発達障害の当事者で、コーチングのプロの銀河さんはかつて、長いメールを時間をかけて書くことが日常化していました。そんな銀河さんが、短くわかりやすいだけでなく、相手の懐に入り込むためのメールを短時間で書く方法、共感されやすい話し方のコツを伝授します――。

※本稿は、銀河『「こだわりさん」が強みを活かして働けるようになる本』(扶桑社)の一部を再編集したものです。

幸せな笑顔のペーパーカット
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メールは「手抜き」くらいでちょうどいい

メールの文章を作成しているとき、「詳しく伝えたほうが親切」「メールひとつで、やる気や熱意を見られている」と考えながらキーボードを叩いていると、長々としたメールになりがちです。

特に言語性IQが高いASD(自閉症スペクトラム障害)のある人は、「自分の持っている情報すべてを説明しないと気が済まない」といった特性を持っている人が多いです。それゆえ、過程を含めて細かく書きすぎてしまい、発達障害でない人と比べると、どうしてもメールが長文化しやすい傾向にあります。

丁寧に書くことは決して悪いことではありません。ただ、あまりにも長いと、読み手の返信する気力を削いでしまうリスクがあります。むしろ、その丁寧さに“ほんの少しの適当さ”を混ぜるだけで、グッと読みやすくてわかりやすいメールを書くことができるようになったりもします。

ここでは、私が今でも実践している効果的で、かつ適当(!)なメール術をいくつか紹介します。

わからないことがあれば質問してくる

まずは、「相手から質問がくること」を前提にメールの文章を作成することです。

初めて一緒に仕事をする人や付き合いの浅い人とメールのやり取りをする場合、「こちらが伝えたいこと」と「相手が知りたいこと」が完全に一致することは稀です。ですので、細かい点は削除して、結論と要点のみを箇条書きにして送るようにします。

実際、ビジネスでは毎日何十通ものメールをチェックすることが当たり前だったりします。なので、誰しも、「長々とした文章ではなく、用件だけを簡潔に知りたい」というのが本音です。不必要な言葉が多く無駄に長い冗長表現が満載の文章をちゃんと読もうとは思っていません。だからこそ、結論と要点のみでOKなのです。

もしも、相手側にとって他に知りたい情報があれば、「これについてはどうでしょうか?」と何かしらの質問メールが届くはずなので、詳しいやり取りはそれからでも十分と言えるでしょう。

この適当さがもたらしてくれる恩恵は、端的に短く書いているので、必要な情報が受け手に伝わりやすいこと。また質問を通して、相手の求めている情報のレベルを把握できることにあります。少し手間はかかりますが、やり取りの回数を重ねることで親密度が深まるという点も大きいです。そして、当然ながらメールを書くための時間がだいぶ削減されるので、時短効果も十分です。

500文字あったメールが100文字に

私も会社の上司や同僚に「そんなにくどくど書かないほうがいいよ」と指摘され、結論と要点のみを箇条書きで書くための訓練をしました。

それまで平均して500文字前後あった文章量は、今では100文字ほどに減って、画面を通して見てもスッキリした印象になっています。また、簡潔にしたことで営業メールの返信率もアップしました。さらにメール作成に要していた時間も、約15分から3分前後と、かなりの時間が短縮でき、生産性を高めることに成功しています。

以前の私は、無駄に長いメールを長い時間をかけて書くことが日常化していました。挨拶の文言を入れたらすぐに改行。用件の文章を作成した後、また改行。ここまではみなさんと同じだと思いますが、私の場合、「少し間を置かせたいから、ここは1行ではなくて3行分の行間を取ろう」というように、行間を何ライン空けるかで何十分も悩んでしまっていたのです。

でも実際のところ、行間が1行なのか、3行なのか読み手は誰も気にしていません。「そんなのどうでもいい」というのが、読者のみなさんも含め、相手の本音でしょう。それよりも、用件が的確かつ端的に伝わる内容で、スピーディーな返信のほうが重要なのです。

