社会学者の上野千鶴子さんは「ここ数年、ガマンしない女性たちがつぎつぎに登場し、そして彼女たちの声がちゃんと届くようになってきた」といいます。そんな時代に女の子が抱える「束縛彼氏、どうしたら」「むりやりキスされた」……などのモヤモヤに、上野さんが全力で答えました――。

※本稿は、上野千鶴子『女の子はどう生きるか』(岩波ジュニア新書)の一部を再編集したものです。

束縛
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彼氏ができたんですが…

【Q】彼氏ができました。いっしょにいないときの私の動向をやたら知りたがります。LINEをしつこくおくってきます。既読をつけないと怒るし、おまけにオレ以外の男としゃべるな、といってきました。別れた方がいいでしょうか?

【A】わお、あなたは「別れた方がいいでしょうか?」って、もう答えを自分で出しているじゃありませんか! はい、正解です。

彼氏彼女になったら、オレのモノ、って、あなたの彼氏は思ってるみたいですね。どこにいても何をしていても、オレを最優先にしろ、って。こういうのを「オレサマ男」っていいます。

こういう態度を、「わあ、あたしのことをこんなに思ってくれてるんだ、こんなに気にかけてくれてるんだ」って受け取るカン違いを、あなたはしてませんよね? 彼氏の態度は執着と支配。「オレ以外の男としゃべるな」なんて、とんでも発言。人類の半分は男、そこから彼以外の男をすべて排除したら人生が貧しくなります。こういう男の「独占欲」を、「きゃっ、そこまで思ってくれるなんてうれし~」なんて思い違いしていませんよね?

こういう男性は、あなたが思い通りにならなくなると、逆ギレしてストーカー男になったりDVになったりします。ストーカー男は、女性が逃げ出すと、ほかの男にわたすぐらいなら最終的に「オレのモノ」にしてしまおうと、女性を殺すこともあります。おお、こわ。

だから早めに気がついたら、早めに別れた方が、傷が浅くてすみます。あなたの判断は賢明です。

それでも「別れられない」女性がいるとしたら、どんなひとだと思いますか? たとえば初めての彼氏で、彼氏ってこんなもの、愛されるってこういうこと、だと思うほど、経験が浅かったら。それにやっとできた彼氏で、どうしてもなくしたくない、としがみつくなら。自分に自信がなくて、こんなワタシでも選んでくれた彼氏だから自分がガマンしなくては、と思ってるとか。彼氏がいる、って友だちに言えるようになって、その彼氏を失いたくないと世間体を気にしてるとか。どれもこれも、あなたの内面の理由でなくて、外にある理由ばかりです。

覚えておいてください、愛されるって、大事にされるってこと。大事にされるって、あなたの意思を尊重されるってこと。大事にされるってキモチよいものです。もし彼氏との関係がキモチよくなかったら、警戒信号。この彼氏、はっきり言ってウザいです。自分の心とカラダにきいてみて、キモチよくない関係は一刻も早くやめましょう。

「イヤよイヤよも好きのうち」?

【Q】彼氏にむりやりキスをされました。断ったのに。相手の同意なくすることは暴力だと思うのですが、どうしたら分からせることができるのでしょうか?

【A】日本語には「イヤよイヤよも好きのうち」というコトバがあります。女は性的に無知で慎み深いから、イエスがはっきり言えない。だからオモテ向きはイヤがってもホンネは違う。そこを察して、押し倒してでも想いを遂げたら、結局女は頬を赤らめて、男の思いどおりになる……って。まあ、いつの時代のことでしょうねえ。いまどき、これだけ性の情報があふれているのに、「性的に無知で慎み深い」女がいるなんて。

「性的に無知で慎み深い」ふりをしている女なら、いるかもしれません。その方が男受けがよい、と思って。なぜそのほうが男受けがよいかといえば、無知な女はコントロールしやすいからです。

わたしの知っている女の子に、男にずっとSMまがいの嗜虐的しぎゃくてきなセックスばかりされている女性がいました。なぜって彼が初めての男だったから、セックスってそんなものだと思って、つらくて苦しかったけど、疑問を抱かなかったんだそうです。

実の父親に性的虐待を受けつづけた娘にも、世の中の父と娘ってこんなことをするもんだと思って、疑問に思わなかったという女性がいます。無知ってこわいですね。

何かイヤなことをされたと思っても、「お母さんには黙ってるんだよ」とか「ふたりだけの秘密だよ、人に言っちゃダメだよ」などと、無知につけこんで言葉たくみにコントロールされ、「おかしい」と思った時には声を出せなくなっていることもあります。事実、性暴力(強姦ごうかん)は、知らないひとより、身近なひとによって起こされる割合が年々増えています。

手順をすっ飛ばしてはいけない

キスは身体接触の関門。恋愛は接近の技術、しだいに距離を縮め、指先が触れ、手を握りあい、抱きしめあい、とても敏感な粘膜である唇を触れあいます。それから先は……と、ものごとには順番があります。

身体に侵入してくる他人はリスク。その他人が少しずつ接近してくるときには、「ここまではいい?」といちいち相手の同意が必要です。ちょうど他人の家に入るときに、ひとつずつかんぬきをはずすように。自分のカラダを他人にゆだねるのですから、安心がなければなりません。それを無理強いされたら、恐怖心や忌避感きひかんが起きるのは当然です。あなたの彼氏はその手順をすっとばしてしまったんですね。

ちなみに、この身体の閂をお金で強引に開けさせて、他人の身体に侵入するのが買春かいしゅんというものです。

施錠
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大きなお世話、わたしにはわたしの意思がある

上野千鶴子『女の子はどう生きるか』(岩波ジュニア新書)
上野千鶴子『女の子はどう生きるか』(岩波ジュニア新書)

あなたの彼氏は古い女性観を持っているかもしれませんね。ほんとはあなただってやりたかったのに、恥ずかしがりだから自分では言えない、だから少々強引でもボクがひっぱらなきゃ、と。そういう男性には、ちゃんと教えてあげてください。

大きなお世話、わたしにはわたしの意思がある、イエスはイエス、ノーはノー。心配しなくても、自分で決められる。突然のおしつけは、恐怖しか与えないから、逆効果にしかならない。キスをしたいとき、セックスをしたいとき、自分にその準備があるかどうかは、そのときになってみないとわからない。そういう時には必ずわたしにいてくれない? 「キスして、いい?」って。そうしたらニッコリ笑って「いいわよ」って言うから。……そうしたらふたりとも幸せになれるでしょう?

ひとつひとつ、確かめてね

でも、忘れないでください。キスしてもいい、って答えたからって、ハダカになっていいと答えたことにならないし、セックスしてもいい、と答えたことにはならない。セックスしてもいい、と答えたからと言って、避妊しなくていいとは言ってない。ひとつひとつ、わたしの意思を確かめてね、と。

最近ではYes means Yesと、「合意なきセックス」を性暴力だと見なす考え方がようやく広まってきました。夫婦のあいだでも同じ。夫婦だからといって相手の身体にむりやり押しいってよいものではありません。夫婦のあいだでも合意がなければ強姦になる、という考え方も、ようやく広がってきました。

男のなかには、女がはっきり意思表示をするとえる、というバカがいるようですね。自分の意思を持った女がキライ、な男は、あなたの方から願い下げにしたほうがよいでしょう。