※本稿は、栗田朋一『新しい広報の教科書』(朝日新聞出版)の一部を再編集したものです。
「おもしろく」を最優先するワークマンの取り組み
弊社が本格的に広報活動をするようになったのは、2018年からです。作業服の市場で強力な競合がいなかったことから、それまでは年に数回リリースを出す程度でした。しかし、市場が飽和状態になり、新たな市場の開拓を始めたことから、積極的に広報活動に取り組み始めたのです。その結果、19年は127件、20年は11月の時点で129件のテレビ番組に取り上げられました。
多くのメディアで紹介されるために意識しているのは、「どのような切り口だとおもしろい番組や記事になるか」、こちらでストーリーを考えて、プレスリリースを打つことです。
そのうち、最も反響が大きかったのは、2020年10月にオープンした新業態「#ワークマン女子」に関するプレスリリースです。このときは、過去最高の取材件数を記録し、20番組で露出。広告に換算すると10億円を超える結果となりました。
「ワークマン+女子」という組み合わせだけでもインパクトはあったと思いますが、リリースでも仕掛けをしました。店舗情報やコンセプトだけではなく、このプロジェクトの実現過程で起きた「ダメ出し事件」についても記したのです。
「恥ずかしい」もネタにする
その「事件」とは、#ワークマン女子の店内に「インスタ映えスポット」を設けることになったところから始まります。この企画は当初、私を含めた男性社員で考えていました。ところが、自信満々で女性社員にその内容を披露したところ、即、「そんなんじゃ、女性を呼び込めないですよ!」とダメ出しを食らってしまい……。企画メンバーを総入れ替えしたのです。
私にとっては恥ずかしい出来事でしたが、「メディアにとっては、ネタの一つになるのでは?」と思いつき、リリースで紹介したのです。すると、話題となり、内容がそのまま、「スッキリ」(日本テレビ)で取り上げられました。
プレスリリースにはポジティブで、整理された概要的な話だけを書くことが多いものですが、メディアは裏側の生々しい話も求めています。特にテレビは、トラブル話を盛り込んだほうが緩急をよりはっきり見せられるので、そういった部分は撮りたいはず。ですから、隠すようなところもあえて表に出すようにしています。
賛否両論がありそうでも、果敢にチャレンジ
「日本人はライバル対決を好む」という国民性があるという話から着想を得て、「他社とのライバル対決」という仕立てでプレスリリースを出したときも、大きな反響がありました。これは、2019年3月に「WORKMAN Plus ららぽーと甲子園店」がオープンしたときの話です。
「オープンします」というだけでは、なかなかメディアは関心を持ってくれません。そこで他社を巻き込み、「ライバル対決」のストーリーをつくりました。
ライバル役は、フランスのスポーツ用品メーカーであるデカトロン社。ちょうど同じ3月に、ららぽーと甲子園から約3キロと近い阪急西宮ガーデンズに日本1号店をオープンすると知り、顔見知りだったデカトロン社の開発担当者と相談した上で、「西宮戦争」と銘を打って、リリースを出したのです。
デカトロン社は、当時、日本での認知度は低かったものの、世界的に見ると弊社より圧倒的に大きな企業です。「日本の小さな企業が海外からやってくる大きな企業に立ち向かう」というストーリーでリリースを書き、露出を増やそうと考えたのです。
ライバル会社との協働で納めた大成功
すると、狙った形で複数のメディアが取り上げてくださいました。このリリースの成果もあってか、18年の日経トレンディのヒット予測ではデカトロン社とともに1位を獲得。翌19年にはヒット商品で1位を獲得し、日経トレンディ史上初となる2年連続受賞となりました。
ちなみに、このプレスリリースは出した後に賛否両論がありました。「戦争」という言葉を使ったことにより、一部のメディアには「企業のリリースとしては過激だ」と批判的な記事を書かれてしまったのです。
しかし、攻めた方法を採れば、否定的な意見をいただくことは避けられないものです。慎重になりすぎると、何もできません。他社を貶めるのはいけませんが、お互いにとってプラスになると予想したなら、思い切ったリリースにチャレンジしても良いのではないかと思います。
「過酷ファッションショー」がメディアに注目された理由
2019年から開催している「過酷ファッションショー」のリリースでも、メディアの目を引く工夫をしています。
過酷ファッションショーは、強風に吹かれたり、雨に晒されたり、雪が降ったり、という環境を屋内につくり、ワークマン製品を着たモデルがその機能性をアピールするショーです。
20年10月に実施した第2回では、ボルダリングやスポーツ・エンタテインメントの「SASUKE」(TBS系)のような障害物を設けたり、ランウェイの一部を凍結させたりするなど、さらに過酷なものになりました。
ネーミングや内容だけでもキャッチーだと思いますが、さらに私たちは、番組で取り上げられる可能性が高まるであろう仕掛けを考えたのです。
ショーでは水を使っているため、普通の考え方なら、会社としては水がかからない対策をするところですが、あえてイルカショーのように「水がかかるかもしれない」演出をしたのです。リリースでも「観客席の前列では多少水や雪がかかる場合もありますので、ご容赦願います」と強調しておきました。
すると、それが受けて、メディア側から「水をかぶる席はどこですか?」と問い合わせをいただいたのです。また、テレビ局の方は水がかぶっても問題ないようにカメラに防水対策をして来てくださいました。遊び心を持って企画をつくると、リリースの反応は全然違うと感じた経験でした。
新製品のリリースにも工夫を
ここ数年、リリースに工夫をしている弊社ですが、実は新製品のリリースは出したことがありません。なぜなら、自発的に製品の紹介をしてくれる方々がいるからです。弊社では、「アンバサダー・マーケティング」という手法をとり、その方々に情報発信をお任せしています。それだけで十分だと考えているのです。
「しなくても良いことは何か」を考えることも、広報を担当する上で重要な要素かもしれません。
【会社概要・業務内容】
1982年に設立。作業服・作業用品、アウトドア・スポーツ・レインウェアを販売する専門店フランチャイズ店舗の運営。2018年より、WORKMANに加え、カジュアルな作業服を扱う「WORKMAN Plus」、2020年10には女性をターゲットとした「#ワークマン女子」をオープン。2021年1月現在、3業態合わせて、全国で902店舗を展開している
【広報体制】
3名。2020年4月に立ち上げ。
営業企画部兼広報部 部長 林 知幸さん
新卒で株式会社ワークマンに入社後、フランチャイズ店舗をサポートするスーパーバイズ部、開発部を経て、営業企画部と広報部を兼務。広報歴は2年。