「飽きっぽく、何でも三日坊主になってしまう」「なかなか集中のスイッチが入らない」という悩みを克服するには、どうしたらいいのでしょうか。ASD(自閉症スペクトラム障害)と診断されている発達障害の当事者、銀河さんは、「継続が苦手」「集中スイッチが入りにくい」という自分の特性を克服するために、ある手法を実践しています――。

※本稿は、銀河『「こだわりさん」が強みを活かして働けるようになる本』(扶桑社)の一部を再編集したものです。

自宅で仕事をする日本人男性
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継続するための「仕組み」を作る

パターンを作るのは得意だけれども、それを継続するのが苦手というのは、人一倍強いこだわりを持つ発達障害の「こだわりさん」には案外ありがちなことです。なぜ継続が苦手かというと、こだわりが強い割には、飽きっぽい人が多いからです。

私自身も飽きっぽくて、以前一度ブログを書こうと決意して、1日1記事書く秘策を編み出したものの、何記事か書いたら「もういいや」と放り出してしまいました。また、健康に気をつけるために毎朝ジムでランニングをしようと心に決めて、「三日坊主にならないように、次の日の準備を毎晩してから眠るようにしよう。すぐに着替えられるように洋服も全部枕元に置いておこう」とパターン化自体はしたものの、それだけに満足してしまい、5日間くらい経ったら、いつの間にかジムには行かなくなってしまったこともありました。

継続するのが苦手だと何が一番問題なのかというと、継続して何かを積み上げていくことができないので、高いスキルを身につけられないという点です。

それを打開してくれるのが、ここで紹介する「If thenプランニング」です。

これは、コロンビア大学ビジネススクールモチベーション・サイエンスセンター副所長で社会心理学者のハイディ・グラント教授が提唱したテクニックなのですが、やり方は非常に簡単で、「もし(If)Aをしたら、そのとき(then)Bをする」と、何かをするときに、別の何かをすることをルール化するというものです。

必ずやる習慣に取り入れたい習慣をくっつける

ルールをつくるときのポイントは、1日の中で必ずやる習慣に、自分が新たに取り入れたい習慣をくっつけるというものです。例えば、私が実践しているのは、「もし朝起きたら、就寝時間と起床時間を書いて、生活習慣を見直す」というものです。「朝起きる」ことは、毎日寝る人であれば、必ず起こりうる出来事です。このように、「お手洗いに行ったらスクワットをする」「歯を磨いたら、薬を飲む」などは有効です。

これに対して、「ジムに行ったときに○○する」とか「友達に会ったときに▲▲する」などといった、たまにしかやらないようなものはルール化しづらいので、なかなか習慣としては定着しません。

この「If thenプランニング」がなぜこだわりさんに有効なのかというと、私たちはルールが一度決まってしまえば、それをしっかり守ることを心がける特性を持っているからです。一度習慣化してしまえば、飽きっぽい人であったとしても、自分にとって良い習慣として取り入れることができます。

仕事にも使える「If thenプランニング」

最初はルールであっても、ある程度それを繰り返すと習慣になるので、意識しなくなるまでは頑張ってルールを守ろうとしました。私自身はとても飽きっぽかったのですが、この「If thenプランニング」は見事にハマりました。

仕事にもいろいろと応用できるようになって、「もしTwitterで、イベント参加のDMがきたら、その人の名前をすぐにリストに書き込む。そして、ZoomのURLを送るためにすぐにDMに返信する」など、ワンセットでの行動を心がけるようにしました。

以前は、TwitterのDMがきても、頭の中で、「後でやろう」ととどめておくだけですぐにやらないので、どうしても穴が出てDMを送りそびれる……というようなことも頻繁にありました。しかし、「It thenプランニング」でいろいろなことをワンセットに行動するようにしたら、ミスが大きく減りました。

また、ときには、「今日はやろうと思っていたのに、できなかった」という日もあるかもしれません。そんなできない日があっても、「次の日にまたやろう」と気持ちを切り替えることができればOKです。続けないことが一番もったいないので、一日、二日のやらない日があったとしても「またやろう」と思えれば、いくらでもスタートを切り直せます。

