子どもは不調を教えてくれない
実はもともと9月というのは、子どもの心身の不調を意識しなければいけない時期です。夏休み中は、苦手な先生やいじめっ子など、いやな人に会わなくていいですし、いやなことから逃げられましたが、夏休みが終わると現実に向き合わなければならなくなります。これは子どもにとって大きなストレスになります。学校に行きしぶるだけでなく、赤ちゃん返りして、やたら親に甘える子どももいます。
9月1日は、例年子どもの自殺が増える最も危ない日ですが、そこを乗りこえてスタートを切れたとしても、そのあとに心身の不調に至る子は少なくありません。しかも今はコロナ禍で夏休みの延長や分散登校など、イレギュラーなことばかり。子どもは、もういっぱいいっぱいです。うまく対処できず、ストレスを貯めてしまうのです。
そのときに親として大事なことは、まず子どもの変化に「気づく」ことですね。親御さんの中には、「不調は、子どもが自分から教えてくれるものだ」と思い込んでいる人がいます。「子どもが言わなかったからわからなかった」と。しかし、子どもから教えてくれることは、ほとんどありません。
いじめの問題もそうですが、子どもはそもそも、親に心配をかけたくないと思っています。また、親に相談すると、先生たちを巻き込むことになって大ごとになり、結局自分がつらい思いをしてしまうのではないかという不安もあります。ですから、子どもが自分から言うことは、まずないと思ってよいでしょう。だからこそ、親自身が気づくことが、とても大切なのです。
「子どもと接している時間」実はわずか
子どもの変化に気づくには、当然ながら、子どものふだんの様子を知っていなければいけません。しかし、今は共働きが当たり前ですし、実は親が子どもと接している時間はそう多くありません。これを、まずは親自身が認識することです。「接する時間が少ないから、子どものふだんの様子は、わかっているようで、わかっていないんだな」と自覚を持つことが重要です。
だからこそ子どもと一緒にいる時間は、子どもの様子をしっかりと観察しなければなりません。
観察する時に見るべきポイント
子どもと一緒にいる時に注意すべきポイントは次の4つです。
(1)親の顔を見なくなる
子どもは震災や事故、いじめなどでストレスにさらされ、精神的につらくなると、親に心配かけたくないという思いから、親の顔を見なくなります。親からすると、急に子どもと視線が合わなくなります。元気がなく、ずっと下を向いてうつむいていたり、テーブルで向かい合わせに座っていても、どこかぼんやりして親と視線を合わせなくなったり。こういった変化には注意が必要です。
(2)注意力が散漫になる
大きなストレスを抱えると、子どもは注意力が散漫になって、忘れ物や失くしものが増えます。教科書やノートなど、学校に持っていくものを忘れることもありますし、学校から渡されるプリントを親に渡しそびれることも多くなります。プリントを渡されない、渡されても締め切りが過ぎているものだった、といったことが増えてきたら気をつけましょう。また、これまでのように宿題ができなくなることもあります。指示された宿題を間違えたり、期日までにできないことが目立つようになったら、注意が必要です。
(3)元気がなくなる
子どもは本来、いろいろなものに興味があって、触ってはいけないものすら触ってしまうほど元気いっぱいのはずですが、ストレスがあると、そういった活動性がなくなって、家でじっとしていることが多くなります。おそらく動くとしんどいので、無意識にエネルギーを使わないようにしているのでしょうね。
(4)ぐっすり眠れなくなる
たいていの子どもは、夜ぐっすり眠れるものですが、ストレスがたまると、きちんと眠れなくなります。夜遅くまで目がさえて寝つけないパターンもありますし、夜中に急に飛び起きてしまうパターンもあります。子どもがきちんと眠れているかどうか、注意して見ておくようにしましょう。
家を「安全・安心な場所」にする
こうした子どもの変化を感じとったとき、親はどうすればいいのでしょうか。まずしてほしいのは、子どもに家庭を「安全・安心な場所」と認識させることです。
そもそも子どもがそこまでストレスをため込むのは、学校でうまくいかないことがあることも含めて、「社会から切り離されている」という不安があるからです。コロナ禍で、学校に行けない、友だちと会えない、塾や習いごとも休み、となると社会とのつながりが薄くなり、コミュニティは家の中だけになってしまいます。