「そんな当たり前なことをいまさら」とご指摘を受けそうですが、当時はこうした細かい点にまで神経を尖らせていました。だから、細かすぎて逆に生きづらかった。それで、細かい点は削除して結論と要点のみを箇条書きにするなど、いろいろと工夫をした結果、それまで15分かかっていたメールを3分に短縮できるようになったのです。

ノートパソコンで作業
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親近感をグッと増すメールのテクニック

ポイントの2つ目は、相手のスタイルに合わせることです。

メールを含めたコミュニケーションは、相手に理解してもらって初めて伝わったと言えます。最初のうちは時候の挨拶や「お世話になります。△△社の●●です」といった文言を入れますが、相手のメールからそれらの慣用句的なフレーズが消えた時点で、こちらのメールからも削除します。

さらに、メールのフォーマットもよく似せます。例えば、1ラインが20文字で、1行空きでメールを送ってくる相手だったら、こちらも同じフォーマットで作成するなど、相手の土俵やスタイルに徹底して合わせていきます。

こうした相手のフォーマットに寄せる行為は、その人の思考パターンをなぞることと同じことです。いわゆる「ミラーリング効果」の助けを借りて、やり取りしている相手との親近感はグッと増していくはずです。

ゲームに例えるとするならば、相手のタイプなどに合わせて、繰り出す技を変えたりしますよね。バトルでは相手になるべく効果的な技を出すと思います。それと同じことです。相手にとって効果的な方法は、相手の発信や発言に隠れています。それを見つけ出して、相手の「ツボ」を押さえてしまうのです。

抜け漏れは放置でも構わない

そして最後のコツは、「誤字脱字は諦めよう」というものです。

私も含めて、人一倍強いこだわりを持つ発達障害の「こだわりさん」にはあるあるですが、なぜか誤字脱字が多い傾向にあります。しかし、これについては、もう仕方がありません。どんなに注意をしても、誤字脱字は必ず発生してしまうものだと割り切ってください。

私自身、何度も読み返してからメールを送信するようにしてはいるものの、全く誤字脱字はなくなりません。それどころか、先輩に誤字脱字を伝えられた後、自分でメール画面を何度見直しても見つけられない……。「え、どこにあるんですか?」と聞き直して、直接その部分を指で指してもらって初めて気づくほどの鈍感さです。

どれほど頑張ってもできないことはある。こうした経験もあって私は、誤字脱字は過度に気にしなくてもいいんじゃないかと思うようになったのです。たしかに、誤字脱字はこだわりさんにとっては弱点かもしれません。でも、その弱点を補強するために時間を使うよりは、もっと自分の強みを強化するために時間を使ったほうが良いと思うからです。

「そういうキャラ」になる手もアリ

今では、事前に「私、いつもメールには気をつけているんですが、誤字脱字が多いかもしれません! 申し訳ありません」と、クライアントに一報を入れるようになったため、“誤字脱字がある人”というキャラとして周囲からは受け入れてもらっています。ちなみに、私自身の誤字脱字については、社外の人から指摘されたことは一度もないので、意味が通じないほどのミスではないなら、相手もそこまで気にしていないのではないか……というのが私の見解です。

私のような、いわゆる“キャラ得”は特殊なケースかもしれませんが、どうしても誤字脱字が気になる人は、ワードの文章校正機能を活用してチェックしてみましょう。書いたメールテキストをコピーして、ワードにペーストして、文章校正機能を使ってみると、誤字脱字が一発でわかります。そうすることで、おかしな文章や語句を減らすことはできますし、私の周囲にもこのテクニックを活用している発達障害の方は少なくありません。

1通のメールに割ける時間は限られています。短い時間で相手に必要なことを伝えるのがビジネスでは重要です。それさえかなっているのなら、他は多少適当でも問題ありません。誤字脱字のチェックに時間を割くなら、自分の強みを活かすために時間を使おうと割り切りましょう。

