ドラッグストアの棚にずらりと並ぶ市販薬。市販薬の販売を担当してきた薬剤師の久里建人さんは「薬について誤解している人、不適当な薬を選んでいる人が多い。特に水虫の市販薬は皮膚科医からの評判が悪い」という――。

※本稿は、久里建人『その病気、市販薬で治せます』(新潮新書)の一部を再編集したものです。

かゆみのある女性の足元
写真=iStock.com/RyanKing999
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薬で症状が悪化することも

水虫は、市販薬で治せる病気です。もちろんすべての水虫を治せるわけではありませんが(後述のように、爪水虫などは受診が必要です)、軽度の症状であれば十分に対応できます。

にもかかわらず、水虫薬ほど皮膚科医からの評判が悪い市販薬はありません。私が医療専門誌を読んだり、実際に皮膚科医と話したりしてきた中で感じるのは、「市販の水虫薬は皮膚科医から恨まれやすい」ということです。特に、医療従事者向けの雑誌や書籍では、まるで食後のデザートのように市販の水虫薬への批判的な内容が掲載されるのがおきまりのコースです。

その理由はまず、市販の水虫薬に含まれる成分の多さです。病院の処方薬は、1つの薬に1つの成分が基本です(これを単剤と呼びます)。ところが、市販薬は4~5成分が当たり前、なかには7~8成分も配合した薬まであるのです。

しかし、どれほど成分が多くても、水虫菌を殺す抗真菌成分はたった1つだけで、残りはかゆみや炎症を一時的に抑える対症療法の成分。もちろん、それらの成分は、不快感を和らげたり、二次感染を予防したり、厚くなった皮膚を柔らかくするといった目的があって配合されたものです。しかしまずいことに、こうした多くの成分が原因で、「接触皮膚炎」と呼ばれるかぶれが起きることが懸念されています。良かれと思って使った水虫薬によって、症状が悪化することがあるのです。

なぜ「診断の邪魔」になるのか

また、市販薬が医師の診断の邪魔をするという意見もあります。足に生じている症状の原因が水虫であるかどうかは、実は皮膚科医でさえなかなか判断がつかないとされています。そこで皮膚科では、水虫が疑われる患者さんが来たらまず、かゆい部分の皮膚を取って、顕微鏡で実際に菌がいるかを確かめます。そうして初めて、水虫だと自信を持って言えるのです。

ところが、市販薬を受診前に使ってしまうと菌が減るため、病院でいざ検査をしても「菌がいない!」という結果になってしまい、正確な診断がつきにくくなるのだそうです。市販の水虫薬を使ってから受診すると、患者自身も医師も手間がかかり、結果的に医療費も増えることになりかねないわけです。

しかも、患者自身が「これは水虫だ」と思って受診したにもかかわらず、検査によって水虫ではないことが判明したケースは珍しくありません。過去の調査報告では、水虫を主訴(主な症状)として受診したにもかかわらず水虫以外の皮膚炎などだった患者の割合は4割、同様の別の報告ではなんと7割という結果でした。

水虫ではないのに水虫だと自己判断して市販薬を使い、仕方なく皮膚科を受診した時には症状が悪化してしまっている。これが、皮膚科医から市販の水虫薬が恨まれる理由です。

足に生じている症状の診察
写真=iStock.com/AlexRaths
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「専用の薬」の選び方

とはいえ、過去に水虫だと診断されて、かなりの自信を持って今回も水虫であると自分でわかる場合もあるでしょう。症状も軽度であれば、市販の水虫薬で対応してもさほど問題はないと思います。あるいは、水虫の診断をすでに受けた後、再受診せずに薬を中断するよりは、市販薬で治療を続けた方が良いでしょう。

成分で選ぶ時に、必ず守らなくてはいけないのは、「水虫専用の薬を選ぶ」ということです。水虫は白癬菌(はくせんきん)というカビの一種であり、その殺菌には「抗真菌薬」と呼ばれる成分を用いなくてはいけません。日本では1990年代に病院用の薬として発売された【ブテナフィン】や【テルビナフィン】、【ラノコナゾール】などの新しい成分は、2000年代に入ってから市販薬としても発売され、効果も十分期待できます(これより古い他の成分が効かないという意味ではありません)。

ポイントは「毎日塗り続けること」

水虫治療で大切なのは、何と言っても「毎日塗り続けること」です。皮膚の入れ替わりは1カ月と言われており、水虫の場合は最低1~3カ月は塗り続ける必要があります。前述のとおり、市販の水虫薬の多くは菌を殺す成分以外にもかゆみを抑える成分などが配合されているため、使い始めればかゆみは治まるはずです。しかしここで塗るのを止めてしまうと、菌が根絶できず、いずれぶり返すことになります。

日本皮膚科学会の「皮膚真菌症診療ガイドライン(2019年)」では、継続期間は患部の角層の厚さによって異なり、指間型では2カ月以上、小水疱型では3カ月以上、角化型では6カ月以上が目安であるとしています。

現在は市販薬メーカーも、利用者が長く続けやすいように「まずは1カ月!」といったキャッチコピーを作って継続使用を呼びかけています。例えば「ブテナロックVαクリーム」という商品は以前は15g入りでしたが、2018年にリニューアルし、28日分となるよう18gに容量を変更しました。それによって、「まずは1本を使い切る」というわかりやすい目安ができたのです。

かゆいところだけでは不十分

また、塗る範囲はかゆい部分だけではなく、周辺を含めて全体に塗るのが理想的です。水虫薬にはクリームや液体、スプレーなど様々な種類があり、使いやすさには差があります。症状に合わせて選ぶとともに、自分が使い続けることができる商品を選ぶことが大切です。

久里建人『その病気、市販薬で治せます』(新潮新書)
久里建人『その病気、市販薬で治せます』(新潮新書)

店頭の専門家には、まず今の症状を伝えることはもちろんですが、市販薬で対応することになった場合は「続けやすい薬はどれですか?」と質問するのも良いでしょう。

なお、一般的には「爪の水虫」と呼ばれる爪白癬の場合は、市販薬では対応できず、病院の薬が必要になります。また、水虫は“ただかゆい”だけでは済まされない場合もあります。

私の知り合いの薬剤師は、薬局に水虫相談に来た患者さんに対して、その方の糖尿病歴が長いことを踏まえて、あえて患部を確認させてもらったところ、潰瘍状態を見てすぐに受診を勧めました。後日「あと少しのところで手遅れになり、患部を切断するところだった、薬剤師さんに感謝しなさいと医師から言われた」と、お礼にお芋をもらったそうです。専門家に相談することの大切さを実感できるエピソードです。