ですから、その「家」を、子どもにとって安全・安心な場所として機能させることが、親の大事な役目になります。
子どもにとって家を安全・安心な場所にするためには、親が子どもを「承認」することが大切です。親が子どもを承認せず、家が子どもの存在を否定する場所になってしまったら、子どもは居場所がなくなってしまい、ストレスや不安が増大してしまいます。
「プロセス」と「存在」で子どもを承認
では、「子どもを承認する」とは具体的にどうすればいいのでしょうか。ポイントは大きく2つです。
一つ目は「プロセスの承認」です。子どもは、今突然つらい気持ちを抱えるようなったわけではありません。ずっと前から大変だったのに、親に気づかれないように隠しつつ、ごまかしつつやってきたのです。
ですから親は「よく頑張ってきたね」「気づかなくてごめんね」と、子どもが大変な思いを抱えていたこれまでのプロセスをしっかりと承認してあげるのです。そうすると子どもは、「親は自分をちゃんと見てくれているんだ」と安心します。
もう一つは「存在の承認」です。「○○ちゃんがいるだけで、お母さんは助かるよ」「○○ちゃんがいてくれて、ありがとう」と本人の存在そのものを承認する言葉がけをするのです。
直接言うのが恥ずかしいときは、「○○ちゃん、おはよう」「○○ちゃん、これ食べる?」と名前を呼んで挨拶したり、声掛けしたりするだけもいいでしょう。
小さなことのように思えるかもしれませんが、こうした積み重ねが重要です。ぜひ親御さんには、こうした2つの「承認」を日ごろから意識してほしいと思います。
学校に行きしぶったらどうするか
それでも子どもが「学校に行きたくない」と言い出したら、どうしたらよいでしょうか。
まずは休ませることです。無理に学校に行かせてはいけません。子どもが「行きたくないけど、頑張って行こうかな」と言っても、それを止めるくらいの方がいいと言ってもいいぐらいです。
親はつい「そう言わずに頑張って行ったら?」と言いたくなってしまうでしょうが、これは絶対にNGです。
たとえば、会社の同僚が心身の不調を訴えて、「会社に行きたくない」と言い出したら「ちょっと休んだら」と言うのではないでしょうか。多分、「そう言わずに頑張って行ったら」とは言わない。それが自分の子どものことになると、とにかく学校に行くように勧めてしまいます。
子どもも大人も、心身が疲れてしまうことはあります。そして疲れたときは、無理をするのではなく、しっかり休まないと回復できません。
ですから子どもが親に「学校に行きたくない」と言ったら、「正直に言ってくれてありがとう」と応えましょう。怒ったり、急かしたりすると、子どもは親に対してSOSを出さなくなります。深刻な状態に陥って初めて気付くということにもなりかねません。子どもが早いタイミングでどんどんSOSを出せる環境をつくることが大切です。
子どもが学校を休んだ場合も、勉強させたり、規則正しい生活をさせるたりと、何かを強いるのは良くありません。子どもが好きなようにのんびり過ごして充電し、心の中のモヤモヤがなくなって「学校に行こうかな」と思えるようになるのを待つ。待つというのは本当に難しく、つい発破をかけたくなりますが、そこはしっかり待ちましょう。
親もストレスを抱えている
今は、子どもだけでなく、親自身もストレスを抱えています。コロナ禍の、制約が多く先の見えない状況に対応しながら、子どもを守らなければいけないというプレッシャーもあるでしょう。
私のところを受診される方の中には、コロナ禍のため、これまで子育てを手伝ってくれていた親(子どもにとっての祖父母)を頼れなくなり、負担が増えて、「何から手をつけたらいいのかわからない」と混乱しているお母さんもいらっしゃいました。「こうした大変な時だからこそ、親である自分が頑張らなくては」と、自分で自分にプレッシャーをかけている人も多いようです。
「自分と向き合う時間」を持つ
そもそも大人は、会社では従業員、家では妻や夫、母や父などの、いろいろな役割を背負っています。その役目を果たすことばかりを考えていると、周りからの期待に応えようとして「自分の気持ちや行動を自分でコントロールできていない」という感覚に陥り、ひどくなると心身の健康を損なってしまいます。
コロナ禍で、ストレスが多い時だからこそ、時には「親」などの役割から離れて、自分をいたわる時間を持ってほしいですね。好きな動画を見たり、音楽を聞いてぼんやりするといったことでいいと思います。1日に10分でもいいので、自分に向き合う時間を持つようにすることが大切です。