懐に入るには言葉をマネる

気を許せる仲間が周りにいるか、いないかで、仕事で得られる達成感、充実度は全く違ってきます。また、協力者が多いほどに、成果にも直結していくでしょう。

銀河『「こだわりさん」が強みを活かして働けるようになる本』(扶桑社)
銀河『「こだわりさん」が強みを活かして働けるようになる本』(扶桑社)

「仲間をつくる」と言われても、「自分はユニークな趣味を持っていないから無理だよね」「キャラが立ってないと忘れられてしまうよね」「会話がおもしろくないから、相手を退屈させてしまうのではないか」と、自分には無理な話だと思ってしまう人も多いかもしれません。でも、私の言う「仲間をつくる」とは、漫画『ONE PIECE』に出てくる仲間たちのように深く濃い付き合いを指しているわけではありません。私が言う仲間とは、「何かあったときに助けてもらえる」程度の間柄です。

そして、こうした仲間をつくることは、コミュニケーション能力があまり高くないと言われるこだわりさんにとっても、決して難しいことではありません。言葉の使い方のコツを覚えるだけで意外と簡単に仲間をつくることはできるのです。そこで、ここでは仲間意識を生じさせる言葉の扱い方についてお伝えしていきたいと思います。

相手と波長を合わせるために必要な3つのポイント

こだわりさんは、適当さがないゆえ、緊張感を生むコミュニケーションを取りがちです。それでは、相手もつい身構えてしまいます。その結果、かつての私がそうだったように、「この人とは波長が合わないな」と思われてしまい、仕事のチャンスが減るだけではなく、周りから人が離れていってしまい、孤独感と閉塞感に苛さいなまれることになりかねません。

そうならないためにも相手と「波長」を合わせることは、意思疎通を図る上でとても重要なことです。

では、コミュニケーションにおける“波長”とは一体何でしょうか。

私は、この“波長”をつくっている要素は3つあると思っています。

1、話すスピード・リズム
2、タイミング(間)
3、使用する言葉

これら3つの要素を、相手に合わせておけば、間違いありません。

例えば、「1、話すスピード・リズム」と「2、タイミング(間)」ですが、相手の人が怪談でおなじみの稲川淳二のように、テンポが速く、言葉が矢継ぎ早に出てくる人なら、普段よりスピードを速めて話してみる。シンガーソングライターのGACKTのように、ゆっくりと言葉を紡ぎ、フレーズとフレーズの間に一呼吸置くような話し方なら、同じように真似てみるという感じです。

相手の言葉をそのまま真似る

そして、一番大切なのが3つ目の「使用する言葉」です。

相手の土俵に合わせる、相手のフォーマットを真似ることは、メールでのやり取りに限らず、会話をする上でも有効です。上司や部下以外でも、夫婦間、飲み会と、シチュエーションを問わず、相手が発する言葉と同じ言葉をあえて使うことで、親近感を生むことができます。

この点に関して私は、コーチングでも多くの方にお伝えするようにしています。

例えば、相手が「転職」のことを「キャリアチェンジ」、「前向き」を「ポジティブ」、「後ろ向き」を「ネガティブ」と言っているなら、すべて相手と同じ言葉に統一します。略語を使わず正式名称にこだわっている人なら、こちらもしっかり正式名称で答える。仮に相手の使っている言葉の意味が、自分が思っているニュアンスと違っていたとしても、そこはぐっとこらえて合わせることが肝心です。

本当に細かな点ですが、こうした積み重ねによって、相手は「この人は話しやすいな。波長が合っているのかな」と友好的な気持ちを抱いてくれるようになります。そして、仲間意識が芽生え始め、次第にあなたの「何かあったときには手を差し伸べてくれる仲間」になってくれるのです。

普段の会話を通して「この人はこういう言葉を使う」という言い回しの癖やパターンを蓄積していき、それを暗記していきましょう。慣れてきたら、パターンを組み合わせて発展させていきます。いつの間にか、「懐に入るのがうまい人」になっているはずです。