※本稿は、OJTソリューションズ『トヨタの日常管理板 チームを1枚!で動かす』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
銀行でも活きるトヨタ式
今回は、日常管理板の効果をアップさせる方法を紹介していきます。
日常管理板もこれから紹介する手法も、私たちが「改善」と呼ぶものの一環です。改善とは、トヨタ生産方式の核をなす考え方であり、全員参加で徹底的にムダを省き、生産効率を上げるために取り組む活動のことです。
よく見られる具体的な問題点を取り上げながら、お話していきましょう。
日常管理板は、最初から理想形を追求する必要はありません。「時間を決めて仕事をする」「期限内に仕事をやり切る」といった日常管理の観点をもってマネジメントするだけでも、現場は劇的に変わります。
トレーナーの廣は、指導先の銀行で、それまで行内でも使われていた身近なツールを活用して「困りごと」の解決をはかりました。
身近なツールを「日常管理板」代わりに
「その銀行では、計画的な業務遂行ができていないことが課題でした。『今日、何の仕事をするか』がメンバーそれぞれに委ねられているため、日々のスケジュールが本人の頭の中にしかなく、その日にやれる仕事を思いつきでこなしているような状態だったのです。
そのため、今日やろうと思っていた仕事が終わらなくても誰にも注意されず、翌日以降に持ち越すことが慢性化していました。
マネージャーが『そろそろ承認・決裁の書類が回ってくるはずだが、来ないな……』と思ってメンバーに確認すると、そこではじめてメンバーの仕事がどれくらい滞留しているかが明らかになり、マネージャーがフォローを入れ始める、ということを繰り返していました。
つまり、業務の負荷と進捗がマネージャーだけでなく、メンバー本人にもきちんと『視える化』されておらず、業務を計画的に進められていなかったのです」
この状況を改善するために、廣が着目したのは「業務日報」でした。
「業務日報」を強力な改善ツールへ
「業務日報は、提出すべきものとして習慣化していましたが、メンバーたちは大ざっぱな内容しか書いていませんでした。マネージャーにしても、提出されたかどうかの確認印を押しているだけのようなもので、書いてある内容をもとにしてコミュニケーションを取ろうとはしていないようでした。
そこで、せっかく業務日報が習慣化しているのだから、利用して日常管理のツールにしようと考えたのです。いわば、日常管理板の代わりです。
トヨタ時代、部下の班長たちが使っていた業務日報のフォーマットを改訂して、活用することにしました。
使い方としては、まず、各行員に1時間単位で1週間分のスケジュールを立ててもらいます。メンバーは、毎日、『計画どおり業務をこなせたのか。できなかった原因は何か。こなせなかったものは翌日以降、どう挽回するのか』を書いて、マネージャーに提出します。
それに対し、マネージャーは、ムダはどこにあるのかなど、アドバイスやフォローを行うようにしました」
段取りチェックとメンバーフォローで現れた効果
業務日報の活用により、次のような効果が現れてきました。
・行員一人ひとりの、日々計画的に業務をやり切る意識が向上した
・業務の負荷や進捗が「視える化」された
・マネージャーとメンバーのコミュニケーションが緊密になり、マネージャーが速やかにフォローできるようになった
なお、ここでやっているのは、次の3点です。
1 仕事の計画を立てる
2 毎日、仕事の振り返り(=チェック・計測)をする
3 毎日、マネージャーが現場に関与してコミュニケーションを取る
いずれもマネジメントとしてはさほど特別なこととはいえない、むしろ基本中の基本でしょう。
しかし、マネージャーがトヨタの日常管理の観点を持てるようになれば、図表1のような紙1枚だけで、一気に問題を解消し、成果を生むチームへと成長させていくことができます。
「改善」された業務日報から、なにを「視る」か
まず、はじめにメンバーから提出された業務計画を見て、「1週間の仕事量、1日の仕事量が多すぎないか・少なすぎないか」、つまり、「平準化」ができているかがわかり、適切に指導できるようになります。
また、「この仕事は週後半でよい」「あの仕事は朝イチでやるべきだ」のように、仕事の順序や準備などの段取りが適切か、工夫の余地がないかも確認できます。
そして、1日の仕事を終えて、特記事項に書かれたメンバーの反省を見て、翌日以降の仕事の進め方に問題がないか、あらためて検討できます。
メンバーをほめる機会をつくる
銀行で業務日報を活用したメリットとして、特に強調したいのは、「ほめる機会をつくれたこと」です。
ポジションがディフェンダーのサッカー選手が「フォワードは点を取ればメディアにも持ち上げられて注目されるが、自分たちは『守って当たり前』と思われている。鉄壁の守りを敷いていても、ほんの小さな一度のミスで失点すれば、批判の矢面に立たされる」とぼやくのを耳にしたことがありますが、銀行の仕事もこれに似ています。
お客様のお金や情報を守るのは当たり前のことで、実はそれがどれほど難しいことだったとしても、ほめられる機会というのはあまりありません。
OJTソリューションズのトレーナーが改善活動でマネージャーに求めるのは、メンバーたちが仕事をやり切ったり、よい行いをしたりすれば、日常管理板の運用の中で、しっかりほめてあげてほしいということ。この銀行の現場でも、たとえば、窓口業務でメンバーのファインプレーを見かけたら、業務日誌に「お客様から○○と言われたときの対応は見事でした!」などと書き込み、具体的にほめることができます。
メンバーにしても、「あのとき、マネージャーは自分を見ていてくれたんだ」とわかれば、さらに業務への意欲がわいてくることは言うまでもありません。この銀行では日報を基点に改善の視点が育ち、さまざまな改善活動を実施。その結果、窓口担当の残業は3分の1まで低減されました。