1970年に誕生した日本初のハンバーガーチェーン、ドムドムハンバーガー。最盛期の90年代には約400店舗あったのが現在はたった27店舗に減ってしまいました。3年前に社長に就任したのは、元専業主婦で39歳まで一度も働いたことがなかった藤﨑忍さん。藤﨑さんが進める店舗づくりとは――。

※本稿は、藤﨑忍『ドムドムの逆襲』(ダイヤモンド社)の一部を再編集したものです。

絶滅危惧種を救おう!

SNSで“バズった”り、イベントに長蛇の列ができたり、全国にわずか27店舗しかないドムドムハンバーガーが大きな話題を呼んでいることに疑問を感じる方もいらっしゃるかもしれません。私もしばらく不思議に思っていました。

しばらく「なぜなのだろう?」と考えていて気がついたことがあります。ドムドムハンバーガーは生まれて51年です。最盛期の年代には全国に400店舗ほどありました。創業から最盛期にかけて子ども時代を過ごした人が、今、ちょうど社会で決定権を持つ年代になっているのだと思うのです。

「市原ぞうの国店」コロナ禍のオープンだったが好調。
「市原ぞうの国店」コロナ禍のオープンだったが好調。(写真=『ドムドムの逆襲』より)

その方々がTVやネットなどで露出が多くなったドムドムハンバーガーや、どむぞうくんを見かけて「子どもの頃、家族(友達)と行ったな」と懐かしく思ってくださっているのではないでしょうか。

そして「昔より店舗数が減ってしまったけど、なんだか頑張っているな」と、愛着を感じてくださる。あるいは「絶滅危惧種を救おう!」と応援するつもりでお店に来てくださったり、商談を持ちかけてくださったりするのではないかと想像するのです。「救える!」という思いが、アクションとうまく合致したのが、ドムドムハンバーガーを取り巻く今の状況なのでしょう。

最盛期を知る世代の郷愁・愛着・期待に支えられている

ドムドムは、そんな世代の郷愁・愛着・期待に支えられているのだと思っています。実際に「小さい頃に食べていました! 最近ネットで見るのでコラボがやりたくなって」とお声がけいただいたケースもあります。

幸せなことに、社長に就任して今までやってきたコラボや新店オープンについては、ほぼ全て先方からお話をいただいて実現したものです。このご縁に感謝して、頑張っていきたいと思います。

そしてメディアに露出している今のドムドムハンバーガーに触れた、新しい世代のファンが生まれて、広い世代に愛されるブランドになれば良いなと、期待しています。

昨今のマーケティング手法は「O2O(Online to Offline)」から「OMO(Online Merges with Offline)」に移行していると言われています。まさに「ドムドムハンバーガーという絶滅危惧種をみんなで救おう!」というムーブメントが良質な顧客体験であり、結果、私どもとお客様とのより良い関係(win-win)が築かれているのだと思っています。

お客様の期待を裏切らない店づくり

入社して3年半。いろいろな現場に立たせていただきましたが、未だに慣れないのが「売り切れ、完売」です。新店オープン初日や、イベント、コロナ禍でのマスクなど何度も売り切れの瞬間に立ち会いました。楽しみにしてお店や会場に来ていただいたのに「売り切れです」と言われてしまった時のお客様の表情を見ていると、本当に本当に胸が痛くなってしまいます。

2020年5月に発売したマスク。
2020年5月に発売したマスク。(写真=『ドムドムの逆襲』より)

マスク(2020年5月に発売。ECショップオープン後、1分で完売に)は流通量自体が少なかったですし、イベントは持ち込む量も決まっていたりするため仕方がない面もあるのですが、通常の店舗での品切れは極力避けるべきだと思っています。

天候や行事によって、売上を予測するのは難しいことです。ましてや、売上規模の小さな店舗ばかりのドムドムにとって、ある日突然来る「バズリ」に対応するため日頃から通常の3倍の商材をストックするのは至難の業です。店舗を筋肉質にすると先に書きましたが、利益の出る店舗づくりもそのひとつです。原価率のコントロールは最も重要なポイントで、就任以来改善を重ねて今を迎えていますから、なおさらなのです。

