※本稿は、伊庭正康『目標達成するリーダーが絶対やらないチームの動かし方』(日本実業出版社)の一部を再編集したものです。
目標設定は“7割の人が達成できるくらい”にする
目標設定の難易度は、次の2つの観点で調整することが大切です。
・本人の感覚……本人が達成できるかどうか「半々だ」と思える難易度
まず「達成者7割」とは、未達成者を「少数派」にするということです。
ある職場の失敗例を紹介しましょう。その職場での達成者比率は1割。つまり、なんと9割が未達成者でした。
「みんなで未達成なら怖くない」というような状態で、口では「申し訳ない」と皆が言うものの、実際には、耐え忍ぶ「演技力」と「我慢強さ」を鍛えているような状況だったのです。
このような、他者の行動に同調する心理状態を「同調バイアス」といいます。目標未達の職場は、この同調バイアスが蔓延している状態。気をつけたいところです。
アメリカの心理学者エドウィン・ロックが提唱した「目標設定理論」では、もっとも「やる気」を引き出すのは、「達成できるかどうか、半々」と思える難易度だとされています。まずは、そのようなレベルの目標を設定してみてください。
「適切な難易度」の目標を設定しているか?
ここで、大事なことがあります。
本人が、「とても達成できない」と思ったとしても、いたずらに目標を下げてはいけません。
まず、やるべきは、目標を下げることではなく、「やること」を変えることです。
例えば、コロナ禍で対面営業ができなくなったことをチャンスと考え、すぐにオンラインに切り替えられた結果、なんと「商談数」「紹介数」が約2倍になったというケースもあります。なので、簡単に目標を下げるのではなく、先に「やること」を変えてみましょう。
加えて、例えば営業職であれば、雑務を軽減すべく、バックヤードの人材を補強したり、無駄な会議を廃止し、さらに朝礼も廃止したりすると、商談数はさらに増えるでしょう。
目標をすぐに下げてはいけません。「やることの見直し」を先にやるのが、リーダーの役割です。
誰でも達成できるレベルの目標なら、メンバーはそれに甘んじてしまうため、成長につながらなくなります。
OK 「達成者の比率が7割」になる難易度を狙う
メンバーが目標達成は難しいと感じても、戦略・戦術を変えることで、達成できるレベルの目標が望ましいです。
曖昧な目標は部下を不幸にする
何かにチャレンジをしているわけではなく、成長もせず、給料だけは高止まり……。職場に、こんなベテラン社員はいないでしょうか?
私はこのことを、ベテランの「塩漬け現象」と呼んでいます。
特に、事業環境の変化が激しい今のような時代は、要注意。目標が曖昧になってしまいやすく、その結果、社員の塩漬け現象が加速してしまうからです。
なぜ、そうなるのかは、「プラトー現象」で説明ができます。「プラトー現象とは、あるタイミングで、高原(プラトー)にとどまるように成長が止まってしまうことをいいます。さまざまな壁を乗り越えて、人は次のステージに向けて成長していくのですが、塩漬けになっている人は、同じステージのまま年齢を重ねてしまっているのです。
でも。これは本人の問題ではありません。会社からその社員への要望。つまり、「目標が曖昧になっている」ことこそが問題なのです。
目標(基準)が曖昧だと、普通に仕事を続けているだけでずっと評価されることとなり、結果として、本人の成長はピタリと止まってしまうのです。
だからこそ、営業部門など具体的な目標が立てやすい部門はもちろん、間接部門など数値目標がない環境ではことさら、注意が必要なのです。
そんな居心地の良い環境が、結果的にプラトー現象をつくってしまい、部下を塩漬けにしてしまうのです。
目標は必ず数値化できる
そのため、数値目標の設定が難しい間接部門こそ、「達成率で測定できる目標」にすることがとても重要なのです。数値化しにくい職種もありますが、次の切り口を使えば、必ず数値化はできます。
② 「進捗度」で数値化(プロジェクトの進捗、長期的に行う取り組みなど)
まずは、①の到達度で数値化する方法を考えてみましょう。
例えば残業削減の取り組み等については、次のような観点で数値化をします。
【現状】現状の社員の平均残業時間は月間30時間
【目標】月間10時間に減らすことを設定(つまり20時間の削減)
【結果の測定】
▶月間10時間にすれば、達成率100%(20時間の削減)
