※本稿は、電通Bチーム『ニューコンセプト大全 仕事のアイデアが生まれる50の思考法』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
電通の「面白い採用試験」
「1週間が8日に増えたら、その1日何をしますか? 800字以内で書きなさい」
この不思議な問題を見つけたのは、電通クリエーティブ塾の募集ページ。1998年、僕が大学院1年生の時です。
僕の答えはこうでした。「ご存じの通り、カレーは煮込めば煮込むほど美味しくなる。僕はカレーが好きなので、1日増えた分、当然余計に1日煮込みますけど」という内容を800字に膨らませ、原稿用紙に書き付けました。
その時、「あ、冷蔵庫にカレーのルーがあったな」と思い出し、刻んでティッシュで包んで、匂い付き作文として送付。結果、来たのは……合格通知でした。
彼女と喧嘩、絵だけで謝りなさい
入社後も、変な問題は山ほど続きました。「彼女と喧嘩しました。絵だけで謝れ」「目が覚めたら蛇になっていました。よかったこと3つ、悪かったこと3つ書きなさい」とか。頭が痛い、けど、面白い。
時は流れ、広告やクリエーティブの授業を頼まれるようになると、今度は僕が、授業で変な問題を出すようにしました。答えが1つでない面白い問いは、もっと小さい時からやればいいのに、と思っていたので。
好評をいただいた時、ふと思いました。僕もみんなも、なんでこういう問題が好きなんだろうと。
「変な宿題」はいつの間にか成長を促す
そこでやってみたのは古今東西の伝説の面白い宿題や授業の収集と分析。
たとえば、都立中学のあるグレートティーチャーの授業は「隅田川花火大会の翌日、新聞5紙の隅田川花火の記事を配り、何新聞が自分が見た花火を一番描写できているか比べさせる」というもの。面白いでしょう?
その他、中学3年間1冊の本だけを読むという灘中の伝説の授業、日比野克彦さんの生徒の個人的な記憶を引き出すアートの教え方@芸大、黒澤明さんの自伝『蝦蟇の油』(岩波書店)に出てくるハミ出た解答を褒める先生の授業、イタリアの幼稚園レッジョエミリアのワークショップから島津藩の郷中教育まで、たくさん見てみると、自分のストライクゾーンがわかってきました。
それらは、とある映画に出てきた教育法に近いことを発見。アメリカの少年が空手を習いに行くと、車のワックスがけを大量にさせられ、以後連日雑用。空手はいつになったら教えてくれるんだ! とブチ切れた時に、雑用の動きで空手の防御を教えられていたことがわかります。結果、大会で優勝する、というお話。
そう、『ベスト・キッド』です。
「ベスト・キッド」方式でプロジェクト立ち上げ
教えたいテーマがあり、それを体験させて学ばせるために一見関係のない変な課題を出す。テーマは最後まで教えない。これが私が発見した教育方法「ベスト・キッド方式」です。
この方式に則って、クリエーティブに必要な要素(発想力/アイデアを量産する/制約を活かす/リサーチ/自分の尺度を持つ/人と協働するなど)を学ぶための、変な宿題を量産。
さまざまな場所で実践してきました。名付けて「変な宿題」プロジェクト。
学んでほしいことをストレートに出すのではなく、「変」な問題を1つかませ、いつの間にか体験して学んでいる。そこがポイントです。
好奇心に着火する変な問いの数々をいくつかご紹介しましょう。
人生で初めてのことをさせる「プロジェクト初体験」
「プロジェクト初体験」は上海の復旦大学で行ったものです。
1週間以内に人生で初めてのことをして、微博(中国版Twitter)にアップしてください、というのが宿題。
彼女と服をまったく入れ替えて写真を撮ってきた男子、生まれて初めて男子トイレに入った女子、24時間しゃべらない日を過ごした生徒など、53人に初体験が生まれました。
ちなみに学んでほしかったテーマは「GAPの創造」。いい表現は人の日常に非日常を生む。まずは自分の日常で非日常を生み出す練習をしてもらったわけです。
「自己紹介してください。ただし10文字以内で」は、東京大学などの授業の冒頭で行った問題です。3分間いい感じの音楽を流し、曲が終わったら終了、発表してもらいます。この問題で、広告づくりのエッセンスを体験できます。
CMは予算とスケジュールの中で企業が伝えたいことを伝えたい人に伝えるもの。この問題では、3分で0円でクラスの人に10文字の言葉で伝える体験をしたわけです。同じですね。
その他、「校則の最後に1行付け足す権利をあげます。何を付け加えますか?」@有田工業高校、「食後感想文コンクール」@立命館大学ほか、「だれかひとりを喜ばせてきてください」@電通テック新入社員研修など、今まで25カ所以上で行ってきました。いつも予想を超える答えが量産される熱い授業になり、終わりに涙を流す回もあります。
厳しい時代を生き抜くためにこそ、「遊び心」を
答えのない時代に、未来を切り開く人材を育てるために、一方通行でなく、主体的に学ぶ「アクティブラーニング」が教育界はもちろんビジネス界でも注目を集めています。アクティブ=能動的になれるかどうか、それは「好奇心」に着火できるかどうかだと僕は考えます。
「Creativityとビジネスの成功のリンクが強まってきている」とはForbes JAPAN'S CEO OF THE YEAR 2016でのトム・ケリー氏の発言。Creativityの元も、好奇心や遊び心です。
もし好奇心ランキングなるものがあったら、今の日本は世界何位でしょう? 効率重視で余裕のない現代ですが、遊び心や好奇心を大切にした国や企業が成長しているように感じませんか?
変な宿題で、好奇心増幅の役に立てたら。やり方をお教えしますので、ぜひ変な問いをいっぱい一緒に立てましょう。
遊び心や好奇心がこれからの成長のカギになる。それらを育むのは、正解が1つではない「変な宿題」である。