4月入社は江戸時代の年貢が起源
4月は入社式・入学式のシーズン。4月のイメージとして私たち日本人の頭にパッと浮かぶのは、希望に胸をふくらませた初々しい新人と桜の花びらが舞う光景です。そもそも、なぜ日本では、会社や学校のスタートが4月なのでしょうか? それは政府の会計年度のスタートが4月1日だからといわれています。
会計年度の初日が4月1日になったのは、1886年(明治19年)です。4月という中途半端な時期である理由として、よくいわれるのが「農家の金納」です。当時の日本は、江戸時代の封建制の名残から、主な納税者は稲作農家でした。江戸時代なら年貢は米で納める現物納でしたが、明治からは現金で納める金納に変わります。
そうすると「まず農家が秋に米を収穫→米を現金に換えて納税→政府が現金を徴収して予算編成」という手順になるため、どうしても時間がかかってしまう。そのせいで、会計年度のスタートが遅くなった、という理由です。確かにそういう理由なら、入社式や入学式が4月なのもうなずけます。企業は政府のつくった税体系に縛られますし、学校は政府から運営資金を調達するケースが多いですからね。
ちなみに、世界で4月入学の国は日本やインドなどごく少数の国だけで、多くの国では9月入学です。さらにいうと、「入社式」などという奇妙な風習が、社会全体に定着している国は日本ぐらいです。これは就職に対する意識の違いからくるものといえるでしょう。日本以外の国では、就職とは「職業に就く(=職業人になる)」ことに対し、日本での就職は「会社に入る」。つまり、これはプロになるか、村人になるかの違いということですね。
ボーナスが6月と12月なのはなぜか?
6月と12月といえば、サラリーマンにとっては、ボーナス(賞与)の時期です。ボーナスとは、毎月の給与と別にもらえる「特別な給与」です。どちらも労働の対価である「賃金」ですが、毎月支払い義務がある(労働基準法24条)給与に対し、ボーナスは労働契約や就業規則に明記されている場合にのみ、企業に支払い義務が生じます。
日本では、ボーナスは夏と冬の年2回支給されるのがふつうです。これは江戸時代の商人が盆と正月に、奉公人に衣服を支給した「仕着(しきせ)」という風習に由来するといわれています。企業として日本で最初にボーナスを支給したのは「郵便汽船三菱会社」で、明治9年(1876年)のことでした。航路の買い取りをめぐってイギリスの海運会社と競り合った際、社員一丸となって勝利したことへのごほうびだったそうです。
それ以前の時代には、企業ボーナスはありませんでした。というか、そもそも企業というものがありませんでした。企業とは、資本主義の大規模化に合わせて「組織的に働く」ために発展してきたもので、日本では大正時代あたりから根づき始めました。サラリーマンという「新しい職業」が生まれたのもその頃で、それ以前の日本は農民や商人、職人など「家業」中心の社会でした。
ちなみに経団連の2018年の調査(2018年夏季・冬季 賞与・一時金調査結果)によると、経団連に加盟しているような大企業だけの平均だと、2.5カ月分前後が支給されていましたが、全体で見るとボーナス1回の支給額は「給与の1.17カ月分」が平均的で、依然として大企業と中小企業の格差は大きいようですね。
海外に目を向けると、国によってさまざま。たとえばヨーロッパでは、年1回「13カ月目の給与」に近いもの、アメリカでは成果に合わせたインセンティブ方式、オーストラリアではボーナスがないかわりに、普段の給与が高めに設定されているようです。
お中元とお歳暮は神や先祖へのお供え物
7月と12月は、お中元とお歳暮の季節。これらは日頃お世話になっている人に、感謝の気持ちを込めて贈るものですが、お中元の由来は中国の旧暦です。つまり旧暦は1年間に3区分(上元<1月15日>・中元<7月15日>・下元<10月15日>)あり、中元の日に神にお供え物をすると罪が許されるという話からきています。またお歳暮は、日本古来の風習「歳暮の礼」にあり、新年に先祖の霊を迎えるため、本家にお供え物を贈ったといういわれがあります。
