怒りの度合いは口調ではわからない
年末は何かと気忙しく、ついイライラしがちでクレームも増える時期と言われています。最近は、サービスの向上に役立つ「ご意見」として対応できるレベルを超えて現場が疲弊してしまういわゆる「カスタマーハラスメント」も問題になっています。
ただし、激しい言葉や態度だからといって、一概にクレーマーと決めつけるのは禁物です。逆に、怒りを冷静に表現する方もいます。初期対応で怒りの度合を勝手に判断するとお客様の怒りを増幅させて「問題を解決したい」から「文句を言わないと気がすまない」にエスカレートしてしまうこともあります。
中でもありがちなのが、お客様が突然言ってきたことに対して、咄嗟に出たひとことが引き金になり感情をこじらせてしまうものです。そこで、ここでは初期対応でお客様の感情をこじらせない話し方のポイントについて見ていきます。
クレーム対応は「感情の解決」と心得る
まずは、簡単にクレームが起こる仕組みを押さえておきましょう。
クレームは「あるべきものが無い」という期待と結果のギャップから生まれます。例えば、期待通りのサービスが受けられない、正確な情報が得られない、購入したばかりなのに動かないなどです。
クレームのレベルは3段階に分かれていると言われています。レベル1・プロダクト(製品)、レベル2・ハウツー(使い方)、レベル3・感情レベルとなっており、このレベルを見きわめ、お客様の怒りの原因は何か、何を求めているのかを察することが肝心です。
特に大切にすべきなのは、「人は誰でも自分を大切に扱ってほしいという期待を胸に秘めている」ということを忘れないことです。
「この製品は使いにくい」というのはハウツーレベルのクレームですが、担当者の対応が悪いと「大切に扱われたいという期待」が満たされないため、クレームが感情レベルにまで上がってきます。そのため、初期対応ではお客様を尊重して大切に扱う事が重要です。
中でも電話は声だけのコミュニケーションなので、「声が小さい」「早口だ」など話し方の印象が悪いということが二次クレームになることもあります。電話では聴き取りやすいスピードと声、抑揚を付けて感じ良く、「恐れ入ります」等のクッション言葉で丁寧な印象を与えるように心がけましょう。
また、会社対お客様という対立の構図ではなく、「私は、あなたの味方ですよ」という気持ちで聴いてあげると傾聴の姿勢がとれます。こうした心構えが言葉の端々にも表れます。それでは、次に初期対応の流れに沿って見ていきましょう。
初期対応のステップ別話し方のポイント
初期対応では相手のネガティブな感情を全て吐き出させることで、マイナスの感情をゼロにリセットさせます。人は話すと落ち着くので、まずは話を最後まで聴きます。途中で反論したり話を遮らないようにしましょう。感情がリセットする前に「で、どうしたいんですか?」など質問をしても反感を買ってしまいます。優先すべきはお客様の気持ちを落ち着かせることです。
①謙虚な姿勢を示して感情と情報を引き出す
まずは、お客様に対して「わざわざ知らせてくれてありがとうございます」「ご一報ありがとうございます」という謙虚な姿勢を示す「感謝のことば」を伝え、敵対的な関係でないことを示します。
②気持ちを静めるため丁寧にあやまる
もしお客様が怒りで冷静さを失っている様子であれば、まずは丁寧にお詫びの言葉を伝えて気持ちを静めてもらいます。この時のポイントは、詫びる対象を限定することです。クレームの内容をきちんと把握しないままに全面謝罪はNG。この段階では、対象を特定して「○○に関して申し訳ございません」というフレーズを使います。
例えば、説明不足に対して、お手数をおかけしたこと、そして大切なのが感情に対してのお詫びです。初期対応のお詫びの言葉を知っておくと、いざという時に慌てずに対応できます。
初期対応のお詫びの言葉の例
「不愉快な思いをさせてしまい申し訳ございません」
「ご迷惑をおかけして申し訳ございません」
「ご不便をおかけして申し訳ございません」
「説明が充分に行き届かなく、申し訳ございません」
「せっかくのご信頼にお応えすることができず、申し訳ございませんでした」等
返品の提案よりも「お怪我はありませんでしたか?」
③あいづちで共感する
相手の怒りを鎮め、解決の糸口を見つけるには「あいづち」で感情に理解を示すことも重要です。「はい」という短い返事でも気持ちを込めれば十分伝わります。一方、いくら丁寧な言葉でも機械的だとむしろ軽くあしらわれているという気持ちにさせます。お客様は怒りを分かってほしいのです。ですから、お辛かったですね、不安でしたよね、ご不便でしたよねというシンプルな言葉でも気持ちが込められていれば伝わります。
共感を伝えるあいづちのバリエーションには、「はい」「そうですか」「ご事情お察しいたします」「お気持ちは理解できます」「さようでございましたか」等があります。
