“老化スピードは遅くすることができるんです”
加齢と老化は混同されることが多いのですが、実は全く違います。加齢は年を重ねることを意味し、生まれた瞬間から始まります。一方で老化は生体機能が低下していくこと。生殖機能が備わり、成長期が終わる20歳頃に生体機能はピークを迎え、その後は化粧のりが悪くなったり、疲れやすくなったりと老化が始まります。そして加齢はすべての人に平等に訪れますが、老化には個人差があります。
グラフは縦軸が老年期疾患のリスクの高さを表しています。加齢によって疾患リスクが高まるのは変わりませんが、老化のスピードを遅らせることができれば、全体のリスクを減らすことができます。老化自体は病気ではありませんが、老年期疾患と境界線は不明瞭だけれど隣接していると考えておくといいでしょう。ただし、老化スピードを遅くすることはできても、若返ることはできません。だからこそ若いときからの老化対策が必要なのです。
老化のメカニズムは解明されていない
なぜ人によって老化のスピードが違うのか。今の段階では老化のメカニズムは解明されておらず、老化スピードを遅らせる決定的な方法も出ていません。ただ、寿命に対する遺伝子の寄与率は25〜30%といわれていて、残りの70〜75%は住環境、食生活、精神的なものなど、生活環境が影響すると考えられています。
例えばウェルナー症候群という実年齢よりも老化が早く進む早老症の人の多くは、昔は長くても40歳ぐらいまでしか生きることができませんでした。ところが現在では50歳以上まで生存する人もいるようになりました。早老症は遺伝子疾患ですから、薬で治療することはできません。つまり後天的な環境が老化スピードを遅くしているということを表しているのです。
老化のスピードは臓器ごとに変わります。もっとも老化の影響を受けやすいのは肺と腎臓。特に腎臓疾患は見過ごされがちですが、疾患が進むと一気に死へとつながります。また1つの臓器が機能不全になると、ほかの臓器にも影響して、全体の老化スピードが加速します。
では体の老化はどう把握したらいいか。確認したいのが健康診断の数値です。大切なのはそのときの数値ではなく、過去から現在までのデータの推移。例えば老化が進めば血圧は必然的に高くなるため、逆に低くなるほうが危ない。ところが臨床検査の基準値というのは年齢で分類されていないので、血圧が低くなっているのに正常値と診断される可能性もあります。つまり老化の進行状況は、自分の過去の数値と照らし合わせて推し量るべきなのです。老化が進むと数値は個人差が大きくなるので、健康診断も若いうちから受診するのがおすすめです。最近は健康診断の結果をデータ化し、蓄積できるアプリなどもありますので、うまく活用しましょう。
食生活を見直すことが老化対策には重要
生活環境の中で、老化に大きく関わるのは食生活です。これは年齢によって考え方を変える必要があります。50歳ぐらいまではカロリー制限をしたほうが疾患リスクは下がりますので、食事量を満腹になる量から2〜3割減らすよう心がけましょう。ところが85歳以上になると女性の約35%が低栄養になります。加齢とともに消化機能が低下し、量も食べられなくなるので、50代、60代になったら、栄養バランスを考えながらも、好きなだけ食べたほうがいい。50代を過ぎてからのカロリー制限は悪影響のほうが大きく、痩せているよりも小太りぐらいがベストです。特に50代以上でBMIが20以下の人は注意しましょう。
またビタミンCの摂取も推奨しています。厚生労働省がすすめる1日に必要な摂取量は100mgですが、2.5mgしか摂取していない人は3年後に10人に1人、13年後には半分の5人が老衰で死亡するという研究結果があります。ビタミンCはコラーゲン生成にも寄与していて、不足すると骨が弱くなったり、ストレス耐性が低くなることもわかっています。老化スピードを緩めるなら1日1000mgを目安に摂取するといいでしょう。
年齢にかかわらず取り入れたいのは運動です。激しい運動をする必要はありません。散歩など軽い運動で構わないので、ぜひ日常的に行うようにしましょう。
現在、最長寿命は約120歳といわれています。つまり60歳になっても、倍の年齢を生きなくてはいけないということ。健康寿命を延ばすためには、将来を見据え、早いうちからの老化予防が大切なのです。