でもお客様お一人お一人にとって、こちらの都合は全く関係ない訳ですから、改善しなければなりません。現場を担当するメンバー、営業企画のメンバー、広報のメンバーが垣根なく最新のドムドム情報を共有し、プロとして、全店舗で品切れのない店づくりを目指したいと思っています。品切れは楽しみにして来てくださった、お客様の期待を裏切ってしまうことなのですから。

毎月発売される期間限定商品を最高のクオリティで提供

同じ理由で、たとえお客様が来ないような暇な日でも、店舗で決まっている閉店時間より早く店じまいするのはやめてくださいとお願いしています。直営店では営業時間が決められているためそのようなことはありませんが、フランチャイズ店だとオーナーさんの判断で閉めてしまうこともないとは言い切れません。

でも仕事が終わって、閉店時間の5分前に急いで駆けつけてくださるお客様がいるかもしれません。それなのにお店側が「今日はお客さん来ないから良いかな」と早めに閉店していたら、悲しいですよ。やはりその点でも、お客様の期待を裏切らないドムドムハンバーガーでありたいと思っています。

そして何より、昔からの常連のお客様プラス、メディアの影響から日に日に増えている新しいお客様に、必ず美味しいハンバーガーを提供したいと思っています。

毎月発売される期間限定商品は、ありがたいことに毎回メディアでご紹介いただいています。スタッフにとってグランドメニューのように作り慣れてはいないメニューです。『丸ごと!!カニバーガー』や『丸ごとカマンベールバーガー』等、変わった調理工程も多々あります。それでも、その商品を目当てにお越しくださるお客様に最高のハンバーガーを提供しなくては、期待を裏切ってしまいます。

お客様に笑顔でお帰りいただけるように、心を込めて調理してもらうよう、いつも話しています。

私の方こそ、お客様の美味しい笑顔に励まされているからかもしれませんね。

社長になってやめたこと、変えたいこと

社長に専念することになってやめたことがあります。それは店舗スタッフとしてお店に立つことです。社長就任後もSVを兼任していたため、人員の管理は業務のひとつでした。

藤﨑忍『ドムドムの逆襲』(ダイヤモンド社)
藤﨑忍『ドムドムの逆襲』(ダイヤモンド社)

店舗でスタッフが足りなくなった場合、店に立つことはあったのです。

社長になってからも「浅草花やしき店」や「市原ぞうの国店」のオープニングには駆けつけましたが、さすがに厨房やカウンターには入りません。もし何かトラブルがあったときに、最終責任者として全うしなければならないことがある立場だからです。

また、店のなかでお客様に対応していると、気になるオペレーションをつい指摘しそうになります。しかし店舗運営はSVや営業部長が責任を持って担当している仕事です。そこに私が出ていくべきではないと思います。社長が直接現場に口を出したら、きっと現場も萎縮してしまいますよね。

一方で考えているのは、人事制度の改革です。ドムドムを譲り受けて以降、人事制度は元の会社のものをそのまま引き継いでいました。

長い歴史のある会社なので、個人の現状評価ではなく、蓄積された評価を重視する制度を運用してきました。社員の評価が等しくできていない状況だったのです。例えば同じ職務内容でも、年齢によって格差がある。そうなると、実力があって結果を出し、頑張っている若手がやりきれません。モチベーションも下がるでしょう。

そのような不公平なことについては、きちんと是正ができるシステムに変えていこうと思っています。すぐには無理なので、何年かかけて変えていく予定です。

ただし、年長者を敬う社風は忘れてはならないと思っています。

手紙に込めた社員への思い

SV職から離れた今でも、月1回ぐらいの割合で店舗に手紙を送ります。手紙といってもうちはアルバイト店員が多いので、店長さん宛てに手紙をメールで送り、それをプリントアウトして、お店に貼ってもらっています。手紙は私専用のどむぞうくんがついた便箋を使っています。