なお、お中元とお歳暮は祝い事ではないので、贈り手・受け手のどちらが喪中でも関係なく贈れます。ただし相手が公務員の場合は気をつけましょう。相手が国家公務員の場合、国家公務員倫理法により、利害関係者(許認可の相手や公共事業の入札がからむ事業者、契約相手など)からのお中元・お歳暮は禁止されているからです。なお同法では、香典やご祝儀、飲食の接待、ゴルフや旅行の接待も禁止しています。
ちなみに地方公務員には具体的に禁止する法律はありませんが、その地方の条例で、禁止規定がある場合がほとんどです。さらに国や地方の議員がお中元やお歳暮を贈ることは、票を買う「寄附行為」として、公職選挙法で禁止されています。同じ理由で、議員が結婚式でご祝儀を渡すことやお葬式で香典を渡すことも、寄附行為に当たります。
秋に人事異動や転職が多い理由
9月、10月に案外多いのが、人事異動と転職です。年度末に多いイメージですが、実はこの時期もかなり多い。なぜなら3月決算が多い日本の企業にとって、9月は下半期スタートの時期。上半期に対する反省から事業計画の見直しなどが行われ、それに伴う人事異動や転職、ヘッドハンティングなどが増加するのです。
私が勤めている予備校の場合、講師は普段から無茶な使われ方(私は毎週大阪と名古屋に通っています)をしていますが、年度途中の人事異動はありません。なぜなら私たちは、生徒というお客様に選んでいただく商品のため、年度途中で急に陳列棚からなくなることは許されないからです。それどころか、もしもつまらない授業などしたら、逆にお客様のほうが別の商品へと“移動”し、私の教室から人がいなくなってしまいます。
その一方、同じ予備校でも、職員の方の人事異動は相当エグイです。おそらく各校舎の1学期の集客状況を見て、夏期講習の間に2学期にテコ入れする校舎などを決めるせいでしょうが、とにかく急です。「お前、再来週から札幌な」みたいな感じで。家庭への配慮など一切なしです。
このように年度途中の異動がない予備校講師ですが、新年度に合わせた他の予備校からの移籍は頻繁にあります。私たちは1年単位の契約ですから、条件次第で引き抜かれることもあるのです。
ただし新しい環境にうまくはまらず、苦労している方も多いようです。私の勤める予備校から別の予備校に移籍した一人と以前、飲みに行ったとき、彼はこう言っていました。
「移籍をうまくやるコツは、“移籍前に仲間に言わない・求めすぎない・転職先に夢を見ない”だ。俺はこれを全部やって失敗した」
なるほど。どうやら彼は、交渉段階で報酬を求めすぎて、前の職場に煙たがられたのに、移籍決定前に同僚に話したせいで、前の職場にも残りづらくなり、仕方なく移籍したものの自分のキャラが現職場と合わず、苦労しているようです。
しかし彼が挙げた移籍のコツは、講師のような特殊な仕事のみならず、すべての転職についていえることではないでしょうか。お互い気をつけましょうね。
12月28日は仕事納めの日と決まっている?
仕事納めというと、なぜ「12月28日」がパッと浮かぶのか? それは、公務員のイメージが強いからです。実は公務員の仕事納め(公務員の場合は「御用納め」といいます)は12月28日と、法律ではっきり決められています。1988年に「行政機関の休日に関する法律」なるものが制定されていて、そこには確かに「年末年始の休日は、12月29日から1月3日までとする」と書かれていました。
予備校講師である私からしたら、すごくうらやましい。なぜなら私たちにとって、その時期は年末年始ではなく「共通テスト直前」。休んでいる暇なんかありません。ああ、一度でいいから、コタツでゴロゴロしながら箱根駅伝を見たいものです。