他の人にはできないことをさらりとこなすのに、「こんなこと誰にでもできる」と自分を認められないHSPさん。産業医の井上智介さんは、「HSPさんには多くの強みがあり、本当は職場での評価が高いのです」と指摘します――。

※本稿は、井上智介『繊細な人の心が折れない働き方』(ナツメ社)の一部を再編集したものです。

強み1:良心的でまじめに物事にとり組む

HSPさんは基本的にまじめで、仕事でも手をぬくことが苦手です。

世の中には、「時間もないし、まあ、この程度でいいか」と、仕事を適当に切り上げられる人もいますが、HSPさんには、中途半端な仕事が我慢できません。真摯に、納得がいくまでがんばります。

井上智介『繊細な人の心が折れない働き方』(ナツメ社)より
井上智介『繊細な人の心が折れない働き方』(ナツメ社)より

強い責任感をもち、誠実に仕事に向き合うHSPさんの姿勢は、じつは職場で高く評価されます。「○○さんに任せれば安心」と、周りから信頼をよせられ、まじめなHSPさんは、信頼を裏切らないようにとがんばって、さらに評価を高めます。

またHSPさんは、たとえ自分に責任がないことでも、困っている人を見ると責任を感じるので、放っておくことができません。

たとえば誰かが仕事を抱えていると、「なんとかしてあげなくては」と思い、親身になってサポートして感謝されます。落ち込んでいる人がいると、表情やしぐさから敏感に気持ちを察知して励ましたり、相談役になることもあります。

責任をもって丁寧に仕事を行い、人への気配りも欠かさないHSPさんは、周囲から頼られる存在です。

強み2:“なぜなぜ分析”が得意

会議でみんなが丁々発止のやりとりをしていたり、大勢の前で突然意見を求められたりすると、HSPさんはなにも言えず、自信をなくしがちです。

けれどもHSPさんは、じつはとても深い洞察力と独創的な考えの持ち主。じっくり考える時間と落ち着いて発表できる場が与えられると、誰も気づかないような鋭い意見を述べて周囲を驚かせたりします。

これは「ひとつの物事を深く考える」というHSPさん特有の気質によるものです。「問題はなにか」「なぜそうなるのか」「なぜそれが必要なのか」と、どんなに小さな問題でも多角的に分析して、その本質を理解します。

たとえば、ある商品の売れ行きが悪かったとしましょう。会議では、他社の競合品に比べて宣伝が不十分だったという意見がでます。

そこでHSPさんは、「なぜ宣伝が不十分だったのか」ということを考えます。すると、「宣伝に十分予算がかけられなかった」ことがわかります。HSPさんは、さらに「なぜ予算がかけられなかったのか」を分析し、「開発コストが当初の予算よりオーバーしていたため」という結論を導きだします。

単に「宣伝が不十分だった」という結論では、宣伝の改善だけで終わってしまいますが、こうして深く掘り下げることによって、根底にある問題にたどり着くわけです。

HSPさんの鋭い洞察力は、表面的な出来事の裏にある問題を見ぬき、物事を本質から改善させる役割を果たします。

強み3:身のまわりのリスク管理能力が高い

「世の中には、考えてから歩きだす人と、歩きながら考える人と、歩いたあとで考える人がいる」といわれますが、HSPさんはじっくり考えてから歩きだすタイプです。

行動的なタイプの人からは、「そんなに悩んでいないで、まずやってみれば」と言われることがあるかもしれませんが、無理することはありません。慎重なHSPさんにしかできないことがあります。物事を多面的に考えるHSPさんは、話をしたり、行動を起こしたりする前に、いくつものパターンを想定します。このため、誰も気づかなかった可能性を発見できるとともに、落とし穴のリスクも感じとります。

木製のブロックタワーから1ブロックを取る
写真=iStock.com/marrio31
※写真はイメージです

危険な“穴”を埋めるために、「こう言われたら、こう答えよう」「これが起きたら、こう対応しよう」と、細かく戦略を練るので、最悪の事態を回避することができます。ハプニングの多くは想定内なので、落ち着いて対処できるのです。

人間が生きのびるために、危機管理能力はとても重要です。人も組織も、リスクを見極めて備えているからこそ、大胆に行動できるのです。

慎重さをポジティブに受け入れて、上手に生かしてください。

強み4:ささいな違いに気づくことができる

HSPさんは敏感で環境の影響を受けやすいため、知らないうちに多くの刺激を受けて神経が疲れてしまいます。でも、感覚が鋭敏ということは、他の人に見えないものが見え、感じないものが感じられるということです。

たとえば書類を読んでいるとき、HSPさんは小さなミスにとてもよく気がつきます。

ざっと目を通しただけで誤字や脱字を見つけたり、「なんか変だな」と感じて、大切なデータの入力ミスや図の誤りを発見したりします。

小さなことに気がつくというHSPさん特有の能力は、緻密で質のいい仕事をするには欠かせないものです。大切にしてください。

職場の雰囲気をよくする素質も

「髪切りました?」「アイメイク変えました?」など、ちょっとした他人の変化を敏感にキャッチできるのも、HSPさんの才能のひとつです。変化に気づいてもらうと、人は気分がよくなるので、HSPさんの周囲の雰囲気は柔らかくなります。

そもそもHSPさんは場の空気を読むことにたけていて、ギスギスした雰囲気が嫌いです。元気のない人に声をかけたり、仕事でイライラしている人をサポートしたりして、人間関係を良好に保とうとします。

また、みんなが疲れて残業しているとき、さりげなくお茶を配ってひと息つけさせてくれたり、出張先からみんなの好きそうなお土産を買ってきてくれたり。職場に欠かせないムードメーカーになっている人もいます。HSPさんが休んだ日には、「あれ、きょうはなんだか寂しいな」と思う人も多いかもしれません。」

強み5:人の気持ちがよくわかり、気配り上手

HSPさんは相手の感情を自分のことのように感じ、気持ちによりそうことができます。

井上智介『繊細な人の心が折れない働き方』(ナツメ社)
井上智介『繊細な人の心が折れない働き方』(ナツメ社)

このため、HSPさんはとても聞き上手。話を聞いてもらった人はみな、「共感してもらえた」と、安心します。

また、HSPさんは表情やしぐさなどから敏感に気持ちを察することができるので、会話中にも上手に気配りします。仲間とおしゃべりしているとき、誰かにとって「触れてほしくないこと」に話題が移りそうになると、さりげなく別の話題に変えて、友だちが不快な思いをしないように守ってあげたりします。

つねに人の気持ちを大切にするHSPさんと一緒にいると、嫌な気分になることがありません。多くの人が居心地よく感じ、心がいやされるでしょう。

HSPさんは「すごく気の利く人」として評価されている

自分の仕事をしていても、HSPさんの五感はいつも周囲の状況を把握しています。

このため困っている人がいると、HSPさんはすぐに気がつき、手をさしのべます。

たとえば、同僚がプレゼンの資料をつくっているとします。いつも落ち着いている同僚なのに、その日はどこか焦っているようにHSPさんは感じとります。そこで、「あのファイルを探しているのかも」と察して同僚に声をかけ、場所を教えてあげます。

同僚は、「ファイルを探していることに、どうして気がついたの」と、驚くかもしれませんが、周りの状況をつねに把握しているHSPさんにとっては、ごく自然なことです。

こういうことがたびたびあるので、HSPさんは、周囲から「気の利く人」として評価されているはずです。