※本稿は、平美都江『なぜ、おばちゃん社長は価値ゼロの会社を100億円で売却できたのか 父が廃業した会社を引き継ぎ、受注ゼロからの奇跡の大逆転』(ダイヤモンド社)の一部を再編集したものです。
会社の中にある“利益の源泉”に気づけるか
少し自慢します、今うちの会社は、最も社員が多かった時期に比べて、
現場従業員数は3分の1
生産スピードは20倍
になっています。ものすごくコストが下がり、劇的に効率化できている。もちろん会社は高く評価される。
何も考えてこなかった会社なら、どこであろうと、少なくとも従業員は今より減らせるし、スピードは倍増ぐらいできます。両立可能。
反対に、世の中の経営者はなんで取り組まないのか不思議で仕方ない。自分の会社の中に「宝の山」「利益の泉」が隠れているというのに……。
現場改善の準備のための準備
スピード生産のために大切なのは、準備です。考えてみれば当たり前の話で、前もって準備していたほうが何事もスムーズに進みます。
ただ、これも従業員が自発的に気づいて勝手にやってくれるわけではありません。経営者が気づいて、何を準備するかを具体的に明確にしておかなければならないのです。
省人化は、クビ切りではないし、急に機械を購入してもできません。まずは、どこにムダな人員、手持ち無沙汰の人がいるのか、どの現場のどの工程でアイドルタイムがあるのかを把握することから始まるのです。いわば、準備のために何が必要かを考えるだけ。事前に揃えることが本当の準備です。
準備のための準備は社長の仕事
今日一日の仕事内容・その人員配置・時間割はできていますか?
今日一日の材料は正しくすべて揃っていますか?
今日一日の仕事量(生産目標)は決まっていますか?
今日一日、機械が故障しないように整備されていますか?
今日一日の使う道具・治具はすべて適切なモノが揃っていますか?
こういう、現場改善の準備のための準備が何かを明確にしておくこと。それを、全従業員が毎日毎日、怠りなくできるようにするのが、社長の仕事です。
従業員を効率よく動かすための準備ムダだったり、効率が悪かったり、しなくてもいい仕事をさせ続けて、残業して低賃金の従業員のほうがよほど気の毒です。誰も得しない。
効率よく現場を動かして、最小限の時間で最大限の生産量を上げるには、しなくてはならない準備がある。大きく分けて、
やるべき内容、進行状況を「見える化」しておく
機械の整備のための時間を作っておく(機械故障ストップは最悪の不効率)
どこまで準備できるかが、勝負!
ということ。
効率化のカギは一週間単位での生産計画
うちの会社では、1カ月単位の中で1週間を区切って生産計画を立てている。これをどう効率化しているかというと、生産会議を基本的に週1回のみにし、そこで作業の割り振りをすべて決めます。ただ、生産計画の微調整は毎日行います。
ということは、すべての従業員がその時点から2週間後まで、どの日に何をするかを把握できる。そして、各現場、各従業員で翌日何をするか、数日前の段階でペーパーが回るようになっていて、翌日は、確認だけしてすぐスタートできるように準備ができている。
機械のメンテナンスも同じ。省人化が進んでいると、機械が止まったとき最大の不効率が起きてしまうから、前日の終わりに、材料・治具出し、掃除や整理整頓を30分以内で、1週間に1日以上のメンテナンスの時間として空けて、リスクを最小限にするようにしている。
もし、この時点で就業時間を過ぎていても、現場の従業員には前払い残業手当を月21時間支払っているため、前日に終わらせることができる。今日はここまで、続きは明日、というやり方だと、結局、翌日の作業時間が削られ、思わぬトラブルも発生しやすくなり、生産計画そのものがおかしくなってしまうことが多い。
さらに、コロナ禍をきっかけに会議そのものも、ビジネスチャットでほとんどすませるようになりました。うちの会社は24時間稼働しているからむしろそのほうが都合がいい。各工場の現場、営業、事務などの連絡、人や部材の動き、日程の調整など、ほとんどのケースでもはや一堂に会して会議をすることもありません。
“働く”原動力は結局お金
うちの自社株が100億円で売れたくらいですから、当然儲かっています。儲かっているからこそ、あるいは儲けるための秘訣として、給料は、同じ地域、同じ業種の水準よりも、かなり高い。
大卒の兄は地元の農協、高卒の弟はうちの従業員という兄弟がいる。同じ年に入社したが、弟の給料のほうが多かった。当然そういう話は地元にも知れ渡っている。税務署や労働基準監督署の人たちが来て、うちの給与水準を知ると、みんなびっくりします。
結果を出している会社として、結果を出している従業員には、大手以上の給料を払います。私はそれが当然だと思います。
なぜそうするのか? 話は単純、簡単です。
生活に余裕があってこそ安心して働ける。
きれいごとを言っても、これは不変の真理でしょう?