場所のパターン化で集中のスイッチを入れる

こだわりさんに多いのは、集中力の高い人。ただ、集中力のスイッチを入れるのは、得意ではない人が多いような気がします。上手にスイッチをオンできれば、集中力を高めて仕事に没頭できるし、高い成果も上げられます。でも、スイッチが上手に切り替わらなければ、いつまでもグダグダして、無為な時間を過ごしてしまいます。

なので、こだわりさんにとって、この「集中力のスイッチのオン・オフを上手に切り替える」ということは、最重要課題です。ちなみに私の場合、スイッチのオン・オフを上手に切り替える上で、実践してよかったのは「場所を変えること」でした。以前はオフィスで仕事をするのが一般的でしたが、最近はテレワークで自宅、あるいは屋外など自由に仕事をする場所が選べるようになってきているので、ぜひこの方法は活用してほしいと思います。

こだわりさんに多いのは、環境に敏感な人。例えば、ファミレスのように頻繁にピンポーンという呼び出し音が鳴る環境ではうるさすぎて集中力が途切れてしまうという人もいますし、匂いに敏感で油の匂いが漂うようなファストフード店では何も手につかなくなるという人もいるようです。

ちなみに私自身は、周囲の「色」が気になるタイプで、マクドナルドのように赤や黄色の派手な店内だと気が散ってしまいます。だから好むのは、青や淡い赤などの落ち着いた色が主体となっているような場所です。こういう環境で仕事をすると、集中力も上がるし、効率も上がるように思います。

カフェでラップトップを見ている若い日本人女性
写真=iStock.com/imacoconut
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良い場所を見つけたらリピート

色以外だと、「家から近い都内にある」「Wi-fiがある」「パソコンを触っている人が、自分以外にもたくさんいる場所」に行きます。

銀河『「こだわりさん」が強みを活かして働けるようになる本』(扶桑社)
銀河『「こだわりさん」が強みを活かして働けるようになる本』(扶桑社)

条件面だけが当てはまっていたとしても、細かなところにこだわるこだわりさんも多いです。「静かな場所だから大丈夫だと思っていたら、微妙に伝わる些細な振動が気になってしまって集中できなかった」などというケースもよくあります。実際に行ってみないと好き嫌いがわからないので、一度良い場所を見つけたら、その場所をきちんと覚えておいて、同じ場所に通い詰めるのがおすすめです。そして、その場所へ通い詰めれば、次第に「その場所に行くと頭のスイッチが切り替わる」というパターン化に成功します。

そうなれば「今から集中しよう!」「今からリラックスしよう!」と自分が気合を入れなくても、自然と頭が切り替わってくれます。

なお「ここは相性が合わない」と思った場所は、無理せずどんどん変えましょう。理由がわからなくても、「なんだかうまくいかないな」という場所で無理して続けたり、その場所に慣れようとしたりするよりは、さっさとその場所には見切りをつけて、新しい場所を探しにいくほうが、頭のスイッチは切り替わりやすいと思います。

「場所」と「行動」をセットにする

なお、集中力をオンにして仕事に取り掛かる場所だけではなく、しっかり休むための場所も大切です。特に、今の時代は、スマホでいつでもメールがチェックできてしまうので、仕事から逃れられないという人も多いのではないでしょうか。そんなときには、「徹底的にリラックスできる場所」を確保しておきましょう。

私の場合は、「自分が集中できる場所」と「リラックスして癒やされる場所」を何か所か確保しています。現在、私がリラックスする場所として決めているのは、近くに川が流れていて、自然を眺めながらぼんやりできるカフェです。天井が高くて、開放感があるので、初めてその店に行ったときに、「あぁ、この店はすごく気持ちがいいな」と気に入ってしまい、以来、休みたいと思うときは、このカフェに行くようになりました。そうやって「場所」と「行動」をワンセットにしておくと、その場所に行くと、どんなに仕事で煮詰まっていても、気持ちがリセットされるようになり、頭の中が自然と整理されていきます。

また、この場所にいるときは自分の中のスイッチを完全にオフにしたいので、スマホやパソコンも持っていきません。誰からの連絡を待つこともなく、ただひたすらのんびりします。