20年にマスクを送った時は、各店舗に手書きの手紙を添えました。コロナ禍での現状を労い、それでもお客様のために心を尽くして欲しいというようなことを書きました。

決算の数字が出た後は、その都度、数字の報告もします。売上がアップすることは現場のスタッフの努力の結果でもあります。結果が出ると誰でも嬉しいし、さらなるモチベーションのアップにつながりますからね。

そして最後には必ず皆さんへのお礼を添えるようにしています。

打ち合わせや会議、ちょっとしたことでスタッフと直接やり取りする時も、相手を大切にするように接しています。こちらが相手を大切に思うことで、相手の意見をきちんと聞く姿勢が生まれます。どんな意見・提案を聞いても初めから否定してしまうようなことはありません。否定から入ると、そこで終わってしまい何も生まれませんからね。

社員から届いたメールには必ず返信を送ります。たとえ社内50人宛ての情報共有のメールであってもです。一人ひとりが様々な部署で、会社を支えてくれていることに感謝をしているからです。そして、一人ひとりが自分の仕事に自信を持って頑張ってほしいと思っています。

一方、違うと感じた時は、その人が大切だからこそ、そのことを丁寧に真剣に伝えるようにしています。有耶無耶は良くありません。

「100店舗を目指す」とはいわない理由

ドムドムハンバーガーには、事業継承後、100店舗に増やすことを目標に掲げていた時期がありました。でも私には100店舗という考え方はありません。店舗数はお客様にはあまり関係がないからです。お客様を第一に考える以上、意識すること自体が不思議なのです。それよりも「出店して欲しい」と声をかけてくださるところに出て行きたい。ありがたいことにそういうお声を多くいただくようになりました。

求められていることに応えられる企業になりたいという思いはあります。厚木店のオープン時に感じた、会社としてまだ筋肉質になれていない、足腰が弱い、という状態はだいぶ改善されてきたと感じています。

この3年ほどで会社の状況はかなり改善され、経営状態も良くなってきました。会社として、足元が強くなってきたのです。今の状況であれば、年に2~3店舗ずつはオープンしていけると感じています。

コロナ禍でも念願の黒字化を達成

20年はコロナ禍で、多くの店舗が時短営業や休業を余儀なくされました。

再販した「丸ごと!!カニバーガー」。
再販した「丸ごと!!カニバーガー」。(写真=『ドムドムの逆襲』より)

そんななか、ドムドムは21年3月期決算で売上前年比109%という結果が出ました。

売上高自体は98%台後半でしたが、そこにECサイトなどで好調な物販の売上をプラスしての数字です。20~21年にかけてオープンした新店の営業成績も好調で、今回の結果に寄与していると言えるでしょう。

路面店が少ないドムドムハンバーガーではデリバリーもほとんど行っていません。4月には2店舗が休業し、時短営業も多数ありました。そこも含めて非常に良い結果だと思っています。

コロナ禍では飲食業界が大きな影響を受けましたが、そんななか出店した「浅草花やしき店」「市原ぞうの国店」は好調ですし、再販した『丸ごと!!カニバーガー』は全店の売上を大きく底上げしてくれました。小さい会社ならではの臨機応変な機動力を活かして、その時々の状況を分析し、前に進めた結果なのだと思っています。

数字よりも大切なこと

しかしこの先のことは誰にも予測できません。事業において目標や予測を立てることは必須です。しかし、どんなに優秀なビジネスマンでも、最新のAIでも、このコロナ禍を予測できませんでした。

データを集めて精査し、マーケティングするというのが、今のビジネスの在り方。それが根本から揺らいでしまったのです。こんな時こそ、それぞれの企業が、溢れ出す不確定な情報に惑わされず、平時に持つ思い(経営理念・経営指針)に基づいた意思決定・課題解決をすべきではないでしょうか。

3年を費やし導き出した答えが、「お客様が愛し続け50年守ってくださったドムドムハンバーガーのブランドを育む。そのブランドは、スタッフ・消費者の人生に寄り添い、並走し、共感・共存することで構築する」です。その経営指針を基に「美味しいこと。楽しいこと。お客様を笑顔にすること」を実践していきたいと思います。

私は、「数字ではなく“人への思い”こそ、ビジネスにおいては大切」だと思っています。