我慢で成り立つ『愛社精神』では、“効率化”は望めない
やりがいがある仕事、大切です。素敵だと思う。では、やりがいはあるから給料は我慢してくれと言われて、モチベーション上がる人がいますか? という話です。それって、ただの搾取じゃないですか。
先ほど、残業してでもトラブルを防止する、と述べました。それが成立するのは、ここで踏ん張ってしっかり準備して、翌日フルで働けるようにしておくことこそが、高い給料をもらっていることの従業員としてのプライドだと思ってくれているからです。
生返事してチンタラやって、ネガティブな気持ちでいるのは、報われていない証拠。
私は会社が儲かっているなら、十分に、あるいはそれ以上に還元したいし、そのメリットをわかっているつもり。愛社精神を持てなんて言わない。みんなで金のために働こう、どんどん改善していこう、でいいんです。それが一番効率いいし、そんな会社が好きらしい。それは結局、愛社精神ではないでしょうか?
地元では、「平鍛造って過酷らしい」なんて噂も……。社長の私も口が悪いし……。
でも、うちの従業員はみんな「ラクだ、ラクだ」と言うばかり。まあ、やる気のある人が残ってくれて、合わない人が辞めていくからなのかもしれませんが。
仕事がない時こそ「チャレンジの場」を与える
コロナ禍で生産が減る中、私は2020年、こう言い放ったんです。
「自分がチャレンジしたいか、そしてそれに挑戦するから、いくら給料を上げてほしいか、自分で申請する!」
コロナ禍で景気が悪くなり、お取引先からの注文もどうなるかわからない中で、新規の注文を取りたかった。うちの会社としての存続には問題なくても、世の中暗い話ばかりでたまらなかったから始めたこと。
自分でチャレンジしたいことを自分で考えてもらって、それに見合う昇級幅を自分で決めるって、ちょっと刺激になるでしょう? フル生産のときにはそんなこと考える余裕はないから、むしろコロナ禍を逆手に取りました。このときこそ、さらなる多能工育成です。
忙しい時期、つまり会社がうまく回っている時期に、従業員に配置換えや、新しい知識・技能の取得を言い渡すと、本人に、負担や無理がかかる。「自分にはそんなことできません」という感じ。今だから、仕事がないときだから、ほかの仕事にも挑戦しないと仕事がなくなる危機感をあおることで自分の殻を破ってもらい、チャレンジが評価されれば給料も上がるという仕掛け。
会社と従業員がウィンウィンの関係
実際に名乗り出た人は非常に前向きで、一生懸命頑張ってくれています。鍛造工が旋盤まで使えるようになっています。基本給は月額3万円アップ。当然、ボーナスも連動する。なかなか今のご時世、月の基本給が急に上がることなんてありません。
従業員に刺激を与えて、報いて、どんどん現場が改善されれば安いもの。お互いウィン・ウィンです。
多能工を育成して、ラインの負荷を解消する。注文が集中したときにも他ラインの多能工がすばやく生産支援をすれば、残業なく納品が可能になる。人も増やさず対応することができます。リーマン・ショック後に一度実施し、同じ従業員で3倍の仕事をこなせる会社にした、コロナ禍でのさらなるバージョンアップです。