世の中です。「プロバイダ責任制限法」という法律ができて、加害者を取り締まることに国も前向きな姿勢を示していますから、あまりにひどいときは、弁護士など法律の専門家に相談するという選択肢を持っておきましょう。泣き寝入りする必要はありません。

「息を吸って吐くように」ブロックする

私自身は医療界ナンバーワンの「ブロッカー」を自称しています。ツイッターでも、理不尽にからんでくる人に対しては、息をするかのごとくブロックしています。相手にしないようにしています。

もともとSNSでからんでくる人は、一生会うこともない人なので、相手にするだけ損。精神的に疲れるばかりで、いいことは何もありません。

ブロックすること、無視することが相手への何よりの攻撃になります。だから、どんどんブロックしていけばいいのです。

ネットでは、つながりを断つ練習を

とはいえブロックすること自体に抵抗感がある人はすごく多いですね。まったく面識もない相手で、もともと関係などないのに、それでもつながりを切るのには抵抗がある。

人がつながりやすいのはSNSの利点でもありますが、問題点でもあります。ネットの世界では、人と人がつながりやすくなりすぎている面がありますので、心身の健康を保つためには、ある程度つながりを断つ練習が必要です。リアルの人間関係とはまったく違いますから、慣れや練習が必要でしょう。

フェイスブックなどで、まったく知らない人から友達申請やコンタクト申請が来たときなどは、よい練習になります。「何となく悪い気がする」という人もいますが、少しでも違和感を感じたら、迷わず削除/ブロックすればいい。もちろん、自分に攻撃をしかけてくる人などもってのほかです。

心地いい環境は自分でつくる

私たち人間は、大昔から「心地いい環境をつくる」ためにさまざまな工夫をしてきました。それは当然、SNSでも同じです。自分の心地いい環境をつくることは当たり前のこと。合わない人とは、無理に合わせる必要はありません。

現実社会では、どうしても合わない人と合わせないといけない場面もありますから、そのエネルギーはとっておいたほうがいい。SNSでいちいち悩むのはもったいない。

SNSには人とつながりを持てる、個人の力を感じられるという大きな利点があります。家でも職場でもない第三の居場所になる可能性もあります。だからこそ、それを一部の人に乱されるのは本当に残念なこと。いやな人には取り合わず、自分の居心地いい空間づくりを大切にしてほしいと思います。