また、気遣いある言葉をタイミングよくかけることも大切です。例えば、お客様が「昨日、こちらで買ったんだけど」とおっしゃったら「ありがとうございます」と感謝の気持ちを伝えます。「購入したコップにひびが入っていた」というお客様の場合であれば、「お怪我はありませんでしたか?」等、返品の提案より先に気遣いある言葉をかけて気持ちに寄り添いましょう。
同じ話を繰り返されても「ですから」は禁物
④逆説、否定の言葉は使わない
お客様の気持ちを逆なでしてしまうのが、「そうおっしゃいますが」「ですが」「でも」「しかし」という逆説の言葉です。また、間違っても「いいえ違います」「そんなはずはありません」等お客様の言葉を直接否定する言葉は使わないこと。
それではお客様がこんな風に言ってきた場合、どう返したらいいでしょうか。
・「そんなこと聞いてないよ!」と言われた。
→「いいえ、お伝えしてあるはずです」と反論をせず、「わかりやすい説明ができておらず失礼しました」と返しましょう。
・「そもそもスタッフの教育がなってない」というご指導を受けた。
→この場合、線引きが必要です。直接迷惑をかけたことに関してはお詫びをしますが、直接関連がない社員教育にまで口を出してくる場合には、「日々精進してまいりますので、どうぞ温かい目で見守っていただければと思います」と返しましょう。
・何度も同じ話を繰り返す場合。
→ついうんざりして「ですから」と返しそうになりますが、それでは神経を逆なでします。一呼吸置いて「○○様のおっしゃりたいことは○○でございますね。先程しっかりお伺いしております」と丁寧な受け答えをしましょう。
⑤オウム返し話法で繰り返す
お客様の言ったことを繰り返すと、自分の話にしっかり耳を傾けてくれていると気づいてもらえます。
例)お客様「頼んだものと違う商品が入っていたんだけど」
×店員「はい、ではお調べいたしますので伝票番号を教えていただけますか」
○店員「お求めいただいたものとは別の商品が届いたということですね。大変申し訳ございません。お調べしますので恐れ入りますが伝票番号を……」
このように、先を急がず、お客様の話を繰り返してから丁寧に進めましょう。
⑥説明、提案をする場合
一方的に話をされると思わず言い訳をしたくなりますが、言い訳や反論は控えます。こちらに全く非がない場合であっても、相手が完全に話し終えてから事情の説明を行います。
説明をする前には、一通りお客様が話をしたところで「おっしゃりたい事を全て言っていただけましたか」と確認をして、自分が話してもいいか許可をとりましょう。
次に「○○の件について○○様は、どのような状態になれば理想的ですか」と「○○の件」と限定した上で、相手が期待している状態を訊ねるのです。ここでのポイントは、「(私どもに)どうしてほしいですか?」という質問ではないことです。
怒りが静まったところで「どんな状態になりたいのか」言ってもらうと、時として自分で解決法を考える自己説得になることがあります。例えば、「取扱説明書の文字が小さくて読めない」というクレームに、どのような状態になれば理想的かとお客様に質問したところ、「説明書が読めればいいんだよ!」と答えたとします。このご自分の言葉で、もしかしたら、メガネの度数を変える、老眼鏡を使うという解決法が思い浮かぶかもしれません。
もちろん問題解決の提案として、「Webページからダウンロードして読みやすい説明書をご覧いただけます」とご案内しても情報として間違ってはいません。しかし、万が一PCを日常的に使っていない方だと、いきなり説明を始めると不親切だと思われるかもしれません。
そこで、いったん相手の理想の状態を話してもらった上で、「説明書をお読みいただけるよう、私どもにできることは何かと思いながらお客様のお話を伺っていたのですが」と前置きをしてから、Webページからのダウンロードの説明に入ると、自分を丁寧に扱ってくれていると伝わり話を聴いてもらいやすくなります。
「できないものはできない」も肯定表現で伝える
全ての要望に応えられるわけではないので、できないこと、意向に沿えないことを説明することもあります。その場合、「できません」「わかりません」など、否定語で切り返すと拒絶しているように聞こえます。お客様へのお断りは、「いたしかねます」「わかりかねます」という表現にすると否定の印象が和らぎます。
「不快な思いをさせてしまい申し訳ございませんが、ご希望に添いかねます」
「貴重なお時間を頂戴してしまい申し訳ございませんが、即答いたしかねます」
また、否定表現ではなく肯定表現を使って伝えると説明を受け入れてもらいやすくなります。例えば、
お客様:「週末は休みなの?」
担当者:「はい、恐れ入りますが変更手続きは平日に対応しております」
お客様:「平日だと、仕事があってちょっと難しいんだけど」
担当者:「お忙しいなか恐縮ですが、オンラインでも変更手続きができますので、期日までになんとかご協力いただけないでしょうか」
「平日じゃないとお手続きができません」と言うと否定の印象が強まりますので、このように肯定表現に変えて伝えましょう。