▶月間0時間まで減らせば、達成率150%(30時間の削減)
また、②の進捗率で数値化する方法は、①の到達度で測定しにくいときのオプションです。プロジェクトのタスクを付与するときなどが代表的な例でしょう。
例えば、タスクのステップを5つに分けて、次のような観点で評価します。
【目標】3カ月で、ステップ4まで進捗させる
【結果の測定】
▶ステップ4まで進めたら、達成率100%(4分の4)
▶ステップ5まで進めたら、達成率120%(4分の5)
このように、数値化すれば、人はなんとか達成したいと思うものです。
もし、当初の目標を超えた成果が得られた場合には、その分、きちんと評価するようにします。そうすることで、おのずと、今まで以上の工夫を自分からするようになるのです。
目標を曖昧にしたまま仕事を続けさせていると、そのうち本人の成長が止まってしまいます。
OK 事務職であっても「測定できる目標」を付与する
どんな職種でも数値化した目標を示すことによって、本人のさらなる成長につなげることができます。
月間目標しかない組織の「ラットレース」のような日常
目標を設定する場合は、月間目標だけでは危険です。さまざまな期間の目標を設定しましょう。月間目標だけだと、人は考えなくなるからです。
毎月毎月、目標に追われるような生活は、まるで、滑車の中をクルクルと走るネズミのようなもの――もし、あなたがこうした生活を経験したことがあるなら、そう思ったことはないでしょうか。この原因は、「振り返り」が不十分な点にあります。とりわけ、1カ月単位の目標しか追いかけていない職場に起こりがちな現象です。
目標と結果についての「検証」ができないままに次の目標を追いかけるサイクルだと、目標を「達成したか」「達成できなかったか」の基準でしか考えられなくなるので、ただ走り続けるだけになってしまうのです。
「次はどうしよう」と焦っていた私を変えた、支社長の言葉
白状しますと、私も入社してから2年間くらいはそんな感じで、その月の目標を達成できても、「次はどうしよう」と、常に焦りでいっぱいでした。
でも、私はラッキーでした。当時の支社長から、自分が短いスパンでしか考えていなかったことを指摘してもらえたからです。
ある日、支社長との雑談で「常に焦りを感じている」と打ち明けたところ、「別に、全勝しなくても、2勝1敗くらいで構わない。自分自身で検証をしながら、パフォーマンスをよくすることが大事だ」との答えが返ってきたのです。
月々の目標の達成こそがすべてだと思い込んでいた私にすれば、目から鱗でした。
考えてみると、たしかにそうです。どんな優良企業でも、またどんな優秀なスポーツ選手でも「敗戦」することはありますし、むしろ長いスパンでみてみると、「敗戦」をきっかけに飛躍しているケースが多いことに気づかされます。
なぜ、敗戦後に飛躍するかというと、敗因を分析し、次への対策をしっかりとやっているからにほかなりません。
つまり、目標を追いかけるには、検証・対策のプロセスが不可欠であることがわかります。やったことの結果、うまくいった要因、うまくいかなかった要因を自分なりに把握して、検証をする。そして、対策を講ずるのです。
目標の期間は使い分けよう
まず、半年、3カ月、1カ月、1週間、1日の目標を使い分けてみてください。それぞれの目標には、次のような役割があります。
▶半年、3カ月の目標……検証をして、さらなる飛躍を狙う効果
▶1カ月の目標……半年、3カ月の目標達成の確率を高める効果
▶1週間、1日の目標……「今」やるべきことに集中する効果
もし、ラットレースのような、クルクルまわるネズミのような状況だとしたら、やるべきことは「半年、3カ月」の目標設定をしてみることです。特にリモートワークの環境において、検証せずにやり続けることは、孤独の中で、マシンのように同じことを繰り返すだけになってしまいます。これは避けたいところです。
月間の目標が未達成だとしても、3カ月で帳尻を合わせるくらいの発想がないと、検証はできません。「検証」や「次への対策」をしっかりと行うほうが、断然仕事は面白くなりますし、あらゆる環境で結果を出せるスキルが養われます。
月間目標ばかりに気を取られてしまうと、短いスパンでしか仕事を考えなくなります。OK 「複数の目標」を組み合わせてマネジメントをする
さまざまなスパンの目標を組み合わせることで、あらゆる環境で結果を出すスキルが養われます。